2度目の命は2人の為に   作:たぴぃ

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96話 大激闘

 「随分と下界が騒がしい。…フッ、君を救おうとしている者も居る。他にも目的は合っても、同じ目的の為に戦っているじゃないか」

 「オレを救おうとしてる…木綿季と詩乃か。ま〜た騒動の中心に居るのか、あの2人は。良くも飽きないもんだ」

 「それを君が言うのかね?」

 「あぁ、言うよ。何度でもな。…ホント、オレなんかには勿体ないよ、あんな良い女は」

 「随分口調が変わったね。それが君の素か」

 「そうだ。取り繕うのも面倒だしな。…さて、それじゃあ――」

 「――そうだね。この楽しい語らいも終わらせて、殺り合おうか」

 「…行くぞッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「クッ、また1人…!もう大丈夫、ボクが――」

 「ユウキさんにはやらなきゃいけない事が有るんですよね?なら駄目です、行かせません!お兄ちゃんに頼まれたんだから、絶対に」

 

 今にも飛び出さんとするユウキを金髪のシルフの少女――リーファ(直葉)が抑える。今ユウキ達は消耗した道具の補給や磨り減らしたであろうメンタルの回復の為に後衛の防衛に回っていた。衛兵エネミーはAIは賢く、後衛も狙ってくる為こうなっているのだ。それも他のメンバーが優先して仕事をして、ユウキ達を極力動かさない様にしているのだが。

 何故生還者でもないALOプレイヤーが2人を温存するのか。それには単純な理由がある。まず今の状況はギリギリだ。恐らくALOの運営が始まって初の別種族合同の世界樹攻略。その圧倒的な軍勢とトッププレイヤーと言って過言ではない戦士、それを動かす優秀な指揮官(ブレイン)が居てなお、この均衡を保つ事がギリギリなのだ。にも関わらず、たった2人で殆どの時間が劣勢だったとは言え均衡を短時間保つ事が出来た2人の実力が突出している事に気付けない程馬鹿ではないからだ。

 ついでに言えば、キリトの存在もある。恐らく彼が居なければこの合同作戦は実現されず、更にタイマンでALO最強格のユージーンを下した彼を信頼し、畏怖している事も大きいだろう。

 

 「サクヤさん!闇霊が現れました!」

 「何だと!?5人以上で包囲、一気に決めろ!」

 「いや、コイツ強…うわぁ!?」

 

 シルフ領領主、サクヤが突然のアクシデントにも動揺せずに命令を下す。出現の隙を突いて包囲、瞬殺する予定が崩される。即座に跳躍、空中で刀を抜いた闇霊は1人のプレイヤーを斬り捨てたのだ。

 その特異な形の刀には見覚えがあった。刀の柄に短剣が生えている様な姿の刀と左手に握る銃。その銃は殆ど見る事は無かったが、かつてのヤーナムで見た覚えがあった。ALOには銃が無い。ならば、ALO内のプレイヤーからランダムで選ばれる闇霊が銃を持つのならば、ソレの正体は1人しか有り得ない。

 

 「シュユ…やっぱり来たわね、待ってたわよ」

 『ァァァ…ゥ…シノ、ン。ユウキ…』

 

 闇霊のシュユの放つ声は金属質のノイズを伴い、いつもは心地良い声も今は耳障りだ。彼は手に持つ落葉とエヴェリンを構え、2人に相対する。構えは以前と同じだが、呼吸が荒いせいか身体の揺れは大きく、挙動も分かりやすい。シノンはジェスチャーで周りの者を下がらせると、唯一持ってきた近接武器であるシモンの弓剣を持つ。隣のユウキはゴットヒルトの双剣を構え、シュユの動きを見ている。

 

 「ユウキ、シノン!!」

 「ここは大丈夫、直ぐに片付けるよ!キリトは衛兵をどうにかしておいて!」

 「ッ、分かった!…死ぬなよ、2人とも!」

 

 戻ろうとするキリトを前線に行くように言い、シュユを見やる。その瞬間、シュユは獣の様な瞬発力で飛び掛かってくる。落葉を構え狙いを付けるのはユウキ――かと思えば、エヴェリンでシノンを狙っていた。雷鳴の様な轟音と共に放たれた鉛玉は火薬の力で推進力を付加され、シノンの元へ飛来するがシノンはこれを身を捻る事で躱し、代わりにユウキがシュユへと踊り掛かる。

 果敢な双剣での攻めはシュユの両刃剣に阻まれ、連撃の隙を見せればエヴェリンで狙いを付けられる。威力はそうでもないが着弾の衝撃が凄まじい事はヤーナムで学んでいる。それで体勢を崩せば、シュユはきっと手刀で身体をブチ抜き内部から引き裂くという残虐かつブッ飛んだ攻撃(シノン命名内臓攻撃)をやってくるのだろう。

