為すべきを為す覚悟が 俺にはあるか。   作:カゲさん

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13 抱かれし定見

「くそッ!!」

 

巨人を、あるいは自分を罵る言葉を空に向けて叫んだ時、俺に向かってまっすぐ降ってくる巨大な足が目に映った。

 

歯を食いしばる。

 

このままやられてたまるものか。隠蔽のために使わなかったが、ガス噴射で転がればあるいは避けられるかもしれない。その場合ガスや音でバレる位置が可能性はあるが、そんな理由で躊躇って命を落とせば元も子もない。やはりここは一時的にガスを利用切り抜け、建物の裏まで回り込んで────

 

「ッ!?」

 

突然体が浮き、割れた窓から家屋の中へと引きずり込まれた。何事かと確認しようとするが、誰かの両腕によって抱きしめられているため身動きが取れない。しかし、鼻から感じる匂いには覚えがあった。

 

「なんっ───」

 

「シッ!」

 

何故ここに。そう言おうとしたが、彼女が腕の力を強めたため途切れてしまった。大人しく彼女に従って体を硬直させていると、いつしか地面が砕かれる轟音は消えて地鳴りのような足音は遠くの方へ去っていった。

 

「……なんっ…で!ここに!?」

 

脅威が去ったおかげで彼女の緊張がほぐれ腕の力が和らいだと同時に、俺は頬に当たる柔らかい感触から逃げるようにして彼女から離れた。ボロボロになった壁や窓から差し込む光がクリスタの顔を照らす。その表情はとても穏やかで、見ているこっちまで心が安ぐようだった。

 

「紫色の信煙弾が見えたから」

 

「紫?」

 

緊急事態を知らせる、紫の信煙弾など上げただろうか。俺が直近で打ち上げた信煙弾は、カイル班長と分かれる前の黒い煙弾。その後はついさっき地面に放った黒い煙弾……いや、上げたではないか。女型の巨人へ迫るために巨人の顔面に向けて放った1発が。

 

しかし、あれは村へ入る前に再装填した黒い煙弾だったはずだ。となるとクリスタは黒い煙弾を紫と見間違えてやってきたのか。…本当にそうだろうか。巨人に向けて信煙弾を放った時、俺は巨人の腕を躱しその上を駆け上がるなんて無茶をするためにかなり意識を集中させていた。目隠し用の煙など、視界の端に映っていた程度の認識だ。本当にそれが黒だったかなんて見分ける余裕が俺にはなかった。

 

「……ってことは…」

 

仮にあの時放った信煙弾が紫色だった場合、何故ついさっき放った信煙弾が黒色だったかの説明がつく。率直に言うと、間違えたのだ。巨人に向けて撃ったのが予備の銃。そして地面に向けて撃ったのが再装填された銃。まさかミスしないように、という考えから派生し生まれた自作の案によってミスを犯してしまうとは。なんとも情けない話だ。

 

「初めて、誤射したみたいだ……」

 

自分のした事に心底呆れながらそう言うとクリスタは目をぱちくりさせて、それからクスリと小さく笑った。

 

「ヒイラギが完璧な人じゃなくてよかった」

 

「それは………あぁ、まったくだ…」

 

俺とクリスタは笑い合い、互いの手を取って立ち上がった。そして建物から出ようとクリスタが先導して歩き出した時、彼女の髪が後ろで結われていることに気が付く。それに使われている宝石の装飾がついた髪留めには見覚えがあった。いつか2人で街へ出掛けた時に購入したものだ。しかし、あれはもう2年近く前のことだったはずだが…

 

「その髪ゴム、まだ使ってたのか」

 

「あ、うん。気に入ってるから」

 

クリスタが髪留めに優しく触れる。

その類のものを使ったことがないためどの程度持つのか知らないのだが、果たして何年も使えるものなのだろうか。さすがに何かの拍子に切れそうな気がしてしまうのだが。

 

「……帰ったら新しいの買うか」

 

「えっ!?い、いいよまだ使えるから!それにこれ、すごく高かったし…」

 

否定はしない。あれから髪留めの相場を知るため幾つか見て回ったのだが、クリスタに贈ったそれは明らかに高価なものだった。とはいえお金に困るわけではない。リーブスさんから賃金を貰っても使い所が殆ど無かったからだ。そしてそれは、今も変わらない。

 

