やりたい放題に定評のある、なちょすです。
最終回じゃないですよ??(知ってる。)
わたシェフ第10話、どうぞ。
「鞠莉⋯どこかで聞いたことある名前だな。で?その鞠莉ちゃんが何しに来たんだ?」
「あら、決まってるじゃない。貴方の邪魔をして弾を助けに来たのよ⋯あの時みたいにね。」
「⋯まさか。」
「お分かりいただけたかしら?」
「くふっ⋯ふはははははは!!そうかそうか!!あの時の可愛らしい子か!随分逞しく成長したじゃないかっ!!」
「ええ、当然よ。いつまでも権力だけを振りかざして威張り散らしてる様な⋯まるで成長してない貴方とは違うもの。」
「⋯⋯何?」
「あら、聞こえなかった?成長するのは人として当然なんだから、成長してない貴方はお猿さん以下って言ったのよ。今度はちゃ〜〜〜んと聞こえたかしら?♪」
「言わせておけばぁっ!!!!」
「怒っちゃった?弾なら言い返してくるのに、まだまだの証拠ね。」
完全に鞠莉のペースだ。いつも軽い口喧嘩で済んでたけど、相手をおちょくる事に関してはプロフェッショナルだと思う。
それと鞠莉、流石の僕でも今の君には勝てそうにない⋯。
「君も弾君と同じだ⋯つくづく僕をイラつかせる⋯!!」
「そう。私も怒ってるわよ?弾の弱みを握って好き放題遊んでくれた貴方と、そこで倒れてる馬鹿に。」
「⋯⋯え?」
「帰ったら纏めて全部ぶつけてあげるから覚悟してて。」
「⋯⋯⋯⋯はい。」
えっと⋯ひょっとしたら昔助けてくれた子は別人だったかもしれない。
怖すぎる。
「弱みを握る⋯?勘違いしないでくれ。これは弾君が選んだんだぞ?健気な彼が古ぼけた喫茶店を守る為に選んだんだ。」
「⋯⋯⋯。」
「そうだ、君もゲームに参加すればいい!どの道あの店の権利書は僕の手にある!君達は僕のコマさ!!」
「⋯⋯⋯へぇ、そう。」
「⋯っ、鞠莉⋯!」
1歩⋯また1歩と彼女がこちらへ歩いてくる。何を考えてるか分からない⋯今の彼女が、秋山のイラつきに影響を与えないわけが無い!
「づぁ⋯!鞠⋯莉⋯!!」
まだ動く右手だけで立とうとするが、どう頑張ったって体は持ち上がらない。軋む肋と動かない左手⋯脱力した足が邪魔をする。
「これが権利書、ねぇ⋯。」
「あぁそうさ!今やあの店は僕の思うがまま!君達が逆らえばすぐにでも─」
「好きにすれば?」
「鞠莉⋯?」
「な、何を言って⋯。」
「だから⋯好きにすればいいって言ったのよ。」
彼女の口から出たのは、予想の斜め上の言葉だった。僕が守りたかったものをいとも容易く破壊する言葉。
「ねぇ、弾。貴方に料理を教えてもらう代わりに、私も経営の事教えてあげるわ。貴方殴られ損よ??」
「え⋯。」
「お前⋯何言って⋯!」
「そんな紙切れで人の土地をどうこうしようだなんて⋯ちゃんちゃらおかしい話ね。だってそれ⋯偽物でしょ?」
偽物⋯?
