鋼鉄の少女達は世界にどう接する?   作:弓風

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また二ヶ月・・・・もはや何も言うまい。( ;´・ω・`)
途中からスマホを入れ換えて若干妙な点があると思われますが、ご了承下さい。


26:動き始める戦略

 辺りは一面真っ白な雪に覆われ、所々に高い針葉樹が立っている。

 天気自体は比較的良かったが、周囲の気温は体が凍える程低い。

 それもそのはず。

 なにせ急斜面になった崖の先を覗けば、目と鼻の先に流氷や氷山が浮かぶ北極海。

 そんな場所に、雪原迷彩を施した服で身を包む兵士が二人歩いていた。

 

兵士1 「あー、警戒ってめんどくせぇな。」

兵士2 「仕方ないだろ。深海棲艦の連中がどっから攻めて来るか分からないんだから。」

兵士1 「つってもよぉー。北極海まで深海棲艦が来ると思うか?どうせなら鹿とか猪とかが出てくりゃ、ウォッカのつまみになるんだが。」

 

 兵士1は手に持つ年期の入ったAK-74の銃口を近くの木々に向ける。

 それを見て兵士2は呆れたように口にする。

 

兵士2 「一応奴らはキスカ島当たりまで来てるらしいぞ。こっち側に来たって不思議じゃねぇ。」

 

 歩き続けた兵士達は、あと数歩で海に落ちる崖の端まで移動し北極海を見渡す。

 

兵士2 「だが、いくら任務でも風景がこうも代わり映えないと飽きる。」

 

 内心ため息をつきながら兵士達は視線を動かし続ける。

 すると、兵士1の視界にあるものが映った。

 

兵士1 「おっ?ありゃあ、なんだ?」

兵士2 「何かあったか?あれの事か。」

 

 二人が発見したのは、遠くの方の崖に見える水面に浮かぶ一枚の流氷だった。

 その流氷はゴツゴツした岩の表面に引っ掛かったのか、そこから動かない。

 しかし二人が気になった理由はそれではない。

 あの浮かぶ流氷の表面がネズミ色ぽいものに覆われているように見えるからだ。

 

兵士2 「こりゃあれだ。ここらの崖から砕けた砂利が積み重なってるんだな。」

兵士1 「こんなの初めて見たぞ。しかし遠くて見辛い、傍まで行って見ようぜ!」

兵士2 「そんな暇してるなら基地に帰って、報告して、飲むぞ。今日はシャフスキーが立派なもん手にいれたらしい。」

兵士1 「おっならそっちが最優先だ。ちょうど手持ちのウォッカが無くなった良いタイミングだ!」

 

 陽気な二人の兵士は、任務を終えて来た道を戻っていく。

 

 

▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲

 

 

明石 「よーしよしよし!!問題なく今日も上手く行ったわ!」

 

 工廠でドライバーなどの工具を両手に持つ明石が、全身汗だくになりながら疲れた様子で床に座る。

 明石が行った事は、艤装の武器等の安全装置を起動させる作業であった。

 しかし簡単で苦労しない作業なはずだったが、今終えた神弓の艤装に関しては細心の注意を図っていた。

 

神弓 「お疲れ様です。いつもご迷惑お掛けしてすいません。」

 

 ほぼ毎日同じ事で謝罪する神弓に、半分語り掛けるみたいに明石は伝える。

 

明石 「仕方ないわよ。これの整備が出来るのは私だけだし、他の子はおろか夕張や提督すらあの実弾の中身を知ってないんだから。それにしても───」

 

 すると明石は座りっぱなしでも辛いと感じたようで、汚れた床に力無く倒れて大声で嘆いた。

 

明石 「相変わらず心臓によろしくないのよぉー!!ねぇ神弓。もし整備に失敗して爆発したら、鎮守府だけで済むかしら?」

神弓 「多分鎮守府通り越して東京都全域位まで行きますよ。最悪の場合はですが。」

 

 疑問を口にした明石に苦笑い気味で神弓が返答する。

 既に返答が想像していた明石が小さく漏らす。

 

明石 「だよねぇー・・・ん?雨風ー何してるのー!」

 

 疲れて寝っ転がる明石の視界に、機械の前で佇む雨風が入った。

 雨風が何をしているか疑問を持ち、そのままの体勢で叫ぶ。

 