「さっきの礼でもあるんだ。それくらいはさせてくれ」

 

「…わ、わかった……ありがとう」

 

口調こそ申し訳なさそうではあったが、表情は嬉しさを隠しきれていないようだった。そんな顔をされたら、こちらも贈り甲斐があるというものだ。

 

「それじゃあ、早いところ行くとするか」

 

俺は予め逃がしておいた馬を呼び寄せるため口笛を吹いた。

最大の脅威は去ったが、未だここは壁外地域。巨人がどこから来るかもわからないうちは陣形に加わるのが一番いい。すぐそこにいたクリスタの馬2頭と戻ってきた予備の馬に乗り、俺達はその場をあとにした。

 

 

「さっきの巨人はなんだったの?酷い怪我だけど…」

 

陣形の位置を確認しつつ馬を走らせていると、クリスタが疑問を投げかけてきた。

 

「いや、見た目ほど傷は深くないから大丈夫だが………あの巨人はエレンと同じ、巨人化した人間……だと思う。詳しいことは俺にもわからない」

 

「あの巨人が…」

 

彼女に女型と遭遇した経緯などを詳しく話すのはいくら彼女でも憚られる。女型の巨人捕獲作戦は調査兵団内でも一部の人間にしか知らされておらず、104期では俺だけだという。裏切り者については他にも、特にアルミンなどは察していそうなものだが彼は良くも悪くも仲間思いであるため裏切り者なんて存在を信じたくはないのだろう。

 

勿論クリスタが裏切り者だなんて思ってはいないが、どこからその情報が敵に漏れるかわからない以上は口にしないことが懸命だ。俺の為にも、クリスタの為にも。

 

「……そういえばクリスタの班長はどこに行ったんだ?索敵支援班なら近くにいると思ったんだが…」

 

辺りを見渡しても、それらしい姿は見えない。新兵保護が目的の索敵支援班が見当たらないのには少し違和感を覚える。

 

「ナナバ班長は信煙弾が上がらなくなった索敵班の方を見に行ったけど、そろそろ戻ってくると……あ、ほら」

 

クリスタが示す方向から、1つの影が迫ってきていた。ナナバ班長。5年以上前から、つまり壁が破壊される前から調査兵団に所属する大先輩であり、それは捕獲作戦に参加していることを表している。

 

「君は…」

 

「ヒイラギです。異質な巨人との交戦中、クリスタに助けてもらいました」

 

「そうか君が…。私はナナバ。右翼を見てきたけど、あっちの索敵は殆ど壊滅してるみたい」

 

「右翼が!?」

 

ちょうどその時、右翼側から煙弾が上がった。緊急事態を知らせるその信煙弾は、ナナバ班長の言葉の裏付けとなった。

これに対してクリスタは酷く動揺しているようだったが、俺としては予想通りのことであった。俺が奴と接触する前に右翼索敵班から信煙弾が上がっていなかった上、女型の巨人が来ると予想されていたのは右翼側。あんなのが前情報なく突っ込んできたら壊滅するのも道理だろう。

 

「大量の巨人に襲われたみたいでね。今はどうにか食い止めている状況だ」

 

「大量の巨人……?」

 

女型の巨人一体に潰されたわけじゃなかったらしい。いや、考えてみれば当然だ。いくら桁違いな運動能力を持っていても、単体で右翼壊滅を為すには相当の時間がかかる。重要人物であるエレンがそんな場所にいないことは少し考えればわかること。だとするならば、わざわざ右翼の索敵に時間をかける道理はないのだ。

 

「私はこれから中央まで知らせに行ってくるよ。クリスタとヒイラギはこのまま2人で走ってくれ」

 

「わかりました!」

 

クリスタからの返事を聞いて馬の方向を切り替えたナナバ班長に、少し張って声をかける。

 

「ナナバ班長!敵は女型。任意の部位を刃が通らないほど硬質化した皮膚で覆うことが出来ます!」

 

「わかった!ありがとう!」

 

そうしてナナバ班長は去っていった。それを見送った後クリスタは「硬質化した皮膚」とは一体何なのかを聞き、対して俺はわかる範囲で質問に答えた。

 

「そのせいで刃が半分以上砕かれた。あれは刺しても斬っても破れそうにないな」

 

「そうなの!?私はまだ消耗してないから、半分を───」

 

