最初はハイペース投稿に定評のある、なちょすです。(自称)
いかに妄想をこじらせているか分かってしまいますね。
それでは⋯わたシェフ第3話、どうぞ!
ダイヤが帰った後、果南もそろそろ用事があるとか言って帰ることになった。どうやら淡島のダイビングショップをいずれ継ぐ為に働いてるが、そろそろ最後の定期便が出るとか。
⋯なら僕の隣にいる彼女は何故まだここにいるんだ。
「あ〜落ち着くわ⋯。」
「鞠莉は良いのかい?定期便そろそろ無くなるんでしょ?」
「あら、私淡島に住んでるって言ったっけ?」
「有名人だからね。耳にも挟まるさ。」
「今日は良いのよ。だって弾の家に泊まるから♪」
「あぁ、そういう事なら安心⋯は?」
この金髪は今なんと?泊まる??誰が?
事前にそんな話をした覚えもなければ聞いてすらいない。
「本気で言ってる?さっき僕は君に大嫌いだって言ったばかりの人間だよ?」
「さっきはさっき。私、過ぎたことなんて気にしないタイプなの☆」
「そうですか⋯。でも僕まだ仕事が⋯。」
「ここで待たせてもらうわ。マスターの許可も貰ったし!」
「いつの間にっ!?」
「だってね〜?」
「私とマリーちゃんの仲だもん。」
『ね〜♪』
⋯忘れよう。
それから30分ぐらい仕事をしたが、幸か不幸かお客さんは2~3人程で済んだから片付けは割と早めに切り上げることが出来た。
さて、ここからが正念場⋯。鼻歌を歌いながら隣を歩く
部屋は掃除してある。
服も散らかってなかったはずだ。
何故か友人が置いていったアダルティーな雑誌やDVDも、僕の部屋の隠し場所に置いてある。
むしろあれが見つかると一番不味い。
「弾?考え事??」
「へ?あ、いや明日休みだから何しようかな〜って⋯。」
「あら、そうなの?マリーも明日はお休みデース☆」
「わ〜マジか〜(泣)」
あっはっは!!もうどうにでもなれぇっ!!
そんなやり取りをしてるうちに、一人暮らしをしているマンションへと着いてしまった。
そんなに大きく無いが、家賃が安いのと内浦~沼津間の丁度中間くらいに立つマンションだから僕にとっては立地が良かった。
「何も無いけど、取り敢えずゆっくりしててよ。先にご飯作っちゃうからさ。」
「弾1人に任せるのなんて悪いわよ。私にも手伝わせて。」
「えっ。」
「あ、今また『お嬢様なのに?』って顔で見たでしょ!ムキーッ!!絶対美味しいって言わせてみせるんだから!!」
口でムキーッて言う人初めて見た。
「じゃあ簡単なスープくらいなら任せるからお願いしていいかな?」
「It's so easy!シャイ煮を作ったマリーに不可能はありません♪」
「シャイ煮って何⋯。」
取り敢えず意気込みは大丈夫そうだから僕もサラダとか軽めに食べれるものを作ろうかな。
⋯よく考えたら、この部屋に女の子呼んだの初めてじゃないか?しかもスペック高い系女子と一緒に料理を作る⋯皆には内緒にしておこう。僕の命がいくつあっても足りやしない。
楽しそうに隣で鼻歌を歌う鞠莉がグッドサインを出したので、夕食にする。
「あの⋯鞠莉さん。」
「What?」
「僕は軽めのスープ頼んだよね?」
「そうよ。マリーの自信作なんだから!」
「⋯なんで紫なの?」
目の前に出されたスープは、強いて言うなら混沌。スープのスの字も見つからないし、あったとしてもそれは『すまない⋯スープになり損ねた⋯』っていうこの液体からの謝罪の気持ちだろう。
そして僕は、これを今から飲むんだ⋯。
じんわりと流れ出る汗は、きっとスープの熱気じゃあ無い。目の前でキラキラした目で期待を寄せる女の子からのプレッシャー⋯!
