福島県の近海で数十名の艦娘が水面を滑って移動している、中、セーラー服を来た一人の艦娘がまるで踊っているかように、一定のリズムで回ったり飛んだりしていた。
舞風 「フンッフフンッ!」
五十鈴 「あら、随分とご機嫌じゃない?」
舞風に五十鈴が面白いそうに聞く。
すると五十鈴の方へ舞風がクルッと振り返り、元気一杯の声で答えた。
舞風 「当たり前だよぉ!もうちょっとで泊地にいるみんなと会えるんだよ!テンション上がらない訳ないじゃん!」
と、舞風は喋りながらもリズムに沿って踊る。
そんな舞風に少し呆れながら近くの天津風は言う。
天津風 「と言っても、貴方の泊地までまだまだ先よ。それに一度は私達の鎮守府に寄るって事、忘れてない?」
今は北方方面の作戦が終了し、作戦に動員された艦娘達が各地に帰投する途中だ。
帰投の際、今回動員された艦娘の人数がかなり多かった為、最初に距離が圧倒的に離れている東南アジア方面の泊地・基地所属の艦娘で構成された第三指揮艦隊の艦娘達と、第二指揮艦隊の半分である第一艦隊・第二艦隊・第六艦隊が帰路に着いていた。
この二個艦隊は陣形を維持しつつも大規模作戦が完了した後の為か、結構ほのぼのした雰囲気を纏う。
それに普段遠くて会えない姉妹や知り合いと話せる絶好の機会でもあり、至るところで話し声が聞こえてくる。
長門 「ああ、そう言えば足柄。お前、夜戦で大活躍だと聞いたぞ?」
足柄 「私、足柄いるんだもん!当たり前よ!」
足柄はニカッと笑い、誇らしげに話す一方陸奥は若干悔しそうに肩を落とす。
陸奥 「あーあ、私は大破しちゃったから。ちょっと悔しいなぁ~。」
足柄 「何言っているの。作戦が成功したから結果オーライよ!でも、私に任せればこの程度活躍は余裕ね。」
那智 「だが、どちらにせよ。これでしばらく戦況は安泰だな。」
足柄 「えぇ、私達の防衛線も突破されなかったし、深海悽艦に大量の被害を出させたからね。やっぱり深海悽艦が撤退したのも、私達のお蔭かしら!」
少し遠くで聞こえる足柄の言葉に、艦隊中央に位置する神弓が一瞬ビクッと反応する。
実は北方方面漸減遊撃作戦について、幾つか欺瞞情報と情報統制が行われていた。
艦娘達にこう伝えられている。
深海悽艦は我々の防衛力によって壊滅的な被害を受け、これ以上の戦闘は不可能と判断して撤退した、と。
一応この話自体も作戦成功の要因の一つであり、あながち間違ってはいない。
しかしそれはあくまでも決定的ではない。
確かに防衛戦力で深海悽艦の被害こそあったものの、深海悽艦は被害で喪失した艦の補充に十分な予備艦を保有していた。
そして神弓は深海悽艦が撤退した本当の理由を知っている。
───超兵器。
この超兵器の存在を知っているのは、原則として各地の幹部クラス以上、雨風・神弓の二人。
一部例外としてヴィルベルヴィントに遭遇した調査艦隊、伊勢・青葉・由良・陽炎・天津風の五隻のみだった。
超兵器はあの長門や赤城でさえ知りえない話であった。
五十鈴 「ところでさっきから気になってたのだけど、あの子誰なの?」
五十鈴は前方にいる神弓に指を差す。
すると神弓の知らない事を意外に思った矢作が簡単に説明してくれた。
矢矧 「あら、五十鈴ちゃん知らないの?私達第二指揮艦隊旗艦の、護衛艦神弓ちゃんよ。」
五十鈴 「あの子が指揮艦隊旗艦?・・・とてもそう思えないわね。」
艦隊旗艦の割には五十鈴から見た装備は貧弱で、気弱な雰囲気に目を細める。
怪訝的な様子をする五十鈴へ矢作が個人的な印象を話す。
矢矧 「そんなことは無いわ。あー見えて指揮能力はトップクラス。たまに慌てちゃうけど、真面目でしっかりした子よ。」
五十鈴 「ふーん・・・」
しっかり者の矢矧がそう言うならそうなのだろうと一応納得した五十鈴は、一旦神弓から上に視線を反らす。
少し空を見上げ何かを考える素振りをした後、再び矢矧の方に顔を合わせる。
五十鈴 「私の記憶の中だと、神弓って名前の艦は知らないわ。いつ建造されたの?」
当たり前の疑問を抱く五十鈴の疑問に答えたのは、矢作の前で聞き耳を立てていた天津風だった。
天津風 「それが分からないの。」
