超兵器が出現した可能性がある、その可能性だけでも雨風達を容易に動かす要因へなり得た。
食堂から飛び出した後、工廠で装備を揃え桟橋へ向かう。
本来工廠から装備を受け取る際に提督からの申請が必要だが、明石は二人の慌て具合から懲罰覚悟で用意してくれた。
明石には感謝せざる終えない。
二人は桟橋に着いて海面に飛び降り、最大船速で走り出そうとした時。
提督 「待ちなさい!!」
後方から駆ける提督の叫びを二人に届く。
ここで提督に状況を説明した方が良いのは二人共理解していたが、今は一刻を争う。
雨風 「行って。」
神弓 「えっ?わ、わかった。」
神弓は沖に向かって水飛沫を上げつつ、自身の持てる最大の速度で走っていく。
一方雨風は提督へ声が届く距離まで近付いてから───
雨風 「罰は後で受ける。」
そう言って神弓と同じ方向に移動を始める。
提督は息を切らしながら沖に出ていった二人を少しだけ見つめていたが、自分がやるべき事を思い出す。
提督は懐から携帯を取り出し鎮守府の放送へ繋ぐ。
提督 「ただいまから緊急指令を発令!第一艦隊は出撃待機、第二、第三、第五艦隊緊急出撃!その他の艦隊は命令あるまで待機せよ!」
提督の放送が流れた途端、鎮守府全体が慌ただしく動き始めた。
提督 「一体、何が起こったの?」
あの二人が切羽詰まされる状況に陥った理由が分からなかった。
そして提督の疑問を答えてくれる人はここに居らず、提督は急いで提督室に戻る。
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伊勢 「一体何なのよあの敵!?」
訳が分からないとばかりに言葉を吐き出しながら、伊勢は砲弾を撃つ。
伊勢の放った35.6cm砲弾が目標である敵を大きく外れて海面へ着弾する。
伊勢達、調査艦隊が戦っている相手はたった一隻の戦艦。
その戦艦は全体的に白色をメインとしつつ、キリッとした顔や佇まいはどこかクールな印象を受ける。
伊勢 「鎮守府へ連絡はついた?」
由良 「通信機のノイズが酷くて駄目です!こんな時にっ!」
通常であれば伊勢達の編成は戦艦一、巡洋艦二、駆逐二と、艦隊としては少ないとはいえ戦艦一隻と相手とするなら十分な戦力だった。
だがそれは通常の艦艇だったらの話だ。
この敵は凄まじい速力で接近してきたかと思うと、いきなり艦隊に対して砲撃してきた。
突然の奇襲を受けた艦隊だったが、普段から深海棲艦との戦いで経験を積んでいたお蔭で態勢を整え反撃を行えた。
しかし反撃の用意を整えたとしても、実質的な反撃はほぼ不可能と言える。
その原因は敵の速力だ。
最初にその速力を見た時、艦隊にいた全員が目を疑った。
そんな速力を持った艦は今までで二隻しか知らないからだ。
敵の推定速力は80kt以上。
この速力は神弓には及ばないものの、戦艦としては並外れた速力を持つ雨風より30kt以上の優速を得ていた。
80kt以上の目標など伊勢達は狙った事がある筈がない。
それゆえ、敵に砲弾を命中させるのは実質不可能だった。
更に鎮守府に救援信号を送ろうにも、謎のノイズが発生しており妨害される。
これのよって艦隊は孤立して、単独で戦闘せざる負えない。
伊勢 「でも、唯一ラッキーなのは敵の砲が小さい事ね。」
前衛に立つ伊勢が砲撃しながら隣の青葉に言う。
青葉 「これで砲まで大きかったら私達今頃海の底にいますよ。まぁ、今でも私には十分致命弾になる砲弾ですけど。」
天津風 「不吉な事言わないでッ!!」
敵の装備する砲は伊勢が装備している35.6cm砲より小さい28cm砲。
しかし砲は長砲身化されており、近距離なら伊勢の対35.6cm砲装甲を貫く貫通力を有している。
とはいえ威力自体は28cm砲のままなので、弾受けの伊勢がまだ何とか持ちこたえている状態に楽観視は出来ない。
口径が小さい分装填が早く、敵は三連装の砲塔を四基搭載しているので、砲弾の総投射量はかなりのものだ。
今は運良く多少の被弾で済んでいるが、このまま攻撃を受け続ければいずれ、一部の砲弾がバイタルパートを撃ち抜いて致命的な被害を受けるだろう。
そうならない為に反撃しようにも本艦隊だけでは厳しい、応援を呼ぼうにも通信機が使えない、逃げようにも速力の関係で不可能。
