艦隊演習を開始し、第一航空機動部隊は洋上を航行する。
艦隊は演習が始まって最初に偵察機を発艦させ、敵艦隊の位置、情報が来るまで待っていた。
そして艦隊旗艦である赤城は今の時間にある事を考えていた。
飛龍 「赤城さん。」
赤城 「・・・・・」
飛龍 「赤城さん?」
赤城 「えっ・・・あ、どうしたの?」
どうやら赤城は考えを巡らせていたせいで、横で呼んでいる飛龍に気づかなかったようだ。
飛龍 「どうかしたんですか?なんか、いつもの赤城さんらしくないですよ。」
普段と異なる様子の赤城な飛龍が心配そうにする。
一方赤城は、自身の考え事を表面に出さないように返答した。
赤城 「ごめんない。ちょっと考え事をしてて。」
飛龍 「赤城さんも考える事もあるとは思いますが、それも程々にした方がいいですよ!多少は楽にしないと体に良くないですし。」
赤城 「それもそうね。ありがとう。」
自分を心配してくれる後輩が居てくれる事に赤城は嬉しさを覚える。
すると今度は横にいた蒼龍が飛龍に話し掛けてくる。
蒼龍 「ねぇねぇ飛龍。今回の演習、どう思う?」
蒼龍の疑問を持った質問に飛龍は少し悩んだ後、思っている答えを出した。
飛龍 「私は、少し変・・・だと思う。だって、こんな大規模演習なんて今までなかったし、提督はいったい何を考えてるんだろぉ?」
蒼龍 「でも、提督の事だから意味はあるんでしょうけど。なんでまではわからない。赤城さんや加賀さんは、何か知っていたりします?」
蒼龍は先輩でありベテランの赤城や加賀に話を振る。
提督からある程度の話を聞いている赤城と加賀だったが、口に出す訳にもいかず何も知らない風を装う。
赤城 「私は何も聞いてないわね。」
蒼龍 「そうですか・・・加賀さんは?」
蒼龍は明らかに落胆しつつ今度は加賀へ視線を動かす。
加賀 「私も何も聞いていないわ。でもこれ程の艦隊を使った演習、相手は手強いわよ。」
真剣見を帯びた加賀の言葉に対して、絶対に大丈夫だと思っている声で飛龍が、声を張り上げ拳を握り高く掲げる。
飛龍 「提督秘伝の戦法がありますから大丈夫ですよ!だから勝利を目指して頑張りましょう!!」
第一機動部隊皆 「おぉー!!」
飛龍の声に同調して手を上げる第一機動部隊の皆を後目に、赤城は───
赤城 「・・・・だといいのだけど。」
空を見上げ、不安の混じる赤城の小さな呟く。
しかし廻りの艦娘達の叫びによって掻き消され、近くにいた加賀はおろか誰の耳にも届かなかった。
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時間を少し巻き戻して、演習開始直後の雨風達は。
雨風 「水上レーダー、起動。」
神弓 「水上レーダー、多機能レーダー、3D捜索レーダー、イージスシステム起動。」
神弓が複数搭載しているレーダーを起動すると、送信機の放った電波が目標物に反射し、反射波を受信機が捉える。
そして受信機の捉えた反射波をデータという情報にして解析する。
神弓 「え~と、反応五つ。反応の大きさから確実に大型艦を含む艦隊が三つ。大型艦を含まない艦隊が一つ。あと多数の艦種のいる艦隊が一つ・・・かな?」
神弓はレーダーが捕捉した艦隊の情報を更に解析し、大まかな編成を予測する。
レーダーの優位性はここにある。
レーダーは広範囲に散開している目標を即座にある程度捉える事が出来る。
しかし工夫によって電波の反射面積が小さく場合や平面の多い目標が相手ではうまく機能しない事もあり、これらをステルス性という。
しかし今回の演習前に今のところステルス性を重視した艦は見た事が無かったので、その問題は無いと判断する。
雨風 「艦隊は六。足りない。」
再び神弓はレーダーを確認する。
先ほどに比べて細かな反応が増えているが、反応の大きさを見るに航空機なのは判明しているので無視する。
しかし再度確認してみても艦隊と思われる大きな反応は五つのままであった。
神弓 「んー、見当たらないね。」
雨風 「・・・ステルス?」
確かにレーダーに映らない水上艦はステルス以外無いだろう。
だが先に述べたように昨日の射撃演習の時に集まった艦娘を見る限り、装備自体がステルス性を無視した旧式である。
なので神弓は雨風の言うステルスを否定する。
神弓 「多分無いと思う。他にステルス以外でレーダーに映らない艦っていったら。」
雨風 「───潜水艦。」
雨風はレーダーに映らない艦でありつつ、昔から存在している艦を想像すると、自然と潜水艦と言う発想に行き渡った。
レーダーは水面付近から上の目標を映し出す装置。
水上と空中はレーダーで発見できるはず。
となると消去法でレーダーに捕捉されない場所は海中にいる潜水艦だけとなるからだ。