「必要ない。それはお前の刃でお前の身を守るためのものだ。人を助けるのはいいが、自分の命を蔑ろにするような、行為は………やめろ」

 

俺の言えたことじゃない。自ら口にした、あまりに無責任な言葉を省みる。しかしその言葉は彼女にしっかり届いたらしく、抜き取ろうとしていた刃を納めてくれた。多少言い方はきつくなってしまったが、やむなしだ。

 

「……ごめん…」

 

「いや、こっちこそきつい言い方をしてすまない」

 

互いの非を認め合い、巨人の警戒に意識を戻す。

 

そのすぐ後のことだった。前方から再び馬の影が迫ってきたのだ。しかしどうも様子がおかしく、背中に誰も乗せていない。鞍をつけていることから調査兵の馬であることは間違いないのだが、

 

「ヒイラギ!」

 

クリスタは俺にアイコンタクトで許可を取って一旦降り、逃げるように必死で駆けてくる馬を停止させた。何かに酷く怯えて混乱しているようだったが、さすがは馬術成績優秀者というべきか。あっという間に馬を宥めて落ち着かせてみせた。

 

「誰の馬だろう?」

 

「調査兵団の馬なのは間違いないだろうが……誰のかってのは難しいな。向こうから来たからそっちへ行けば持ち主も………クリスタ!」

 

「わ、わかった!」

 

救難信号を見るや否や、急いで馬を走らせその場へと向かう。案外答えは早く見つけられそうだった。馬が駆けてきた方向で紫の信煙弾が上がったことから、そこにいる誰かの馬だろう。巨人に襲われ追い込まれたか、あるいは女型の巨人と接触したか。

 

「クリスタ!ヒイラギも!」

 

信煙弾が上がった地点には、3人の調査兵がいた。アルミン、ジャン、ライナー。いずれも第104期調査兵のメンバーで、周囲を見渡した限りでは死体を含め他の調査兵はいないようだった。

 

「みんな早く乗って!右翼側が大変なことに…」

 

「あぁわかった!助かったぞ!」

 

そこで引っ張ってきた馬をアルミンとジャンに渡したのだが、そのうち1頭にジャンは見覚えがあるようだった。

 

「ん!?俺の馬じゃねぇか!」

 

「その子ひどく怯えてこっちに逃げてきてたのて…まさかあの巨人と戦ったの?」

 

「あの巨人って、まさかクリスタも戦ったの!?」

 

「アルミン!そのケガは?…大丈夫なの?」

 

状況から察するに、彼らは運悪く女型の巨人と接触したようだった。同じ経験をしたのかと問おうとしたアルミンだったが、クリスタはその頭に巻かれている包帯に気を取られた。

 

「うん、なんとか……それより、さっき言ってたあの───」

 

「それは走ってからにしろ。今はとにかく陣形に戻らないと」

 

「わ、わかった!」

 

長くなりそうなアルミンの話を途切れさせ、馬を走らせる。ようやく遅れを取り戻せたかと思った時に彼らの救難信号を見つけたおかげで、

俺達は再び遅れをとることとなった。呑気に長話していては完全に取り残されてしまう。

 

 

「よくあの煙弾でこっちに来る気になったな…」

 

走り始めて落ち着いた頃、ライナーが感謝の意も込めてクリスタに語りかけた。それに対してクリスタは恩を着せるようなことも言わず、当然のことだと言わんばかりに謙虚な返事をする。

 

「ちょうど近くにいたし、ジャンの馬もいたから」

 

「お前は馬にも好かれるし不思議な人徳があるようだな。命拾いした」

 

「よかった…みんな、最悪なことにならなくて本当によかった…」

 

クリスタの心から安堵したような表情にあてられた3人が、それぞれに想いを抱く。彼女のこういった行為は今に始まったことではないため一々嫉妬を抱いたりはしないが、周囲の人間がクリスタに好意を持っているのを感じるとどうにもやるせない気持ちになってしまう。

 

「……そうだ、早く陣形に戻らねぇと!撤退の指令が出るハズだ。ヤツはなぜか先頭の指令班とは逆の方向に行っちまったしな」

 

「さっきも言ってたけど、ヤツって女型の巨人っていうやつだよね」

 

いち早く現実に戻ったジャンが希望を含んだ言い方をする。彼の言うヤツというのが女型の巨人なのかとクリスタが問うが、十中八九その通りだろう。

 

