旧日本海軍時代の横須賀鎮守府には、最大規模の工廠の旧横須賀海軍工廠があった。
旧横須賀海軍工廠は、太平洋戦争(大東亜戦争)で日本が敗戦した後、深海棲艦が現れる前は横須賀海軍施設と名を変えたが、今は艦娘の艤装の整備をする事になっているので、艦娘を配慮し再び横須賀海軍工廠に戻った。
しかし横須賀海軍工廠は巨大な施設なので、主に民間輸送船の造船をメインとしつつ、一部を艦娘が使っている状態だった。
そして艦娘側の工廠の入り口に、キリッとした佇まいの艦娘がいた。
大淀「明石!直してほしい艤装が二つあるのだけど、いい?」
眼鏡の位置を直しながら、大淀は大きな声でそう言った。
大淀の叫ぶ先では、機械を弄って綺麗だったはずの髪に油汚れを付着させ作業している明石が、作業中断して大淀に近づく。
明石「あっ大淀。それで直して欲しいって、誰の艤装ですか?」
大淀「こちらになるのですが····」
大淀がそう言いつつ後ろに振り返ったとした時、大淀の後方から川内の声が聞こえてくる。
川内「これ、ここでいいの?」
明石「えっなんですかその艤装!見たことないですよっ!」
川内と神通が持ち上げている巡洋艦位の艤装を見ると、明石は目を輝かせて興奮したように叫ぶ。
その光景を見る大淀は、いつも珍しい装備を見て興奮する明石の持病が発動したと、呆れて放置している中、もう一つの艤装を運ぶ大和達がいないことに気づく。
大淀「あら?川内、もう一つあると聞いてましたが?」
川内 「んっ。」
川内がある方向に指を指す。
大淀が指の指す方向では───
大和「武蔵、斜めってる斜めってるって!」
武蔵「ふんぬぉら!」
大和型二隻が艤装の重量に潰れそうになるが、気合と根性で運んでいる凄まじい光景ができていた。
そんな光景を見ている全員が思わず苦笑いをする。
明石「あの····一体誰のですか。と言うか、あんな艤装ありましたっけ?」
大淀「····私に聞かないでください。」
支えるだけでも辛そうな雰囲気を出しながら、四人の傍まで何とか迫る。
声の届く距離まで近づき、武蔵が置き場所を聞いてきた。
武蔵「なぁ、明石··どこ··置いたら···いいか?」
明石「えっあ、えーと···あそこに。」
明石に指定された場所に着き、慎重に急いて巨大な艤装を置く。
艤装を置き終わると、大和は座り込み、武蔵は床に大の字で倒れ込んだ。
遠くから見ても、二人が消耗してるがわかるくらい疲れていた。
大和「はぁ···はぁ···重たすぎ、です····」
武蔵「まさか、この私がへばるとはっ!」
工廠の奥で作業中の夕張が、何事かと慌てながらよって来る。
そこで二人の姿を見た途端、また工廠の奥へ駆け出し、手に持ったペットボトル入りの水を持って来る。
二人は夕張に礼を言って水を飲み始め、すぐに中身を空にする。
武蔵「ぷはぁー···生き返った!すまんな、夕張。」
夕張「いえいえ。それよりこの艤装どうしたんですか?」
川内「あっ、それは私が話すよ。」
その言葉に川内が洞窟であった事を説明する。
明石と夕張がこの艤装の持ち主が重体だった事に心配しているようだが、その内心で装備の好奇心が漏れ出ている。
明石 「なるほど、その子達は医務室に入ってるなら安心ね。それに····この艤装に興味が湧きまくりよ!」
夕張「フフッこれは調べがいがありますね!」
明石「その通りよ!技術者としての心が踊るわ!!」
二人が謎のフィーバータイムに入っている時、大淀が一旦二人を落ち着かせる。
大淀「ほら、少し落ち着きなさい。ちなみにだけど、この艤装を軽く見て、二人がどう思うか簡単でいいから教えてくれない?」
明石と夕張はお互いに視線を見合わせる。
明石 「···えーと、夕張はそっちの大きな艤装の方を見てくれる?私はこっちを見るから。」
夕張 「はい、わかりました。」
明石が巡洋艦程の艤装、夕張が巨大な艤装を五分程見渡し、それぞれ感想を話し始める。
明石「まず損傷の方だけど、この巡洋艦位の艤装は凹みから見て、何か大きな圧力が潰されたみたい。装備の方は砲がたった一門だけで、他には四角い蓋が沢山ついてる位かしらね。あと装甲が凄く薄いわ、駆逐艦の子と比べても半分···位かしら、相当薄いわよこれ。元はどういった艦なんだろう?夕張、そっちは?」
