鋼鉄の少女達は世界にどう接する?   作:弓風

27 / 32
 変更点として、海域や地名を実際のものに変更しました。理由は途中でどれがなんなのかこんがらがってよくわからなくなった為です。


24:師匠になった神弓

 太陽は丁度真上に位置し天候は良好、波は穏やかで絶好の演習日和。

 その日、横須賀鎮守府の近海で秋月は防空演習を行っていた。

 水面に立った秋月は空を見据え、秋月型自慢の長10cm連装高角砲も同じように仰角を上げる。

 長10cm高角砲の向く方向には、橙色の塗装が施された九七艦攻や九九艦爆等の艦載機が、十機の編隊を組み飛行していた。

 

秋月 「撃ち方始め!」

 

 秋月の号令と共に長10cm連装高角砲が火を噴く。

 編隊周辺には複数の爆発が現れ、一帯に破片を撒き散らす。

 長10cm高角砲弾が断続的な炸裂を起こし、その中の一発が編隊中央部に位置する九九艦爆の左後方で起爆。

 炸裂した砲弾の破片や衝撃波で、九九艦爆の水平尾翼をもぎ取られる。

 水平尾翼を失った九九艦爆は懸命に操縦を行うが、その頑張りは報われず水面に姿を消した。

 一機が墜落した間も、防空防火は止まらず続ける。

 今度は九七艦攻の斜め上方から破片を受け、エンジンから黒煙を出しながら編隊から脱落する。

 

秋月 「弾幕が薄い・・・です!もっと行きますっ!!」

 

 秋月は悔しそうな表情でなんとか撃墜しようと防空防火を継続するが、その後主翼に被弾して離脱した一機を除いて、秋月の頭上を通過する。

 防空演習の結果に秋月は肩を落とし落胆する。

 

秋月 「これでは駄目ですね。あっ神弓さん!」

 

 落ち込んでいる秋月の側に、離れて見ていた教官役の神弓が近づく。

 

秋月 「神弓さん。今の演習、秋月のどこが駄目だったのでしょうか?」

神弓 「えーとですね。まず秋月さんの砲弾は狙いは正確であっても、起爆に一定のズレが出ています。これは力量の問題ではなく、高射装置の誤差だと思います。なので、私の言う通りに修正してみて下さい。」

秋月 「分かりました!」

 

 秋月は神弓の説明、解決法を真剣に聞き、言われた通りに高射装置の誤差を修正する。

 

神弓 「それで大丈夫だと思いますよ。」

 

 誤差修正の完了を見計らって、遠くに居る赤城に標的機の発艦を要請すると、赤城は神弓の指示に従って矢筒から矢を取り出し、弓を大きく引いてから離す。

 放たれた矢は標的機に変化して急上昇して、上空で旋回待機している編隊と合流した後、先ほどと同じ様に秋月に突撃を開始した。

 

秋月 「それでは、始めます!!」

 

 長10cm連装高角砲の砲声と同時に再び防空演習が開始された。

 秋月の撃ち出した砲弾が炸裂し始めた途端、九七艦攻の主翼が叩き折られ、急激に高度を落とす。

 おまけとばかりに、被弾し墜落した九七艦攻の隣に位置する九九艦爆から砲弾の直撃を受け巨大な炎が上がり、爆散し消滅する。

 他の機体も比較的分散していた防空放火が集中して着弾する為、発射数は変化しないが濃密な弾幕を張る。

 また一機が砲弾の破片を食らい、墜落には至らないが編隊飛行が不可能と判断し、黒煙を噴きながら離脱する。

 飛行が可能な機体は編隊を維持したまま秋月の上空を通り過ぎるが、編隊に無傷の機体はおらず、どの機体もどこかしら被害を受けていた。

 防空砲火を止めた秋月は、前と逆に喜びや嬉しさに沸き立ってガッツポーズを極めたりする。

 演習が終了して、観察していた神弓と秋月の妹である照月が傍に来た瞬間、秋月が神弓の手を持って歓声の声を上げた。

 