雨風 「神弓。パッシブソナー起動後、ハウニブーとハリアーⅡ出撃。」
神弓 「了解。」
二人は対潜水艦用にパッシブソナーを起動した後、神弓は艤装のヘリポートから二機の搭載機を発艦させる。
まず一機目に独逸で鹵隠した円盤型のハウニブーが垂直に上昇し、艦隊上空で哨戒に当たる。
次に発艦したハリアーⅡは敵艦隊を可能な限り敵艦隊を偵察をする任務に付かせた。
従来のロールスロイス・ペガサスエンジンではない、コストパフォーマンスを全く想定しない改七型。
ひたすら高性能だけを追求したエンジンは、甲高い音を出しながら敵艦隊に向かって飛行していった。
順調に準備を整えつつあるその時、艦隊であるトラブルが発生する。
神弓 「えっ?どうなってるの!!反応がすごい増えてる!?」
少し前まで問題なく稼働していたレーダーに突如反応が急増し始めた。
神弓の見つめるモニターにはまるで雲のように反応が重なり合い、レーダー全域を覆い尽くす。
雨風 「・・・・」
神弓は慌ててシステムの状態を把握しようとしている中、隣で周囲を警戒していた雨風はこの反応の原因に心当たりがあった。
しかしまだ詳しい情報が無い状態で決定するのは野暮だと思い、暫く様子を見る。
ただし念の為、偵察機に発見されないよう移動だけは行う事に。
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長門は今上空で起こっている出来事を見つつ、隣で一緒に航行している大和に話し掛けた。
長門 「今頃大慌てしている頃か。」
大和 「ふふっ、これが提督の考えた秘策ですから。」
と言いながらニコッと大和が笑い、長門も釣られて笑顔を見せる。
そして長門は自分の搭載する電探を軽く触る。
長門 「しかしこれでは我々も電探は使えないな。」
大和 「ですが、それは雨風さん達も同じです。」
伊勢 「でも、通じるかな?提督の秘策。」
二人の後ろにいた伊勢が心配そうに口を開く。
全く新しい戦法、それはつまり想定外の奇襲になりうる反面、実行側も何処に穴があるかも分からない。
しかし、絶対に通用すると信じている大和は落ち着いた優しい口調で言った。
大和 「通じますよ。きっと。」
大和の言葉が聞こえ、周囲の警戒をしていた艦娘も一瞬だけ空を見上げる。
水上機や彩雲から銀色のものが放出され、キラキラと星のように日光を反射していた。
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雨風達は移動を開始してある程度時間が経ち、ハリアーIIから報告が届く。
報告の内容は敵の編成とレーダーの異常についてだった。
まずは編成について。
戦艦を主力とした水上艦隊を二、空母を主力とした機動艦隊を二、軽巡洋艦を主力とした水雷戦隊を一。
そしてむしろこっちが本命になってしまったレーダーの異常の原因は。
神弓 「チャフとは面倒だね。」
ハリアーⅡの報告のよると、広範囲に大量のチャフが撒かれていたそうだ。
チャフは大量のアルミ箔を用いてレーダーを麻痺させるものであり、空気中に漂うアルミ箔にレーダー波が反射しレーダーを誤作動させる
たがアルミ箔が海に落ちたりアルミ箔同士の距離が開いたりすると効果を失うが、今回は撒かれた量が非常に多く、自然に効力を失うにはかなりの時間を要するだろう。
一応、神弓には一部のチャフを無力化させる方法があるにはあるが、もったいないから出来ればやりたくないと思っていた。
しかしこのままにレーダー使用不能状態でいる訳もいかないので、ため息を吐き準備を開始した。
神弓 「はぁ・・・しかたない。チャフ散布上空に座標設定。弾種、特殊弾頭。発射。」
艤装の上部に取り付けられたVLSのハッチが開くと、今まで対艦ミサイルより一回りも二回りも巨大なミサイルが一発発射される。
今度のミサイルは海面を走るのではなく、遠くの上空に向かって上昇を続け、数分後───特殊弾頭ミサイルがチャフ散布上空で炸裂した。
その爆発は広範囲に及び、昼間だと言うのに遠くに新たな太陽が生まれたのかと勘違いするほどの強烈な光が一瞬放たれた。
チャフはこのミサイルの爆発によって、爆発範囲内のアルミ箔は全て焼き尽くされ、範囲外は強力な爆風により粉々に吹き飛ばされた。
それによって一部とは言え、レーダーが機能するようになった。
神弓 「よしよし見え・・・えっ!」
神弓のレーダーには爆発した地点より奥の方に一つの大きな反応があった。
一瞬チャフかと神弓は思ったが、現在進行形で高速でこちらに移動してきており、速力は150kt程ありそうだ。
この速度を出せるとしたら航空機しか無いだろう。
神弓 「航空機が接近中、およそ二百五十機!いつ場所がバレて!雨風どうする?」