明石の説明が終わり、明石が横で話を聞いていた夕張に問う。
夕張がそこに居る艦娘達に、手で艤装を近くで見るように催促して説明する。
夕張「はい。まずこれだけの大きさなら単純に大和さん達以上の艤装なんですよ。その時点で色々ツッコミ所満載なんですが····えっと、この主砲を見て何か思わないですか?」
夕張は一基の破損し大破した主砲塔の触れる。
川内「何って、主砲が五基あるね。」
夕張「いや、勿論そうよ。でも、この主砲単体を見て欲しいなぁ。」
大和「あら?その一基だけ砲塔の防盾に大きな穴が空いてますね。」
夕張「え?あっ本当だ。」
大和の見る主砲は、砲塔正面の防盾に砲弾で貫かれた穴が空いていた。
夕張は大和に言われて穴をじっくり観察する
どうやら夕張は、大和が言うまでそれに気がつかなかったようだ。
神通 「あっ!」
その時、神通が声を上げる。
神通「これ···さっきまでは艤装の大きさしか見てなかったのですが、これって大和さんや武蔵さんの46cm砲より大きくないですか?」
明石「えっ?」
神通の説明に疑問を持って、明石が工廠の棚に置かれた装備関係の資料を取りに行き、資料をペラペラと捲る。
明石 「確か、うちの鎮守府が扱ってる最大の砲が51cm連装砲だったはずだけど····確かに、どう見てもそれ以上よね。」
武蔵 「むっ?そう言えばそうだな。」
大和達が使う51cm連装砲を整備したことのある明石が記憶と比べるが、明らかに一回り大きな砲に見える。
大淀「ちょっと待ってて下さい。今から計算しますから。」
大淀は慌てた様子で電卓をカタカタと打ち込む。
ちょっとして計算が終わると、驚愕で目を見開く。
大淀が恐る恐る計算で表れたサイズを口にする。
大淀 「計算によると、恐らく───60cmクラスの砲かと·····」
計算で弾き出した数字に、周りが唖然とする。
何故なら、世界最大の戦艦である大和型は46cm砲であり、計画で終わった改大和型ですら51cm砲が限度であった。
なので60cm以上の砲を搭載する艦は、計画すら存在しないはず。
大淀「この60cm砲ですが、砲身を見る限り従来の45口径ではなく、より貫通力を高めた75口径だと思われます。」
もはや驚きを通り越して混乱の領域である。
簡単に言うと、口径が大きければ砲自体が小さくても火力や貫通力が高くなる。
例として、46cm45口径砲と41cm50口径砲では性能に大差はなく、甲乙つけがたい····らしい。
武蔵「ふむ、つまりこの艤装の持ち主はこれだけ火力が必要で。一方の敵側は、この分厚い砲塔正面の防盾を貫通できると言うのか。」
神通「そこまでの事は、姫級や鬼級でも不可能だと思うのですが?」
無論この世界には、強力な力を持った敵が存在する。
その区分として鬼や姫といった字を使う。
しかしこれ程の力に対抗するとしても、この装備は過剰戦力と言わざる終えない。
明石「その通りね。はぁ···いったいどんな敵と戦ったのやら·····」
そう漏らし、明石は空を見上げた。
横須賀鎮守府の医務室で、体中包帯まみれでミイラ一歩手前の青い髪をした少女が、ベッドで横になっていた。
少女は小さく唸った後、ゆっくり瞼を開く。
雨風「んっ···ここは···?」
まず最初に雨風の視界にあったのは、真っ白いコンクリートに覆われた天井だった。
雨風は全く状況を理解出来ず、周りキョロキョロと見回す。
雨風「あれ?私、沈んだ··はず···痛っ!」
雨風は体を動かそうとするが、包帯の巻かれる内側の鋭い傷から痛みが表れる。
しかしそんな事は後回しとばかりに動こうとするが、動けば動くほど傷がキリキリと悲鳴を上げ、力が入らない。
そこで何か支える物がないか、もう一度周りを確認する。
すると、ベッドからすぐ近くに杖が複数個置いてあるみたいなので、それを使ってドアに向かって移動中に、自身が寝ていたベッドから死角で見えなかったベッドに、また別の少女が寝てる事に気づいた。
その時何故かわからないが、雨風は初めて見る少女に親近感を感じ、疑問に思った雨風がその少女の傍に歩く。
