2度目の命は2人の為に   作:たぴぃ

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97話 奇跡

 身体を貫かれたキリトを抱え、庇って戦うリーファの元にシノンとユウキの2人が駆け付けた。恐らく一気に傷を負い過ぎたせいで仮想脳が混乱し、身体を動かす為の信号が遮られているのだろう。2人は先程使っていたSAO時代の武器を使って迎撃を始めた。

 

 「気を付けて下さい!何か、動きがおかしいんです!」

 

 リーファの警告に呼応する様に衛兵エネミーが自分達の身体で壁を作り、上方を見通せない様にする。その衛兵エネミー達の壁から滲み出す様に突撃してくる衛兵エネミーは捌けるが、壁のそれらは数が多過ぎるせいで倒し切れない。燃やそうとしても金属鎧の様な身体を持つ衛兵エネミーは燃えないだろう。弱点が打撃と雷属性である時点で炎が効かないのは予想できていた。

 どうしようもなく歯噛みする彼女達を追い抜く様に、一筋の光が飛んでいく。それを見たリーファは驚きと共に飛んでいく人物の名を叫ぶ。

 

 「れ、レコン!?アンタ、何する気!?」

 「…後の攻略は任せたよ、リーファちゃん!」

 

 シノン達2人は面識が無いが、恐らくキリト達2人の友人なのだろう。その表情に払拭し切れない恐怖を貼り付けながらも彼は笑い、詠唱を始め、突撃を敢行する。

 

 「『þeir slíta fimm grǿnn vindr(5つの緑の風で敵を撃ち切れ)』!!」

 

 まずは自分に迫ってくる者達を真空の刃で倒す。背中の翅を切り飛ばせば飛べず、墜落して勝手に死んでいくからだ。それを土壇場で熟せるレコン、彼の秘められたポテンシャルがここで垣間見えた。だがこれでは終わらない。風の刃を撃つのを止めたレコンは更に長い詠唱をかまずに早口で終わらせ、()()()()()()()()()()()()()()手を広げた。

 

 「『|Ek kalla svartr tjúgari hverfa himni brott regin,gapa Niðafjoll《我は呼ぶ、黒き破壊者、星は落ち、神は去り、地獄の門は開く》』!!!」

 

 それはALO内最強クラスかつ最も使う事を敬遠する魔法だった。闇属性の高位魔法にして、広範囲かつ高威力の一撃を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。端的に言えばそれは『自爆魔法』だ。

 本来ならどんな局面に於いても使わないその魔法を彼は勇敢に行使し、更に目の前の衛兵エネミーの壁に大穴を開けたのだ!

 それにより内部が明らかになる。だが、それは新たな敵の出現に他ならない。見た目は衛兵エネミーそのままだが、スケールが段違いだ。2メートル近い巨体、それを10倍程に拡大すればこうなるのだろうか。体表を見れば蠢いており、目を凝らすとその巨体の全ては衛兵エネミーの群体で構成されている事が分かる。試しに槍を投げてみるが、勢い良く投げられた槍も硬い体表に弾かれ意味を成す事は無かった。

 

 「…どうする、シノン?」

 「削り切る、なんて真似出来そうに無いわね。リズのパイルバンカーが使えればまだやりようはあったけど」

 「無い物ねだりした所で変わんないよね。…つまり、どうにかしろと」

 「えぇ、どうにかしろと。慣れたもんでしょ?」

 「不本意ながらね!!」

 

 振り下ろされた剛腕を大きく回避する。鉄骨でも振り回しているのか、と言いたくなる様な音を立てながら目の前を通過する。マトモに喰らえば即死、盾受けしてもミンチになりそうなその一撃はどれだけ頭を捻っても防ぐ手段は見つからなかった。

 しかし巨体は古今東西動きが鈍いと決まっている。ユウキは背後に回って巨兵の背中に全霊を込めて特大剣を振り下ろすがそれすら弾かれる。見れば、巨兵の一部となっている1体が自らの武器を構え、ユウキの一撃を防いでいる。恐らく全身同じ事だろう。シノンは魔法を唱え、風の刃を発射するが全てその体表で弾かれ、内部に斬撃を届かせる事は無かった。

 

 「シノン、ぶん殴りが来るよ!」

 「幾ら何でも読めてる――ッ!?」

 「っ、シノン!?」

 「コイツ、自分の風を利用して…!?来ちゃ駄目よ、ユウキ!!あなたごと磨り潰されるわ!」

 