「⋯骨は拾ってもらおう。頂きます!」
スプーンで一口分掬い、口の中へと運ぶ。
死を覚悟していた僕を待っていたのは、コンソメの風味と野菜の旨みだった。
っていうか美味い。普通に美味い。
「どう?どう??」
「⋯美味しいよ。不本意ながらねっ。」
「ふふん、当然デース!⋯不本意って何よ。」
「いや、どう考えてもこの見た目でこの味は想像出来ないでしょ!」
「分かんないわよ!私が作ると全部色が変わるんだから!!」
「何そのスキル!?」
とんだ才能を持ち合わせているみたいだ。いやでも⋯紫かぁ⋯。
ナス⋯は入ってないし紫の着色料も家には無い。
何だこれ⋯何だこれ⋯。
「ん〜⋯弾の料理って何度食べても美味しいわね!やっぱり私のシェフにならない?」
「その話は断ったでしょ。」
「違う違う。私に料理を教えて欲しいのよ。」
「え?何でまた⋯。」
「⋯大事な人に喜んで食べてほしいからかしらね?」
そう言うと鞠莉は、普段見せないようなどこか優しい目つきになった。それが誰の事を指してるのか僕には分からない。
まぁ鞠莉ぐらい美人なお嬢様なら縁談だとかそういう話があってもおかしくはないのだろうけど⋯。
「⋯かなり時間かかるよ?」
「そっちの方がありがたいわ。」
どれだけ拒んでも、どれだけ距離を置こうとしても、彼女は決して諦めない。もう断れる気はしなかった。
「はぁ⋯分かったよ。僕の負けだ⋯。」
「イェーイ!!☆じゃあ早く食べちゃいましょ!明日から早速頑張るんだから!!」
夕食を食べた僕達は、取り敢えずお風呂タイムとなった。後から入らざるを得なかったことと、男子特有の単純な妄想のせいで落ち着いた入浴タイムにならなかった事は言うまでもない。
「鞠莉、そろそろ寝れるよ?」
「う、ん⋯。」
「鞠莉?おーい鞠莉さーん?」
リビングに戻ると、彼女はソファの上でうつらうつらとしていた。どちらかと言えば僕の方が疲れた自信があるが、誰だって眠気には勝てないだろう。
「取り敢えず布団まで運んで、僕はソファにでも⋯。」
「か⋯なん⋯。」
「え?」
「ダイ⋯ヤ⋯ごめ⋯ん⋯なさい⋯。」
服の裾を掴まれながらそう言われた。恐らく彼女は、声をかけた僕をあの2人だと勘違いしてるんだろう。
けど僕の目に焼き付いたのはその愛くるしい行動じゃない。普段の彼女からは想像のつかない表情、弱々しい力。
「泣い、てる⋯。」
涙。
鞠莉の頬を一筋の涙が零れ落ちる。
自分でも分からないけど、隣に座るしか出来なかった。自然と身体がそういう動きをとってしまった。
僕が座ったことにより、バランスを失った彼女はそのまま僕の肩に体重を乗せてくる。
繰り返される『ごめんなさい』という言葉。
僕は彼女の過去を知らない。
彼女も僕の過去を知らない。
そんな知らない事だらけの男女が一つの空間に居るこの光景を何と呼べばいいのだろう。
「何があったの、なんて⋯聞けないよな。」
僕らを繋いでるのは、料理を教える側と教わる側。
喫茶店で会った同級生。
それだけだ。それ以上でも以下でも無い。
なら無闇に人の過去に踏み入るのは野暮だし、それをするつもりもない。
お嬢様としての小原鞠莉と、普通の女の子としての小原鞠莉。
その笑顔の下にどんな苦労を隠してるか、僕に知る術は無いんだ。
「⋯何で僕はこんなに肩入れしてるんだろうな。僕等は住む世界が全く違う筈なのに。」
自分でも分からなくなってしまった答えから逃げる様に、彼女を寝室へと運んだ。
今日眠ったら朝が来る。
朝が来たらまた考えよう。
だから⋯。
「お休み、鞠莉。」
これは何かの間違いだって言い聞かせ、今だけはこのおてんば娘に挨拶をする事にしよう。
そうして僕はソファで新しい朝を迎えるために、睡魔に抗うこと無く意識を落とした。
◇
「重い⋯。」
眠気も覚めやらぬまま、身体に来る重みで目を覚ます。何だこの⋯何とも言えないリアルな重量は。と言うか僕の胸あたりから感じたことのない感触がする⋯。
「何だよもう⋯Oh,No⋯。」
まず視界に広がったのは朝日で黄金色に輝く髪の毛。
そしてチラリと見える謎の谷間。
⋯谷間。
昨日気づかなかったけど何で初めての男の家でそんな薄着でいるんですか、何で僕の上に乗っかって寝てるんですか、出来れば早く避けてもらえると誤解を生むような男としての生理現象が起きずに済むので避けていただきたいっ!!
「あ〜⋯鞠莉、鞠莉。」
「Zzz⋯⋯。」
「何故起きないっ⋯!」
不味い不味い不味い!タイムリミットが近づいている!こんな所で大学生活が終わってたまるものか!!
何とか起こさずに身体を⋯こう⋯!
