鎮守府に所属している艦娘は、深海棲艦という敵を相手に戦い、少しづつ海域を取り返して来た。
しかしその過程で、艦娘は怪我や艤装の損傷などの被害が発生する。
なので鎮守府には損傷を修復可能な施設があり、艤装を修理なら工廠を使用する
なら艦娘の怪我は何処で治すかって言われると。
それは陸奥に連れられて雨風達の居るドックと呼ばれる施設。
だだしドックと言っても、外装内装共に見た目は銭湯に近い。
強いて違う点を上げるなら、天井にモノレールのようなレールが曳いてある位だろう。
現在はちょうど昼時で、他の艦娘は任務や休暇を満喫中。
三人を除いて誰もいなかった。
他の艦娘と会えないのを残念に思うか、良かったと思うかは本人次第だが、今回はある意味幸いな事になった。
何せ、神弓の悲鳴がドック中に響きまわっているんだから。
神弓「───傷にっ、傷に沁みるぅぅぅー!!」
それはそうだ。
傷のない場所の方が少ない今の状態で、液体に触れようものなら傷にダイレクトに沁みる。
それを全身で入浴、しかもお湯である、痛くない訳かない。
そして悲鳴を上げる神弓の隣で、雨風は何も声を発しないで入浴していた。
しかし心なにか、雨風からは体温上昇に汗とは別に脂汗を流す。
陸奥「バケツを使ってるから、ちょっとだけ頑張ってね。すぐに痛みが引くわよ。」
陸奥はいつも通りの余裕のある笑顔を見せてくる。
ちなみにバケツとは高速修復剤の名称で、これの入ったお風呂で艦娘が入浴すると、傷や破損が即座に完治する代物である。
なお効果は一回分のみ、一度使用されたバケツは効力を失う。
しかし成分が原因なのか分からないが人間に使うと死ぬ···らしい。
つまり試した人がいるという事、まぁ確かに気になるのは理解できる。
お風呂に入ってから一分程度経ち、全身の傷が目に見えて治っていく。
雨風「凄い···!」
神弓「うわぁ、痛みが薄れてるっ!」
二人は自身の予想以上の効力に驚く。
神弓は、ちょっと気になり傷のあった箇所を指で押す。
肌は元から傷がなかったかように弾力で神弓の指を押し返す。
陸奥 「今回はバケツを使ったけど、バケツ無しでも問題なく治るわよ。その代わり結構時間が掛かるけど。」
神弓 「えっと、陸奥さん。なんでこんなに綺麗に治るんですか?」
当然と思える疑問に陸奥は───
陸奥 「それは知らないのよねぇ。」
神弓 「えっ?」
神弓は口を開けっ放しにして、呆気を取られた表情をする。
神弓 「あのぉ、原理の知らない物を使うのは危険では?」
陸奥 「そうね····正確には言えば、使い方はわかるけど原理を知らないのが正しいわ。そこは妖精さんの領分なのよ。」
神弓 「妖精さん?」
陸奥 「簡単に言ったら、私達に力を貸してくれる小人かしら。」
神弓と聞き耳を立ててた雨風は、陸奥の言う妖精を森の妖精(フェアリー)の様なものを思い浮べる。
神弓 「ならこのドックも妖精さんが作ったんです?」
陸奥 「そうらしいわよ。私は見てないから詳しくは分からないけど。」
二人が話していると、ドックの通風口から「きゃああ!?提督ぅ!!」と叫び声が聞こえてきた。
陸奥「あら、この声···瑞鳳かしら?工廠の方ね。」
雨風「····見に行こう。」
神弓「傷も治ったし、気になるから行ってみましょう。」
ドックを出て工廠に向かい、そこで三人が見たのは、提督が工廠の中で椅子に座って真っ白に燃え尽きていた。
そして提督を秘書艦である瑞鳳が一生懸命揺さぶったりして、復活させようと努力している。
一方工廠にいた明石と夕張がそれを半笑いで見ている。
陸奥「あらあら、どうしたの?」
明石「あっ陸奥さん。それがですね、そこにいる二人の修理資材の量を見て、提督が燃え尽きてしまってですね······」
陸奥 「あぁ、納得したわ。」
陸奥が納得した顔になって頷く。
