右手を負傷した、なちょすです。
何故か知らぬ間に仕事で痛めてましたね〜⋯とっても骨が痛い♡
それでは⋯わたシェフ第4話、どうぞ!
僕の前に広がるのは、目を覆いたくなる程の惨状。
様々な液体が飛び散り、ここはどこかの処刑場かと思ってしまう程の状態だ。
僕と果南、それからダイヤは、これから激しい拷問を受けるのだろう。
下手をすれば、命を失いかけない。
目の前には、この惨状を生み出した少女が1人、楽しそうな目をして僕達の事を見てくる。
⋯全ては僕の責任だ。
「鞠莉。」
「何?」
「僕が生きてたら、後で作り方教えてね。」
目の前のテーブルの上には、青色の冷やし中華、紫のスープ、緑色の肉じゃがの様な何かと散乱する肉達。
これを処刑場と言わずして何と言うんだ。
むしろどうやったんだ⋯!!
鞠莉の要望で、昼から2人を呼んだ⋯いや、ほぼ勝手に呼ばれたのだが、2人も呼ばれてしまったことに対する絶望で顔を俯けている。
そりゃそうだよ⋯『ご馳走するから☆』って言われた矢先、出てきた料理がこれだもの⋯。
「さ、召し上がれ♪」
「⋯本当に、食べるの?これ⋯。」
「というか、食べれるんですの⋯?」
「多分⋯昨日出てきたスープも紫だったから⋯。」
いつまでも拮抗しているわけにもいかない。僕等3人は目を合わせ、死を選んだ。
3人一斉に口へと運び、各々が言葉を漏らす。
「な、何で⋯。」
「これが⋯?」
「美味しいんだっ!!」
「変なとこで息合わせないでよ!?」
悔しいけど普通に美味しい。もう彼女はこの路線でいけばいいんじゃないだろうか⋯。
いや、教える側としての意地もある。普通に料理したら見た目はえげつなくても味はしっかりしてるんだから、どこかで修正すればいい。
そのどこかが分かんないけど。
「あれ、こっちに普通のもあるじゃん。」
「ふふ、それもマリーの自信作!召し上がれ!!♪」
「え、ちょっ⋯!」
「待ちなさ⋯むぐっ!!」
果南とダイヤの口に煮物を突っ込む鞠莉さん。あれは僕も食べてないけど⋯2人がぷるぷるしてる時点で大体想像はつく。
「⋯鞠莉。それ味見した?」
「してないわよ?」
「⋯っ!っ!辛いっ!辛い辛い辛いっっ!!!」
「何で煮物が辛くなるんだよ。」
「水!弾、水どこ水ーーー!!」
「はい、どうぞ。ダイヤは⋯。」
震えて涙目になりながら口元を抑えている。
その辺は彼女の礼儀正しさもあるのだが、時と場合を考えた方がいいかもしれないよ?
「その⋯大丈夫?」
「⋯ふーっ!ふーっ!」
「じゃないよね。はい、水。」
ダイヤは水を受け取る際、涙目になりながら右手の親指で首を切る動作をした。
大分ご立腹の様ですね⋯。
てか、僕に飛び火してこないよね?一応朝からの被害者だからね?
「もう、2人共大袈裟よ〜。実はそんなに辛くないんで⋯。」
小原シェフの顔がどんどん赤くなっていく。
次の台詞はこうだろう。『弾、水っ!!』
「弾、水っ!!」
「はい、どうぞ。」
「んぐ⋯んぐ⋯ぷはぁっ!誰よこんなの作ったの!?」
「貴女でしょうがっ!!」
「にしても大分材料消費しちゃったなぁ⋯。ちょっと買出しに行かなきゃ。」
「あ、じゃあ私達も手伝うよ。」
「鞠莉さんが作るとどれだけあっても足りない事は重々承知致しましたので⋯。」
「助かるよ⋯本当に。」
人手が多いと一度に買い溜め出来るから、多いに越したことは無い。まぁその材料もたった1人の料理で消費されるんだけどさ⋯。
「ねぇ。」
「どうしたの鞠莉?」
「1人だけ煮物食べて無い人居るんじゃない?」
「あぁ⋯。」
「居ますわね⋯。」
「え?このタイミングで?今自然に食べない流れだったよね??」
「まぁまぁ♪」
「良いじゃない☆」
「さ、口を開けてください?」
「い、一旦落ち着こう?話せば分かるって⋯!」
『開けて??』
あぁ⋯死んだな。
「辛ぁぁあああああっ!!!!」
◇
「口が痛い⋯。」
買い物を済ませた店の前でごちる。何で僕だけ水を渡されなかったのか未だに解せないよ。
隣では果南とダイヤが大学の事を話してるし、あの料理を作った本人の鞠莉は少し用事でまだ店の中に居る。
自分でも思うけど、このメンツで買い物に来ているっていう現実が余りに不思議だ。
出来れば同じ大学のメンバーに見つかって欲しくないけど⋯。
「あれ〜?もしかして弾くんかな??」
心臓が、強く鼓動する。
聞き覚えのある声。
ねっとりしたこの話し方。
大学のメンバー以上に⋯出来る事なら一生会いたくなかった男。
「久しぶりじゃないか弾くん♪」
「弾、知り合い?」
「⋯人違いじゃないかな。店内に行こう。」
ここには果南も居る。ダイヤも居る。だからこそ関わらない。
こんな下らないことに巻き込むべきじゃない⋯。
「あれ?あれあれ?まさか忘れちゃった?『実家の話』でもすれば思い出すかい??」
そう思っていたのに⋯僕はコイツに対する煽り耐性が0だったらしい⋯!!