 単純なぶん殴り。余りにも巨大な動きから放たれる一撃は矮小な2人にとっては遅過ぎたが、同時に強力過ぎた。スクリューブローの様に回転させつつ放たれた拳は気流を捻じ曲げ、突風を引き起こす。それに煽られたシノンは吹き飛ばされ、壁に叩き付けられる。その瞬間、巨兵は自らの手をクッションにしてシノンを護ったのだ。が、金属質の硬さに噎せてしまい、そしてエネミーがプレイヤーを護るなんて事は有り得ない。巨兵はシノンの身体を掴むと自らの身体へと近付ける。胴体には大穴が空いており、中は無数の衛兵エネミーで蠢いている。中に入れば少なくともマトモな目に遭う事は無いだろう。

 当然の如く助けに来ようとするユウキ。だが、シノンは敢えてソレを静止した。理由は2つ。まず1つはALOで死んでも現実で死ぬというデメリットが無い事。次に、単純な戦闘能力が自分より高いユウキにリスクを負わせたくなかったからだ。槍を一応使えるとは言え弓矢やクロスボウがメイン武器のシノンと近接武器、特に片手剣を得手とするユウキ。このどちらが継戦能力が高いかなど考えるまでもなく、ユウキに軍配が上がるだろう。自分を助けて貰うより、この隙を突いて上に上がった方がシュユを助けられる確率は高い。そう判断したのだ。

 だが、それを真っ向から否定する者が居た。単純な力を用いて、そんな理論を捻じ伏せる者が。

 

 『死、ナセルカァァァァァ!!!!!』

 

 下方から飛来した紅の閃光がシノンを掴む巨兵の左腕を斬り飛ばす。ソレは上空で急制動、更に下に加速して一刀の元に巨兵を斬り捨て、内部から溢れる衛兵エネミーをその剣から放つ光波で消し飛ばしていた。

 

 『ゥァ…ルゥォォォォォォォ!!!』

 

 更に禍々しさが増大する。動きは尚更荒々しく、獣の様に変化して形振り構わないものへと変わっていく。更にシュユは落葉で自らの腹部を貫く。溢れ出る紅い液体が刀身を濡らし、刃紋を型取り、そして穢らわしいと在りし日の【時計塔のマリア】が捨ててしまった王家カインハーストの秘儀、血の刃が形成される。

 狂乱した様な戦いぶり、それを初めて見たリーファは恐怖を感じずにはいられなかった。幾ら痛覚遮断機能(ペインアブゾーバー)が機能していても腹部を貫かれれば動きを止める程の不快感は存在するのだ。それをガン無視し(しかもシュユの痛覚遮断機能の不調は引き続いている)、あれ程までに暴れるシュユは恐怖しか感じられない。仲間や想い人という贔屓目を除いた周囲の目は、少なくとも悲しい事にシュユをバケモノとしか見る事が出来なかったのだ。

 

 『護ル…殺ス…オレガ!!』

 

 ソウルブランドを一振りすれば前方の衛兵エネミーは簡単にポリゴンと化し、落葉を使えば血刃と共に衛兵エネミーのパーツが飛び散る。闇霊は全てと敵対するとは言え、異常な光景と言わざるを得なかった。

 シュユを動かすモノは殺意である。だが勘違いしないで欲しい。その殺意は生まれつき持った異常な衝動ではなく、その殺意は愛情の裏返しなのだ。かつてSAOで大切な友人2人を喪い、人間の暗黒面を直視した彼は思った。喪いたくない、逝かないで欲しい、置いていかれたくない、でも自分は友達を守れず、1人は目の前で喪った。

 そんな見当違いな自責の念と様々な要因が重なり、その結果導き出されたのがこうだ。どうせ他の要因で突然2人を喪ってしまうのなら、自分の手で殺したい。最期を自分に刻ま込みたいと、そんな歪んだ願いを宿してしまった。

 だが、歪んでしまったのはシュユだけではない。SAOはかけがえの無いモノを与えはしたが、それと同じく皆の心や願望を歪めてしまった。シノンとユウキは恋心が殺意を孕んだ独占欲に、キリトは必要以上に自らを強く在ろうとし、アスナとシュユは大切な存在を喪う事を恐れた。皆が皆、歪められてしまったのだ。

 

 「し、シュユ…?」

 『…っ!近寄ルナァ!!』

 

 近付こうとするユウキが来ない様に剣を横に薙ぎ、近付いて来ていた衛兵エネミーを殺しつつユウキを遠ざける。そんな事をしている間にも衛兵エネミーは再び群体を形成し、巨兵を造り出した。それを見たシュユは落葉を投げ捨てるとソウルブランドを両手で構えた。

 

 『死ネェェェェェ!!!!』

 

 直球過ぎる掛け声と共に振り抜かれるソウルブランド。ソレは真っ黒な光波を纏って巨大な斬撃となり、巨兵どころか更に後方に待機していた衛兵エネミーの大多数を消し飛ばす。直ぐに埋まってしまうかも知れないが、それでもチャンスに変わりはない。

