Il mio chef 〜僕と令嬢と喫茶店〜   作:なちょす

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皆さん、こんにチカ。
シャンパンタワーを盛大に壊してみたい、なちょすです。

スランプです。

それでは⋯わたシェフ第5話、どうぞ!


05.忘れたい事、忘れちゃいけない事

秋山の件があってから、皆で一度家へ戻ってきた。

自分の面白くない過去を自分から誰かに話すなんて初めてだ⋯。

 

 

「これから僕が話すのは、良くある話だと思う。それから、言葉によっては鞠莉を傷つけるかも知れない⋯それでも⋯。」

 

「もう、さっきからそればっかり!マリーのメンタルがタフネスハートなの知ってるでしょ?」

 

「鞠莉さん⋯関わりを持ってからそんなに時間が経ってないのに分かるわけないでしょう?」

 

「そうだよ。気にしないで続けて、弾。」

 

 

いつも通りで逆に安心した。

 

 

「僕の家は、自営業で料亭を営んでたんだ。町の小さな店で、そんなに繁盛してたってわけでもない⋯でも、常連さんは出来ていたし、皆店の雰囲気も料理も好きだって言ってくれた。小学生だった僕も、そんな自分の家が誇らしかったんだよ。」

 

 

今でもたまに思い出す。父さんと母さんの頑張る姿、お客さん達の話し声。店の暖かい空気⋯その何もかもが大好きだった。

 

 

「けど⋯そこに秋山がやって来た。ヤツと僕は、同じクラスの人間でね⋯その頃は金持ちが嫌いなんてことは無かったんだけど、昔から秋山とは反りが合わなくてさ。」

 

「逆にあの人と合う人間って居るの?」

 

「あぁ。クラスの大半はアイツの家の権力、財力⋯それに魅入られたんだ。けどそれは、ただの支配。アイツは自分より下の人間を付き従えて、トップになる事に何より喜びを感じていたんだ。だから僕は断った。それが、不味かったんだけどね⋯。」

 

「不味かった?」

 

「ヤツはしばらくしない内に父親を連れて店に来た。立ち退きと土地を買うと言う話を持って。」

 

「な⋯。」

 

「勿論父さんは断った。『ここは俺の夢だ。常連も居るし、その人達の居場所を無くすわけにはいかない』ってね。でも僕達の知らない所で話は進んでいって、ある事無い事噂話として立ち続けた家の店は結局潰されたよ。」

 

 

常連数人よりも一般客の方が多かった。そんな状態で変な噂を立てられたら、悪評が付くのは必然だ。

それが大手企業の社長なら尚更ね。

 

 

「家は借金に追われ、自分達の生活が成り立つ目処も無い。父さんと母さんはがむしゃらに働いたよ。それから2年経って⋯借金返済と同時に父さんは過労で倒れた。」

 

「弾⋯。」

 

 

思い出すだけで悔しくなる。やつれ切った父さんと母さんの顔⋯知らない内に僕はまた拳を握りしめていた。

 

 

「秋山はクラスの皆に、その事を全部話した。ただ返済した事は言わなかったから、僕はずっと借金まみれの家の子だって言われ続けた⋯店の悪評も消えることなんて無かった。ヤツに言われたよ。『大人しく下についてればよかったのに』ってさ。」

 

「何でそんな⋯。」

 

「見せしめよ。」

 

 

僕の代わりに鞠莉が口を開く。

 

 

「自分の力を示すために、従わない者は排除する。どんな手を使ってでも⋯典型的な貴族の楽しみ方ね。」

 

「あぁ⋯あいつはそういうヤツだ。だからこそ、僕はアイツを許さない。退院してすぐ、父さんが死んだ。母さんも何とか暮らしてるけど、何年も笑った顔なんて見ていない。秋山は父さんを、父さんの夢を⋯僕達の日常を殺したんだ。」

 

 

部屋の中に重苦しい空気が流れる。こうなることはなんとなく分かっていた。気を使ってもらえるのはありがたいけど、これは僕の問題だから皆に静かになられると困ってしまう。

 

 

「さ、これで僕の話は終わりだよ。聞いてくれてありがと⋯。」

 

「弾。」

 

「⋯鞠莉?」

 

 

彼女が抱き着いてくる。大学で突っ込んできた感じでは無い⋯優しく、包み込むかのように。

鞠莉の漂わせる独特な暖かい香りが、鼻をくすぐった。

 

 

「ありがとう、弾。」

 

「お礼を言われるようなことをした覚えはないんだけどな?」

 

「言いたくなっただけよ。さ、次は私の番ね!ここ座って!」

 

「あ、あぁ⋯いや、待ってくれ。たのむ、お願いだからちょっと待ってってば!ねぇ!」

 

「硬いこと言わなーいの。ダイヤになっちゃうよ?」

 

「喧嘩なら喜んで買いますが?」

 

 

