なちょすです。
小物、出る。弾、口が悪くなる。以上です。
わたシェフ第8話、どうぞ。
『痛い⋯痛いよ⋯何でこんなことするのさ!』
『君が僕の言うことを聞かないからだ。』
『そんなの、おかしいよ!』
『まだ分からないのか?ならもっと痛めつけてやる!』
『やだ⋯やだっ!!』
◇
「っ!!はぁ⋯はぁ⋯っ!夢、か⋯?」
月曜日の朝。窓の外では雨の音だけがなり続けている。この体にまとわりつく気持ち悪さは、寝汗をかいたとか、この雨の湿気のせいだけじゃない⋯。
夢を見た。子供が虐められている夢。虐めている方の顔も、虐められていた方の顔も思い出せない。知らない光景、知らないはずの光景⋯それが頭から離れない。
「弾⋯?大丈夫??」
「鞠莉⋯?」
「ずっとうなされていたけど⋯。」
「あ、あぁ⋯大丈夫だよ。ちょっと変な夢を見ただけだから。今何時?」
「朝の9時半。今日は大雨ですって。」
「そうか⋯何だかジメジメして気持ち悪いな。ちょっとシャワー浴びてくるよ。」
「⋯ええ、分かったわ。」
布団から出てシャワー室へ向かう。途中の洗面台で顔を洗おうとした時、自分の顔が青ざめていることに気づいた。目で見て分かるぐらいだから、鞠莉が気づかないはずがない。多分、気を使ってくれた⋯んだと思う。
シャワーを浴びて部屋に戻ると、ソファに座った鞠莉が窓から外を見つめていた。
外はどこまでも続く灰色の世界。
子供の頃、母さんが言っていた⋯雨が降るのは、誰かが泣いているんだって。
世界中で悲しんでいる人なんてざらにいるんだから、そうだとしたら毎日が雨だって思う。
けど⋯もしこの大雨が誰かの心が泣いてる証拠なら⋯今も悲しげな顔をしてる彼女なのか。
それとも⋯どこかにいる夢の中の少年だろうか。
「お待たせ。鞠莉はいいかい?」
「私は大丈夫よ。もう使わせて貰ったから。」
「ん、そっか⋯。隣、失礼するよ。」
隣に座ったものの、これといって会話は無い。
続くのは静寂と雨音だけだ。
こんな空気だから聞くってわけじゃないけど、どうしてか彼女に聞こうと思った。
悲しい顔の理由を。
「なぁ鞠莉。」
「んー?」
「その⋯無理に答えなくて良いんだけどさ。どうしてたまに悲しい顔をしてるんだ?」
「⋯⋯⋯。」
「あ、いや⋯本当に無理に答えなくていいんだ。ちょっと無神経だった⋯」
「大切な人の事、考えてるから。」
「え?」
今にも泣きそうな、弱々しい声でそう呟く。
「弾と居るとね⋯思い出すのよ。私が一目惚れしちゃった人のこと。でも、その人とは会えない⋯と思う。多分、その人は私の事を覚えてないから⋯。」
「鞠莉⋯ごめん。」
「何で弾が謝るの?話したくなったから話そうと思っただけよ。」
「⋯そっか。」
大切な人⋯それが誰なのか見当はつかないけど、鞠莉がこれだけ考え込むってことは相当な人なんだろうな。
けどさ⋯僕にだって分かるよ。
その笑顔が、虚勢で出来た偽物の笑顔だって事ぐらい。
また君は強がってる⋯1人でずっと何かと戦ってる⋯。
何故僕は気になってるんだろう。
どうして彼女を放っておけないのだろう。
何もかもが分からない。
いっその事、相手の気持ちが全部分かる能力でもついてればいいのに。
まぁ自分の事も分かってないのに、無理な話か。
「講義、午後からだっけ?」
「そうよ。だから暇してるの。」
「う〜ん⋯飯の時間にしては半端だしなぁ⋯。」
「なんか面白い話無いの?」
「鞠莉の料理って色が付くんだよ。面白くない?」
「へ、へぇ〜⋯それは面白いわね〜⋯!」
「ごめん、僕が悪かった!取り敢えずそのグーを下ろそ?ね??」
「全く⋯取り敢えずもうひと眠りしましょ。どうせ雨ですることないんだし。」
「おわっと⋯そこで寝るの?布団の方が⋯。」
「ここでいい⋯。お休み⋯。」
ソファの上で、僕に乗っかかるように寝てしまった。寝るの早いな⋯。
何にせよこれで僕は行動不能だ。起こすわけにもいかないし⋯。
「⋯昼前に起こしてやればいいか。」
結局、昼まで特にすることも無かったから携帯をいじっていた。なんて悲しい月曜日なんだ⋯。
時折動く鞠莉の頭や小さな手がかなりこそばゆかったけど、耐え切ってみせたぞ僕は。
「鞠莉、起きな。もういい時間だよ?」
「んむ⋯んぅ⋯何⋯?」
「おはようさん。そろそろ講義行く時間だろ?」
「⋯まだいけるわ⋯⋯Zzz⋯。」
「起きなきゃその寝顔を写メするよ?」