秋月 「神弓さんのおかげでこんなに変わるなんて!秋月、尊敬しちゃいますっ!!」

神弓 「えっ!えっとぉ、どういたしまして?」

照月 「こらこら秋月姉、神弓さん困ってるじゃん。」

秋月 「ハッ!?し、失礼しましたぁ!」

 

 照月の注意で秋月が我に帰り、急いで離れ謝罪する。

 秋月の急な変化に少し困惑しつつも、神弓は一呼吸置いて話す。

 

神弓 「取り敢えず成果が出て良かったです。今後は誤差の修正だけではなく、対空射撃の計算式を変更しましょう。ですが、私のイージスシステムと秋月さん達の高射装置は根本的に違いますので、どこまで通じるか分かりませんが。」

 

 申し訳なさそうに神弓が今後の説明をしていると、唐突に照月が手を上げて言い出した。

 

照月 「照月、神弓さんの射撃見てみたい!」

秋月 「あ、秋月も見てみたいです!」

 

 照月の提案に秋月も同意する。

 いきなり射撃が見たいと言われ、神弓は困惑する。

 

神弓 「私のですか?まぁ見たいって事なら、やりましょうか。」

秋月・照月 「やったぁ!!」

 

 神弓が防空演習の開始地点に立ち、遠くから秋月と照月の二人がワクワクしながら事の成り行きを見守る。

 赤城から標的機が発艦、編成を終え次第突撃を開始。

 

神弓 「不明目標探知、敵と識別。対空戦闘よーい・・・計算完了、主砲発砲。」

 

 神弓が一門の127mm速射砲で攻撃を行う。

 神弓の初弾は、最前列を飛行していた九九艦爆の真正面で炸裂。

 目の前で炸裂した砲弾は、九九艦爆の搭載する金星エンジンを砕きながら四分五裂に引き裂く。

 二発目、三発目もそれぞれ別の機体に直撃、空中で全て破片へ変化する。

 神弓の127mm速射砲が火を噴く度、一機づつ確実に編隊から喪失していく。

 そこに従来の弾幕という概念はない。

 複数のレーダーから得た情報を、高性能コンピュータによって高度に計算され、導き出された計算式のお蔭で無駄弾は殆ど無い。

 その姿はさながら狙撃手のようであった。

 

神弓 「目標喪失、対空戦闘終了。ふぅ。」

 

 神弓が一息ついていると、演習を見ていた秋月が全速力で突っ込んで両手を握り目をキラキラさせる。

 

秋月 「全機撃墜なんて凄いです神弓さん!!いえ、師匠!!」

神弓 「し、師匠?!いや、秋月さんの方が先に着任していますよね?」

秋月 「そんな些細な事は放置していいですから、それにそんな凄い方は師匠と呼ぶしかありません!!」

神弓 「あの、だから神弓って呼んで頂ければ───」

秋月 「あの設定で全機撃墜した方が、秋月にお教え頂くのに名前でお呼びするなんてとんでもな───痛いっ!?」

 

 照月が秋月の背後から強めで頭上にチョップを食らわす。

 チョップの直撃を受けた秋月はしゃがみ、痛そうに頭を押さえる。

 

照月 「神弓さんごめんねー。秋月姉は熱が入るといつもこうだからぁ。」

神弓 「は、はぁ~。」

 

 変わりまくる状況に混乱して、神弓は少し困る。

 

秋月 「それでこの後どうします師匠。」

照月 「秋月姉、まだ言うの?」

神弓 「もう師匠で構いませんから、演習の続きをしましょう。」

 

 この話については、もはや思考停止して神弓は諦める事にした。

 

 

 

 

 

神弓 「う~ん、やっと終わった~!なんか今日は色々有りすぎて疲れたぁ。」

 

 日が水面に隠れ始めたので防空演習を終え、神弓は工廠に艤装を預けてから自分の部屋にある戦艦寮に戻った。

 少し疲れ気味で寮の部屋に繋がるロビーに差し掛かったら、変なものを見つける。

 

