Il mio chef 〜僕と令嬢と喫茶店〜   作:なちょす

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皆さん、こんにチカ。
初めまして、なちょすと申します。
It’s ジョーク☆

話はマリーが去った後の弾まで戻ります。

イルミオ第16話、どうぞ。


16.for Answer

いつから降っていたか分からない雨は、その耳障りな音を止めていた。

鞠莉が去ってからどれだけ経ったんだろう⋯どれだけこうしていたんだろう。

目の前にあるのは、見たくも無い紙の束だけ⋯僕が会いたかった人はもう居ない。

本当に見たかったものは、もうどこにも無い⋯。

 

 

「⋯⋯どうして⋯鞠莉⋯。」

 

 

信じてた。

本当の事を言えば、今だってまだ信じてる。彼女があんなに必死になって知らないと言ったんだ。それにこんな事出来る子なんかじゃない。だけど⋯彼女はこの紙が本物だって⋯そう言った。ならここに書かれている名前は?

 

もう⋯分からない⋯。

一体、何を信じればいい?僕は誰を頼ればいい?

 

鞠莉に強く当たってしまった。紙が本物ってことを聞いて、途端に信じられなくなった。僕が掛けたかった言葉はあんな言葉じゃない⋯僕が見たかったのは、あんな顔じゃない⋯!

 

 

「あんな事⋯言いたかったんじゃないのに⋯。ただいつも通り君とふざけて、料理を作って喧嘩して⋯一緒に居たかっただけなんだ。これから先、ずっとずっと⋯2人で一緒に、暮らしたかったんだ⋯。」

 

 

涙が止まらない。

どうしようもなく空いてしまった心の穴を埋める術を、僕は知らないから。

 

 

「だったら、それを言ってあげなよ。」

 

「か⋯なん⋯?ダイヤ⋯?」

 

 

鈴の音が鳴り響き、見慣れた2人が立っていた。鞠莉の幼馴染み⋯彼女を通じて知り合った友人達。

その顔に、いつもの笑顔は無い。

 

 

「なん、で⋯⋯。」

 

「鞠莉から全部聞いたよ。この店の事も、そこにある書類の件も。ねぇ弾⋯本当は分かってるんでしょ?それが鞠莉の書いた物じゃないってことぐらい。」

 

「⋯⋯⋯。」

 

「それを書いたのは、鞠莉の家の使用人の人だよ。それは⋯鞠莉のお父さんが送った紙なんだ。何の為かは分からないけど、鞠莉じゃないって事だけは言える。あの子はそんな事出来る子じゃないの。」

 

「⋯⋯あぁ⋯知ってるさ。鞠莉がこんな事出来るわけ無い事くらい⋯けど分かんないんだよ⋯。これを書いたのが鞠莉じゃなかったとしてどうなる?書類は本物だ。この店が無くなることは変わらない⋯。」

 

「なら尚更しっかり鞠莉に言いなよっ!!弾がどうしたいのか、ハッキリ言わなきゃ鞠莉には伝わらない!あの子はまた1人で潰れようとしてるのっ!学校を守れなかった時みたいに(・・・・・・・・・・・・・・)!!」

 

「⋯君達が居る。僕は彼女に酷い事を言ったんだ⋯もう、戻れるわけ⋯無いじゃないか⋯。それに気づいたんだよ。やっぱり僕達は違ったんだ。何もかも⋯彼女に必要なのは、僕じゃない⋯。」

 

「っ!いい加減に⋯⋯!!」

 

 

 

 

 

 

 

「言いたい事は⋯それだけ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

聞き覚えのある声。

聞いたことの無い口調。

静かに怒りを込めて、黒澤ダイヤは口を開く。

 

 

「なら、私からも言わせてもらうけれど⋯最近の貴方達を見てるとイライラするのよ。ところ構わずイチャイチャし出して、喧嘩したと思ったらただの惚気。その上今度はろくに口も聞かずに終わりにする?ふざけないで。」

 

 

どれだけ親しい仲でも、決して口調を崩すことの無かったダイヤが⋯初めてその口調を変えた。

戸惑う僕を尻目に、彼女は僕の胸ぐらを掴んでくる。

 

 

「貴方達2人共、どうしようもない馬鹿よ。特に弾、貴方は。」

 

「っ⋯。」

 

「言いたい事も言わずにいつまでそうやってウジウジしてるつもり?そんなに鞠莉に会いたければ何か行動しなさいよ。そうでなければ鞠莉の事をさっぱり忘れて好きに生きればいいわ。」

 

「ダイヤ⋯!」

 

「黙ってて果南。この馬鹿が分からないのなら何だって言うわ。もう我慢の限界⋯ウンザリだわ。答えなさい弾。貴方⋯何がしたいわけ?」

 

 

彼女は冷ややかな視線を突き刺してくる。心の底から軽蔑してる意味を込めた冷たい目。

僕がしたいこと⋯それは、もう叶う事なんて無い。

 

 