 ユウキと剣戟を交わし続けるシュユを背後から狙うのはシノンだ。バグのせいで尋常ではない固さになってしまった弦を引き絞り、SAOから持ってきた矢を放つ。金属製のその矢は風を切りシュユの背に向かって飛ぶが、シュユはソレを巧みに手の中で回転させた落葉の柄の短剣を用いて軌道を反らし、後ろ手にエヴェリンを射撃した。ノールックでの射撃に関わらず、その弾丸はシノンの髪に掠りながら飛んでいった。

 矢を少しずつ撃たれるのが嫌になったのか、シュユはゆらりと振り向き、シノンに敵意(愛情)を向ける。が、それが良くなかった。

 

 「隙、有りっ!!」

 

 ユウキは本能と勘で自分が動くタイプだ。対するシノンは知識と知略で敵を動かすタイプだ。つまり、今のシュユの行動はシノンの想定内であり、その隙をユウキが見逃す訳が無い。直ぐ様シュユの背後に回り込むと双剣の片割れをシュユの背中に思い切り突き刺すのだった。

 引き抜く際にシュユの身体を蹴って剣を抜いたからか、倒れ伏すシュユ。そんな彼は何かの感情に身体を震わせ、落葉とエヴェリンを手放し1本の直剣を取り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「愚かだね。見ていて飽きないが、関わりたくはない」

 「………」

 「キミもそう思うだろう、ティターニア?…いや、明日奈ァ?」

 

 耳に残る粘着質な声が明日奈の耳朶を叩く。大きく絢爛な玉座に足を組んで腰掛け、大切そうに持っている水晶には恐らく世界樹で戦う戦士達の奮闘が見えているのだろう。それを妖精王(オベイロン)は見下し、所詮無駄な努力と嘲笑しているのだが。

 オベイロンの正体はALOの開発に携わるレクトの研究員にしてアスナの、現実世界の結城明日奈の許嫁である【須郷伸之】である。彼は明日奈を含めたSAO生還者(サバイバー)の一部をALO内に監禁、自分の研究の為に利用している。

 

 「可哀想だねぇ、この2人。どうにか追い詰めたけど、()()を抜かれたならもう勝てないよ。まぁモルモットにしては奮闘したけど、所詮その程度さ」

 

 頼んでもいないのに明日奈の目の前にディスプレイが表示される。鳥籠を模したこの檻の中ではどう足掻いてもオベイロンには勝てない為、明日奈は彼に従わざるを得ない。自己顕示欲の強い彼の事だ、この映像を見れば機嫌は取れる。そんな事が解ってしまうのは複雑な気分だが、明日奈はディスプレイに目を向けた。

 鴉羽のマントと襤褸の様な一見みすぼらしい外套。こんな装備のコンビなど明日奈の中で思い当たるのは一組しか居ない。ユウキとシノンだろう。だが、その2人が戦っているモノが問題だった。

 

 「え…?何なの、何なのよ、コレ!?」

 「そんなに聴きたいのかい、仕方無いなぁ、キミは。()()は【闇霊システム】、まぁ細かい説明は省こう。言ってしまえばランダムなプレイヤーのコピーをエネミーに出来るシステムだよ。ランダム、とは言っても世界樹の中で現れる闇霊は1人だけに限定してるけど、ね」

 

 映像の中の敵、闇霊は明日奈が見覚えの無い直剣を引き抜き、獣の様に這い蹲って構えている。

 

 「どうしてあの人を、シュユ君を!?」

 「なんだ、知り合いだったのか。それなら解るだろう、彼の異常性を!!定められているシステムすら曲げ、あの茅場の予想すら超えて戦い続けるバケモノ!僕はソレを有効活用してるのさ」

 「そんな、人の命すら愚弄するの!?この、外道!」

 「……頂けないなぁ、その態度は」

 

 オベイロンは手枷に繋がれている明日奈の手を踏み付け、踏み躙る。一瞬だけ見せた明日奈の痛苦の表情を見ると満足したのか玉座に戻り、雄弁に語る。

 

 「まぁ別に消耗品として使っても良かったんだけどね。でもアレは利用価値の塊だし、研究の対象にもなる。だから、寛大なこの僕は闇霊の状態で死んでも何ら現実に影響は無い様にしているよ。優しいだろう?」

 「…………っ」

 「それにアレは負けない、絶対にね。()()()()()()()()()()()()()()()()、絶対に」

 

 世界樹の頂上、王の間。そこに絶対的な王の含み笑いの声が小さく響く。囚われの妖精妃ティターニア(明日奈)を救う者は、まだ現れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「なに…あの、剣…!」

 