神弓が驚くのも無理なかった。
先ほどまでレーダーが使えなかったと言っても、偵察機に発見されれば発見の電報を打つ。
その際にその電波を拾え発見されたのが分かるはずだった。
一方の雨風は報告を聞き、決断を下した。
雨風 「神弓は後方。対空ミサイル、発射数・・・八十。」
神弓 「了解。弾種対空ミサイル。発射数八十、発射セル八基、十連射。発射!!」
神弓は雨風から離れ過ぎない程度の距離を保ちつつ、対空ミサイルを連続発射する。
この攻撃こそ、神弓が神弓という名の所以である。
超長距離から一方的に照準を合わせ、絶対に外れる事のない矢が神の弓から解き放たれた。
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妖精さんの世界
「初めてだね、こんな演習。」「そうだね。やる気に満ちる。」「でも、すぐ終わっちゃうね。」「相手は二隻だけだからね。」「んっ?なんか煙が向かって来てるよ?」「なんだろ・・うぁー!!」「あっ!五番機が落ちた!」「みんな離れろ離れろー!!」「八番機と十番機も落ちた!」「いやぁ付いてくるー!?ぎゃあっ!?」「逃げろぉー!」「逆に考えるんだ、落ちちゃっていいさと。グハッ。」
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神弓 「全弾命中を確認。現在の残存機数、百六十八機。」
雨風 「了解。全主砲、対空射撃用意。」
神弓からの報告を貰った後、雨風は未だ視認出来ぬ航空隊を狙う為に、61cm三連装砲塔五基、十五門の61cm砲が大仰角をかける。
61cm砲はその巨砲を振りかざさんとばかりに遥か先の空を向く。
雨風 「予測計算完了。撃って。」
雨風がそう言ってから一拍置いて、鋼鉄の咆哮が周囲に轟く。
落雷が起きたのかと思うような砲声から、僅か十八秒で第二射を発射される。
第二射を発射した頃、はるか遠くに目標の航空隊が見えてきた。
今のところ航空隊は、先程のミサイルによる超長距離攻撃から完全に復帰出来ていないようで、少し拡散し陣形が崩れている。
しかしそれでもこちらを捉え真っ直ぐ飛行を継続していた。
そんな航空隊に強烈な主砲弾による第一射が着弾する。
レーダーと射撃管制装置を使用する大口径対空砲撃は、航空機を破壊するには十分過ぎる破壊力を誇っていた。
しかし第一射は少し離れて爆発した為か、一機二機程度で航空隊の被害は少ない。
だが修正を加えた第二射は、航空隊ど真ん中で起爆した。
炸裂した砲弾は、炸裂時の衝撃波と無数の破片を周りに弾き飛ばす。
炸裂時の衝撃波を受けた戦闘機は、全体を押し潰され、紙くず同然に引きちぎられる。
砲弾の破片を受けた艦攻の構成しているジュラルミンを、破片は軽々しく貫き、蜂の巣のようを呈する。
穴だらけになった艦爆が飛行時に起こる空気抵抗に負け、黒煙を吐きながら空中分解して墜落する。
ある機体は主翼を付け根から叩き折られ、別の機体はエンジンを粉砕されバラバラになり、他の機体は燃料タンクが燃え出し爆発炎上しながら高度を落とす。
突然の着弾に航空隊が混乱している時、また新たな砲弾を叩き込まれる。
一度命中すれば後の調整は比較的容易である為、航空隊に再び第三射が命中する。
先ほどの砲撃を運良く被害を受けなかった機体も被害を受け始めた。
雨風は第四射を放つと、主砲による対空射撃を止めた。
今現在航空隊は10km地点を通過しており、敵編隊は既にバラバラになっている。
これの状態では砲塔は旋回が遅く、装填が早いとはいえ所詮は大口径砲である主砲の迎撃は効率的ではなくなっていた。
雨風 「近接防空砲火、開始。」
雨風と神弓からRAM (近接防空ミサイル)や127mm速射砲、雨風の拡散荷電粒子砲が大空を羽ばたく鉄の鳥達を駆逐する。
白煙を吹きながら向かっているミサイルに砲弾、光弾は航空隊に進んで行くとそれぞれ炸裂が始まった。
航空隊周辺に次々爆発が起こり、急増した爆煙で航空隊が覆い被さられる。
だが目視で航空隊が見えなくても、電波を使用するレーダーの目からは逃れることは出来ない。
一機の戦闘機なRAMのミサイルにより逃げる暇すらなく破壊される。
とある艦爆は速射砲の榴弾が直撃し、ビスケットをハンマーで粉々にするかのように砕かれた。
残り一機になり、最後まで中央にいた艦攻は運悪く分裂した光弾が命中し、分裂した光弾は当然の如く機体や魚雷貫いて誘爆、爆発四散する。
これらの攻撃によって航空隊は壊滅した───はずだった。
しかしその時、実は雨風達の側面から五十機程の艦攻隊が急接近していた。
艦隊まで残り僅か5kmという至近距離だ。
何故こんな近くまで接近出来たのか?
