鋼鉄の少女達は世界にどう接する?   作:弓風

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修正に時間が掛かり申し訳ないです。かなり時間が開きましたが小説は続けるつもりです。では、どうぞ!


10:不穏な雑音

提督 「んー、やっと終わったー!」

 

 横須賀鎮守府の執務室の中で、数日連続休み無しで机の上の書類と格闘していた提督が、遂に書類仕事の完了に大きな喜びを味わう。

 それもそのはず、提督の手元の机には厚さ数cmはあると思われる紙束が大量に置いてあった。

 

瑞鳳 「お疲れ様です、提督。お茶をどうぞ。」

 

 秘書艦の瑞鳳が労いの言葉と共に温かいお茶を差し出す。

 用意されたお茶を提督は一口飲んでゆっくり息を吐く。

 

提督 「はぁ、今までで一番疲れた気がするわよ。ふぅー、あとは送るだけね。」

 

 そう答えつつ提督はさっきまで処理していた書類を封筒に入れて提出の用意をし始める。

 

瑞鳳 「これで二人の処遇は決定ですね!」

 

 安心とも嬉しさとも取れる明るい顔になった瑞鳳が提督へそう話す。

 すると提督側も似た心境だったようで、小さく笑顔を浮かべる。

 

提督 「その為にここまで頑張ったんだから、運が良かったとも言えるけど。まぁとにかく処遇も決まったし、瑞鳳にかけていた負担も減らせるってものよ。」

 

 提督はここ最近の通常業務の殆ど全てを瑞鳳に委任させていた。

 しかしこれは決して提督がサボっているわけではなく、雨風や神弓の処遇に関する報告や根回しをしていた為である。

 雨風達が発見された当初、上層部は新たな事例で艦娘を発見できる可能性があるといった認識しかなかった。

 しかしその認識は射撃演習の報告により完全に崩れ去った。

 当初報告を信用していなかった上層部が秘密裏に艦娘の証言を集めた結果、事実だと判明した。

 報告を受けた二日後に緊急会議が開かれ、横須賀鎮守府提督を召集した。

 緊急会議では上層部の他、各地の提督、更に海軍元帥までもが出席する事態に。

 会議が開始し資料が配られたが、基本的に資料の内容が常軌を逸していた内容を前に半信半疑の者が多数を占めていた。

 中には本来とは違う発見の仕方により「深海悽艦のスパイではないのか?」と言った疑いが上がる事態へ。

 そこに(横須賀)提督が雨風からの条件を報告すると、更にその疑いが強くなり、「何か起こる前に解体し無力化すべき!」といった声が現れ、それを指示する意見が増えてきた。

 解体賛成派の一部を除く大半が「部活である艦娘が、上官の我々に条件をつけるなど、言語道断!」と、プライドを刺激された者が大半だったのは秘密である。

 とはいえ、現状の流れだと解体される可能性がかなり高かった。

 しかしここで、(横須賀)提督が一転攻勢の切り札を取り出す。

 それは会議前日に横須賀鎮守府で行われた艦隊演習の映像である。

 そこには各鎮守府の中でも、ラバウル基地やトラック泊地と共に高い戦闘力を誇る横須賀鎮守府所属の艦娘達が瞬く間に壊滅させられる映像が映し出されていた。

 この映像を見た上層部や他の鎮守府提督は、即座に顔を真っ青に染める。

 映像が終わり、「やはりこのような危険な存在は解体すべき!!」と解体賛成派が名乗り出たが、先ほどに比べ賛同者は明らかに少なかった。

 確かにこの艦娘は危険な存在であるが、(上手く扱えれば深海悽艦との戦いが有利になるのでは?)などの思惑が浮かんでいた為だ。

 だがそれでもひたすらに解体を押す者達に元帥が「例えばの話だ。その艦娘が解体を拒否し攻撃をしてきた場合、果たして我々は止めれる者はいるのか?」と、発言したら、解体賛成派は萎縮してしまう。

 確かに元帥の言う通りだった。

 最強クラスの鎮守府でも歯が立たないなら、たとえ他の鎮守府と連携したとしても勝負になるか怪しい。

 それどころか撃沈に成功したとしても甚大な被害を受け、今後の深海悽艦との戦いが不利になるだろう。

 それでも「燃料弾薬の供給を絶ってしまえば、戦闘力を失わせることが出来る!」等、解体賛成派はなんとか反論するが、(横須賀)提督が、海水を燃料にする機関や弾薬を使わない光学兵器の存在を説明すると、即座に口を閉じた。

 その後の会議では、元帥が「共に戦う意志は持っているのか?」と(横須賀)提督に問い、戦う意志がある事を確認し、会議は雨風の条件を承認する流れとなった。

 そして会議中、(トラック)提督からこの艦娘をこちらに欲しいと要請があった。

 トラック泊地はその地形上、強力な深海悽艦を相手に戦う事も多く、強力な戦力は喉から手が出る程欲している。

 たが、(横須賀)提督は二人に関して他の鎮守府より比較的扱い慣れており、雨風達自身がそこの提督を信用している事もあってか、今後の事情次第としてお流れになった。

 会議終了後、提督の元にはその書類が山のように送り届けられ、それがたった今処理が終わった所である。

 