「んふっ。」
「⋯⋯鞠莉。起きてるだろ。」
「Z⋯zz⋯。」
「リズム変わってるよ。」
「⋯スケベ♡」
「ふんっ!!」
「アウチッ!!」
輝かしい金髪にチョップを入れてやる。
「何するのよ!?」
「いや何してるんだよ!?」
「マリーからのモーニングサプライズよ。目は覚めた?」
「あぁ、お陰様でね⋯!」
「弾のリトル弾も反応を⋯。」
「おふざけもそこまでにしなね?」
「⋯ひゃい。」
彼女の頬をガッと掴む。
全く⋯油断も好きもあったもんじゃないな⋯。
「鞠莉⋯お嬢様とか関係無しに女の子があんまりそういう事しちゃダメだよ。」
「あら、いくら私でもそんなに軽い訳じゃないわ。」
「え?」
そう言うと彼女は僕の上から降りて、くるりと翻る。
「何でかしらね。弾だから安心するのよ♪」
胸の辺りがズキンと痛む。
こんな感覚⋯僕は知らない。今まで生きた中で初めての痛みだ。
夜の事があってから、僕の分からないことが連続して起きている。いや、違うな⋯。
僕は、『鞠莉』と出会ってから何かが変わってきている。
「⋯だん⋯ねぇ、弾ってば!」
「あ⋯何?」
「何?じゃないわよ。ボーッとしちゃってたけどどうしたの?」
「⋯まだ寝惚けてるのかも。ちょっと顔洗ってくるよ。」
洗面台の前に立ち、冷たい水で顔を洗う。いつもと変わりない自分の顔が映っているだけだ。
人はそう簡単には変われない。僕は僕だ。鞠莉には料理を教えるだけ⋯それだけだ。
「お待たせ。さ、朝食をぱぱっと作っちゃおう。」
「よろしくね、シェフ?♪」
「はいはい⋯。じゃあ軽めにサラダとベーコンエッグでも作ろうか。野菜を切ってもらえるかな?」
「任せなさい!マリーに不可能は無いわ!」
「昨日それ聞いた後にスープが紫になったんだけどなぁ⋯。」
取り敢えず包丁を持たせて野菜を切ってもらうと、すぐさまストップをかけざるを得ない状態に陥った。
「待って待って、左手が危ない。せめて指を丸めて?」
「こう?」
「もっと猫っぽく。」
「にゃあ♪」
「うん、それでいいよ。」
「無反応だと私やり損じゃない。」
無反応なものか。
不覚にも日本文化特有の『萌え』というものをこのお嬢様に感じてしまったんだから、これでも精一杯隠してる方なんだよ。
調子狂うなぁ⋯。
「痛っ!」
「あちゃ〜、切っちゃったか⋯1回水で洗って絆創膏貼ろうか。ストックは大量にあるし。」
「何でそんなに持ってるの?」
「鞠莉が絶対切ると思ったから。」
「くっ⋯弾に読まれるなんて不覚っ!」
「慣れてないのに包丁が近すぎるんだ。包丁も斜めになっちゃってるから、もうちょっとまな板と直角になるぐらいで⋯。」
「この辺かしら?」
「ん〜⋯もっとこう⋯あぁ、もう。」
「あ⋯。」
鞠莉を後ろから包み込む感じで、両手を支えてやる。
危なっかしくて見てるこっちがドキドキしてくる⋯。
「左手はこの辺で、包丁はこう。そしたら、ゆっくりでいいから落ち着いて切ってみて?」
「う、うん。」
「そう⋯そんな感じ。何だ、上手いじゃないか。」
「⋯⋯。」
「鞠莉?」
自分の手を見つめる彼女は、眉間にシワを寄せ何やら唸っている。また何処か切ったんだろうか⋯。でも怪我をしてる感じじゃないし⋯。
「ねぇ弾⋯私病気かも」
「はい?」
「何かこう⋯胸がキュッてしたのよね⋯。」
「⋯何だいそりゃ。」
その答えを僕は知らない。
だから答えを教えることは出来ない。
もしそれがさっきの僕と同じ症状だとしたら、僕達は同じ病気にかかっている。
お互いが名前も知らない病。
その筈なのに。
「何、かしらね⋯。」
鞠莉、どうして君は悲しげなのさ。
「さ、もう少しで出来るからもうひと頑張りよろしくね。」
「OK。あとは大丈夫よね、きっと。」
「大丈夫でしょう、きっと。」
「じゃあテーブルの準備しておいて貰えるかしら?そっちに持っていくわ。」
「1人で大丈夫かい?」
「ふふっ、流石にバカにしすぎだってば。」
意外と器用に皿の上に盛り付けられたベーコンエッグは、昨日の混沌スープを作った人間から作られたとは考えられない程普通の料理になった。
「じゃあ食べようか。頂きます⋯うっ。」
「頂きマース!あ〜ん⋯Oops⋯。」
おかしい。僕等はベーコンエッグを食べたはずだ。どっからどう見たって見た目はベーコンエッグにしか見えないじゃないか。
ショートケーキやマカロンを食べてるわけじゃないんだから、こんなに『甘さ』を感じるわけが無い。
考えられるのはただ一つ。
「鞠莉⋯塩と砂糖を間違えたでしょ。」
「Sorry⋯今回は素直に謝るわ⋯朝からスイーツはとってもHeavyね⋯。」
「昼にまた練習だからね?」
「善処します⋯。」
塩コショウならぬ砂糖コショウでいっぱいだったベーコンエッグを、ただただ黙々と食べ続ける大学生の姿がそこにはあった。
見た目を捨てて味に特化する。
味を捨てて見た目に特化する。
そのどちらかを作り出す女、それが小原鞠莉。
はい可愛い。
R-18にはならないよう上手いことやります。
次回、『04.小鳥遊 弾は二度死ぬ.』