雨風 「これ、何?」

 

 と、雨風が目の前の機械を指差し質問する。

 雨風の気になった物は工廠の端に配置された機械だった。

 大型トラック並みの大きさを持つ機械は、シャッター付きの車庫みたいなものを土台として、その上に溶鉱炉に近い円筒のものが合体していた。

 

陸奥 「それは開発装置よ。」

 

 いつの間にか雨風の後ろにいた陸奥が、雨風の両肩に手を掛け耳元で答える。

 

雨風 「開発装置?」

 

 陸奥に対して特に驚いた様子を見せず、雨風が陸奥の方に振り返り、聞き返す。

 すると陸奥は、雨風のリアクションが無かった事に少し残念そうな顔をしつつ話を続ける。

 

陸奥 「そうそう開発装置よ。これを簡単に言えば、私達の砲とか航空機とかの装備を作るものね。」

神弓 「へぇー!つまりこれで強い装備も手に入るという事ですか?」

 

 神弓と明石がこちらに近付き、神弓が陸奥へ質問した。 

 しかし陸奥はちょっと難しい顔をする。

 

陸奥 「うーん。それも間違ってはいないんだけどぉ。」

明石 「この装置、何分安定しないのよ。同じ量で同じ資材、そして同じ人がやってるのに中身はバラバラ。まるでルーレットをする気分よ。」

陸奥 「それに人によって中身が大きく変わるし、沢山資材を使ったからって良いものが出来るとは限らないわ。実際ほぼ運試しだからね。」

神弓 「えー・・・それって本当に機械ですか?」

 

 明石達の会話に神弓が呆れを含む声で言う。

 神弓にとって機械とは、正常に動作し高精度で安定した動きをするものと認識しており、開発装置が本当に機械なのか疑わしく観察する。

 

陸奥 「そもそもこれ、妖精さん製よ。私達は専門外。」

 

 妖精さん製の単語一つで神弓と雨風は納得する。

 

明石 「まぁいいわ。で、今日は陸奥が担当?」

陸奥 「そうよ。今日は三回で、10.10.150.150.1で行ってみましょうか。」

明石 「りょーかい。妖精さんも手伝ってー!」

 

 近くで他の艤装の整備中の妖精さんが明石の前に集まり、資材の数字を報告してそれぞれが動き出す。

 そして周りで作業している間、神弓はさっき陸奥の口にした数字を質問する。

 

神弓 「さっき言った数字は何ですか?」

陸奥 「種類別の使う資材量の事よ。燃料、弾薬、鋼材、ボーキサイト、開発資材の順でね。ほらあれ。」

 

 明石の操作する天井クレーンが、運搬用のアームで大きなドラム缶を持ち上げ開発装置まで輸送する。

 

陸奥 「そしてあの資材を上の方から入れるの。」

 

 熔鉱炉のような形の入り口の上にクレーンが到着し、アームが開く。

 

 ───ガランガランガシャンッ!!

 

 神弓が咄嗟に耳を押さえるほど、重い金属同士が激しく衝突する音が建物全体に響き渡らす。

 落ちたドラム缶は装置の中へ消え去り、クレーンは次の資材を運び込む為再び移動を開始する。

 耳の押えを解いて、神弓は戸惑いながら陸奥に聞く。

 

神弓 「燃料がドラム缶ごと行きましたが、大丈夫なんですか?」

陸奥 「まぁ、まぁ専用の装置だし・・・大丈夫、なんじゃないかしら?今までも壊れてなかったし。」

 

 数分後、資材搬入を終えて陸奥が機械に取り付けられたレバーを下ろす。

 すると装置が動き始め、中からハンマーで叩く感じの打撃音が聞こえたと思ったら、プシューと蒸気と共にシャッターが上がる。

 装置の中から出てきたのは一つの12cm単装砲。

 

神弓 「装備が出てきました!」

明石 「12cm単装砲、残念ながら外れ。」

 

 明石は単装砲を残念そうに取り出し、床に置く。

 

陸奥 「じゃあ二回目行くわよー!」

 

 意気揚々と二回目に突入した陸奥が引いた物は───

 

雨風 「何?これ?」

 