瑞鳳 「もうお疲れのようですから、少しお休みになられたらどうです?」

 

 瑞鳳が働き詰めの提督に休みを取るよう提案する。

 暫く徹夜をしていた提督の目の下にクマが出来上がっており、若干窶れて疲労の色が濃いかった

 こんな状態の提督は瑞鳳の提案に頷き、報告だけ聞いて休む事にした。

 

提督 「そうね、ちょっと休ませてもらいましょう。その前に報告だけ聞こうかな。」

瑞鳳 「了解しました。」

 

 自分の机から瑞鳳は手元の資料を漁り、ここ最近あった出来事を報告する。

 

瑞鳳 「良いお知らせと悪いお知らせ、どっちから行きます?」

提督 「良い方から。」

 

 提督は迷わず即効で断言した。

 そんな提督に、瑞鳳は少し納得のいかない表情をする。

 

瑞鳳 「そこは悪い方からじゃないの?別に良いけど。報告です。リンガ泊地、ブルネイ泊地、タウイタウイ泊地の共同作戦により、スリランカ島及び周辺海域の深海悽艦の撃破に成功。その海域の制空権、制海権の奪取に成功しました。攻略艦隊はマダガスカル沖には進行せず、各泊地に向かい帰路に着きました。近々、マダガスカル沖の制海権を奪取する為、対策会議が開かれる予定になっています。」

提督 「よしよし。これでまた一つ、海を取り返したわね。」

 

 提督はいつもに比べて上機嫌になってる。

 たとえ他の鎮守府の成果だとしても、海を取り戻せるのが嬉しいようだ。

 

瑞鳳 「他には雨風さん達の事ですが、彼女らが現れてから近海の深海悽艦の数がびっくりする位激減しています。」

提督 「あぁ・・・まぁ、ねぇ?」

 

 表情が一変し提督が思わず苦笑いを表に出してしまう。

 そりゃそうだ。

 あんな性能の艦が辺りを彷徨いていたら、深海悽艦もいなくなると。

 最近一度だけ暗闇に紛れて近海に戦艦を含んだ十隻の艦隊が侵入してきたが、偶然当日哨戒担当だった神弓のレーダーに引っ掛かり、雨風の主砲で海の藻屑と化した。

 その光景を見ていた随伴艦の皆は、思わず敵の深海悽艦に同情してしまった・・・と言ってしまうほど圧倒的な戦力差で捩じ伏せてしまった。

 演習の時の経験があれば、深海悽艦がどうなったかは想像に容易くない。

 

提督 「それで悪い報告は?」

瑞鳳 「悪い報告ですが。現在、到着予定分の資源が届いていません。」

提督 「えっ?確か予定だと、昨日の段階で輸送船が到着して、積み荷の入れ替えが終わり次第随時出港だったはずだけど。」

 

 予め決められたスケジュールを記憶していた提督が瑞鳳へ投げ掛けると、瑞鳳は言い難そうに口を開く。

 

瑞鳳 「それが・・・最近になって輸送船団が消息不明になるケースが増えています。中には護衛のいる輸送船団も含まれています。」

提督 「それはおかしいわね。救難信号は?」

 

 提督の顔が怪訝な表情へ変化し瑞鳳に質問する。

 そして瑞鳳も困ったように返答した。

 

瑞鳳 「今現在確認出来ていません。」

提督 「どう言う事かしら?」

 

 輸送船団が消息不明になるケースはそんな珍しいものではない。

 たが、救難信号を確認出来ていないのは不自然だ。

 輸送船には必ず通信機が搭載されているから、襲撃があれば何かしらの信号が中継局を経由し、鎮守府に届く。

 一隻や二隻なら通信機の故障もありうるが、艦娘が護衛に付く場合は最低でも合計六隻以上はいる訳で、奇襲を受けたとしても次の攻撃が開始されるまでに僅かながらの時間で通信ができるはずだ。

 

提督 「上層部の方はなんて?」

瑞鳳 「原因究明の為に、艦隊を調査に向かわせろとお達しが届いています。これに対し、本日1430に調査艦隊を出撃させる予定です。」

提督 「編成は?」

瑞鳳 「伊勢を旗艦にして、青葉、由良、陽炎、天津風を予定しています。報告は以上です。」

提督 「まぁ分かったわ。とりあえずこれらを考えるのは後にしましょう。そうね。そろそろお昼時だから、今まで頑張ってくれた分、今日は私の奢りでお昼行きましょうか。」

瑞鳳 「えっ!良いんですか?」

 

 瑞鳳は目を輝かせる。

 提督は瑞鳳を見て、クスッと笑う。

 

提督 「フフっ好きなの食べて良いから、行きましょう。」


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