横須賀鎮守府の普段あまり使われない講堂には、全体に配置された椅子に艦娘がずらりと並んで座り、待機する光景が写っていた。
そこにいる艦娘は主力艦隊の面々の他、いつもの中規模作戦では呼ばれない遠征組の艦娘達ですら召集が掛かっていた。
そしてどの艦娘も表情は硬く、真剣みを帯びている。
そんな雰囲気の中提督がステージ上へ現れる。
提督 「今から北方方面漸減邀撃作戦について説明を始める。皆もある程度の事情は知っていると思うけど、今は一刻の猶予もないから手早く説明させてもらうよ。この作戦目標は深海悽艦の進行を食い止め、可能ならば撤退させる事。」
提督はステージに配置された戦況図に指示棒を当て、続けて説明する。
提督 「今現在の情報だと、北方方面に現れた深海悽艦の大群は北方海域の制海権を奪取した後、キスカ島、コマンドルスキー島に陸悽の深海悽艦を複数上陸させ要塞化を図っている。恐らくこの島の要塞化を完全に終えた次は、西へ進み、幌筵泊地から単冠湾泊地を占拠しようとする。我々はこれらの泊地の占領を防がなければならない。」
そして画面が入れ替わり、航空偵察により撮影された写真か映し出され、ほぼ全員の艦娘が息を飲んだ。
深海悽艦の数は観測当初より増大していた。
提督「今のところ確認されている敵戦力について。深海悽艦の中核を為す鬼級姫級の種類と数は、装甲空母鬼三隻、北方悽姫一隻、空母悽鬼一隻、飛行場姫一隻、戦艦悽姫二隻、離島悽鬼一隻、空母水鬼一隻、戦艦水鬼一隻、それに加えて新たに発見され命名された港湾水鬼が一隻、計十二隻。無論、今後更に発見される可能性もある。」
提督の口から発せられた鬼級姫級の数に艦娘達の動揺が広がり大きくなる。
今まで複数の鬼級姫級を撃沈してきたが、それはあくまでも一度に現れた数が一隻や二隻、一番多く凄まじい戦いになった時でさえ四隻ほどであったからだ。
それが今回の攻撃ではその三倍の十二隻となると、もはや驚愕するしかなかった。
提督 「今伝えた鬼級姫級以外にも、通常の深海悽艦の数は推定五百隻以上と報告を受けている。この深海悽艦群を撃破、撤退させるべく。我々は各地共同の漸減邀撃作戦を実施する予定であり、この作戦でどのように行動するかというと。」
提督は戦況図の北方方面に三本の線を引く。
一本目は幌筵泊地とキスカ島との間。
二本目は幌筵泊地近海。
三本目は幌筵泊地と単冠湾泊地の間。
提督 「まず全体の大きな流れとして、この三本の線の位置で防衛線を築く。一本目が第一防衛線、二本目が第二防衛線、三本目が最終防衛線になる予定であり、この中で第一防衛線は我々の主力艦隊が到着するまでの時間稼ぎ程度しかならないと予想され為、実質第二防衛線をメインにせざる負えない。もしも第二防衛線が突破された場合は幌筵泊地を放棄、最終防衛線に撤退するように。現地での細かい指示は戦況によってその都度連絡する。ここまでで質問は?」
天龍 「提督、一ついいか?」
鎮守府の古株である天龍が声を上げ、提督へ堂々と質問した。
提督 「何かしら?」
天龍 「もしもの話だ。この作戦が失敗して、最終防衛線が突破されたどうなるんだ?」
提督 「深海悽艦に北海道及び東北周辺海域が占領されて、ここが最前線になるわね。」
提督の言葉に更に周囲の艦娘の顔が強ばり、緊張感が強くなる。
もし最前線が横須賀付近まで近付いた場合、首都は爆撃にさらされ、日本海側の大陸との連絡手段も失う事になる。
提督 「他にいるかしら?」
赤城 「提督、私から一つ質問があります。」
今度は赤城が手を挙げ、真剣な眼差しで発言した。
赤城 「正直に仰って貰いたいのですが、この作戦が実施された場合、勝率はどのくらいでしょう?」
提督 「大量の轟沈などの多大な被害を出して、一割ないって所でしょうね。」
提督は苦い顔をして返答する。
赤城 「そう、ですか。」
赤城以外にも若干落胆した様子がわかる。
他の艦娘もほぼ勝てないだろうと予想していたが、もしかしたらと思う望みすらないと再度理解した。
しかしその時、提督が薄く笑う。
提督 「ていうのは、前の戦力だったらの話ね。」
赤城 「前の戦力・・・?提督、どういう事ですか?」
急に明るくなった提督の口調に俯いていた赤城が顔を上げる。
提督 「前の私達の戦力だったら正直防衛は不可能に近い。でも、今は心強い切り札がいるからね。」
赤城 「心強い切り札・・・?あっ!!」
赤城は何かを思い出す。
その赤城を見て提督はニヤっと笑う。
提督 「他の子も思い出したんじゃない?艦娘版の鬼級姫級が!」
皆 「「「あっ!」」」
そこら中から納得した声が聞こえて来たと思ったら、二人の艦娘に全員の視線が集中する。
