Il mio chef 〜僕と令嬢と喫茶店〜   作:なちょす

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皆さん、こんにチカ。
好き放題やってる、なちょすです。
サブタイがマリーですが、3年組がメインだと思ってください。

それでは⋯わたシェフ第2話、どうぞ!


02.その名は小原鞠莉

「はよ〜っす。お、どうした弾。いつにも増して幸が薄そうな顔して。」

 

「余計なお世話だよ⋯。」

 

 

大学の昼休み。いつもは友達とたわいも無い会話をして過ごす時間も、今日だけは憂鬱気味だ。

原因は昨日の来客⋯小原鞠莉。

僕が嫌いな金持ち一家の人間で育ちが良い。顔も良い。欠点があるかと言われたら⋯まぁそんなに関わってないからまだ無いけど。

 

たった1日で僕をここまで消費させる女の子が、今日も店に来ると言っていたんだ。逆に疲れない理由なんてあるものか。

 

 

「あの〜⋯ちょっと良いかな?」

 

「ん?」

 

「えっと⋯松浦さん、だよね?」

 

「あ、私の事知ってるんだ。」

 

 

松浦さんと呼んだこの人は、松浦果南さん。僕のようなインドア系男子とは違う、良い意味でサバサバ系女子。明るくフレンドリーな性格で男女からの人気が凄まじい有名人だ。

因みに『彼女にしたい女性ランキング』と『彼女になりたい女性ランキング』五回連続1位の覇者。

 

 

「まぁ、有名人だしね。どうしたの?」

 

「その⋯小鳥遊 弾君って知ってる??」

 

「え?」

 

 

ガタンっ!!という音と共に講義室中の男女から刺さるような視線をぶつけられる。

いやいや、そんな目で見られても困る⋯。しかしヤバイな⋯とても可愛らしくて目が潤うんだけれど、その微妙に赤面しながらモジモジするのを止めて頂ければとても助かります。

 

 

「⋯僕だよ。」

 

「え、そうなの!?な〜んだ、探す手間が省けたよ♪」

 

「あっはは⋯そりゃ良かった。」

 

 

松浦さん。後ろにいるその悲しい目をしたモアイ像みたいな顔の友人に、どうか裏拳をかましてやって欲しい。一応付き合いは長いんだから言いたいことは分かってるんだよ。

 

『松浦さんと何をした⋯いや、ナニをした?』っていう目だ。

 

言っておくけど、本当に僕はこの子に声を掛けられる事をした覚えはないんだぞ?

 

 

「それで、結局僕に何か用かな?」

 

「いや〜⋯私っていうか、私の友人が⋯。」

 

「友人?一体誰⋯が⋯。」

 

 

特徴的な髪型の金髪女子。

遠くからでも見える気品ある立ち振る舞い。

あぁ⋯神様⋯。貴方はどこまで僕の生活を掻き乱せば気が済むのですか⋯!!

 

 

「ま⋯鞠莉⋯」

 

「だぁぁぁぁぁあああああんっ!!!!♡」

 

「ぐっはぁっっ!!」

 

 

相変わらず僕の言葉に耳を傾けてはくれないみたいだ。全力疾走からのラグビー部顔負けタックルを食らった貧弱少年の僕は、鞠莉ごと通路を挟んで隣のテーブルまで吹き飛んだ。

どっからこんな力が出てくるんだ⋯てかいちおうお嬢様でしょうが!!