「忘れるわけ、ないだろう⋯!何しに来たんだ秋山っ⋯!!」
秋山。
高級なジャケットを着て革靴を履き、SPに守られているいかにもなボンボンのお坊ちゃんだ。
そして⋯僕の日常を、家族の夢を殺した男。
「思い出してくれたようで嬉しいよ、弾くん♪」
「答えろ⋯何しに来た⋯。」
「せっかちだな〜⋯懐かしい顔が見えたから挨拶に来ただけじゃないか?」
「僕は2度と見たくなかったよ。その趣味の悪い髪型も、その顔も⋯!」
「⋯減らず口は相変わらずだね。」
「どっちがさ。」
「女の子を連れてお出掛けなんていいご身分だね。実家のお店はもういいのかい?」
「⋯秋山。今すぐ僕の前から消えてくれ。」
「あぁ、そう言えば僕が買ったんだったね!」
「⋯っ!お前はぁっ!!」
「弾っ!!」
このニヤケ面をぶん殴る直前、果南の声で身体が止まる。
「女の子の声で止めちゃうなんて、半端だね〜。いいかい弾くん。人を殴る時っていうのはね⋯こうやるんだよっ!!」
「ぐっ⋯!」
「弾さんっ!!」
「ちょっと!いきなり何してんのさ!!」
口の中に鉄の味が広がる。
今はコイツに何を言われても耐えるんだ。これはコイツと僕の問題。
固く拳を握りしめる。
爪が刺さり、手の中に血が滲もうが⋯例えどれだけ殴られようが、後ろの2人にだけは害を及ばせない。
絶対に。
「何だいその目は?」
「⋯別に?相変わらず守られてなきゃ何も出来ないお坊ちゃんだなって思っただけだよ。身体が痒くてしょうがない。」
「⋯ふん。帰るぞ。」
黒服のSP達を連れて、ようやく秋山は僕の前から立ち去った。
握りしめた拳を緩めると、指がベットリと粘つく。予想通り手の中には血が滲んでいた。
「弾!大丈夫!?」
「取り敢えずこれで拭かないと⋯!」
「大丈夫。僕は平気だから。」
「弾⋯?」
立ち上がり、振り返った僕の後ろにいたのは、用事を終えて合流した鞠莉だった。
「怪我してるじゃない!手も血が出てるし、一体何が⋯。」
「⋯何でもないよ。」
身体が痒くなる。初めて会った時と同じだ。
僕の身体は、裕福な家庭である彼女に反応している。
認めたくない。
そんな初めの頃とは違う考えをしている自分が変だ、なんて思わなかった。
鞠莉は、秋山とは違う。絶対に違う。
そんな僕の意志とは裏腹に心臓の鼓動は早くなっていき、怒りが爆発しそうだった。
「何も無いわけ無いじゃない!ねぇ弾⋯。」
「頼む、鞠莉。せめて家までは待ってくれ⋯僕も自分でおかしくなりそうなんだ⋯!」
もう鞠莉の顔も直視出来ない程に、限界だった。
訳の分からない感情がグルグルと胸の内で回っている。
身体は熱くなり、血塗れの手をもう1度握らなければ僕は僕を抑えられない。
「⋯弾。」
「え⋯?」
後ろから、鞠莉に抱き締められる。
さっきまでの破裂しそうな勢いの心臓の鼓動は、まるで何かの間違いだったかのように落ち着きを取り戻していく。
「鞠莉⋯何、で⋯。」
「⋯見てられないのよ。あなた、今まで見た事ない顔してるんだもん。」
「⋯そんなに?」
「そんなに。無理に、とは言わないわ。でも、私は貴方のことが知りたい。貴方がどうしてそんなに怒ってるのか、何でそんなにお金持ちの人を嫌うのか、教えて欲しいの⋯。」
「⋯面白くは、無いよ?」
「分かってる。貴方にとっても辛い事だって事。その代わり私も教えてあげるわ⋯『浦の星』の事。」
「鞠莉っ⋯!」
「鞠莉さん、それは⋯。」
「良いの。弾から聞いてばっかりじゃフェアじゃないもの。」
「浦の星⋯?」
鞠莉は僕の身体から離れ、静かに呟く。
「私の過去を、教えてあげる。」
なちょすです。
私が名前付きのモブを出した時は、何かしら役割がありますよ〜。
今回から出てきましたが、凄い小物臭たっぷりですね。
次回、『05.忘れたい事、忘れちゃいけない事』