五十鈴 「えっ?」
まさかそんな発言をされるとは想定していなかった五十鈴は思わず呆気を取られる。
五十鈴 「分からないって、どういう意味?」
矢作 「そのまんまで、全くわからないのよ。何せ誰一人艦の頃、実際にその姿を見た人がいないの。だから、異世界から来た艦って話が上がっている程よ。」
五十鈴 「異世界からの艦って・・・そんな訳無いじゃないの。」
天津風から異世界の艦などと言われて五十鈴は若干混乱し、五十鈴の姿に矢作は自身の考えている内容を伝える。
矢矧 「ですよね。私は天津風ちゃんのように、何かのプロトタイプという考えをしています。はっちゃんに聞いたのですが、独逸には長距離攻撃用のVⅠロケットという物もあるそうですよ。」
矢作の考えに五十鈴が質問をして、逆に五十鈴から持論をその場で考え矢作に言ったりとしている中。
天津風 「果たしてあれは、プロトタイプという範疇に収まるのかしら?」
訝しげに小さくボソッと天津風は呟いた。
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神弓 「うぅ~・・・視線が凄く痛い。」
後ろからじっくりと見られている視線が、チクチクと背中に突き刺さる。
注目される事に全然慣れていない神弓にとって、こう言った視線は頭痛の種だった。
かと言って、目立たないようにするって言うのも難しい話・・というか既に遅すぎる。
ここで神弓は少しでも気を紛らわせるために、普段から一緒にいるはずの雨風の事を思い浮かべた。
普段は離れる事の少ない二人だったが、可能性はこそ低いものの万が一超兵器に遭遇した場合を考え第一陣に神弓、第二陣に雨風と別れている。
無論神弓も超兵器を警戒するのは十分理解して分かるし、備えるの分かる。
だが、いつも一緒にいる雨風が居ないのが寂しいと感じる。
ほんの少しの間だけだとしても寂しいものは寂しいのだ。
神弓 「はぁ~。んっ?パッシブソナーに感あり?これは───高速推進音!?」
魚雷の接近に気が付いた神弓が即座に周りに聞こえるように大声で叫ぶ。
神弓 「九時の方向、魚雷接近。数八!」
神弓の叫びとも共にほのぼのした空気が即座に吹き飛び、戦闘の緊張感に包まれる。
周りの艦娘達は、神弓の報告した九時の方向の海面を食い入るように見渡し魚雷の航跡を見つけようと躍起になっているが、全く見えない。
通常であれば魚雷が発する気泡で比較的発見しやすいはずであった。
しかし見つからないものは仕方がないので、魚雷を回避しようとする反面、ここである問題が存在した。
艦隊は等速で航行しており、更に九時の方向から来ているから魚雷の命中しやすい側面を晒している命中しやすい条件が揃っている。
しかも舵の効きが早い駆逐艦や巡洋艦は回避出来るかもしれないが、舵の効きが悪く初動が遅い大型艦は魚雷の回避が難しい。
軽く絶望的な状況の中、各自が出来る事を行う。
朝潮 「こちらも推進音が聴こえました!」
五十鈴 「私も聴こえるようになったわ。とにかく各自回避運────」
神弓 「皆さん!私の指示に従って下さい!!」
いきなりこんなことを言い出した神弓に、五十鈴が困惑して反論した。
五十鈴 「アンタ、一体何を考え───」
神弓 「とにかく指示に従って下さい!!」
五十鈴 「わっ、わかったわ・・・・・」
神弓は先程の弱気からは想像も出来ない剣幕を放つ。
そして神弓はパッシブソナーから手に入れた情報を解析して、魚雷に関する情報を集める。
パッシブソナーによって可能な限り魚雷の正確な速力・方向・深度・大きさを把握し、システムに計算させ指示させま。
神弓 「長門さんと陸奥さんは増速3kt!伊勢さんは減速5kt!天城さんと嵐さんは減速7kt、転舵面舵二十!」
指示された艦娘は神弓指示通りに行動し、その他の艦娘は現状を維持する。
朝潮 「推進音、どんどん近づいて来ます!距離、250・・・200・・・150・・・100・・」
朝潮の伝える数値が減る毎に、艦隊全体へ重圧ともいえる緊張感が増す。
朝潮 「80・・・50・・30───来ます!」
そして八本の魚雷が艦隊に命中した。