 現れたのは、一つの段ボールに入ったぬいぐるみのペンギンと、なんか良く分からない白いモコモコ。

 もはや装備ですらない物に雨風は呆気を取られる。

 一方陸奥はため息をつく。

 

陸奥 「大外れも良いとこ。これならまだ単装砲の方がマシね。」

明石 「あちゃー、出てきちゃったかぁ。今日は本当に駄目な日っぽいね。倉庫に入れて置くよ。」

神弓 「えっ?なんでこんな物が?」

 

 装備を製造する物なはずなのに、装備以外が完成する開発装置に対し疑問を通り越して困惑する。

 

明石 「時折出てくるの。お蔭で倉庫に溜まってきてね、百個以上あるわよ。欲しい?」

神弓 「いえ、いいです。」

明石 「やっぱりそうよねぇ。」

 

 神弓の返答を予想していた明石は装置の中からぬいぐるみを取り出す。

 いざ三回目と行く時、陸奥は何かに閃き雨風達に視線を移す。

 

陸奥 「そうだわ。代わりにやってみない?」

神弓 「えっいいんですか!あっ、でもあと一回しか出来ませんよね?」

 

 神弓は隣に立つ雨風をチラッと見る。

 それに対し雨風は小さく頷く。

 

神弓 「ではやらせて頂きます!」

 

 若干の緊張感もあるが、何が出るか内心ワクワクしている神弓がレバーを思い切り下げた。

 

神弓 「・・・・・あれ?」

 

 開発装置は動かなかった。

 神弓がちゃんとスイッチが入ってないのかと思い、二回程レバーを下げるがそれでも動かない。

 

神弓 「もしかして、壊しちゃった?」

 

 装置を壊したかもと神弓が恐れる中、代わりに雨風がレバーを下げるがやはり反応はない。

 

明石 「ちょっと待ってね。」

 

 艤装の整備場から明石が工具を持ち出し、開発装置の点検を行う。

 

明石 「んー、何処にも異常はないわね。妖精さんの方は?」

 

 別の箇所を調べていた作業服を着る妖精さん達も、皆首を横に振る。

 ひとまず点検口を閉じて、明石が陸奥に言う。

 

明石 「取り敢えず陸奥。動かしてみて。」

陸奥 「了解よ。」

 

 明石が装置から離れたのを確認して、陸奥がレバーを下ろす。

 そしたらこれまでと変わらず装置が正常に動作し始めた。

 

明石 「理由は知らないけど、どうやら二人はこの装置を使えないみたいね。」

神弓 「そんなぁ~・・・!」

 

 開発装置を使えないと分かり、神弓は落ち込む。

 

陸奥 「しょうがないとは言え残念ね。二人が回したらミサイルとか雨風の主砲が出てくると思ったのに。」

明石 「私達の電探でミサイルの誘導は出来ないし、61cm砲は発射の反動で艤装が破断しちゃうわよ。」

 

 陸奥の期待を苦笑い気味に明石が反論する。

 そんな時、鎮守府全体に放送が流れた。

 

瑞鳳 「「本日1200にて、講堂で全体作戦会議を行います。各員、遅れないよう注意してください。以上!」」

 

 内容を伝えて放送は終わる。

 

明石 「全体会議って事は、大規模作戦ね。」

神弓 「陸奥さん。多分あれじゃないですか?」

 

 神弓は前に聞いた提督の話を思い浮かべ、言う。

 

陸奥 「あれ?あぁあれね、うん恐らくだけど。」

明石 「それにしても1200って直ぐじゃないの。もう少し早く言って欲しいよねぇ。夕張、行くわよー!」

夕張 「あっ、はーい!」

 

 以前も使用した講堂に向かい、神弓は沢山並べられた椅子の一角でお手洗いに行った雨風用に左隣の席を確保してから着席。

 そこで暫し待っていると、ある人物達が右隣に腰を掛け話し掛けてきた。

 

天龍 「よお神弓。久し振りだな!」

龍田 「こんにちは~、元気にしてたかしら?」

神弓 「あっお久し振りです。天龍さんに龍田さん!」

 

 神弓はスケジュールが合わず、暫く会っていない二人に会えて笑顔を向ける。

 天龍が椅子に座り、新たな戦いに期待を抱く。

 

