Il mio chef 〜僕と令嬢と喫茶店〜   作:なちょす

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皆さん、こんにチカ。
なちょすです。

今更ながら『わたシェフ』って言い方『わたモテ』と被ってますよね。ここにきて『イルミオ』にします(どうでもよい)

イルミオ第15話、どうぞ。


15.すれ違う心

「はい、珈琲。」

 

「⋯ありがと、果南。」

 

 

雨の中で泣き叫んだ。

もう、どうしたらいいか分からなかった。

そんな時⋯果南が私を見つけてくれて、今は果南の家にお邪魔している。

冷えきった体に、果南が入れてくれた珈琲の暖かさが染み込んでいくけど⋯心が満たされないのは、やっぱり⋯。

 

 

「それで?あんな所で何してたのさ。」

 

「⋯⋯弾に、嫌われたかもしれない⋯。」

 

「⋯⋯⋯何があったの?」

 

「いつもみたいに、惚気だって⋯言わないのね。」

 

「何年幼馴染みやってると思ってるのさ。違いくらい分かるんだからね。」

 

「弾が働いてる喫茶店⋯明け渡しの書類が届いてたの⋯。それを弾が、私が出したって思ってて⋯。」

 

「はぁ?あの鞠莉大好きモヤシの弾が?何でそんな事⋯。」

 

「その書類の差出人⋯私だったから⋯。」

 

「え?ん?んん〜??⋯どういう事?」

 

 

こんな状況だけど、可愛い顔して頭を精一杯捻る果南が何だか面白くて⋯思わず笑っちゃう。相変わらずこういう話が駄目なのね、果南は⋯。

順を追って説明をする事にした。明け渡しの書類があの店に届いた事。それが本物の書類であったこと。それを書いたのが『私』だった事。⋯弾に言われたこと。

 

 

「あの弾がそこまでねぇ⋯。」

 

「当然よ⋯だって、彼からしたら私は裏切り者なんだから⋯。」

 

「鞠莉⋯。」

 

 

果南にハグをされる。いつだって、私はこの暖かさと優しさに守られてきた。失敗しちゃった時も、泣いちゃった時も、本音をぶつけた時も⋯ずっとずっと、近くに居てくれた。

また、どうしようもなく、涙が流れてくる。でも⋯不思議と止めたいって思わなかった。泣いて、泣いて、泣いて⋯もう泣かないように、全部流れてしまえばいいって思って。

暫く、その優しさに身を委ねていた。

 

 

「⋯ありがと、果南。」

 

「ん。にしても鞠莉の字でか⋯心当たりとか無いの?」

 

「えぇ。本当に書いた記憶が無いの。」

 

「違う違う。書いた記憶じゃなくてさ、例えば⋯鞠莉の字を書ける人(・・・・・・・・・)、とか?」

 

「え?」

 

「ははっ、まぁでも居たら凄いよね。鞠莉の字って独特だから難しくてさ⋯。」

 

「待って。」

 

「ま、鞠莉⋯?」

 

 

私の字を書ける⋯人の字を真似できる人間⋯?

 

 

「果南、覚えてない?昔2人が私の家に来た時、ダイヤの字が綺麗だって話をしたの。」

 

「あぁ、あったねそんな事。」

 

「1人⋯居るわよね?」

 

「⋯⋯あ。」

 

 

私や果南の字は特徴的過ぎた。だから真似できるわけなかったのに⋯たった1人、私達の字を完璧にコピー出来る人間が、あの場には居た。

優しくて、怒らせるとちょっぴり怖い家の使用人。

 

パパの、部下。

 

 

「で、でも待ってよ!それじゃああれを店に送ったのも、鞠莉の名前を使ってこんな事になったのも⋯!」

 

「⋯⋯⋯今日は、帰るわ。ありがとね、果南♪」

 

「鞠莉⋯。」

 

「酷いものよね。娘が好きな事も幸せだって思うことも⋯あの人には何の意味もなさないの。そういう人、だから⋯じゃあね。」

 

「あ、鞠莉っ!」

 

 

雨は止み、私が行くべき所は決まっていた。この状況を作り出してくれた元凶⋯自分の父親の所へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「もしもしダイヤ?あぁうん、ごめんねいきなり掛けちゃって。鞠莉の事でさ⋯違う違う、惚気の愚痴じゃないよ。ちょっと⋯不味いかもしれないんだ。うん⋯うん⋯だから突然で悪いんだけど、今日一緒に行ってもらっていいかな?あっはは、鞠莉のとこじゃなくて⋯弾の所に。」

 

 

 

 

 

 

 

「パパッ!!」

 

「ん?どうしたんだ鞠莉?ついにお父さんと仲良くしてくれるのか??」

 

「ふざけないで⋯どういうつもりなの?」

 

「⋯⋯⋯もうその答えを導き出したんだな。」

 

「当然よ。あんな芸当出来るの、貴方の部下しかいないじゃない⋯!」

 

 

ムカつく顔で、目の前の男は笑い出す。浦の星の件以降あんまり仲が良くなかった自分の父親と、こんなやり取りをするハメになるだなんて思ってなかった。

ううん⋯いつかはきっと来てたのかも。

 