 

 

「もう、探したんだから〜!!」

 

「げふっ⋯鞠莉、何で⋯。」

 

「あれ、私言ってなかったっけ?同い年だって。」

 

「それは聞いたよ⋯それだけで同じ大学だなんて分かるわけないでしょ?」

 

「Oops⋯それもそうね。」

 

「こら!私じゃないんだからそんなに勢いつけたら危ないでしょ?」

 

「いつもの癖で☆ダイヤは?」

 

「ゼェ⋯ハァ⋯!!鞠莉、さん⋯急に走り出すなんて、何考えて、ますの⋯!ゲホッゲホッ!!」

 

 

ダイヤと呼ばれた女生徒は、講義室の入口に手をついて立っていた⋯けど、あれギリギリだよね⋯。

 

黒澤ダイヤ。

松浦さんと並ぶ人気生徒だけど、性格が厳しくて結構ズバズバ言っちゃうタイプらしい。でも男子が前叫んでたよな⋯『ありがとうございますっ!』って。

 

 

「⋯入る大学間違えたかなぁ。」

 

「?何か言った?」

 

「何も言ってないよ。どうしたのさ?」

 

「弾が居るか見に来たのよ!」

 

「⋯それだけ?」

 

「他に何があるの?」

 

 

⋯頭が痛くなってきた。

この子はとことんマズイ。お嬢様モードだと身体が痒くなるし通常モードだと身が持たない⋯まさに台風のような子だ。

 

 

「ほら、目的果たしたから帰るよ?」

 

「え〜、良いじゃないちょっとぐらい。」

 

「弾さんにも迷惑がかかるでしょう!いいから行きますわよ!」

 

「またね、弾!」

 

「あ、はい⋯松浦さん。」

 

「果南で良いよ。さん付けだとなんか他人行儀みたいだしさ。ついでにダイヤも呼び捨てにしちゃえ♪」

 

「はぁっ!?⋯まぁ鞠莉さんの友人だというのなら、好きに呼んでもらって構いませんわ。」

 

「チャオ〜弾!また⋯あ・と・で・ね?☆」

 

「あっはは⋯じゃあね、果南、ダイヤ⋯鞠莉。」

 

 

嵐は過ぎ去った。

残ったのは体の痛みと疲労感⋯それから⋯。

 

 

「弾⋯テメェ⋯!!」

 

「小鳥遊君狡いよ!あの3人とあんなに親しげに⋯!」

 

 

友からの熱烈な視線(殺気)だね。

 

 

「待ってくれ⋯一回話し合おう皆。」

 

「問答無用だこの野郎⋯!!」

 

「せめて鞠莉の事を教えてくれ!他の2人は知ってるけど鞠莉だけは本当に分かんないんだって!」

 

「小原さんってあれだよね?松浦さんと黒澤さんの2人と一緒に居て⋯淡島にあるホテル経営してるんだよね?」

 

「なんか凄いお金持ちって話だもんね〜。良いなぁ!私もお金持ちになりたい〜!!」

 

 

⋯淡島ホテル。あぁ、そっか。小原グループの娘だったのか⋯。なら尚更僕とは住む世界が違うかはずなのに、何で彼女は僕に構ってくるんだろうか。

 

 

「聞きたいことはそれだけか?」

 

「あぁ、ありが⋯とう⋯。」

 

 

目の前に広がるのは、いつの間にか距離を詰めてきた男女の集団。ギラギラと嫉妬の炎を滾らせて、あるものは拳を鳴らしながら⋯あるものは微笑みながら⋯。

 

あ、これ詰んだ。

 

なんとも理不尽な復讐と共に、僕が人生で1番コチョコチョされた日だった。

 

 

 

 

 

 

「死ぬかと思った⋯。」

 

「お疲れだね弾君。」

 

「マスター⋯お疲れですよ⋯。」

 

 

全てが終わって開放された後は、既に講義が全て終わっていた時間だった。何時間やられたんだろうな僕は⋯。

間違いなくコチョコチョされた時間と一度に相手した人数ではギネスブックに乗るレベルだろう。

噂を聞きつけた別のコースの連中まで来るとは思わなかったし⋯。

けど暫くは大丈夫だろう。鞠莉は分からないが、果南やダイヤがそんな頻繁に僕と関わるわけ⋯。

 

 

「弾〜来たわよ〜!」

 

「へぇ⋯なんか落ち着くね♪」

 

「まだこんなお店が内浦にあったなんて⋯。」

 

「忘れてたぁあああああっ!!!!」

 

 

僕の馬鹿っ!あの3人がいつも一緒なのは聞いてたじゃないか!鞠莉が来たら皆来るに決まってるじゃないかぁっ!!

