妄想族、なちょすです。
タイトル読めました?『イル ミオ シェフ』と読みます。意味は『私のシェフ』ですね。
シャイニー姉さんがシャイニーします。
それでは⋯わたシェフ第1話、どうぞ!
「ありがとうございました!!⋯ふぅ、これで今日の分は終わりかな?」
「悪いねぇ弾君、いつも助かるよ。」
「いや、僕が無理言って働かせてもらってるので⋯気にしないでください。」
ジャズのレコードだけが流れるゆったりとした店内の空気。
お客さんのたわいもない会話と笑い声。
マスターが入れてくれる珈琲の香り。
それらが一つに纏まるこの空間が、僕は昔から大好きだった。
僕の名前は小鳥遊 弾。
沼津の大学へ通う普通の大学生。沼津に住んでる僕が何故距離がある内浦の喫茶店で働いてるかと言うと…この店は僕の昔馴染みなんだ。
マスターには子供の頃沢山お世話になったし、僕自身この空気が居心地良くて⋯いつか絶対ここで働こうって思いながら今日まで生きてきた。
まぁ経営上人は雇えないって1回は言われちゃったけど、何とか顔馴染みという事で特別に働かせてもらってる。
「弾君、珈琲飲むかい?」
「あ、すみませんわざわざ。頂きます。」
コポコポと音を立てて珈琲が注がれていく。マスターが入れてくれる珈琲は格別だ。もはやこの人の為にここで働いてると言っても過言では無い。
「ところで、最近大学はどうだい?」
「まぁ⋯ボチボチですかね⋯?」
「ふふ、なら良かった。早く彼女さんも出来ると良いね?」
「あ、マスターちょっと馬鹿にしてるでしょ。」
「そんな事は無いよ?」
このゆったりした時間⋯これが、僕の中で一番大切で幸せな時間だ。
そんな大切な時間は、1人の来客によって終わりを迎える。
「あ、いらっしゃいま⋯せ⋯。」
黒服のSP2人を横に付き従え、白いワンピースに白い帽子を被った金髪の女性。
典型的な富裕層だ。
「弾君、お仕事だよ?」
「え、えぇ⋯大丈夫、ですよ⋯!」
自分でも分かる。きっと僕はものすごくぎこちない、紛い物のスマイルをしている事だろう。仕事に私情を挟まないのは当然の事にしてるが、相手が金持ちとなると体がいうことを聞いてくれない。
精一杯の
「い、いらっしゃいませ〜⋯。3名様ですねぇ?」
「えぇそうよ。」
「では、こちらへ、案内致します。」
「大丈夫?顔引きつってるわよ??」
誰のせいでこんな事になってると思ってるんだ⋯。
「こちらへどうぞ。」
「お嬢様、お気をつけを。」
「もう、心配性ね。ありがと、ウェイターさん♪」
お嬢様⋯あぁ、駄目だ、背中が痒い!!
今まで富裕層は何人か関わりを持ってきたが、何故かこの女性はダントツでヤバイ!
「いえ⋯ご注文は何になさいますか?」
「じゃあ珈琲3つ貰えるかしら?」
「畏まりました。マスター、珈琲3つお願いします!」
「はいよ〜。」
よし、山場は乗り越えた⋯後はマスターが入れた珈琲を持ってくるだけ⋯。
「良い所ね、ここ。」
「ありがとう、ございます。」
先手を打たれたっ!戻るに戻れない!!
「見た感じ若いけど大学生かしら?」
「はい。沼津の〇〇大学の2年です。」
「あら!じゃあ私と同い年じゃない!!私達⋯何処かで会ってないかしら?私なんだか見たことある気がするんだけど⋯。」
「えぇっと⋯すみません、多分ないと思います。」
こんなに身体中痒くなるのに会うわけがない。
「本当に無いのか?」
「えぇ、申し訳ありませんが⋯。」
抑えろ⋯抑えろ小鳥遊 弾。SPに何を言われてもこの場はお客様なんだから⋯!!
「弾君、珈琲出来たよ。」
「あ、はい!ありがとうございますマスター!」
本当にありがとうございますぅっ!!