天龍 「かーまた大規模作戦だ。勿論出番はあるよな!俺様だって最前線で戦いぜ!!」

龍田 「しょうがないよ天龍ちゃん。それに遠征だって立派な任務よ。」

神弓 「私が言うのもどうかと思いますが、龍田さんの言う通りだと思います。結局のところ、資源がなければ私達は動けませんから。」

 

 そう言いながら神弓が軽く頭を下げたら、龍田が神弓の髪に取り付けられた物を発見する。

 

龍田 「って、あら~?神弓ちゃん。その髪飾りどうしたの?」

 

 龍田が気になったのは、神弓の左こめかみ辺りに付けられた、太陽と弓をモチーフにした小さな髪飾り。

 龍田に言われ、髪飾りを注視する天龍。

 

天龍 「ん?髪飾りか?俺は全然気づかなかったぜ。」

龍田 「駄目よ~天龍ちゃん。ちゃんと女の子の変化には気付いてあけないと。それでその綺麗な髪飾りはどうしたのかなぁ?」

 

 すると気付いて貰ったのが凄く嬉しいのか、満面の笑顔で神弓は話した。

 

神弓 「雨風からのプレゼントです!この前に貰って物で、お気に入りなんですよ!!」 

天龍 「へぇー。にしてもしっかり似合ってるじゃねえか。」

神弓 「えへへっ!」

 

 神弓を褒める天龍と対照的に、龍田は興味深そうに髪飾りを見つめる。

 そして一つの結論を導き出した。

 

龍田 「太陽と弓をモチーフにしているのかしら?雨風もいい趣味してるわねぇ♪」

天龍 「そうなのか龍田?」

 

 何かに納得した龍田に、どういう意味だと疑問に思う天龍が聞く。

 神弓の影響で機嫌の良い龍田は二人へ簡単に説明する。

 

龍田 「神話であったのよ。太陽はきっと天照大神を意識していて、そこで弓の描写があるの。天照大神は有名な神様。つまり神と弓で神弓───って、雨風は言いたかったんじゃない?そこまで考えているかは知らないけどね♪」

 

 話を面白そうに聴いた天龍が神弓の方向を向き、提案を出す。

 

天龍 「そんな事があったんだな。神弓、そんなの贈り物を送ってくれたんだ。逆に今度贈り返してやれよ。」

神弓 「はいっ!!」

 

 提案に対して、神弓はハッキリと嬉しそうに答える

 その後、三人が雨風へ贈る物について意見を交換している中、雨風がお手洗いから帰ってくる。

 

雨風 「何の話?」

天龍 「あー気にしなくても大丈夫だ。ちょっとした雑談だからよ。なぁ神弓。」

神弓 「そうですね!」

 

 疑問に思う雨風であったが、別に気にしなくていいと判断して席につく。

 

雨風 「・・・分かった。」

 

 雨風が深く聞いてこなかった事に三人は内心ホッとする。

 そして席の大半が埋まった頃、提督と瑞鳳がステージ上に現れた。

 すると講堂内は一気に静かになり、隣の艦娘の息遣いが聞こえる位に無音になる。

 全員が目線を上げたのを確認して、提督から作戦が発表された。

 

提督 「本日発表する作戦について説明する。と言っても簡単な流れだけどね。」

 

 艦娘全員が見える程の大きなスクリーンに、日本から地中海の辺りまでの広大な地図が表示される。

 

提督 「まず最初に最も重要な点を伝える───今回は二つの作戦を同時並行して行われる事。」

 

 提督のその言葉に艦娘達に小さくざわめきが生まれる。

 

提督 「一つ目は皆が薄々気がついていると思うけど、マダガスカル島の無力化もしくは撃滅。そしてこっち本命の、日本─台湾─シンガポール─スリランカ─ソコトラ島─スエズを結ぶ欧州戦略路の構築よ。」

 

 深海棲艦の泊地を撃滅しつつ地球半周という長期的な航海を平行で行う作戦に、不安感から席の至るところからヒソヒソと声が聞こえる。

 

提督 「今現在、スリランカ島付近を境界線として西を深海棲艦、東を我々が握っている状況。我々はここで一気に攻勢を掛けて、欧州と繋がりを作ろうと考えている。ここまで質問は?」