「⋯僕だって⋯僕だって、そばに居れるのならそうしたいさ⋯!けどダメなんだよっ!一回思ってしまったら、考えなんてそう簡単に変わらない!言ったじゃないか!僕らは住む世界が違うんだよ!!ここで僕が彼女を困らせたって足枷にしかならないっ!だったら⋯⋯だったら、幼馴染みの君達と居る方が⋯!」

 

「幼馴染みだから?付き合いの長い友人だったら何?それで何でも出来ると思ってるの⋯!?付き合いが長いからこそ何も出来ないし、何もさせて貰えないのっ!!だからっ、こうして貴方に頼ってるんじゃないっ⋯⋯!」

 

 

ダイヤの叫びが、店内に響いた。

本音を叫んで、胸ぐらを掴む力は強くなって⋯この場を支配するのは、溜め込んだ気持ちを吐き出したダイヤの息遣いだけ。

入れ替わるようなタイミングで、果南が携帯を見せてくる。そこにあったのは、つい先程鞠莉が2人に送ったメッセージ。あと数日で大学を辞めることと、2人への謝罪の言葉。

 

 

「これ⋯ここに来る途中で鞠莉から届いたんだ⋯。もう少しで、鞠莉は大学から居なくなるって。あの子はさ、ずっと気にしてたんだよ⋯廃校の事。でも、弾と過ごしてからは本当に楽しそうだったんだ。悔しいけど、私達じゃ見せられなかった表情を弾に見せてさ⋯。もう気づいてよ、弾⋯鞠莉がどうしてこんな事になってるのかさ⋯!!」

 

「どう、して⋯⋯?」

 

「貴方の為に決まってるでしょう!?あの子は自分が犠牲になれば貴方とこの店を守れると思ったからこの道を選んだの!!自分でだってきっとそれが正しい事だなんて思ってない!でも⋯それで貴方への罪滅ぼしだと思ってるのよ⋯!」

 

「鞠、莉⋯⋯。」

 

「貴方は、私達じゃ出来ない事をしてくれた⋯鞠莉を笑顔にしてくれたわ⋯。だけど⋯ずっと一緒だった私達から鞠莉を奪っておいて、その上まだあの子を悲しませるって言うのなら⋯!私は貴方を許さないっ!!」

 

「っ⋯!」

 

 

 

 

ずっと一緒だった3人の少女の前に、1人の男が現れた。

少女の1人とその男は知り合いだった。

昔の事を思い出し、お互いの気持ちに気づいた時⋯共に歩き出したいと願い出す。

 

⋯なら、残された2人は⋯どんな気持ちなんだろうか⋯。

 

 

 

 

「貴方がどんな答えを選んで、それがどんな結果になったって私達は貴方を恨んだりしない!もう見たくないの!あの子が1人で苦しんで潰れていく姿なんて見たくないっ!!だからお願い弾⋯!あの子を⋯⋯鞠莉を助けてっ⋯!!」

 

 

ダイヤが、泣いている。胸ぐらを掴む手は、必死に何かに縋るように⋯力無く握られている。

下を向くダイヤの目から、涙が床に落ちていく。

 

僕は⋯大切なものを手放してしまった。

 

自分で言ったんじゃないか。鞠莉を離さないと。

 

自分で願ったんじゃないか。彼女とずっと一緒に居たいと。

 

彼女がテーブルの上に置いていった料理に目をやり、包みを開ける。彼女がたった1人で作った料理は、僕達が初めて一緒に作ったベーコンエッグだった。一緒に入っていた箸で口へと運ぶ。

それだけで、全部分かったよ。

彼女がどんな気持ちでこれを作ったのか。

どんな気持ちで僕に食べて欲しかったのか。

 

本当に、僕は⋯大馬鹿野郎だ⋯⋯!!

 

 

「ダイヤ、果南⋯頼み事がある。」

 

「何?」

 

「思いっきり振り抜く勢いで、僕を殴りつけてくれ。」

 

「はぁ??」

 

「分かったよ。僕がしなくちゃいけない事。2人が居なかったら、多分ずっと分からないままだった。けど、僕は最後まで臆病者でさ⋯自分の考えに自信を持てないんだ。頼む⋯最後に、夢から覚ましてくれ。」

 

「⋯遠慮はしないからね。」

 

「あぁ、助かる。」

 

「ダイヤ、私の分もよろしく〜。」

 

「え?」

 

「歯を食いしばりなさい大バカ弾。」

 

 

まさかのダイヤから飛んできたグーパンをもろに食らう。

あぁ⋯いった⋯。この子格闘経験でもあるんじゃないかな。

床で尻餅ついてる僕に、何やらニヤニヤしながら果南が近寄ってくる。

 

 

「どうだった、本気のダイヤ。」

 

「ははっ⋯怖かったよ⋯。」

 

「ああなったら私や鞠莉でも勝てないんだ。覚えといてね♪」

 

「⋯目は覚めましたか?」

 

「お陰様でバッチリだ。ありがとう。」

 

「では、貴方が見つけたやるべき事とやらを教えて下さいませんか?」

 

「⋯⋯賭けだよ。」

 