 

 

「あ、弾だ。」

 

「ウェイター似合ってますわね。」

 

「当然じゃない!」

 

「⋯何で鞠莉が威張るんだよ。」

 

 

大学もバレた。バイト先もバレた。

僕に安息の地は無いらしい⋯。はぁ⋯腹括るか⋯。

 

 

「いらっしゃいませ。3名様ですね?」

 

「YES!!」

 

「ではこちらへどうぞ⋯因みにご注文は?」

 

「珈琲3つお願い♪」

 

「マスター、また3つお願いします!」

 

「はい、了解。」

 

「あ、あとサンドイッチもよろしく〜☆」

 

「⋯か、かしこまり、ました。」

 

「顔、引き攣ってますわよ?」

 

 

再び厨房でサンドイッチを作った僕は、横目で3人の事をチラリと確認する。何だか楽しそうな雰囲気でお喋りしたり珈琲を飲んでいるけど、小原グループのお嬢様と仲が良いってことはそれなりに他の2人も裕福だったりするのかな⋯。

 

 

「弾〜?」

 

 

おっと、お客様に呼ばれてしまった。作り終えたサンドイッチを持ち、テーブルへ向かう。

 

 

「どうしたの?あ、これどうぞ。」

 

「あぁゴメンね。え⋯普通に美味しい⋯。」

 

「なんか意外ですわね⋯。」

 

「はっはっは、褒めてる?ディスってる?」

 

「褒めてる褒めてる。」

 

「⋯さて、何か用があったんじゃないの?鞠莉。」

 

 

鞠莉は、普段見る事の無い真剣な表情で僕の顔を見つめてくる。

 

 

「ねぇ、弾。私のシェフにならない?」

 

「⋯は?」

 

「私の所で働いたらお金には困らないし、私達も貴方のサポートをするわ。勿論このお店だってね。どう?悪い話ではないと思うけれど。」

 

 

お嬢様のシェフになる。つまりこの子は、『金』の力で僕から今の日常を奪おうとしている。

確かに生活には困らないかもしれない⋯だけど。

答えなんて考えるまでも無い。

 

 

「お断りだよ。」

 

 

普段よりも強い口調で彼女に言葉をぶつける。静かな怒りを込め⋯『ふざけないでくれ』と。

そんな僕の言葉に怯むことなく、彼女は見つめてくる。

それ以外には何もしない、何も言わない。

それでもその瞳は、僕に答えを求めてくる。

 

なら言ってやろうじゃないか。

 

 

「僕はこの空間が好きだ。この時間が、日常が好きだ。それを誰かに奪われるなんて耐え難い程に。それを君は奪おうとしてるんだよ?」

 

 

鞠莉は何も言わない。

 

 

「悪いけど、君の道楽に付き合うだけの理由は無い。」

 

「弾。」

 

「僕は⋯金持ちが大嫌いなんだ。」

 

「弾っ!!」

 

 

さっきまで座って話を聞いていた果南に胸ぐらを掴まれる。

強い怒り。それは僕の金持ち嫌いなものよりも遥かに強い事だろう⋯大事な友人を馬鹿にされたんだから。

 

 

「それ以上鞠莉の事悪く言わないで⋯!」

 

「果南、どうどう。」

 

「私は馬かっ!」

 

「あら、ポニーテール付けてるんだから違うの?」

 

「お止めなさい2人とも。鞠莉さん⋯つまらない演技はそれくらいにしておかないと、収まりがつきませんわよ?」

 

『え?』

 

 

思わず果南とハモってしまう。

ダイヤは『演技』と言った。どこから?何の為に??