少女の寝ているベッドの傍に来た雨風は、少女を観察する。
その少女は、雨風と同じように包帯だらけになっていた。
その少女を見ていると、雨風の頭の中でふと、ある名前が浮かんだ。
雨風「───神弓?····あれ?私、何でこの名前が出たの?·····わからない。」
雨風は僅かに悩んだが、考えても分からなかったので、大人しく諦める。
それより、取り敢えず神弓だと思われる少女を起こしてみた。
雨風「ねぇ、神弓。起きて····」
雨風が揺さぶると、神弓がゆっくり目を開ける。
神弓「あれ、貴方は···雨風?私沈んだんじゃ?んっ、私ってどうなってるの?」
雨風「わからない。考えても意味ないから、動く。」
雨風は再び取りに行った杖を神弓に手渡す。
神弓側は一体何の事やら不明と混乱しつつも、杖を受け取る。
そして神弓が激痛に身を襲われながら立ち上がったら、近くのドアから外に出ようとドアノブを握った瞬間、神弓が何かを見つけて立ち止まる。
神弓「雨風、あれ見て。」
雨風は立ち止まって、神弓の見る方向に顔を動かす。
そこには全身鏡が立て掛けてあった。
二人は鏡の前に立って姿を見る。
雨風は小柄で、青髪のマッシュレイヤーに手足や腰が細くて、軽く力を入れると折れそうな感じの少女の姿をしていた。
一方の神弓は、雨風より更に低い身長に、銀髪の腰まで伸びる長髪と目が左右で色違っていて赤色と青色であった。
二人のとも小柄で幼さが残るので、とても可愛い外見をしていた。
包帯まみれになっていなければの話だが。
神弓「うーん。私達は何でこの姿なのかは分からないね。まいっか。」
雨風「そう···早く出よ。」
雨風はドアノブに手を掛け、音が出ないように慎重に開くが、ドアの奥を覗いた瞬間、偶然外にいた三人と目が合った。
陸奥「あら?」
瑞鳳「えっ?」
長門「んっ?」
高い身長に長髪と短髪の同じ服を着た女性に、ポーニーテールにハチマキをつけた少女が外に立って喋っていた。
神弓「どっどうも·····」
雨風「····こんにちは。」
医務室から出て来た二人の様子に、三人は驚きの視線を向け、話し始める。
長門「えっとだな··その、体は大丈夫か?」
神弓「大丈夫です。これ位の傷、日常茶飯事ですから。」
雨風「いつもの事。」
瑞鳳「いつもって·····」
瑞鳳は不安そうな視線を向けるが、すぐにやることを思い出したようだ。
瑞鳳 「わっ私、提督を呼んで来ます!二人は中で待ってて下さい。」
と言って瑞鳳は廊下を駆け出していった。
陸奥「さぁ~、中で待っていましょうねぇ。」
陸奥は瑞鳳を見届けると、二人の肩を持って押してくる。
神弓「はぁ、分かりました。」
またもや医務室に戻ってベットに座る。
そのタイミングで、各自が自己紹介を始めた。
長門「二人とも、自己紹介をしておこう。私は長門だ。そして妹の陸奥だ。」
陸奥「よろしくねぇ~。」
長門はきっちりしている印象を受けて、陸奥は陽気な感じを醸し出していた。
雨風「雨風···です。」
神弓「神弓と申します。」
長門「雨風に神弓、よろしく。しっかし二人とも、髪がかなり焦げてしまっているな。今度、入渠で綺麗にしてもらうといい。」
陸奥「あらあら、神弓ちゃんって目の色が左右違うのね。フフッ二人とも小さくて可愛いわね。」
嬉しそうに陸奥が二人に抱きつく。
その時神弓の位置的に、陸奥の立派な胸部装甲に顔が埋まり、息しずらそうに呻く
神弓「う、苦しい···」
長門「陸奥、ほどほどにしておけ。」
長門が呆れつつ言うが、長門の目の奥には少し羨ましい気持ちが混じり混んでいた。
陸奥はその気持ちに気付きつつも、陸奥は全く悪びれた様子を見せずに解放する。
神弓 「ゲホッゲホッ───」
神弓が酸欠で咳き込んでいる中、雨風は長門を見つめ、自身の疑問を言った。
雨風「長門、ここ···どこ?」
長門「あぁここか。ここは鎮守府だ、もっと正確に言えば横須賀鎮守府だな。各地にある鎮守府の一つだ。」
神弓「あの、長門さん。なんで私達、人になってるのですか?」
神弓がそう口にした瞬間、長門と陸奥が笑い声を上げる。