「な⋯!?何故そんなことがお前に分かるんだっ!!」
「ふふっ⋯これでも学校の理事長を経験してるからよ。学校を収める立場なんだから、知ってて当然でしょ?それに、ここに来る前に喫茶店に寄ったわ。マスターからお客さん以外は来てないって聞いてたんだけど⋯どうしてそんな状況で貴方が権利書なんかを持ってるのかしらね?」
「ぐっ⋯それは⋯⋯。」
動揺してる秋山を尻目に、鞠莉と目が合う。
⋯長く居ると、本当に何でも分かっちゃうんだな。
分かってるよ、鞠莉。後は⋯頼む。
「さて、弁明の時間は終わりかしら?」
「お前⋯!!」
「わぁ怖い。胸ぐら掴まれちゃった。でも⋯ここで手を出してもいいのかしら?」
「何だと⋯?」
「貴方のお父様、良く家の会合に参加してくれるのだけれど⋯その息子さんが、
「⋯まさか⋯小原って⋯!」
「相手先の娘くらい知ってなきゃ失格よ?あ・き・や・ま・さん♪」
「あ⋯あぁ⋯!!」
「私の友達と救急隊ももう時期来るわ。他に言いたいことがあるなら、一応聞いておいてあげる。」
「僕は⋯僕は負けてない!お前達なんかに負けるわけが⋯!!」
「あっそ。じゃあ⋯
「は⋯?」
奴がこちらを振り向く。
ずっと待ってた⋯立ち上がるのに時間がかかったけど、鞠莉が時間を稼いでくれた。
今までの分と、今日の分の仕返しを右手に握り締める。
ささやかな僕からのお礼だ。受け取ってくれよ、クソ野郎。
「秋山⋯⋯『ゲームセット』だ、この野郎っ!!」
「がぁっ!!」
1発。
ようやく殴れた⋯叩き込んでやったよ⋯。
殴った勢いのまま、身体中の力が抜けて地面へと倒れ込む。
もう動きたくないな⋯。
「弾っ!!」
「ぐぁっ⋯クソっ⋯お前らに!お前らなんかにぃっ!!」
「そいつを取り押さえて!!」
まだ立ち上がる秋山を、黒服の2人組が取り押さえる。
あれは⋯鞠莉のボディガード⋯。
「な、何なんだよお前ら!」
「鞠莉お嬢様のSPです。秋山様、お話がありますのでお屋敷までご同行下さい。」
「離せっ!離せよっ!!クソォっ!!」
⋯ははっ、ざまぁみろ。どっちが惨めな負け犬だ。
「弾!弾っ!!しっかりしてよ!!」
「鞠⋯莉⋯⋯頼み事が、ある⋯。」
「何?何をすればいいの?」
「引きずって、でもいいから⋯壁際に⋯連れてってくれ⋯。座りたいけど、疲れて動けない⋯。」
「⋯分かった。痛むかもしれないけど、我慢してよね??」
動く右手を掴んでもらって、ズルズルと壁際まで連れていってもらう。
あぁ⋯楽でいいな、これ。
こんな事考えてたら怒られそうだけどね。
「ここでいい?」
「ありがと⋯助かった⋯。」
「心配させないでよ⋯私が来なかったら本当に死んでたかもしれないのよ!?」
「ははっ⋯自分でも、死ぬかと思った⋯。」
本当に⋯鞠莉が来なかったら、何もかも終わりだった。大切なことも思い出せないまま、奴の言う通りここで死んでたかもな⋯。
「でも⋯やっぱり、鞠莉が来てくれた⋯。あの時とは、違って怖かったけどね⋯。」
「え⋯。」
「君の言った通りだ⋯僕達は、ずっと前に⋯出会ってた⋯。君は、覚えてるか分からないけど⋯。」
「弾⋯。」
鞠莉の声が震えている。
顔を上げると、そこには大粒の涙を流す鞠莉の姿があった。
「何で、君が泣いてるのさ⋯。」
「思い出した⋯のよね?本当に、全部⋯戻ったのよね??」
「あ、あぁ⋯。」
「良かった⋯また、貴方に会えた⋯もう、会えないって、思ってた⋯!」
「何言ってるんだよ鞠莉⋯僕達は、ずっと─」
⋯ずっと?
なら何で彼女はこんなに泣いてるんだ⋯?
どうして秋山と対峙した時、『あの時の事』を知ってたんだ??
だって⋯それじゃあまるで⋯。
『鞠莉さん⋯つまらない演技はそれくらいにしておかないと、収まりがつきませんわよ?』
『何でかしらね。弾だから安心するのよ♪』
『だって⋯せっかく会えたのに、一緒に居られなくなっちゃうでしょ?』
『弾と居るとね⋯思い出すのよ。私が一目惚れしちゃった人のこと。でも、その人とは会えない⋯と思う。多分、その人は私の事を覚えてないから⋯。』
一つの答えが頭をよぎる。
彼女が見せた悲しげな表情。
ダイヤの言っていた演技。
鞠莉の言葉。
全てが合致する答えなんて、もうこれしか無い⋯。
けど、もしこれが本当なら⋯彼女は⋯。
「鞠莉⋯⋯知って、たのか⋯?」
「⋯⋯⋯⋯。」