小原鞠莉という掴めない少女に、僕の思考回路はぐちゃぐちゃにされていく一方だ。

鞠莉は黙って僕に顔を近づけてくるとクスリと笑った。

 

 

「やっぱり、マリーの思った通りね♪」

 

「な、何⋯が?」

 

「普通の人がここで出す答えは、『はい』か『Yes』なのに貴方はそうしなかった。それどころか、嫌われちゃうぐらい怒っててちょっと怖かったわよ。」

 

「⋯それはゴメン。」

 

「でも思った通りの人だった。ねぇ弾⋯やっぱり私の勘違いなんかじゃない。その強い目を見たことがある。私達は、何処かで会ってるわ。必ず(・・)。」

 

 

記憶なんか無かった。小原鞠莉という少女の名前を初めて聞いた。これは間違いない。

けどもし⋯初めて聞いたのが名前だけだったら(・・・・・・・・)

彼女が発した『必ず』という言葉は、僕にとっては不確かなものの筈なのにえらく信憑性があった。

 

 

「⋯分からない、よ。」

 

「そう⋯ならいつか思い出せたらいいわね。サンドイッチ貰い!!」

 

「こら、行儀悪いですわよ!」

 

 

さっきまでの張り詰めた空気は何処へやら、またいつも通りの緩やかな女子大生トークが始まる。

果南だけは、まだ戸惑ってるようだけど。

 

 

「果南⋯ゴメン。鞠莉の事悪く言いすぎた⋯。果南にとっては親友なのにね。」

 

「ううん、私もカッとなっちゃったし⋯ビックリしたでしょ?」

 

「まぁちょっとビックリしたけど、近くで見たらやっぱり綺麗だなぁって⋯。」

 

「へ?///」

 

 

そりゃあどんな理由があったとしても男女から圧倒的支持を持つ果南の顔があんなに近くに来たら、見るしかないじゃないか。ていうか、この3人スペック高すぎない?

果南はプルプルしてるけど⋯。

 

 

「あ、弾。しゃがんだ方が良いわよ?」

 

「え?」

 

「綺麗⋯綺麗⋯うぅうううもうっ!!///」

 

 

振りかぶられた右手は、何故か僕の左頬を通過点として反対側に振り抜かれた。

パッシィンっと言う乾いた音とともに、僕は店内で倒れ込む。

 

⋯首、付いてるかな。

 

 

「どうどう、果南♪」

 

「だから馬じゃないっ!!///」

 

「ゴメンね弾、果南ってばカッコイイは大丈夫なのに女の子扱いされるのに耐性0なのよ。こ〜んなに可愛いのにね〜♡」

 

「うるさい///⋯サンドイッチ美味しい。」

 

「ちょっとすみません、ルビィから連絡が来たので迎えに行きますわ。」

 

「あらそうなの?」

 

「る、ルビィ⋯?宝石?」

 

「ダイヤの妹。」

 

 

なんていう宝石姉妹。きっと姉に似てさぞかし美しい事なんだろうな。

ダイヤだって黒髪ストレートロングが似合うし、着物を着たら大和撫子に早変わりするんじゃないだろうか。

 

 

「⋯ダイヤにそんな理想描かない方がいいわ。」

 

「え⋯てか心読まないでよ。」

 

「それでは失礼致します。⋯ルビィイイイ!!今お姉ちゃんが行きますわぁああっ!!」

 

「ダイヤ、重度のシスコンだから。」

 

「Oops⋯。」

 

 

僕の中で勝手に思い描いていた理想の何かは、さながらビルの爆破解体工事のように崩れ去った。

スペックが高くて3人共美人。傍から見たら羨ましがられるかもしれないが⋯。

 

 

「⋯全員癖が強すぎる。」

 

 

 

とてつもないメンバーに目を付けられた自分の運の悪さを呪いながら、何故か残った2人と珈琲を飲むのだった。




果南ちゃんに乙女耐性は無い。(確信)

久々に好き放題やらせてもらってますが楽しいですね。
いよいよ次からはマンツーマンです。

次回、『03.塩と砂糖を間違えないで』
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