Fate/King of laziness【凍結中】 作:ビーストVIII
自慢じゃないが、俺も別にずっと寝ているわけではない。腹が減れば飯も食うし、掃除をしてもらう時はベッドからだって降りる。そう、俺は働かないだけなのだ。別にニートなわけではない。
「……最低ね。それを世間ではニートと呼ぶのよ」
「不労所得だ」
「もうやだぁ、コイツ。レフ助けてぇ…」
悪魔に転生してよかったと思う最大の理由は、いくら寝ても寝起きに頭痛がしない事である。そして、また眠くなる。
「おい、かけるものだ」
「はい。これをどうぞ、レイジィさん」
薄紫色の髪をした女が毛布を渡してくる。
これだ。これこそが仮にも魔王と呼ばれた存在に相応しい対応というものだろう。自慢じゃないが、俺は掃除も洗濯も料理もできない。俺にできるのは寝ることだけだ。
そんな俺を、女はガンドと呼ばれる魔術で吹き飛ばす。身体が浮き、地面に頭から激突する。凄い力だ。俺は吹き飛ばされる度に、遠い昔人間だった頃の記憶を思い出し、ここが異世界であるという事を実感するのだ。今はサーヴァントなのだが。
だんだん、この女の俺への扱いが落ちていっているのは気のせいだろうか。
「ちょ……レイジィさん!? だ、大丈夫ですか!?」
「ああ」
「いい加減にしなさいよッ!!」
女が地団駄を踏む。えっと、こいつが来てからどれくらいたったっけ。当然、名前も知らない。俺は他者の名前を覚えるのが苦手だった。基本的に余り興味がないのだ。
「オルガマリー所長、そろそろやめにしませんか?レイジィさんだってこの通りですし…」
そうか。この女、オルガマリーって名前だったのか。
そう言われてみれば、ここに召喚された時に自己紹介していた気がする。後、この薄紫色の髪をした女も知らない。
「は、はぁぁぁぁ!? あ、貴方達がそんなんだから、コイツはいつまでたっても戦わないのよ!?」
さすがに、その暴言には俺も口を出さざるを得なかった。
「いや、こいつらが居なくても俺は働くつもりはない」
「さすがだね、レイジィ!」
マスターがきらきらした純粋の瞳で俺を見た。彼は俺が彼の名前すら知らない事を知っているのだろうか。
そして、彼は一体俺のどこに尊敬しているのだろうか。まぁ、全てはどうでもいいことだ。俺は諦観の想いで眼を閉じた。
「ちょ……寝るなぁああああ! 今起きたばかりでしょおおおお!?」
「「所長、レイジィさんのことはもう放っておいていいじゃないですか」」
「ああああああ! なんで貴方達、コイツにそんなに甘いの!?てか、なんでこんなのがサーヴァントなの!?ただ寝てるだけじゃない!」
ああ、うるさい。もう。何もかもが面倒くさい。俺は結局の所、何の努力もせずに魔王になり、降って湧いたような幸運で意味のわからない力を自由に使う事ができる。そういう意味では、この女の言う問いに対する答えは簡単だ。
ーーただ寝ていたら魔王、英霊になっていた。俺の意志じゃないーー
そうとしか言いようがないし、それ以上の答えも持っていない。面倒だから口には出さないが。女が焦れたように胸を張って荘厳な声で叫ぶ。
「…もう!さっさとしなさい!」
「やだ」
何故、どうして、俺がわざわざどことも知れない場所に行かなければならないのだ。
性格の不一致。俺はこの女と分かり合える気がしない。無駄な事は嫌いで、面倒な事はもっと嫌いだ。俺が愛しているのは睡眠と暇であり、それ以外は割とどうでもいい。この女のせいで、ベットに戻るのすら面倒臭い。身体のしたにあった安定した大きめの岩に寝転がる。
「……もういいわよっ!どうなってもしらないからッ!!」
凄まじい力だった。大きめな岩が尻の下で砕け散り、地面にみしりと罅が入る。ベッドの上に這い上がるのも面倒だ。
女はその場で横になった俺を唖然とした表情で見た。
「……は、はぁ!? あ……貴方……そ、そこまで!?な、何とか言ったらどうなのよ!」
非常に面倒な女だった。特にすぐに暴力に訴えるのはよろしくない。面倒臭え。
「暴力反対」
襟を掴まれてガクガク前後に揺らされる。
頭二つ分ちっこい女に恫喝されている男の図が出来上がる。
だが、所詮この程度で俺の眠りを妨げるのは……無理だ。
「は? この状態で眼を閉じる!? ありえない、ありえない、何なのよコイツッ!!」
ペシペシ頬を張られ、いい感じのボディブロウが入る。
…もっとも、所詮この程度で俺の眠りを妨げるのは……無理だ。別に俺が痛みに強いわけではない。ダメージがないのだ。
ここが日本と違う事で、前前世よりも大分システマチックにできているこの世界には万物にHPと呼ばれる値が設定されており、これが減らない限り身体には傷がつかないし痛みもない。
普通や攻撃や宝具何かでHPが減るのだが、ここで頑強性バイタリティによる判定がかかる。簡単に言うとバイタリティ…耐久値が高ければ高い程ダメージが減る。
この世界は全てがステータスで表されており、それによって明確な格差ができる。面倒な事だ。
そして、前世では魔王である俺の耐久値はやたらと高かった。女の攻撃は尽く俺の耐久値判定に阻まれ、俺の身体には蚊に刺される程のダメージもない。そりゃ眠くもなるもんだ。
しかし鬱陶しい女だ。
「お前、……」
そこで俺はため息をついた。ごろりと寝返りを打って視線をそむける。
「と・ちゅ・う・で・と・め・る・なあああああああああ!」
本当にやかましい奴だった。俺はそこまでお前に興味がない。
口を開くことは開くんだが、途中でどうでもよくなるのだ。
女の脚が無防備な俺の体幹を踏み抜く。ボールを蹴るように頭を蹴り抜く。何も言うつもりはないが……
数分後、散々身体を動かして疲労困憊の大魔王の手下とノーダメージの俺だけが残った。
「はぁはぁ……この男……分かっていたけど……か、硬い…そしてこっちが痛い…」
当たり前だ。耐久値が高くなければ周囲に邪魔をされて眠れない。
俺の耐久値はやたら高く、高温、低温、毒、麻痺などありとあらゆる属性、状態異常に極めて高い耐性がある。
別に生まれつきそういうわけではない、魔王のクラスが持つスキルにそういうスキルがあったのだ。まぁ詳細は面倒なので今は省くが。
女が愕然と自身の手の平を見る。
「これが……伝説の魔王……」
刮目して聞き、見て、感じるがよい。我が力を。
そして願わくば、もっと静かにしてほしい。きっとそれが全員が幸せになれる唯一の道であるはずだ。
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