それは海面10m以下の海面すれすれを、高速で飛行していた為である。
海面付近はレーダー波が海によって反射するので、それを自動でカットする機能が存在する。
それによって逆に探知されずに近くまで紛れ込むことができる。
本来であれば機体数の多い方を本隊とするのが普通であった。
しかし提督の戦術は、あえて本隊を囮に使ったのである。
現在接近している機体は流星や流星改といった威力の高い魚雷や八十番を装備した高速機であり、少しでも成功率を上げようと努力したのが分かるだろう。
確かにこの作戦では艦隊にダメージを与えれる可能性は高い。
実際にここまで航空隊の接近を許していた。
しかしそんな流星隊を待っていたのは砲弾の暴風だった。
雨風 「右側面に敵機。近接防空砲火開始。」
側面にいる流星隊を壊滅させるべく、先程本隊に与えた攻撃を繰り出してきた。
これには流星隊も泡を食った様子で、各機回避行動をしながら突撃する。
何故航空隊が発見されてしまったのかと言うと、それは上空にいるハウニブーからの報告であった。
上空で待機していたハウニブーは奇襲対策で、敵の接近を報告する用に発艦させていた。
もし雨風が奇襲対策にハウニブーを出すように言わなかったら、今頃雨風達は気づかずに奇襲を受けて流星隊は攻撃に成功していただろう。
ハウニブーは周囲を監視している中、海面を走る航空隊を発見されてしまったからだ。
だが流星隊側も艦隊に対して数を減らしながら接近に成功、艦隊まで残り2km程で残存機は十五機。
流星に乗る妖精は行けると思った。
だが2kmを切った途端、弾幕が急増・・・いや──爆増した。
127mm速射砲やRAMといった物ではなく、接触信管を備えた小口径砲弾の雨霰であった。
搭載された最後の迎撃兵装、35mmCIWSと対空パルスレーザーによるものだった。
35mmCIWSの発射速度は毎秒八十発、対空パルスレーザーは毎秒三十発、それを二艦合わせて合計十基と八基搭載している。
総合的な発射速度は以前の比ではない。
一発で航空機を破壊する事が十分に可能な弾が毎秒九百六十発、毎分五万発に加え、多数のレーダーによる観測、イージスシステムの高い演算能力によって導き出された偏差射撃。
一発一発が高い命中精度を持ち、文字通り桁外れの防空能力を誇るのだ。
そんな統制された弾幕を前にミサイルやジェット機ならいざ知らず、ただ若干足の早いレシプロ機程度が突破出来る訳もなく───第一次攻撃隊は壊滅した。
雨風 「終わった。」
雨風は射撃を止め、小さく呟く。
耳をつんざく程の砲声が轟き鳴っていた海上は、今では波の音さえ聞こえる静けさが生まれていた。
雨風達の辺りに機体の物だったであろうジュラルミンの破片がチャフよろしく海面に散らばっていた。
神弓 「なら、こちらからの出番だね。チャフも無くなったし──!」
航空隊を撃滅し、喜びを受けている神弓の表情が即座にすり変わる。
神弓 「パッシブソナーに感あり・・・」
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ゴーヤ 「こんなの予想できる訳ないでちッ!?」
さっきまでの圧倒的な対空戦闘をこの目で見てしまった旗艦のゴーヤは、水中で癇癪を起こす。
幸か不幸か、ゴーヤ以外の潜水艦娘は直接戦闘を見ていなかったからか、まだなんとか冷静であった。
伊19 「と、ともかく魚雷撃って逃げるのね!」
その時、ピーン・・ピーン・・ピーン・・と一定のリズムの音が海中に響き渡る。
伊168 「何の音かしら?」
伊58 「そんなのどうでもいいよ!早く撃って逃げるでちぃ!」
全員が魚雷の準備をしていると、ポチャッと何が水面に着水した。
疑問に思った伊8が何かと水面を見上げる先には。
───ピーン・・ピーン・・と先程の音を出しながら魚雷が複数向かってくる。
伊8 「えっ!みんな逃げて!」
伊58 「なっ!?いつの間に来たでち!」
伊168 「とにかく急いで!」
潜水艦娘達は皆がバラバラの方向に逃げるが、魚雷もそれぞれ分散して潜水艦娘を追いかけて行く。