「賭けって⋯?」

 

「僕が提案するのは、どうしようもない提案だ。これには君達2人の力が必要になる⋯必ず。だから君達がこの提案を受け入れてくれれば助かるんだ。」

 

「構いません。それで鞠莉さんが助けられるのなら。」

 

「何しようとしてるのさ?」

 

「それは───」

 

 

提案と呼べるほど出来たものじゃない。鞠莉の父親が意固地になってNOと言えば、全部終わってしまうかもしれない⋯そんな幼稚な発想。その全てを2人に話す。残された幼馴染み達へ。

 

 

「⋯⋯本気で言ってるんですか?」

 

「本気だよ。」

 

「どうして⋯何でそんな鞠莉を遠ざけるような事⋯!」

 

「信じてるから。いや⋯本当は、あんな事言った僕にそんな権利は無いのかもしれない。でも、信じたい。どれだけ時間がかかっても、もうこんな思いはしたくないし、鞠莉にだってさせたくない⋯!」

 

「弾⋯。」

 

「だから頼む。僕の最後の願いを⋯どうか、聞き入れて欲しい⋯。」

 

「⋯⋯奢り。」

 

「え?」

 

「貴方の入れた珈琲を奢り⋯それで手を打ちますわ。勿論鞠莉さんの分もです。」

 

「ダイヤ⋯。」

 

「まぁ、それしか無いっていうなら仕方ないか。どんな答えでも恨まないって、言っちゃったしね♪」

 

「果南⋯ありがとう⋯。」

 

「でもあの父親が聞いてくれるかな?」

 

「望みは薄いかもしれないけど、僕だって譲る気は無いよ。言ったでしょ?僕は⋯金持ちが大嫌いなんだって。」

 

 

2人が帰った後、鞠莉が持ってきてくれた弁当箱を洗う。丁寧に、丁寧に。手元には、包みを開けた時に入っていた1枚の手紙。

そこに書かれていたのはたった一言。

 

 

Non posso vivere senza di te(あなた無しでは生きられない)

 

 

ダイヤに意味を聞いた時、嬉しかった。僕も同じ気持ちなんだって、彼女に伝えたかった。

鞠莉に会えなくなるまであと数日。なら出来ることをしよう。

最後まで足掻き続けてやろう。

こんな事になってからだけど、ようやく気づけたよ。

 

何の為にこの店を続けていきたいか。

誰の為にこの店で働きたいのか。

 

 

「今行くよ⋯お嬢様。」

 

 

大切な人に会うために。

荷物を纏めて、僕はマスターの元へと向かった。

 

 

 

 

 

 

見慣れた自分の部屋。退屈な空間。

今日が自由を奪われる最後の日。私は部屋から出ることは無かった。長年連れ添った幼馴染みにもメールだけで別れを告げ、大切な人にも自分の口から最後を告げることなんて無かった。

それでいい⋯全部これで良かったんだって⋯ようやく思えてきた自分が嫌になる。そんな矛盾を抱えたままの自分の気持ち。

 

 

「⋯退屈ね。」

 

「鞠莉お嬢様、クッキー焼けましたよ?」

 

「あら、ありがと。ふふっ、まさか貴方が付きっきりになってくれるなんてね⋯。」

 

「そりゃそうです!まだ入りたてのペーペーですけど、お嬢様に年も近いですし気持ちはよく分かりますから⋯。今回の旦那様は、やり過ぎなんです!!」

 

 

最近新しく入ってきた若い使用人。年は一つか二つ下ぐらいの女の子。ここで働くようになってからしごかれてるみたいで、度々私の所に来ては愚痴をこぼし私の愚痴を聞いてもらう⋯そんな仲になっていた。

 

 

「あの⋯お嬢様?つかぬ事をお伺いしますが⋯。」

 

「ん?何かしら?」

 

「その⋯本当に、良いんですか⋯?このままで。まだその弾って方の事を信じてるんじゃ⋯。」

 

「⋯良いの。弾はこれで自由の身なんだから⋯私のワガママで振り回すわけにはいかないわ。ちょっとだけ、一人にしてもらえるかしら?」

 

「⋯畏まりました。それでは失礼致します。」

 

 

こうして、私はまた1人きりになる。あの子は多分気づいてる⋯私がまだ彼の事を気にしてるって⋯本気で、心配してくれてる。

けどそれは叶わない事。

忘れなくちゃいけないこと。

全部無かったことにしないといけない⋯。

でも⋯もし、もう一度だけチャンスがあるのなら。

 

 

「⋯今度はちゃんと、伝えたいな。」

 

「お嬢様っ!!」

 

「ん?そんなに慌ててどうしたの⋯?」

 

「大変っ、なんです⋯!今、旦那様に話があるっていう方が来られて⋯!」

 

「話⋯?大学の関係者か誰か?」

 

「それが⋯⋯鞠莉お嬢様について交渉したいと⋯!」

 

「私?一体誰が⋯⋯。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「小鳥遊 弾と、言っていました⋯。」

 







次回、『00.Last Letter』
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