「弾⋯弾?」
「こちら珈琲に⋯」
「ねぇ、名前聞いてもいい?」
「え?えっと⋯小鳥遊 弾です。」
「小鳥遊 弾⋯。」
復唱するように僕の名前を呼んだ『お嬢様』は、何故か僕の頬に両手を添え顔を近づけてきた。
整った顔に色の付いた綺麗な瞳。サラサラの金髪に頬から伝わる手の感触。
こんな綺麗な人に会っていたら、忘れるはずが無い。
⋯金持ちなら尚更ね。
「ん〜〜〜⋯やっぱり思い出せないわっ!!」
「あの⋯そろそろいいですか?」
「Oh、ごめんなさいね?じゃあ珈琲を頂くわ。」
上品な飲み方で、カップに口を付ける女性。悔しいけど、ジャズの流れたこの空間でこれ程マッチしている人は見た事ない。
1口飲んだ途端に、彼女は目を見開きすぐさまマスターに声をかけた。
「マスターさん、これとっっっても美味しいわ!♪」
「ふふっ、こんな年寄りの珈琲に喜んでもらえて何よりですよ。」
「もう、そんなに謙遜することないのに〜!」
「そうだ。弾君、軽食か何か作ってあげたら?」
「へ?」
「あら、貴方料理担当なのね?もし頂けるならぜひ食べてみたいわ♪」
マスターからのキラーパス⋯断れるわけが無い。
再び引きつった笑顔で軽く会釈をし、厨房に立つ。
大丈夫だ弾⋯あの子はお客様だ。お客様に出すならそれ相応の物を出さなければ⋯!
もはや日課になった手つきで、サンドイッチを作る。恐らくこの時間に来たということは、本当は珈琲だけでゆっくりするつもりだったのだろう。
ならあまり量を多く作っても迷惑になってしまうから少し減らして作るか。
「⋯別に嫌がらせじゃないぞ。好意だから。うん。」
誰が聞いてるわけでもないのにそんなことを1人で呟く。いつもより少なめで作ったサンドイッチを皿に盛り付け、出来る限り彩りと見栄えは良くしてテーブルに持っていく。
「お待たせしました。お客様⋯。」
「いや、もう無理よ。無理無理。」
「そんな、お嬢様!」
何やら少しだけごたついてる。
あのお嬢様は何が無理なんだろうか。やはりこの店の雰囲気がお嬢様の体質に合わなかったとかそういうのかな?合わなくても無理は無い。僕等と彼女等では世界が違うんだから⋯。何を言われてもいい覚悟でテーブルへ歩いていく僕は、彼女の言葉に耳を疑った。
「そのお嬢様って言うのも禁止!私そういう柄じゃないし、身体中痒くてしょうがないんだから!!」
「⋯え?」
思わず足を止めてしまう。彼女の言ってる意味が分からなかった。
だってそれではまるでさっきまでの『僕』じゃないか。
彼女はご令嬢で、お嬢様って呼ばれるのが普通じゃないのか??
「あら、ごめんなさい騒がしくしちゃって!本当作法だ何だの疲れちゃうわ⋯偉い人に挨拶するわけじゃないのに。」
「えっと⋯取り敢えず、サンドイッチ置いておきますね?」
「ふふっ、ありがとう弾♪」
不覚だった。この子がお嬢様だということを忘れて若干ときめくなんて⋯!何だこれは。こっちが本物の顔なのか?
「い、いえ⋯一応お客様にお出しする物ですから⋯。」
「鞠莉。」
「へ?」
「私の名前。小原鞠莉よ!お客様なんて堅苦しいのは辞めにしましょ?同い年なんだしね?♪」
「はぁ⋯ま、鞠莉さん?」
「ん〜⋯呼び捨て!それかマリー☆」
「ま、鞠莉⋯。」
「Yes!これからよろしくね、弾♪あ、美味しい!!」
さっきまでの上品さは何処へやら。年相応の振る舞いに戻った彼女は、お嬢様から普通の女の子に戻っていた。
「ふぅ、ご馳走様!美味しかったわ♪」
「それは何よりです。」
「敬語禁止!」
「⋯良かったよ。」
「マスターさん、お会計お願いしま〜す!!」
「はい、毎度。こんな店だけど、また来てくれたら嬉しいな。」
「明日にでも来るわよ!珈琲も美味しいし、弾も居るしね?それじゃあ2人共、チャオ〜☆」
カランコロンという音を立てて3名様はご帰宅なされた。何だったんだあの人間暴風雨は⋯。
「ふふっ、弾君⋯綺麗な子に目をつけられちゃったね?」
「そう、ですね⋯。」
『私達⋯何処かで会ってないかしら?私なんだか見たことある気がするんだけど⋯。』
「⋯⋯何処かで⋯。」
「お、弾君恋しちゃった?」
「はは、まさか。僕とあの子じゃ価値観も違うし、住む世界が違いますよ。」
頭をよぎった疑問。
『僕はあの子を知ってるかもしれない』という確証の無い考えを切り捨て、またいつもの日常へと戻った。
これが彼女との⋯小原鞠莉との出会い。
そして僕は、この時気付いて無かった。
とっくの昔に身体の痒みなんか無くなっていたことに。
1話、以上です。
素敵な話になればいいですね!(作者丸投げ)
誤字脱字等があれば、恨み辛みを込めて報告お願い致します。
次回。『02.その名は小原鞠莉』