座れと言われた場所はソファーの下。何を思ったのか、その後ろに鞠莉が座る。そして僕を両足で挟み込むようにして座り、後ろに倒そうとするんだ。

そんな事になってみろ、必然的に僕の後頭部は彼女のアルプス山脈にぶち当たる事になる。

それだけは避けなければ不味い。

 

 

「ぐぐぐ⋯か、果南⋯ダイヤ⋯!ヘルプ!!」

 

「諦めなよ弾。こうなったら鞠莉は止まんないんだ。」

 

「そうよ、私は止まらないの!だから素直になるのデース!!それに、ダイヤを見てご覧?」

 

「ダ、ダイヤ⋯?」

 

 

ちらりと横目で彼女を見る。キョトンとしていて正座してる姿がなかなか様になっているね。

耳元から胸がどうとか言う悪魔の囁きが聞こえるけど⋯一瞬ダイヤの胸元に目がいってしまった自分を恥じたい。

そんな事を考えてると、案の定制裁のビンタが飛んでくる。

 

 

「ハレンチですわ。」

 

「⋯そんなマジトーンで良くあんな強烈なビンタ出来たね。」

 

 

ぶたれた勢いで鞠莉の懐にすっぽり収まってしまった。もうどうにでもなればいいさ⋯

 

 

「さ、私の話だけど⋯。」

 

「ごめん鞠莉、話す前にせめて胸を頭に乗せるのだけは勘弁してくれないか?」

 

「乗せてるんじゃなくて乗るのよ。」

 

「⋯そうかい。」

 

「もういい?まぁ私のもなんてことは無いわ。浦の星⋯私達の居た高校なんだけどね。生徒数の減少で統廃合しちゃったのよ。」

 

「あぁ、沼津の高校と合併したのってその浦の星だったんだ。」

 

「そうよ。私も理事長として色々尽くしたし、果南やダイヤ⋯後輩達とスクールアイドルを組んで頑張ったんだけどね。でも駄目だったわ。」

 

「?理事長?鞠莉僕と同い年だよね?」

 

「高校3年生兼理事長。」

 

 

何だそれ⋯そんなのってありなのかな?何をどうしたらそんな権限を得られるんだよ。

 

 

「その頃からね⋯パパとあんまり仲良くなれなくなったのは⋯。」

 

「鞠莉⋯。」

 

「今もそうだけど、あの時はがむしゃらだった。絶対に学校を存続させて、皆の居場所を守るんだって⋯現実はそう上手くいくはずないのにね。それで知ったの。いくら裕福でも、お金だけや⋯想いだけで何かを守ることは出来ないんだって⋯。」

 

「鞠莉さん。」

 

「後輩達を、浦の星の生徒として卒業させて上げられなかった⋯何も、出来なかった⋯。」

 

「鞠莉さんっ。それ以上はお止めなさい。あれは誰かのせいにするものではありません。」

 

「そうだよ。皆で言ったでしょ?私達はあの日々が大好きだった。鞠莉が頑張ってくれなきゃ、もっと早くに廃校になってたかもしれないんだから。」

 

 

顔は見えないけど、頭の上に冷たいものが当たる。

 

 

「鞠莉⋯。」

 

「ダメ。」

 

 

顔を上げようとしたら、頭を抑えられてしまった。

昨日の夜、鞠莉が寝言で言ってた『ごめんなさい』。今でも彼女は、守れなかった自分の不甲斐なさと後悔に駆られている。

かける言葉は、見つからなかった。

 

勝手な想像だけど、金持ちな人間は出来ないことなんて無いって思ってた。欲しいものは望めば手に入る。

けど⋯違ったのかな。

 

 

「鞠莉。」

 

「なに?」

 

「料理、しようか。」

 

「え?」

 

 

後ろを振り返らずに立ち上がる。ダメって言われたら見れないし、見るつもりも無い。

けど、これが今の僕に出来る事なんだろう。どうしてか彼女達と居ると調子が狂ってしまう。

 

 

「弾。こっち向いていいよ。」

 

「本当に?」

 

「イエース!」

 

「じゃあ失礼して⋯。うん、大丈夫そうだね。」

 

「何よー。私は最初っから大丈夫ですー!」

 

「はははっ、そりゃ失礼しました。」

 

「あ⋯弾、笑った。」

 

「うん?面白かったら僕だって笑うさ。」

 

「私達と会ってから⋯初めて見た。ねぇ、弾。」

 

 

そう言うと、いつも通りの笑顔で彼女は口を開く。

 

 

「貴方、やっぱりそっちの方がいいわ♪」

 

 

その顔を見て、また自分の中で何かよく分からない感情が動き出す。それが何なのかは分からない。

でも⋯何でだろうな。

 

 

その見えない『何か』に、少しだけ近づけた気がした。




スランプに書くものじゃないと知りました。
あの⋯ズバッと言って貰って結構です。

自分でも何を書いたのかサッパリです。(困惑)


次回、『06.来訪、Guilty Kiss』
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