「良いわよ別に〜⋯。」
「本当に?涎の後付いてるよ?」
「っ!!///」
「ぐえっ。」
起きてくれるのは良いんだけどさ⋯一応人の上に居るってことを忘れないで欲しい。
肘が強烈にめり込んだぞ⋯。
「⋯見た?」
「It'sジョーク☆」
「いつからそんなに茶目っ気のある事が言えるようになったのかしらぁ⋯!」
「鞠莉と長く居た影響かな?似てたでしょ?」
「全っ然似てないわよ!?それだったら私の弾のモノマネの方が上手いわ!」
「初耳なんだけど。」
「い、いらっしゃいませ〜⋯!って変な顔して言ってたじゃない!」
「ぐっ⋯確かに言ったけど似てないね!てか、それを言うなら君だって、『いい所ね♪』なんてお嬢様みたいな事言ってたろう!」
「マリーはもっとcuteです〜!」
「僕だってもう少しマシだったさ!」
『ぐぬぬぬぬぬ⋯!!』
大学2年生がやってるのは子供の口喧嘩レベルの争い。どうやら、思ってた以上に僕達は似た者同士みたいだ。だからかな⋯こんなに膨れっ面でムキになってる鞠莉を見てると⋯。
「⋯ぷっ。」
「ふふっ⋯。」
『あはははははっ!!』
どうしようもなく可笑しくなってくるのは。
「さ、そろそろ時間だ。僕は後1時間くらいしたら出るから、先に行っててくれ。」
「ええ、分かったわ。帰ってきたらまた料理教えて頂戴よ?」
「分かってますよ、お嬢様。」
「それ禁止!もう⋯じゃまたね♪」
鞠莉が大学へ向かった後の部屋は、何だか静かだった。さっきまでの下らない口喧嘩も、全てが夢だったかのように思えてしまう。
元々ここには僕1人で、こんな雨の音をいつも1人で聞いていた。それが好きだった。
けど⋯。
「⋯誰かと居るのも、悪くないんだな。」
静寂に包まれた部屋の中に、携帯の着信音が鳴り響く。
着信相手は登録していない番号⋯こんな時間に1体誰だろうか。
「はい、もしもし。」
『やぁ。小鳥遊 弾君⋯で、良いよね?』
「お前⋯何で⋯!何で僕の番号を知っているっ!!」
『ひははっ!僕は君の事なら何でも知ってるんだよ。弾君?』
「秋山⋯!!」
予想だにしていなかった相手からの電話。この瞬間ほど自分の行動を悔いたことは無いだろう。
「⋯何の用だ。」
『んん?今日はいい天気だろう。だから君と遊ぼうかなって思ったんだよ。』
「っ!ふざけてるのか⋯!」
『僕はいつだって大真面目さ。君のことに関してはね?そろそろ君ともケリをつけたいと思ってるんだよ。』
「あぁ、そいつは良い⋯僕もお前に関わられるのはウンザリしてた頃だ⋯!」
『あっはははは!!君ならそう言うと思ったよ!なら今日の3時に⋯君の元実家に来てくれよ。』
元実家。アイツが潰した両親の店。今は解体待ちになっていて、中には資材や工事道具が置かれている『廃墟』だ。
アイツはここを指定してきた。僕を挑発するためだけに⋯!
「あぁ、分かったよ⋯全部終わらせてやるさ⋯!」
『理解が早くて助かるよ。あ、それと一つ言っておくよ。これは僕と君の
「へぇ⋯そういう所は相変わらずビビリなんだな。」
『嬉しいねぇ、その減らず口。なに、簡単な話さ。君が誰かを連れてきたら⋯この間の2人の女の子、どうなっちゃうかな?』
「⋯⋯⋯は?」
この間の2人⋯?
秋山が知ってる2人って⋯まさか。
まさかっ!!
「お前っ!あの2人に何をしたっ!!」
『何、君が1人で来れば良いだけの話さ。道中はウチのSPが監視してるから変な気は起こさないようにね。』
「2人に何かしてみろ!僕はお前を殺してやるからなっ!!」
『そいつは素敵な相談だ。じゃーねー、弾君。あはっ♪』
通話が切れる。
雨の音は、どうやら強くなってきているらしい。けど、そんな事はどうでもいい⋯気にしてる場合なんかじゃない。
果南とダイヤが⋯鞠莉の友人が巻き込まれた。
僕のせいだ。中途半端にケリをつけないまま皆と会ってしまったから。
なら⋯どんな手を使ってでも取り戻す。絶対に。
鞠莉に⋯謝っておかなきゃな⋯。
傘も刺さずに外へと走り出した。
あのクソ野郎がいる所へ。
「はい、もしもし?」
『鞠莉⋯!』
「弾?どうしたの??なんか雨の音がうるさいけど⋯。」
『どうやら今日の講義は参加出来そうに無い⋯!それから⋯帰りは、遅くなる⋯。』
「え⋯弾?」
『本当に⋯ごめん、鞠莉。』
「ちょ、ちょっと待って!ねぇ、弾!!弾っ!!」
次回、『09.弾。』