伊58 「いやぁぁ!何でついてくるでちぃぃぃ!?」
高速で移動しても、急速潜行しても、ずっと後方から魚雷は追いかけてくる。
更に近づくにつれて、音の間隔が短くなり、そして──
艦隊近くに四つの水柱が上がる。
神弓 「目標に命中、撃沈判定確認。で、雨風どうする?」
雨風 「戦艦隊はすぐ。神弓、空母に対艦ミサイル、特殊弾頭ミサイル発射。」
神弓はミサイルを再び複数発射し、撃ち上がったミサイルはブースターによって速度を上げながら、第一次攻撃隊ように海面すれすれを、自目標に向かって飛翔する。
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蒼龍 「えっ?全滅・・・・・」
飛龍 「そ、そんなの・・・何かの間違いよ!?」
蒼龍は顔を青くし、飛龍は認めたくないと否定する。
二人以外にも周りにいた艦娘も似たような状態で、第一機動部隊の士気は最悪の一言と言える。
なにせ他の艦隊を含んで送り出した全力の航空隊が、たった二隻に壊滅させられたのだから、そんな常識的にあり得ない事を信じれられる訳がなかった。
赤城 「つまり、雨風達の対空能力は私達の予想以上って事ね。」
加賀 「怯んでる時間はありません。まもなく戦艦隊が突撃します。私達はその支援をしなくてはいけません。予備機の発艦準備を。」
赤城と加賀は周りに比べて、ある程度知っていた為かまだショックは少なかった。
それに加賀の言うように戦艦隊が攻撃を開始する。
空母隊はそれに対して、航空機による支援をしなくては行けなかった。
落ち込んでいる時間はないのだ。
赤城 「そうね・・・第二次攻撃た──」
秋月 「何か───来ます!!」
赤城は即座に秋月の視線の方向を見ると、こちらに向かって一発の噴進弾が超低空を高速で突っ込んで来る。
旗艦である赤城はそれがミサイルと言う物だと直感的に判断した。
赤城 「対空迎撃開始!急いでっ!!」
赤城の命令と共に護衛艦隊から対空砲火が始まるが、ミサイルは航空機に比べ小さく圧倒的に速い。
想定外の高速度に弾幕は全てミサイルの後方で炸裂する。
摩耶 「落ちやがれぇ!!」
秋月 「お願い落ちて!」
防空艦は全力で弾幕を張るが、残念ながらミサイルの速度に対応出来なかった。
艦隊との距離が縮まった瞬間、突然ミサイルが上昇して降下する。
ホップアップだ。
本来は目標を正確に捉える為の行動で、上昇時と降下時に撃墜されやすいやり方だが、始めて対峙する艦娘には予想だにしない動きに照準が完全に狂ってしまった。
あとは搭載する機銃でひたすら弾を撒いて当たる事を祈る・・・・が、そのような幸運が訪れる事もなくミサイルが輪形陣の防空網を通過して赤城に直撃する。
赤城 「きゃぁぁぁぁ!?」
赤城に命中したミサイルからは、起爆時と比較にならない巨大な火焔が生まれ、鼓膜が破れたと錯覚する程の爆音を放ちながらを爆発し、艦隊全体にダメージを与える。
赤城周辺にいた艦娘や装甲の薄い艦娘は即座に大破し、離れていて巡洋艦だった摩耶は幸い小破で済んだが、それ以外は中破以上の判定を受けた。
爆発後、全員暫くの間で耳が麻痺する。
そしてかなりの時間が経ち、聴力が回復し赤城は皆の被害を把握した。
赤城はその被害の大きさに一生忘れないほど驚愕する。
これらの被害を、たった一発のミサイルの攻撃で起こされたとするならそれは当たり前だろう。
赤城 「これでは戦闘は不可能ですね。撤退しましょう····」
飛龍 「もぉぉー!!あの兵器は何なのか、絶対問いただしてやるんだからっ!!」
第一航空機動部隊が撤退を始めて数分後に、第二航空機動部隊が大量のミサイルの襲来により、空母が大破したので撤退すると報告が流れた。
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長門 「何をどうしたらこうなるんだ・・・?」
長門は頭を抱えていた。
雨風達の戦闘能力は決して甘く見ていなかった。
ならば何故、こうも作戦が乱されるのか?