長門「───いやぁ悪い。皆最初は全く同じ事を聞くからなついな、無論私も同じだったが。それで説明すると。」
長門の伝える内容は、艦娘は昔沈んだ艦の転生のようなもの。
何故艦娘が人の姿になっているのか不明だが、元の艦の影響は残っているらしい。
例えば戦艦なら巨大な砲が積めて、空母なら艦載機が積めたりなど。
ちなみに艦娘の大半は鎮守府のドックという施設から生まれるが、たまに深海棲艦との戦闘の後に見つかることがある。
その点で言えば、雨風達は少し異例だろう。
などと説明していると、医務室のドア開き、そこから軍服を着た綺麗な女性と瑞鳳が出てきた。
女性は雨風達に視線を移し、ベッド近くの椅子に座る。
提督「こんにちは。まず自己紹介からしましょう。私はこの横須賀鎮守府の一番上かな。あと残念ながら本名を職業柄言えないから、私の事は提督や指令とか自由に呼んでちょうだい。」
瑞鳳「私は秘書艦の軽空母、瑞鳳です。よろしくね!」
相手が鎮守府のトップと言うことで、雨風達は少しかしこまった挨拶をする。
雨風「ウィルキア王国所属、雨風です。」
神弓「同じくウィルキア王国所属、護衛艦神弓です。」
二人がそう伝えたら、提督は頭を傾げた。
提督「ウィルキア?ウィルキア·····そのウィルキアって国はどこにあるの?」
雨風「シベリア東部のウラジオストックから、カムチャツカ半島の東側の沿岸にある小さな王国。」
その説明を受けた提督は更に疑問を浮かべた。
提督「うん?確かそこの辺りはロシア領だったよね?」
神弓「あの·····ロシアってなんですか?」
今度は逆に神弓がロシアという聞き慣れない国について質問した。
提督「ソ連が崩壊した後の国よ。んーとなると、貴方達の生まれた時期は?」
雨風 「昭和十四年四月。」
神弓「私は少し後の昭和十四年五月です。」
提督「あら?···わかったわ。」
その他いくつかの質問を行った後、取り敢えず今日は医務室で待機して、入渠は明日に行う事が決まった。
提督や長門達が退室して二人だけが医務室に残る。
神弓は自身のベッドに寝転がりながら、不安を口にする。
神弓「雨風、これからどうしようかな?」
雨風「どうしようもない、ただ···流れに付いていくだけ。」
神弓 「····そうだね。ところで超兵器の事は今後どうしよう?もしここに現れたら───」
雨風 「·····」
雨風の表情が僅かながら険しくなる。
雨風と神弓は、超兵器については提督達に言っていなかった。
雨風達は一つの大きな不安を抱えていた。
それは、私達がここに来たのならば、敵である超兵器が出現するのではないか、と。
しかし、超兵器は一隻で複数の艦隊と渡り合える最強の兵器。
その目で被害の甚大さ、その戦闘能力を見ない限り、まず信じて貰えないだろう。
例え話したとしても、それは雨風達が不審がられ怪しまれる恐れがあり、簡単には話せない内容でもあった。
雨風「どちらにせよ───海の底に沈めるだけ····」
雨風の瞳の奥には、闘志が宿っている。
神弓「そっかぁ。もし出会ったら、私達が相手をしてあげる!」
その夜、今後想定される状況を話し合い、対策を行った。
新たに出会った艦娘と顔を合わせ、その状況や内容を上に一通り報告した提督は、椅子に座り大きなため息をつく。
提督「しかし、久しぶりに休めると思ったらこんな事になるとは思わないわよ。」
若干嫌味を含みつつ、提督はそう漏らした。
そんな提督を、秘書艦の瑞鳳はまぁまぁと窘める。
瑞鳳「それは仕方ない事ですよ。それより提督、二人の処遇はどうなるのかな?」
提督「うーん。上に報告したっちゃから完璧に分からないけど、悪いようにはされない···はずだよ。」
瑞鳳「ならいいですが····あっ、そう言えば明石さんの報告書を読みましたか?」
瑞鳳が思い出したように提督に尋ねる。
提督「明石達もまだ殆どの装備が不明であまり分からないとしか書いていない書類の事?唯一判明しているのは61cm砲·····どう考えても規格外のそれを積んでいる位。そんな大層な物を搭載したのは、それが必要な状態だったから。ほんと、何を相手に戦ったのかしら·····」