「あの時の事も⋯僕の記憶が無いことも⋯最初から全部、君は知ってた⋯のか⋯?」
「っ⋯忘れるわけ⋯無いじゃない⋯。貴方の事、大好きだからっ!!忘れられるわけ無いっ!!」
僕は、彼女に『知らない』と言った。
僕は、彼女に『金持ちが大嫌いだ』と言った。
それでも鞠莉は、そばに居た。それがどれだけ自分を苦しめても、僕の事を見ていた。
初めて出会ったあの日からずっと。
僕は⋯泣いていた。
彼女とずっと一緒だったなんて、そんなのは独りよがりだ。僕は彼女のそばに居たかも知れない。けど、隣には居なかった。
鞠莉は、ずっと『1人』だった。
「⋯っ!ぐっ⋯!!」
「弾っ、動いちゃダメっ!!怪我が⋯!」
「知らない⋯そんなのどうでもいい⋯!ごめん、鞠莉⋯ずっと1人ぼっちにさせて⋯。もう、絶対⋯離さない⋯!」
左手は使い物にならない。
それでも右手がある。片手が動くなら⋯彼女を抱き締められる。
「あ⋯弾⋯⋯。」
「1人にして、ごめん。大事な事を忘れてしまって、ごめん。心配かけて、ごめん。⋯⋯僕は⋯君が⋯鞠莉の事が、大好きだ。もう一度、一緒に居てくれないかな⋯?」
「ぁ⋯そん、なの⋯決まってるじゃないっ!私だって、一緒に居たい!弾が居るなら、他には何もいらないっ!!貴方のこと、大好きだからっ⋯!」
「ありがと⋯⋯鞠莉⋯。」
ずっと離れ離れだった。
君の一挙手一投足に胸が締め付けられた。
ずっと胸の中で渦巻いてた気持ちにようやく気づいたよ⋯。
「弾⋯もう、大丈夫よ。」
「ん⋯そっか⋯。じゃあ僕も休憩だ⋯死にそう⋯。」
「言うならもっと分かりやすいジョークを言ってくれないかしら?」
「ははっ⋯大分わかりやすいと思うけどな?」
「死にそうな顔で何言ってるのよ、もう⋯。てか、何で一人でこんなに無茶したのよ。」
「果南とダイヤの名前を出されて⋯頭に来た⋯嘘だったけど。」
「電話で確認すれば良かったじゃない!」
「⋯⋯忘れてた。」
「呆れた⋯ほんっとバカ弾。」
「そこまで言うか。」
「そこまで言うわよ。」
ふふっ⋯前々から言いたい事は言ってきたつもりだけど⋯もう遠慮しなくていいってことだよね??
「あんな事言われたら誰だってああなるに決まってるだろ?」
「すぐカッカしちゃうから周りが見えなくなるんじゃない。料理の時だって、私の事見えてないから味が変わるの教えてくれないし!」
「誰かさんが確認もせずにぶち込むのが問題なんじゃないですか!?」
「もう少し気にかけて気づいた時に教えてくれれば良い話でしょ!?」
「そんな余裕があったらとっくにやってるさっ!!」
「充分余裕持たせてあげてるじゃない!!それで対応出来ないならいざって時に動けないチェリーボーイよ!!」
「チェリー言うな!鞠莉だってまだ未経験だろうっ!!」
「私は好きで残してるから良いんですー!!」
「じゃあ僕と同じじゃないか!」
「誰の為に残してると思っ⋯て⋯⋯。」
さっきの幸せムードはどこへやら。しょうもなく続いた口喧嘩は途端に終わり、2人で目をそらす。
「⋯⋯真っ赤になるぐらいなら言うなよ⋯。」
「⋯うるさいっ///」
「んっんん!!」
「あの〜⋯そろそろ良いかな〜⋯?」
『あ。』
いつの間にか、入口には果南とダイヤの姿が。
果南の方は気まずそうにしてるけど、ダイヤさんは物凄くイライラしていらっしゃる。
「弾さんが大怪我してるからと来てみれば⋯何してるんですの?」
「弾が悪い。」
「いや、鞠莉が悪い。」
「はいはい、そこまで。痴話喧嘩は帰ってからやんな。もう救急隊の人も来てるんだからさ。」
「鞠莉さんも怪我してるじゃないですか⋯早く一緒に乗っていきなさい。」
「くっ⋯しょうがない。鞠莉、帰ってからちゃんと決着つけるからな!肩貸して?」
「もちろん受けて立つわ!ボコボコに返り討ちにしてあげるから!!しっかり掴まって?」
「⋯⋯本当に何なんですのこのコント。」
「仲が良いのか悪いのか⋯ま、らしくて良いんじゃない?」
あの後病院へ運ばれた僕達は、しっかりと治療を施してもらった。左手は折れてたし、肋骨に日々も入ってたよ。暫くは安静らしい。
鞠莉の膝の傷もそこそこ大きかったようで、2人ですでに満身創痍。結局家に帰ってからも子供レベルの口喧嘩のオンパレードだ。
でも⋯今はどれだけ喧嘩をしたって構わない。
それ以上に、きっと僕達はずっと⋯一緒なんだから。
次回、『10.5 燃える瞳』
やらかします。