予定では航空隊による攻撃で被害を与え、次に戦艦による攻撃と平行して第二次攻撃隊で打撃を与えるはずだった。
それがどうだ・・第一次攻撃隊は壊滅、空母は大破し撤退。
武蔵 「敵の戦力が我々の予想以上だっただけ、だろ?」
大和 「しかし打撃を一切与えれないのは流石に想定外ですけどね。」
当たり前のようにそう呟く武蔵は、大和の言葉に少し難しい顔をして悩む。
武蔵 「確かに、それに航空隊の支援を受けれないのは厳しいな。」
空母は大破し撤退したので航空機は使用不能。
しかも第一次攻撃隊には、航空巡洋艦や航空戦艦の水上機も参加していた。
現状、水上機の予備もあまり無い状態である。
長門 「偵察機や観測機を爆装させる手もあるが、三百機近い航空隊を壊滅させた相手だ。無駄に浪費するだけだろう───来たぞ、対空戦闘用意!」
長門はこちらに飛翔するミサイルを見て、一時的に思考を止める。
他の艦娘もミサイルを確認すると、全艦目視で対空砲火を開始した。
だかやはりミサイルの速度に対応できず、弾幕は後方に大きく広がる。
そのままミサイルは艦隊に接近、命中。
艦隊の至る所から悲鳴が上がる。
数発のミサイル攻撃を終わったら、長門は急いで被害を聞く。
長門 「全員大丈夫か?被害は!」
大和 「私は大丈夫です。」
島風 「うぅー、大破しちゃったよー!」
雪風 「私も大破しました。」
伊勢 「多少食らったけど、軽微よ。」
高雄 「被弾しましたが、大丈夫です。」
今回の攻撃では戦艦や重巡洋艦は被害が少なく、駆逐艦や軽巡洋艦が被害が大きかった。
阿賀野、島風、雪風の三名が艦隊から脱落した。
しかし被害を把握すると大和がある事に気づいた。
大和 「ミサイルというのは、重装甲の戦艦等には効きづらいようですね。」
大和の考えに日向も頷いて同意する。
日向 「ふむ、そのミサイルとやらは射程と命中特化なのだろう。」
伊勢 「それじゃあ航空隊が壊滅するはずね。こんなの山ほど撃たれたら、簡単に全滅するわよ。」
航空機より早く、正確に遠距離まで狙えるミサイルを大量に放たれ撃墜された攻撃隊をふと想像し、溜め息を吐きながら伊勢はそうぼやく。
高雄 「ですが、軽装甲の水雷戦隊にはかなり致命的な問題では?」
長門 「・・・確かにそうだな───その通りになったな。水雷戦隊壊滅だそうだ。」
最早諦めか呆れか慣れたのかは分からないが、不思議と長門は水雷戦隊が壊滅した報告に驚きはしなかった。
だがどうやら長門の隣で砲の再確認を行う陸奥は、戦艦同士による純粋な砲撃戦にならざる終えない状況に面白そうする。
陸奥 「まさに戦艦同士の殴り合いね。あらあら?ちょっと楽しくなっちゃったかしら。」
艦隊が別の意味で士気上昇している中、艦隊の数十mの前に前触れもなく一本の水柱が立ち上がる。
現れた水柱は長門達が今まで見てきた中でも一番大きい物だった。
水柱が立って少し経ち、先ほどの攻撃の物だと思われる発射音が後から聞こえてきた。
火砲の炸裂音ではない、まるで電気の放電に近い音だった。
それにより艦隊にいる皆は意識を戦闘に集中する。
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雨風 「───外した・・・」
雨風の搭載するレールガンの砲身部分である二本のレールが真っ赤に熱を帯びており、少し離れても暖かいと思うほどの放射熱を放出する。
雨風は遠く離れた水上打撃部隊にレールガンを放ったが、距離の関係で命中しなかった。
神弓 「うんまぁ、この距離は命中しないよね。次の発射は?」
雨風 「連続、無理。」
詳しい原理は省くが、レールガンは二本のレールを使い砲弾を加速させる。
その速度は7000m/sを誇り、通常の火砲に比べて9倍近い差がある。
しかし速度で生じる摩擦熱によってレールが非常に高温になり、レールを冷やすのに時間が掛かる欠点が存在する。
神弓 「そうなんだね。それで、別動隊はどうしようか?」
二人のレーダーには二つの艦隊が反応していた。
反応は大きいが距離があるA艦隊、反応は中位だが近くまで来ているB艦隊。
一度A艦隊へミサイルで攻撃したが、反応にあまり変化が無い事から大型の戦艦が複数いるのだろう。
とは言え、まだ距離があるため問題ではない。