神弓 「・・・何あれ?」

 

 神弓は見つからない様、入り口から顔だけ出して中を覗く。

 神弓の見る先には、ロビーのソファーに全身湿布まみれで座っている長門の姿と、何故か長門の膝の上にちょこんと雨風が乗っかり、しかも長門は雨風の頭を撫でながら大層幸せな笑顔を浮かべている状況だ。

 よく分からないその光景に神弓は頭の上に?を浮かべる。

 

神弓 「どういう事なの?」

陸奥 「あらっ?そんな所でロビーを覗いてどうしたのかしら?」

 

 神弓が悩んでいると言った顔をして、それの観察中に後ろから同じく大量の湿布を張った陸奥から呼び掛けられた。

 

神弓 「あ、陸奥さん。えーとあれですよ。」

陸奥 「何かしら?あらあら♪」

 

 同じくロビーを覗いた陸奥がニヤッと微笑む。

 何か知ってそうな陸奥の様子に神弓が聞く。

 

神弓 「何か知ってるんですか?」

 

 神弓の質問内容に、陸奥は小声で面白そうに答える。

 

陸奥 「長門って、あまり知られていないけど駆逐艦とかの小さい子が好きなのよ。あっ変な意味じゃないわよ、愛らしいって意味でね。でも、駆逐艦の子に頼む訳にはいかないじゃない。だから駆逐艦の子と近い体格の雨風に頼んだって所かしら。それに同じ戦艦だから頼み易かったたろうし♪」

神弓 「あーなるほど。」

陸奥 「暫くこのままにしておきましょう。」

 

 こうして神弓はロビーを通り抜け自室に帰るのを諦める。

 かといって他にやる事もないので、神弓は陸奥の演習の報告について行く事にした。

 

陸奥 「入るわよ。」

 

 執務室のドアをノックして中に入る。

 中では提督と瑞鳳がいつもと変わらず書類仕事に勤しんでいた。

 提督が机の上に置かれた書類から目を離し、正面の陸奥の姿にニヤッと笑う。

 

提督 「おっ、いらっしゃい。その姿、結構やられて来たみたいかな?」

陸奥 「下手な被弾より痛いのよ、これ。」

 

 陸奥は自身の傷を見渡しながらそう言う。

 

提督 「それはご苦労様。他の皆は?」

陸奥 「大和と武蔵は伸びちゃっまし、長門は事情があって来れないから、私が来たって訳。」

 

 すると陸奥の言葉に提督は納得しつつ笑い声を出す。

 

提督 「ハハッ流石雨風だねぇ。あの子だけじゃないの?演習で大和と武蔵をそこまで追い込める子はね。」

陸奥 「提督も人の事言えないのじゃないかしら?」

 

 反撃とばかりに陸奥は山のように置かれた書類を指差す。

 一方提督は陸奥から視線を反らし、苦笑いを浮かべる。

 

陸奥 「それにしても随分とあるじゃない?今度は大規模な作戦かしら?」

 

 普段に比べ明らかに多い書類の量から陸奥は近々大規模作戦がある事を予想し、提督もその通りだと肯定する。

 

提督 「一応まだ正規にじゃないけど、近々マダガスカル攻略作戦が始まる見通しだね。それと平行して欧州連絡路の構築も行うよ。」

神弓 「欧州連絡路って、ここから欧州はかなり距離ありますよね?どうやるんです?」

提督 「マダガスカル島から北上した所にスコトラ島と言う島があるの。そこ占領して、日本、フィリピン、シンガポール、スリカンカ島、ソコトラ島、紅海、地中海を結ぶ欧州戦略ラインを構築する。」

陸奥 「ふぅーん、面白そうね。」

 

 来る大作戦に向けて心踊る陸奥。

 陸奥を表情を見て、提督の顔も悪どくなる。

 

提督 「えぇ、これから大忙しになるわよ。」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。