 

 提督が質問者の有無を確認すると、長門が手を上げて立ち上がる。

 

長門 「では私が行こう。そもそもだ。何故我々は作戦を同時に進めないと行けないのだ?マダガスカル島を攻略してからの方が遥かに安全だ。わざわざ戦力を分割する必要性はないのでは?」

提督 「確かに長門の言う通りね。普通ならそれで行くべきなのは分かっているのよ。以前ならそうしていたわ。でも今私達が戦う相手は深海棲艦だけじゃない。」

長門 「───超兵器か。」

 

 長門は目を細め視線を鋭くし、もう一つの相手を口にした。

 その相手の名前に提督が深く頷く。

 

提督 「そう。超兵器は恐ろしい戦闘力を誇る。それは皆も承知だと思う。だから私達は超兵器に対抗出来る対策を開始している。雨風と神弓は勿論、ドレットノートの件で他の艦娘でも致命的な被害を与えられる事を知った。それに超兵器の情報だって手に入れた。そして訓練で少しでも対応出来るようにしている。」

 

 ここで提督は一拍おいて言葉にした。

 

提督 「じゃあもし超兵器が日本の勢力圏内ではなく、欧州に出現したとしたらどうなる?」

長門 「それは・・・考えるだけでも恐ろしいな。」

 

 少し考えた長門も良い予想が一切出来なかったようで、難しい顔になる。

 長門以外にも、超兵器と交戦した艦娘全員が同じく結論に行き着く。

 

提督 「速度だけに特化したヴィルベルヴィントですらあの状態。それが更に強力なものが出た場合、雨風達は居ない、始めて観測するので対処法も分からない。最悪の場合、欧州が丸々機能不全に陥る可能性だってあるの。だから可能な限り早く対策をさせる為に動く必要がある。」 

長門 「あぁ、しっかりと理解した。」

 

 ひとまず理解した長門は席に座る。

 

提督 「次に動きについて。この前ようやく基地化が成功したスリランカ島に各地から戦力を集める。その際、欧州遠征軍とマダガスカル島攻略軍に振り分ける。基本的に欧州遠征軍は空母を主軸に、マダガスカル島攻略軍はそれ以外に振り分ける予定よ。雨風達は二人とも欧州遠征軍に振り分けるつもりね。」

高雄 「あの、提督。質問があります。」

提督 「いいよ。質問って?」

高雄 「雨風さん達を欧州遠征軍とマダガスカル島攻略軍にそれぞれ別けるべきでは?」

 

 提督は高雄の質問に苦い顔をする。

 どんな人物でも雨風達二人を分割して、それぞれに配備した方が良いのは想像がつく。

 普通の状況ならば、が。

 

提督 「あぁ・・・うん。私もそうやりたいのは山々なんだけど、欧州遠征軍には日本の代表団を含むのは分かるよね?でも代表団に実は一人とんでもない方が混ざっていて・・・・・」

高雄 「とんでもない方?」

提督 「マダガスカル島攻略軍の指揮はリンガ泊地の提督が担当。欧州遠征軍の指揮官は元師閣下なの。」

高雄 「えっ!?元師閣下ですか!!」

 

 言い難そうに発表された海軍最高のトップの名前に、高雄以外全員が唖然したり困惑していた。

 苦笑いで当時の会議の光景を思いだしながら提督は言う。

 

提督 「私達も反対したんだけどねぇ・・・妙な所で頑固なのよ。絶対に元師閣下を死なせる訳にはいかないから、仕方なく雨風達を二人とも起用したのよ。」

高雄 「なっなるほど・・・・元師閣下なら仕方ありませんね。」 

 

 海軍の最高指揮官を戦死させた場合、士気の低下、海軍の信用の低下、組織の混乱などが容易に想定される事態に、若干動揺しつつも納得した高雄は着席する。

 そして提督が次の内容を話そうとした時々、いつの間にか手を挙げていた赤城に気付き、赤城を指名した。

 

赤城 「はい。まず、マダガスカル島は航空戦力が主力でありながら欧州遠征軍に空母を振り分けた時、制空権を確保が可能か不安が残ります。場合によっては前線基地のスコトラ島が爆撃に晒されるのでは?」