二人にとってむしろ近くにいるB艦隊の方が厄介であった。
少し考えると方針は決まる。
雨風 「神弓は待避、私が行く。」
神弓 「了解、頑張ってね。」
神弓は再び後退する。
超長距離や索敵は神弓、それ以外は雨風と役割分担して行動する。
雨風は砲身をB艦隊に向ける。
雨風 「レーダー照準、光学照準開始。撃って。」
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榛名 「私達で勝てるでしょうか?」
比叡 「やる気を出しなさいって、私達なら大丈夫だってっ!」
金剛 「みんな大丈夫ネー!私たちならきっと越えられマス!」
金剛と比叡のポジティブ力で弱気になっている榛名を慰めつつ引っ張る。
比叡 「ほらっ!お姉さまもこう言ってるから!」
榛名 「・・・わかりました。榛名、全力で行きます!」
金剛 「その気デース榛名、やればデキマース!」
そして覚悟決めた様子になった榛名を横目に、敵である雨風艦隊の方角から大きな黒煙を確認した。
霧島 「発砲煙確認!」
金剛 「みんな、回避開始ネー!」
金剛の命令を受け、各自回避行動を行う。
艦隊に雨風の第一射弾が着弾する。
砲弾は分散しており命中弾は無かったが、着弾から予測して、この威力なら駆逐艦や軽巡洋艦は至近弾でも大破するだろう。
そして戦艦である金剛でも直撃すれば撃沈判定は確実だと思われた。
だが、だからこそ戦意が上がる。
金剛 「ここは私達の射程内ネ!撃ちます!Fire!」
比叡 「撃ちます!当たって!」
金剛型四隻が近くにいる雨風へ攻撃を開始する。
各艦の四基搭載する35.6cm連装砲が同時に火を噴く。
発射後、まもなく周辺に三十二発の35.6cm砲弾に着弾した。
一方雨風は第三射を放つ。
戦闘開始してからお互いに命中弾はない。
たとえレーダーを使った射撃とはいえ、そこそこの距離になると照準が合っていても、砲弾自体が風など流されて命中しない。
こればかりは若干の運が無くては当たらない。
更に敵の重巡洋艦も砲撃を開始してきて、砲弾の投射量が増加している。
それらに邪魔と僅かに苛立ちを覚えた雨風がレールガンを動かして電力を供給する。
雨風 「冷却完了。目標、金剛型戦艦機関部。照準完了。撃って。」
ギュオン!と、音と同時に7000m/s、マッハ25を誇る金属の塊が打ち出される。
レールガンを発射して雨風は神弓に通信する。
雨風 「駆逐艦と巡洋艦、邪魔。」
神弓 「「あーはいはい、了解したよ。対艦ミサイル発射!」」
雨風は通信を終えて敵艦隊を見る。
レールガンが命中して戦艦が一隻脱落したという判定が届いた。
現在は依然として雨風は有利だが、急がなければもう一つの艦隊と同時に戦闘する羽目になる。
そこで雨風は全力射撃をする事にした。
金剛 「oh・・・不味いですネー・・・・・」
金剛は所属する艦隊の劣勢に顔色を悪くなる。
既に比叡が機関部被弾により大破、撤退した。
つまり相手は照準が合った、という事でもある。
とはいえ、勝つ為には被弾が増えると思っても前進するしかない。
金剛 「私に続いてネー!行きますヨー!!」
金剛を中心となって艦隊全体が増速する。
その時、吹雪が雨風の後方から何か飛んでくる飛行物体に気づく。
吹雪 「何か近づいて来ます!」
金剛 「What!?みんなとにかくあれを落とすネッ!」
艦隊は謎の飛行物体を狙うが、雨風からの砲撃で照準が狂わされ、あえなく飛行物体は吹雪や矢矧などに命中していく。
矢矧 「うぅ、まさか私が簡単にやられるだなんて。」
吹雪 「すいません。離脱します。」
その他、三日月や由良も離脱していく。
これで残ったのは戦艦と重巡洋艦だけである。
金剛達に被弾して脱落する艦がいる中、敵である雨風は運良く被弾していなかった。
そして相手の陣形の崩れを逃すほど、雨風は甘くない。
主砲の発射速度下げ、代わりに精度を上げていく。
今度の第四射目で遂に命中弾が出始める。
主砲の射撃回数を減らした反面、追加のレールガンによる精密射撃を行う。
雨風 「レールガン、目標は先頭艦。調整完了。撃って。」
ギュオン!と放たれた弾は先頭で引っ張っていた金剛の艤装を破壊すると、ほんの僅かなタイムラグの後、大きな爆炎が立ち昇る。