一方その原因を作った本人達については、神弓は申し訳なさそうに謝り、雨風は何処かから取り出した線香を提督の足元に置いて、手を合わせてお辞儀していた···南無阿弥陀仏と。
瑞鳳 「提督、もう大丈夫?」
提督「いやぁ予想はしていたけど、ここまでの量だと精神に来るものがあるよ。それにしてもこれだけの資材、二人は艦の頃はどうやって補給とかしたの?」
すっかり色が戻った提督は純粋な疑問を投げ掛けた。
雨風「艦の頃の補給は各国から支援して貰ってた。」
提督「えっ!それ凄いじゃん、羨ましい。」
と、提督が羨ましいそうに見てくる。
雨風「代償に····今の私達の祖国はない。」
提督「うっ!ごめんなさいね·····」
雨風が祖国の事を口にすると、すぐに羨ましいそうな視線を止めた。
この場合、むしろやらかしたと思っている事だろう。
そこでこの空気を変える為、すぐに別の話を出す。
提督 「あ、そうだ。二人には昼から他の子達と一緒に演習に出てもらうけど、いい?」
雨風「問題はない。でも、艤装が修理されていないと無理。」
明石·夕張「フフッ、それはご安心くださーい!」
神弓 「ふぇっ!」
明石が突然ハイテンションになって大きな声を出した。
あまりの変わり具合に神弓が驚きの声を上げる。
明石 「勿論夕張と一緒に修理して完全に直ったわよ!」
明石が夕張とハイタッチする。
その言葉に神弓は不安を口にする。
神弓「あの、私の艤装は精密機械ばっかりなんですが、誤差とか大丈夫ですか?」
明石「無論大丈夫よ。ここなら資材さえあれば何故か完全に修理出来るのよ。」
明石が自信満々に自分の胸を叩く。
何故かという単語が不安を煽るが、ドックと同じなんだろうと思っておこうと神弓は考えた。
雨風「···不思議技術。」
夕張「こっちから見たら、貴方達が不思議技術だって。」
うーん·····どっちも不思議技術だな!!
神弓「そうなのかな。それより、艤装着けていいですか?」
明石「良いわよ。何か違和感があったら言ってね。」
二人はそれぞれ修理された艤装を取り付ける。
神弓の艤装は、四角い箱型に大きなアンテナとHマークの甲板と多数のハッチが付いている。
その他、単装砲とCIWSやRAM等の対空兵器が搭載して、全体的に角ついた形をしている。
まぁ、CIWSやRAMの存在は艦娘達は知らないから、何の装備だろうと考えているに違いない。
あと左右の腰と太もも辺りに連装魚雷発射菅を付けている。
ちなみに蓋付きの箱はミサイルVLSであった。
一方雨風の艤装は、扶桑型と大和型を足して二で割った形をしており、三連装砲塔が五基と縦にコの字のような砲が一基、砲身が若干変な中くらい連装砲が四基搭載している。
それでいて、神弓の付けていた単装砲と対空兵器やレンズの付いた兵器も積んでいて、VLSも搭載していた。
そのせいか、雨風の艤装は明らかに体格に似合わない大きさになっている。
夕張「·····私が言うのもどうかと思うけど、雨風の体格に合ってないように見えるのだけど?」
瑞鳳「まぁ··まぁでも、本人が扱えればいいんじゃないのかなぁ?」
二人を見る夕張の感想に瑞鳳が答える。
艤装を取り付け終わると、提督が指示を出す。
提督「陸奥と夕張、悪いのだけど二人を航行の練習をさせてあげて、あんまり広くないから速度出せないけど。ついでに、明石は昼からの演習の機材用意を頼むわよ。」
指示を出し終え、提督と瑞鳳が工厰を出ていく。
提督もいなくなったので、とりあえず雨風が歩き出そうとすると、足元に何かが引っ付いているみたいな違和感を覚える。
なんだろうと下を見ると、雨風と同じ服を着た10cm程の二頭身の小人が、いつの間に沢山集まっていた。
その小人は雨風以外にも、神弓の足元にも集まる。
雨風「何···小人?」
明石「あー、その子達は妖精さんって言ってね。私達にとって大事な子よ。試しにしゃがんでみて。」
二人は明石の言う通りにしゃがむ。
すると妖精さん達が二人の体をよじ登り、艤装の隙間にどんどん入って行く。