提督 「それについては私も懸念していた。でも対策はあるわ。簡単に流れを説明すると、欧州遠征軍がマダガスカル島攻略軍に先んじて紅海に向け出港。すると深海棲艦は周囲の機動部隊を差し向けてくるでしょうね。それを雨風達の力を使い撃滅する。そして道中に神弓が艦隊から離脱しマダガスカル島の泊地に特殊弾頭ミサイルで泊地等にある予備機を破壊する。」

 

 普段通り流れを説明する提督の口から、特殊弾頭ミサイルの単語が現れた途端、雨風達の表情が曇る。

 

提督 「これで敵の航空戦力はかなり弱まるはず。そして空母が出撃している間のスコトラ島の防衛は陸軍航空隊が請け負ってくれるわ。」

赤城 「り、陸軍航空隊ですか!?」

 

 赤城は全くもって想定してなかった対策に驚く。

 どの国でも陸海空のトップは縄張り争いで仲が悪い。  

 それは日本の陸軍、海軍も例外ではない。

 共に根本的な戦略が異なり、面倒なプライドもある。

 そもそも陸軍に交渉する事自体、海軍内で争いだって起こる。

 そしてようやく要請を出せたとしても、あの陸軍がOKを出させるまでかなりの譲歩で苦労したのは見て取れる。

 

提督 「取り敢えず少しの間はスコトラ島も安全と言う事だけ分かって頂戴。他に質問がある?・・・・・・居ない感じかな?それじゃあ編成とか日程とかの詳しい内容はまた後日。解散!」

 

 提督と瑞鳳が姿を消し周りの艦娘達がゾロゾロと講堂を出始める中、雨風と神弓の二人は周囲に聞こえないようこそこそ話した。

 

 

▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲

 

 

提督 「あーもーやだぁ~・・・・」

瑞鳳 「ほらほら提督。元気出して!」

 

 執務室に帰る途中の廊下で提督は項垂れる。

 

提督 「陸軍がもう少し長く基地航空隊を貸してくれたらなぁ~、こんなに急ぐ理由は無いんだけど。」

瑞鳳 「一応要請を受けてくれただけでも良かったじゃないですか。拒否されるより良いとも思いますよ。」

提督 「それもそうかぁ。・・・よし!ここから気分を入れ換えて行きましょう。あっ、そう言えばこの前の予算の詳細って部屋にあったっけ?」

瑞鳳 「それは事務室の方にあった気が、ちょっと取ってきますね。」

提督 「よろしく。」

 

 そして提督は執務室の反対にある事務室に向かう瑞鳳と別れる。

 執務室に到着し机に溜まった書類に手をつけようとした時、ドアがノックさせる。

 

提督 「あれっ?鍵開いてるからどうぞー。」

 

 ドアが開かれ入ってきたのは雨風、神弓、そして明石だった。

 

提督 「これはまた珍しい面子だね?それでどうしたの?」

雨風 「提督に相談がある。」

提督 「相談?どんな?」

雨風 「作戦の内容、一部変えた方がいい。」

 

 そう難しくない相談だと思っていた提督は、作戦と言う重要な内容に目を細め、雨風に問う。

 

提督 「具体的にはどの箇所かな?」

雨風 「特殊弾頭ミサイルのところ。」

提督 「理由を聞いてもいい?」

明石 「あっ、それについては私の方からお伝えます。」

 

 明石が雨風に代わって提督に理由を説明する。

 

明石 「まず提督は、特殊弾頭ミサイルの特殊弾頭がどのようなものだと考えていますか?」

提督 「演習の報告書で広範囲を熱で焼き付くものって聞いたけど。」

明石 「それは私が演習用に特別に作った弾頭なんですよ。ORNDCXは知ってますか?」

提督 「ORNDCXって言ったら、新規開発された高性能爆薬じゃない。結局危なかっしくて廃棄されるって聞いたわよ?・・・・・ まさかそれを使ったんじゃないでしょうね?」

 

 危険な爆薬が無断使用したと察した提督が、明石をじっと見つめる。

 

明石 「そのー、少し拝借させて頂きました。すいません。」

 

 予想通り明石が使用した事を認め、提督は色んな意味で呆れる。

 今すぐ危険な廃棄物の件で提督かわ明石に問いただしたい所だったが、提督は本題から逸れるのでこの場では口にしなかった。

 