 シュユが抜いた直剣は一般的な直剣と殆ど変わりが無い様に見える。装飾が殆ど施されておらず、ただ実直なまでに機能性を求めたシンプルな直剣。だがしかし、それだからこそ剣から感じる雰囲気が異常だと解ってしまう。余りにも悍ましく、禍々しいその剣の名は【ソウルブランド】と言った。

 

 『ァァァ……ルゥァッ!!』

 

 単純な飛び掛かりからの叩き付け。それだけでシュユは()()()()()()()()()。基本的に破壊不能オブジェクトであり、例外はボスの攻撃や大型イベントの時しか有り得ないハズの現象に驚きながらも動揺せず、ユウキは斬り掛かる。

 耐久度は充分なハズだった。全部とは言わずともまだまだ戦える程度に耐久度は残っていた。その程度の計算が出来ない程ユウキは馬鹿ではない。だからこそ、目の前の現象を理解するのに一瞬のタイムラグが生じた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()など、どんな猛者でも予想出来るものではない。

 

 「ユウキ、一旦退きなさい!!」

 「…っ、了解…!」

 

 シノンの指示に即座にバックステップで離脱するユウキ。シュユは追い掛けて来るかと思えたが、シュユは自分が持つ剣を構え、そこからは動かなかった。

 

 「あの剣おかしいよ。流して威力を殺したハズなのに、無理矢理に力を流し込まれて剣が折れたし。あんなんでゼロモーション・シフトなんて使われたら絶対に勝てないよ…!」

 「あの剣の能力なのかしら…?SAOでのソウルウェポンと似たカテゴリなら有り得るけど…」

 

 その通りだ。シノンの考えは殆ど当たりである。シュユが持つソウルブランドはオベイロンが自らの持つ権能でシュユに与えたユニークウェポンである。その性能は強力ではあるが性質は邪悪極まりなく、だからこそあるダンジョンの最奥、そのボスがドロップする様になっている。()()()、ではあるが。

 ソウルブランドの性質、それは魂から人間性が喪われれば喪われる程その刃は鋭さを増し、剣撃は威力を増すというものだ。

 ALO独自のシステム、人間性。常識的かつモラルのある行為をしていればゆっくりではあるが勝手に上がっていくその数値は同族を殺したりNPCを殺害、窃盗などの行為をしていくごとに下がっていく。普通のプレイをするなら基本的に下がる事は無く、デメリットも知られていない(とは言え、NPCの態度が変わっていくだけだが)。

 だが何故シュユがソウルブランドを持つと威力が増すのか?それは今のシュユの状況を鑑みれば簡単に理解できるだろう。まずシュユは現実世界からALOにダイブしている訳では無く、SAOからダイブしている。故にシュユのステータスは全てALOのものではなくSAOのステータスなのだ。そしてシュユの評価を思い出して欲しい。シュユの評価、その1つは『人殺し』であり、事実最悪の犯罪ギルド(ラフィン・コフィン)と同程度の人を殺めた人物と言える。SAOには種族の概念は無く、全員が人間だ。つまり、シュユは多くの同族を殺した人物。つまり、そんな人物をALに持ってくれば人間性の数値など察しがつく。

 今のシュユの人間性は、マイナスに振り切っている。

 

 「…やっぱ、使い慣れた武器じゃないと。キミと戦うなら、不慣れな武器で戦うなんて愚弄してるのと変わらないもんね」

 

 そう言って慈悲の刃を握ったユウキはソレを変形させ、短刀の二刀流に変わる。どうせ受ければ武器は折れるし喰らえば死ぬのだ。ならば威力と手数に特化させた方が良いのだろう。

 斬り掛かってきたユウキの刃をシュユはソウルブランドの面で往なし、その背を斬ろうとする。が、その手は太く短い矢に貫かれ、その斬撃を止める。シノンの射撃だ。一瞬硬直した隙を突く様にユウキが背後から斬り付け、反撃に移ろうとしたシュユをシノンが射抜く。所詮、どれだけ武器が強くとも使い手が弱くなっていれば武器も弱い。これが正気のシュユなら1分と保たなかっただろう。

 

 「いい加減気付きなさい!今のあなたは、弱いッ!!」

 『ゥ、ァ…?』

 

 そのシノンの言葉にシュユは硬直してソウルブランドを取り落とし、動かなくなる。

 

 「お兄ちゃんッ!!」

 

 それと同時に上空からリーファの悲痛な声が響く。弾かれた様に上空を見やれば、複数の衛兵エネミーに身体を貫かれたキリトが墜落している最中だった。

 

 「っ、シノン!!」

 「えぇ、行くわよ!」

 

 一応捕縛アイテムでシュユを囚えると、2人は空へと向かう。その下でもう1度ソウルブランドを握り締めたシュユに気付かずに。




 デモンズソウル出典、ソウルブランド。実は作者は月光の大剣よりこっちの方が好きだったり。
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