神弓「明らかに容量以上に入ってるように見えるのですが·····」
明石「そこは気にしたら駄目よ。」
妖精さんが全員入り終わると、雨風と神弓は陸奥と夕張に連れられ桟橋に向かう。
向かう途中に何人かの艦娘を物珍しそうに見てくる。
しかし、そんなことを気にせず歩き続け桟橋に着くと、航行の練習を始めたが───
雨風「キャッ!」
文字通り慣れてないのでスッ転び水面に倒れる。
陸奥「あらー、ほら頑張って。」
夕張「うーんあの規模の艤装を着けて転けると、なかなかの迫力がありますね。」
雨風「むぅ···」
倒れている雨風がふと前を見ると、今度は神弓がバランスを崩して盛大に水面にヘッドスライディング。
神弓「···もうっ!!夕張さーん、コツとかないんですかー!」
と、先人様にコツを聞くが───
夕張「勘を鍛えるのが一番早いね。」
神弓「それアドバイスになってないですよ~。」
夕張のアドバイスになってないアドバイスを貰いながらも頑張って練習すると、二時間位でそこそこ自由に扱えるようになった。
陸奥「よしよし、これだけ出来ればもう充分よ。」
夕張「二人は慣れるの早いですね。」
と二人を褒めてくれる。
陸奥「でも早く慣れる子は三十分くらいで出来ちゃうから。」
神弓「何をどうやったら、そんなに早く出来るのか分からないです。」
その後、夕張と陸奥が用事で離れた間も練習したお陰で、そこそこの回避行動も行えるほどの技術を手に入れた。
雨風「はぁ···疲れた。」
流石疲れたのか、二人は桟橋に座って休憩する。
神弓「んっ?」
雨風と神弓が演習まで桟橋で休んでいたら、誰がやって来た。
神弓は目を凝らして見ると、それは明石と知らない女性だった。
明石「二人とも、なかなか習得するの早かったらしいね。」
神弓「ありがとうございます。ところで明石さん、後ろの方は?」
明石の後ろにおぼんを持った優しそうな雰囲気の女性がついてきていた。
明石「こちらは鳳翔さんよ。」
鳳翔「こんにちは、鳳翔です。」
鳳翔と言う女性は、丁寧で上品な雰囲気を纏わらせ、心から安心できる微笑みを浮かべて挨拶する。
鳳翔 「お二人とも、しばらく何も食べてない様子だったので、簡単な物ですが···どうぞ。」
鳳翔はお握りやお茶の乗ったトレイを雨風達の前に置いた。
お握りの米はテカテカに光り、とても美味しそうだ。
雨風「ありがとう。」
神弓 「ありがとうございます。」
二人は鳳翔の作ったお握りを幸せそうに食べている。
お握りは見た目通りに美味しく、すぐに無くなってしまう。
その事を二人は少し残念に思いながら、皆と談笑をする。
神弓「へぇ~、鳳翔さんって初めての空母だったんですか!」
明石「そうそう、だから今の空母のお母さんでもあるのよ。」
鳳翔「明石さん、そんな大層な事ではありません。それにもう、私は性能的に退役してる身ですから。」
明石「そんな自信の無い事言ってはいけませんよ!それに鳳翔さんの作った料理はすごく美味しいのですから!」
謙遜する鳳翔に更に明石がもっと自信を持つよう伝える。
一方神弓は明石に賛同する。
神弓「そうですね。すごく美味しいのです。」
鳳翔「ふふ、それは嬉しい限りです。夜にはお店を開いてるので是非来てください。」
雨風「絶対に行く。」
神弓「私も私も!」
鳳翔「ありがとう。」
鳳翔はすごく嬉しそうな笑みを浮かべた。
その時、明石が時計を見るとスッと立ち上がる。
明石「あ、そろそろ開始の時間だから行くね。二人はここで待ってて、すぐに一緒に行く子達が来るから。」
雨風 神弓「了解。」
執務室に帰った提督は、机にスピーカー付きの無線機置き、この後の展開を考えにやけた。
提督「さてさてどう出るかな。ねぇ、瑞鳳はどう思う?」
瑞鳳は少し考えた後。
瑞鳳「私は···予測出来ないです。」
提督「でしょうね。これが吉と出るか凶と出るか、神のみぞ知る···かな。」