 

「何なのよ⋯どういうつもりであんな事したのよ!!」

 

「お前の為だよ、鞠莉。」

 

「真面目に答えて!」

 

「大真面目だっ!!」

 

「っ⋯!」

 

「鞠莉⋯私は、お前の為を思ってる。あの学校の件だって苦渋の決断だった。なぁ⋯お前は私の会社を継ぐ身なんだ。だったら、そろそろ自分の事も考えるべきじゃないか?」

 

「考えてるわよ!少なくとも浦の星の件以来、貴方の力も家の力も使わないように生きてきた!1人で出来る事はしてきたの!!」

 

「それは知ってるさ。けどな⋯いつまでたってもお前は変わっていない。側に誰かが居ないとお前は壊れてしまう程に甘ちゃんなんだ。」

 

「そんなのっ⋯!」

 

 

否定が出来なかった。弾が居なくて泣いてしまった。あの人に嫌われてしまったかも知れない恐怖が、心を押しつぶしていた。

私の中身は⋯私の心は⋯⋯子供の、まま⋯。

 

 

「だから鞠莉。そろそろ現実を見るべきだ。お前に彼氏が居ることも、あの喫茶店に入り浸っていることも知っている。」

 

「⋯だから、あんな書類を送ったの?私の名前で??ふざけないでよッ!!娘の気持ちも考えないで、自分の理想の道を押し付けて!!それで私の為?現実を見てないのはどっち!?」

 

「これだけ言っても分からないか?」

 

「分かるわけないし、分かりたくもないわよ⋯!」

 

「ならお前に条件を付ける。あの店とはもう関わるな。お前の彼氏とやらにも、金輪際の接触は許さん。お前には⋯大学を抜けて私の元で勉強してもらう。」

 

「⋯⋯は?」

 

 

意味が、分からなかった。元々あの大学に行けることになったのも、あそこで過ごしても自分の将来に影響が無い事が分かっていたから。果南とダイヤも居てくれたから。

それを承知で、この人は認めたのに⋯それなのに⋯!

 

 

「言ってる事が最初と矛盾してるじゃない!そんな条件───」

 

「お前がNOと答えたら、あの店の買収を本格的に進める。」

 

「なに⋯それ⋯。」

 

「こうでもしないとお前は分からないだろう。お前に残された答えは『YES』しかない。それに⋯今更戻れると思うか?お前の恋人の元に。」

 

「っ⋯。弾、は⋯。」

 

 

この人が仕組んだことだとかは問題じゃない。彼にとっては、『私』があの店を買収した。それが明確な答え。ずっと一緒にいた人間に裏切られて⋯子供の頃から好きだった店も、マスターになるっていう夢も奪われて⋯そんな状態で会ってくれるわけ無い。

 

許してもらえる筈が無い。

 

 

「鞠莉⋯お前は今頭に血が上っている。もう一度冷静に考えてみなさい。今、自分が何をするべきなのか。」

 

 

私がYESと言えば、弾に出会う前の状態に戻る。彼の未来も、あの喫茶店も⋯ずっと続いていく。あの人には会えなくなるけど⋯それで、弾が幸せになれるのなら⋯。

ごめんなさい、果南、ダイヤ⋯。

 

 

「私が了承したら⋯あの店からは手を引くのね?」

 

「そう考えている。」

 

「⋯⋯良いわ。それで、あそこが守られるのなら。」

 

「懸命な判断で助かるよ。だが私も忙しい身でな⋯お前の手続きも時間がかかる。だから、3日は何をしても良い。友達に別れを告げるも良いし、遊びに行くのもお前の自由だ。」

 

「そう⋯別にいいわ。部屋に戻るから。」

 

 

自分の部屋へと歩みを進める。

一生懸命堪えて⋯無意識の内に早歩きになって⋯布団に倒れた時には、涙が止まらなかった。

これが正解だなんて分からない。

どうしたらいいのかなんて分からない。

果南とダイヤはそばに居るって言ってくれた。それを私は自分から突き放すんだ。これからの自分の将来なんてもうどうでもいい。

 

ただ⋯弾の事だけは、守りたかった⋯。

 

こんな事したって変わるわけじゃない。あの人に会えるわけじゃない。もう1度一緒に過ごせるわけでもない。

でも⋯私が全部を捨てるだけで貴方が幸せになれるのなら⋯それでいい。

それだけで私は───

 

 

「⋯⋯会いたい⋯。」

 

 

口にしちゃいけない言葉だった⋯会いたくなるから。

考えちゃいけない事だった⋯苦しくなるから。

笑顔も、怒った顔も、馬鹿やってる時も、料理も、時間も⋯全部捨てるんだ。捨てなくちゃいけないんだ。

それ⋯なのに⋯!

 

 

 

 

 

 

「会いたい⋯会いたいよ⋯苦しいよ⋯⋯弾⋯⋯⋯助けて⋯。」

 

 

 

 

 

どう頑張っても届くことの無い声は、部屋の中で⋯静かに溶けた。

 







次回、『16.for Answer』
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