まさに八方塞がり、皆が本気で死を覚悟した。
伊勢 「何の音・・・?」
伊勢達から見て後方から、ゴォォォォ!という炎が噴き出すような音が耳に届く。
天津風 「───あれっ!!」
天津風の見る方から大量の白煙で線を描きつつ四発のミサイルが低空を飛翔する。
ミサイルは轟音を出しながら伊勢達の横を通りすぎて、自動で敵に照準を合わせ、突撃を開始。
敵はミサイルの存在に気が付き、伊勢達への砲撃を止め対空機銃や側面の両用砲で弾幕を張る。
ミサイルは敵が迎撃を始めた刹那、そのまま突撃するミサイルとホップアップするミサイルに別れ、対空砲火の撹乱する。
対空砲火によってそのまま突撃したミサイルは撃墜された。
しかしホップアップしたミサイルにまでは迎撃が間に合わず、命中して火の手が上がる。
由良 「あのミサイル・・・神弓さんの!」
陽炎 「後方から神弓さんが接近してます!」
待ちに待った援軍、しかも頼りにしかならない神弓の登場に艦隊の全員が笑顔を浮かべる。
その時、神弓から通信が届く。
神弓 「「こちら神弓です。この戦い、代わりに受けさせて頂きます。」」
そう発言した神弓は敵であるヴィルベルヴィントに突撃する。
神弓 「ふぅ、ギリギリ間に合いましたね。」
神弓は艦隊が無事だった事に心の中で安堵する。
艦隊の横を通り過ぎる瞬間、神弓は一瞬だけ全員の装備に視線を動かした。
多数の砲弾を受けた伊勢は砲塔などに凹みや傷も多く、かなりギリギリの状態であった。
万が一伊勢が沈んだ場合、ヴィルベルヴィントの砲撃に耐えれる装甲を持つ艦娘はここに居なかった。
もう少し到着が遅れていたら全滅のあり得た状況であり、超兵器とは艦隊全滅程度なら容易に起こせる程の戦闘力を持っている。
神弓はキッチリと気持ちを引き締めて、ヴィルベルヴィントに攻撃を開始した。
神弓 「対艦ミサイル、発射セル五基二連射十発。目標、ヴィルベルヴイント。発射!」
神弓の艤装から大量の白煙と共にミサイルが発射され、ヴィルベルヴィントに攻撃する。
それに対しヴィルベルヴィントは弾幕を張りつつ主砲で神弓に砲撃を行う。
神弓の周りにはヴィルベルヴィントの第一射を速力で回避して、逆に手持ちの速射砲で反撃とばかり叩き込む。
反撃の速射砲から撃ちだされた砲弾が放物線を描きながらヴィルベルヴィントへ命中し、更にミサイルも複数直撃する。
神弓優勢かと思われたこの戦い、実はむしろ劣勢だ。
神弓 「やっぱり駄目かぁ~。」
被弾したヴィルベルヴィントの艤装の被害は少し凹んだり焼かれたりするだけで、大きな被害は出ていない。
ヴィルベルヴィントは超高速巡洋戦艦の分類で、基本は巡洋戦艦と同じく他の戦艦と比べれば装甲は薄く被害を受けやすい。
だが、装甲の薄い巡洋戦艦と言えど戦艦。
駆逐艦や巡洋艦よりは十分な装甲は備えている。
一方の神弓については127mm速射砲は駆逐艦サイズ、ミサイルも巡洋艦クラスを想定されている為、戦艦のヴィルベルヴィントの装甲を貫く事は厳しい。
神弓は小型多方面同時戦闘には強いが、単体大型相手の戦闘には向かないのだ。
一応、特殊弾頭を積んだ魚雷やミサイルを使えばダメージを与えられるだろうが、リスクも大きくこの状況では迎撃される可能性も高い。
神弓 「私だけでは厳しいから、雨風の協力が必要だけど・・・」
神弓だけで倒すのが難しいなら、代わりに雨風がヴィルベルヴィントを攻撃すればいい。
雨風は61cm砲に拡散荷電粒子砲の火力の前にヴィルベルヴィントの装甲はあって無いようなものだ。
神弓 「問題はあの速力をどうにかしないと。でも、どうすれば。」
神弓はヴィルベルヴィントの砲撃を避けながら考える。
間違いなく雨風はヴィルベルヴィントの装甲を貫ける───だがそれは、雨風の射程にヴィルベルヴィントが入っていたらの話だ。
速力ではヴィルベルヴィントの方が上なので、逃げに入ったら追随できるのは神弓だけである。
勿論それでは意味がない。
雨風の射程内にヴィルベルヴィントを捉える為、あの速力をどうにかしないといけなかった。
幸い、ヴィルベルヴィントの速力を低下させる方法は知っている。
ヴィルベルヴィントの特徴的なV字型煙突を破壊すれば、排気能力が低下して速度を維持できない。
しかしどうやって煙突を破壊するか?