 だが、こんな威力を出せたという事はそれ程の人間性をかなぐり捨てたという事に他ならない。自身の内で更に膨れ上がる殺意、抗い難く甘美なその衝動に彼は――

 

 『グッ…!』

 

 自らの腹部をソウルブランドで貫く事で対抗した。文字通り内臓をグチャグチャに掻き回される痛みが脊髄を駆け上がり、脳髄を貫くがそれが今のシュユにはちょうど良い。どうにか少しだけ正気を取り戻せたシュユは滞空しているキリトの方を向いて口の動きだけで伝えた。

 

 ――力はやる、早く行け。

 

 体力が0になり、紅い霧の様になって消えるシュユ。その直後キリトのストレージに送られたのは【デモンブランド】という剣だ。その剣はソウルブランドを対を成す剣。ソウルブランドが魔剣と呼ばれるのならデモンブランドは聖剣と呼ばれるべき代物であり、この剣は使用者の人間性が高ければ高い程鋭さを増し、使用者に力を与える。どこまでも愚かしく輝かしい彼の為に誂えた様な【聖剣】なのだろう。

 キリトは未だに軋む身体を動かし、背中の翅に命令を下す。翅が震え、仮想の空気を叩き、推力が生まれる。魔法で強化もしているのだろう、白い輝きが刀身を包み込み刀身を伸長させる。

 

 「…ォォォォォォオオオオオオ!!!」

 

 裂帛の気合いと共に上へ上へと飛翔する。仕える妖精王を護らんとキリトの前に衛兵エネミーが殺到するが、来る者から人間性が齎す力によりバラバラになる。だが圧倒的な数は遺体を積み重ね、どんどん輝きの刃ではなくデモンブランド本体に刺さっていく。そうなれば幾らユニークウェポンと言えど耐久度の減少からは逃れられず、威力も下がっていく。それでもキリトは以前【月光の聖剣】を使った経験を手繰り寄せ、霧散しそうな力を掻き集めて再構成する。本来の手順を踏まずに手に入れたデモンブランドは以前の月光と同じく贋作に過ぎず、GM(ゲームマスター)でもない彼はまた負担を掛け続けていた。

 そんな時、彼の目の前に剣が投げられた。後ろを振り返れば、振りかぶった姿勢でこちらを見るリーファ(直葉)の姿が。どこか日本刀に似たその剣は輝きを放ち、魔力によりコントロールされているのか目の前で浮遊している。

 

 「――て…」

 

 小さな声だった。何を言いたいのかキリトには判らず、それを聴き返す余裕も無い。だがリーファはキリトを目線で射抜き、その言葉を叫んだ。

 

 「行って!!行って、お兄ちゃん!!!」

 「――!!」

 

 いつもなら、リアル情報に抵触するその呼び方を優しく窘めただろう。だが、それ故に解る。そういったメリハリはしっかりと付けるリーファが、この場でキリトを兄と呼んだその覚悟を。キリトは前を向く。更なる気合いと妹の覚悟を携え、この包囲網を超える為に。

 だが、届いた声援はキリトの想像を遥かに超える大きさだった。

 

 「「「「行っけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」」」」

 

 今この場で生存し、戦い続けている仲間が示し合わせた様に声を上げる。負けられない、それだけの想いで彼は更に速度を上げる!

 

 ――そうだ、負けられない!皆の為に、仲間の為に、アイツの為にも、アスナの為にもッ!!

 

 これが英雄だ。シュユは他人の声援で力が増す事は無い。何かを捨てて、100%の状態をキープして相手を殺すまで喰らい付き続ける。だが、キリトは違う。彼はいつだって100%だ、出し惜しみなどしない。それでも足りない時、彼は仲間の為に強くなれる。100%の上限をブチ壊し、120%以上の力を発揮する。

 加速する。何もかもを置き去りにして、万物を貫き通して。閉ざされた世界樹の入り口すらもブチ抜き、それにどうにか追従したシノンとユウキも身を投げ出す様にして転がり込み、そして退路は閉ざされる。

 

 「…お疲れ、ありがとう」

 

 その言葉と共にデモンブランドは砕け散る。元々はオベイロンがGM権限で生み出した贋作であり、それ故に増幅し続けるキリトの心から出づる意思――心意に耐えられなかったのだろう。

 

 「…お疲れ様です、パパ。でも、言い難いんですが――」

 「――解ってる、本番はこれからだよな。あの2人は即探索に向かったみたいだし、俺達も行こう」

 

 黒の剣士と彼をパパと呼び付き従うナビゲーション・ピクシーの【ユイ】は進む。目指すは頂上、剣士の妻、妖精の母が囚われているであろうその場所へ。




 あっ、あっ…駄目だ、沼に引きずり込まれるな…。GOD EATERが楽し過ぎる…ぁぁぁあああ!!!

 駄目みたいですね(諦め)
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