着弾して数十秒経った時、空気を震わすおどろおどろしい炸裂音が轟い来た。
レールガンの砲弾が砲塔直下の弾薬庫を砕きながら貫通した為だ。
弾薬庫爆発によって、その周囲にいた艦娘も大きな被害を受けた様子で、レールガンによる精密射撃が終わると同時に今度は主砲による砲弾の雨だった。
これにより高速打撃部隊は全員撃沈判定を受けた。
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武蔵 「とうとう我々だけになってしまったな。」
長門 「あぁ・・・そのようだな。」
長門はたった今、高速打撃部隊壊滅の報を受けた。
そして長門は悔しそうに唇を噛む。
長門 「これでも急いだのだが・・・」
陸奥 「仕方ないわよ。それより今は先を考えないと。」
長門 「そう、そうだな。電探の反応的にまもなく見える頃だが───」
水平線ギリギリにピカッと光と僅かな黒煙が見えた。
瞬時に砲撃だと気づいた長門達は艦隊の進路を変更する。
そして数十秒後、艦隊の予測地点周辺に多数の水柱が沸き立つ。
長門 「これは、危なかった。」
針路を変更しなければあの水柱の中へ居たであろう事実に、
ひとまず回避出来て長門が安心している時、大和が慌てて叫んだ。
大和 「第二射、来ますッ!!」
長門 「なんだとっ!?装填が早過ぎる!」
長門が驚くのも無理ない。
戦艦の砲撃は基本的に四十~五十秒程は掛かる。
それも雨風のような大口径砲なら尚更、本来なら数分以上掛かる装填を高性能な自動装填装置によって僅か十八秒で終わらすのだ。
だが、この距離は大和型戦艦の距離でもあった。
大和 「反撃の時間です!第一、第二主砲。斉射、始め!」
武蔵 「ふふ・・・遠慮はしない、撃てぇ!」
日本の誇る世界最大最強と呼ばれた二隻の大和型戦艦が、敵に対して自慢の46cm砲を放つ。
遠距離なので詳しく見えないが、砲撃は敵の周辺に着弾しなんと初弾で夾叉弾を出す。
大和 「夾叉しました。次は命中させます。」
長門 「我々も大和に負けていられない。撃てぇー!」
陸奥 「敵艦確認!全砲門、開け。」
大和型が完成するまで、最強の戦艦ビッグ7と呼ばれた所以の41cm砲も砲撃を始める。
武蔵が第二射を放とうした瞬間、先にレールガンが命中する。
このレールガンの持つ炸薬の無い貫通力だけを求めた純粋な徹甲弾は、とてつもない運動エネルギーを持つつ射線上の武蔵の厚い装甲を容易く貫通し、弾薬庫を貫く。
更に反対側の装甲をも通り抜け、後方にいた愛宕に命中する。
武蔵 「まだだ·・・・まだこの程度で、この武蔵は・・沈まんぞ!」
愛宕 「ちょっと、いくらなんでもやり過ぎじゃないかしら?」
愛宕は中破で済み、武蔵はさすがは大和型と言うべきか、撃沈判定ではなく大破で踏み留まっていた。
だが、戦闘にはもう参加出来ないだろう。
その光景に長門が目を見開く。
長門 「なんという貫通力だ!!」
陸奥 「あらあら!これじゃあ装甲はあまり意味は無いじゃない。」
大和 「第二射、斉射、始め!」
長門と陸奥が驚いている間に、大和が第二射を撃つべく咆哮を上げる。
大和の第二射は───命中した。
大和 「やった!───えっ?」
大和の放った砲弾は命中した、これは事実で確実である。
しかしガァンと大きな音と共に水色のネットのような物が敵の周りを纏うように出現し、大和の放った砲弾は運動エネルギーを失い、水面に落下。
その光景に水上打撃部隊全員が動きが止まり放心する。
全員が呆気を取られている間、長門は後ろ側からパチャっと何かの音が聞こえた。
そっちに振り向くと───
長門 「なっ!いつの間に!」
そこにはもう一人の敵がいた。
そして水面下から魚雷が走って来ているのに気づく。
長門 「全員回避急げぇぇぇ!!」
長門の言葉に再起動した他の艦娘がその魚雷に気づき、回避しようとするが既に遅かった。
ドゴォォンと巨大な爆音と共に巨大な火焔が生まれる。
するとすぐに二発目が発射され、もちろん避けれる訳もなく命中、もう一度同じ火焔が生まれる。
そこに爆発地点周辺にいた水上打撃部隊は全員大破が確認された。
ここに演習は終了した。
全く出番のない子達もいましたが、楽しんで頂けたら幸いです。