提督 「で、何でそれを使ったのよ。そんな威力の高いものを使わなくたって、演習用の炸薬で問題ないでしょう?」

明石 「それが、そうもいかないんです。正直実弾の方が少々凶悪で、演習用で近づけるにはあの炸薬を使うしかなくて・・・」

 

 実弾の中身について、言葉を濁す明石に提督はストレートに聞いた。

 

提督 「結局実弾の中身は何なの?」

 

 提督が中身を聞いた途端、明石が口を閉じ、三人が互いに視線を合わせて何も発しなくなる。

 そんな状態が数分経った頃、これでは埒が明かないと判断した提督が口を動かす。

 

提督 「確か特殊弾頭を装備しているのは神弓よね。中身を教えて貰えるかしら?」

 

 まさか自分自身に聞かれるとは思わなかった神弓は、慌てふためくき挙動不審に陥るが、やがて心の決心が決まったのか中身を提督に伝えた。

 

神弓 「えっと、特殊弾頭の本当の名前は───核弾頭、です。」

 

 提督はこの一瞬だけ、時の流れが完全に止まったと勘違いしてしまった。

 それほど、提督にとって全くもって想定しない最悪の回答だった。

 いったい何分経っただろうか?もしかしたら僅か数秒だったかもしれない。

 しかし提督に分からなかったし分かる気もなかった。

 そして驚愕に揺れる提督の瞳が元の光を取り戻す。

 

提督 「・・・・・冗談だったら本気で怒るよ。」

神弓 「果たして冗談で言える中身だと思いますか?」

提督 「ごめんなさい、疑って。」

神弓 「いえいえそんな事はありません。そんな物を積んでる私が悪いんですから。」

 

 神弓が自身が悪いと言うものの、装備を選んだのは彼女じゃないと提督も分かっている。

 

提督 「別に神弓は悪くないわよ。でも、そうねぇ・・・・核かぁ。」

 

 驚愕に恐怖、呆れや積まざる終えない状況への理解がぐちゃぐちゃに混ざり合い、提督の混沌の世界に引き込む。

 

提督 「少し、時間を貰うわ。」

 

 手で軽く頭を抱えながら小さく呟く。

 

明石 「こちらは特殊弾頭についての簡単な資料です。二人共、行きましょう。失礼しました。」

 

 資料を机に置いた明石に続き、雨風の順で部屋を出て最後に申し訳なさそうに神弓が部屋を後にした。

 たった一人の状態になった提督は、気だるげそうに椅子にもたれ掛かり、心の声を漏らす。

 

提督 「特殊弾頭。正直言って、特別な爆薬とかが使用されてるものかと。にしても核弾頭とは一切考えてもみなかった。」

 

 提督は明石の残した資料に目を通す。

 資料書には、長距離巡航ミサイルと魚雷に核弾頭を搭載する。

 そして不幸中の幸いにも魚雷の方はせいぜい一個艦隊に被害を与える程度の破壊力であり、いやまぁこれでも十分凶悪だが問題なのは───

 

提督 「5ktから200ktまで対応可能な可変威力型熱核弾頭。」

 

 広島型原爆が15kt程と考えると、深海悽艦の航空戦力はおろか最大威力で使用すればマダガスカル島の泊地を完全破壊尽くす事も可能だろう。

 勿論作戦で使用を考え、一国一都市を破壊する熱波を放出し、全ての生き物を数十年間以上死滅させる放射能をばら撒く覚悟あればの話だが───

 提督はストレスで重い身体を動かし、マダガスカルの地図を取り出す。

 

提督 「長距離から核を使用すれば、この上なく安全で確実にマダガスカル島の戦いは勝利は可能。私達の艦隊は殆ど損害もなく終えれる。でも、使用すればあの子達の精神面の被害も大きく、核という禁断の一手を使用した事に大半の子達が恐れを抱くはず。そもそも私がそのスイッチを押せるとするかと言われてみれば・・・・・分からない。」

 

 提督は悩んだ。

 その間でも、止まらず時間は過ぎ去っていく。

 決断出来る時間は作戦の修正を含めると、そう長くは残ってない。

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