提督 「雨風と神弓、この二人はこの作戦の切り札、そして根幹。皆もしっかり理解していると思うけど二人は桁外れの戦闘力を誇る。ねぇ二人とも、この数相手ならどこまでいける?」
ステージ上から提督は雨風と神弓に問う。
雨風 「百。いや、二百なら。」
提督の問いに雨風は普段と変わらず淡々と返す。
神弓 「え、えっと・・・戦艦以上なら厳しいですが、中小型艦だけに絞って相手にするなら百隻は沈めます。」
神弓は周りの視線の若干オドオドしながらも答える。
本来であればこんな発言は無茶だと思うだろうが、この周りはそれが一切感じれなかった。
理由の一つして、実際に演習でその力を見せていたから。
二人の望んだ回答に提督は声を張り上げて言った。
提督 「その心意気よし!今回の作戦を行うに当たって初めて使用される戦術として、指揮艦隊を複数編成する事になっている。指揮艦隊とは連合艦隊の延長で複数の艦隊の指揮権を委任する艦隊。強いて言うなら鎮守府の艦隊縮小版みたいな物かな。第一から第三まで編成する予定よ。ちなみに指揮艦隊はその性質上、索敵範囲の広い空母をメインで編成することになっているけど、私は別の艦を選ぶつもりよ。では艦隊を公表する。」
紙を取り出した提督は編成を言い始める。
提督 「今回私達の第二指揮艦隊の編成は旗艦神弓、護衛として雨風。」
神弓 「ふぇっ!」
神弓はまさか呼ばれるとは思っておらず、突拍子の無い声を出す。
神弓 「何で私なんですかっ!」
神弓が驚いている傍で大淀がスッと立ち上がる。
大淀 「提督、私は指揮艦隊の旗艦に神弓さんが務めるのは反対です。彼女は艦隊指揮を経験した事はありませんし、でしたら神弓を随伴艦として採用すべきでは?旗艦でしたら、赤城さんや加賀さんを旗艦に選択するべきであり、神弓さんが情報を集め、旗艦に伝えるだけでも十分かと思われます。」
大淀から反対の意見を持ち上げる。
他の艦娘は大淀の意見に頷いたりして賛成している者もいた。
大淀の反対意見に提督が神弓を旗艦に採用した理由を述べる。
提督 「私が神弓を選択した理由はいくつかあるわ。まず、神弓の電探の探知範囲が今回の戦闘規模的に十分な広さを持つ事、それにリアルタイムで敵の位置を知れるのはかなり大きいわよ。そして次にみんなは知らないかもしれないけど、神弓の装甲は駆逐艦の子達より薄いという事が二つ。」
周りの艦娘からあんな戦いをする艦の装甲が薄いと全く思っておらず、驚きの声が漏れている。
でも提督の公開した事実に納得する艦娘もいた。
提督 「だから神弓は機動力に特化している。その気になれば敵偵察機の航路から逃れる事もできるでしょう。でももし他の艦娘がいたら?強力な長所の速力を台無しにする事が考えられるわ。むしろ邪魔になる可能性の方が高いわよ。最後に大淀の懸念している指揮能力は大丈夫よ。逆に相手の方が多い戦いについては私達より二人の方が知っているはずだから。」
大淀 「・・・わかりました。提督がそこまで言うのであれば。」
自信満々に言う提督に大淀は完全には納得してないが、提督を信用して引き下がる。
提督 「他にも質問はない?今から指揮艦隊の指揮下に入る編成は後で伝えるわ。それと装備については戦艦と重巡は全艦三式弾を搭載する事。」
戦艦・重巡 「「「了解!」」」
金剛や長門、摩耶や利根などが大きな声を出して、その声には戦いに敗ける気が一切ないという思いが伝わる。
提督 「空母は爆撃機や攻撃機の代わりに戦闘機を限界まで搭載して、制空権奪取に勤しんで戦艦隊を可能な限り守ってあげて。」
空母組 「「「わかりました。」」」
先ほどの戦艦や重巡に比べて声は小さいが、冷静で静かに闘士を燃やす。
提督 「軽巡と駆逐艦は魚雷を搭載。一部の艦隊所属の艦娘は対空装備を装備させるから。」
軽巡・駆逐 「「「はいっ!」」」
駆逐艦達は体格に似合わないが、頼っても大丈夫と思えるようなやる気を出していた。
軽巡は基本的空母と一緒だが、一部の艦娘は戦える事に喜びを感じている者もいる。
提督 「雨風。貴方は名目上護衛となっているだけで、その火力と装甲を味方の支援や遊撃に当てて欲しい。具体的にどこに攻撃するかは神弓の指示を受けてちょうだい。とにかく全力で戦場をかき乱しなさい!」
雨風 「了解。」
雨風は普段と変わらない表情だが、何故か戦いの勝敗に揺るぎはないと安心できる雰囲気を出していた。
提督 「最後に神弓。この戦いは貴方の働きに掛かっているわ。期待しているわよ。」
神弓 「は、はい!私に任せてください!」
神弓は不安を抱えながらでもこの戦いを勝利に導くべく、覚悟を決める。
提督 「今から一時間後に幌筵泊地に向け出発する!各員はそれまでに準備を終えるように。諸君、幸運を祈る。」
提督は艦娘達に向かって敬礼する。
こうして、北方方面漸減邀撃作戦の賽は投げられた。