先ほど言った通り神弓の火力は低く、煙突を破壊するだけでも一苦労だ。
神弓 「おっと!」
神弓の付近に砲弾が着弾して水飛沫がかかる。
元々ヴィルベルヴィント自身の高速度に対応した射撃装置だ。
速度のある神弓相手でも比較的早く対応可能、ヴィルベルヴィントは徐々に精度を上げて、このままだと被弾するのも時間の問題だろう。
ヴィルベルヴィントと神弓は、反航戦でお互いに回避運動をしながら砲撃し合い、艦同士の格闘戦の様相を呈する。
その時、ヴィルベルヴィントの攻撃が神弓へ一直線に向かい───
神弓 「くぅっ!?」
ついに神弓が被弾してしまう。
今回被弾したのはヴィルベルヴィントの小口径両用砲で、砲弾は神弓の装備する防御重力場によって貫通は防げたが、それよりも大きな問題が起きた。
神弓 「機雷感知システム、デジタルビジョン、赤外線捜索追尾装置。良かったぁ、レーダーや火器管制装置は無事。」
神弓の搭載する複数の装置が破損した物が重要な装置じゃなく一安心する。
これが神弓の弱点、被弾時の脆さだ。
神弓は超長距離からの攻撃や索敵を可能とする装置は全て共通して、繊細で脆い。
僅かな衝撃でも装置が壊れる可能性がかなり高いと言っていいだろう。
その為、神弓は速力で被弾しない事を前提に造られているので装甲もかなり薄い。
具体的言うと一般的な駆逐艦より薄い。
防御重力場による非貫通でこの被害だ。
もし貫通しようものなら、全ての装置が破損してもおかしくない。
急いでヴィルベルヴィントの速力を下げないと、再び神弓が被弾し重要な装置が使用出来なくなれば、戦いは一気に劣勢に傾く。
どうやって煙突を破壊するか一生懸命考える神弓だったが、それは予想外の方法で達成された。
伊勢 「この距離なら外さないよ!」
伊勢の声と共に主砲の砲撃音が響き渡り、ヴィルベルヴィントの煙突付近が大爆発を起こす。
神弓 「えっ!」
一瞬何が起きたか把握出来なかった神弓は、全体の位置関係を再確認して納得する。
ヴィルベルヴィントと神弓はお互いに集中して戦闘していた、それは伊勢達の存在を忘れるほどに。
ヴィルベルヴィントの至近距離に伊勢がいる事にお互いに気が付かず、伊勢は好機と判断。
至近距離まで接近したヴィルベルヴィントに対し主砲を放った。
伊勢の35.6cm砲弾はヴィルベルヴィントの煙突に直撃して、内部で炸裂した砲弾が煙突を粉微塵に砕く。
そのせいで、ヴィルベルヴィントの速力は目に見えて低下する。
ヴィルベルヴィントは煙突が破壊された事に慌てふためく中、更にヴィルベルヴィント周辺に巨大な水柱が立ち上った。
皆が何事か!と周りを見渡し、その原因である雨風が視界に入る。
速力低下、雨風が加わった事により一て優勢になった。
ヴィルベルヴィントは自慢の速力を失い、至るところから砲弾やらミサイルやら光弾が降り注ぐ。
そんな状態に晒されたヴィルベルヴィントは、加速度的に被害を拡大していく。
砲塔は穴だらけになり、対空機銃群は吹き飛ばされ、白だった服や艤装はもはや焦げにより黒に変わっていた。
それでも戦意を失わず、ヴィルベルヴィントは最後の足掻きとばかりに雨風に突撃していく。
しかしレールガンによって機関部を貫かれ完全に機動力を失う。
雨風の目前で停止したヴィルベルヴィントの眼光に合わせて、雨風は砲身を動かす。
砲身が真っ正面に向いたその時、ヴィルベルヴィントに今までの鋭い眼光は無く、大きく目を見開く。
それの目はまるで───別の存在だった時を思い出した時のように。
雨風 「撃って。」
けたたましい轟音と共にヴィルベルヴィントは巨体な火焔に包まれる。
音が消え、火焔の姿がなくなったには既にヴィルベルヴィントの姿は完全に喪失していた。
雨風はゆっくり顔を空に上げ、何処と無く虚しそうに目を閉じる。
雨風 「さようならヴィルベルヴィント。いや、ワールウィンド・・・・・」
かつての敵であり、一時期の仲間だった超兵器と別れを告げ、今ここに、世界で始めて超兵器を撃沈した日として歴史に残った。