しかし「先頭の指令班とは逆の方向」とは一体どういうことだろうか。いや、言葉の意味は理解出来る。女型の巨人は先頭ではなく、中央後方へ向かったということだろう。だが何故そうなったかがわからない。中央後方といえばエレンのいるリヴァイ班が担当している場所だ。作戦企画紙では敵にエレンの位置がバレないように各々別の場所を記していたはずだが、何故突然方向を変えたのか。何か奴の考えが変わったのだろうか。

 

「そうだ……お前達も戦ったのか?よく生き残ったな…」

 

「ううん、戦ったのはヒイラギだけだよ」

 

「なにッ、それは本当かヒイラギ!?」

 

余程衝撃を受けたのか、ライナーが振り向いて大声を発する。

 

「刃を半分以上無駄にして、結局斬れたのは指4つだったけどな。あいつ、硬質化の能力持ってやがった」

 

「硬質化…?ヒイラギ、今硬質化って言った!?」

 

今度はアルミンが食いついた。彼らとの戦闘では女型の巨人は硬質化能力を使わなかったのだろうか。女型の巨人の硬質化についてを一通り教えると、アルミンはすっかり黙り込んでしまった。何やら考え事をしているようだ。

 

「……よくそんな奴と1人で戦えたな…」

 

「うなじまで斬るつもりだったんだがな」

 

「……充分すげえよ…」

 

ライナーのその言葉は、心の底からの声のように思えた。

 

「しかし……壁を出て一時間たらずでとんぼ帰りとは……見通しは想像以上に暗いぞ…」

 

会話の区切りを見計らってジャンが今後の行く末を心配したその時、前方遠くで1発の信煙弾が上がった。そしてそれは順々に伝達されていき、何色かが次第に見えてくる。

 

「なっ…!?緑の煙弾だと!?……撤退命令じゃないのか…陣形の進路だけを変えて作戦続行か?」

 

「作戦続行不可能の判断をする選択権は全兵士にあるはずだが…まさか指令班まで煙弾が届いていないのか?」

 

「わからなくても今の状況じゃやることは決まってる」

 

いつの間にやら顔を上げていたアルミンが、伝達された通りの方向に緑の信煙弾を放った。

 

「判断に従おう」

 

他の皆も異論はないらしく、馬の進路を東に向けた。

 

 

「……ねぇ、ヒイラギ」

 

「どうした」

 

陣形の配置につくため皆が散開した後、クリスタが俺に問う。本来は俺も彼女から離れて伝達班の最前に行くべきなのだが、ナナバ班長から2人で走れと命じられたためこうして後方に残っている。

 

「いつまで東に進むと思う…?」

 

陣形の進路はあれから東を向いたままで、巨人発見の信煙弾が上がろうと、一向に変える気配がなかった。

 

「いつまで、といってもウォール・マリアがあるから限度はあるんだが……まあ、この進路だとあそこにぶつかるな」

 

「あそこ?」

 

その疑問に対して俺が答える必要はなくなった。前方をまるで塞ぐように現れたソレを見て、クリスタは「あっ…」と声を漏らす。調査兵団の行く手を阻むように並び立つ巨木群、名を巨大樹の森。その樹高は80mもあるが、何故そのような森が存在しているのかは未だ解明されていない。

 

「おまたせ」

 

そろそろ陣形が巨大樹の森と接触しそうになった頃、ナナバ班長が戻ってきた。ふと、彼女が乗っている馬に先程は見なかったモノが括りつけられていることに気が付く。ナナバ班長はこちらに寄るとそれを手に取り、差し出してきた。

 

「ガスと刃だ。先の戦闘でかなり消耗していたでしょ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

予想外の贈り物だった。中央に連絡してくるとは聞いていたが、まさか物資まで運んできてくれるとは。

 

「ナナバ班長、このままだと陣形は巨大樹の森に当たることになりますが…」

 

「進路は変わらないよ。ただし森に入るのは中列だけで、私達は森の外側にまわる」

 

森の中での陣形は意味を持たない。長距離索敵陣形とは、文字通り索敵及び巨人の回避を効率的に行うための陣形。しかし森の中では木々に隠れた巨人を見落としてしまうことや仲間を見失いやすいことから、陣形が役に立たないのだ。

 

「ど、どうしてですか!?兵站拠点作りの作戦は…」

 

「それは既に放棄されたよ。新しい命令は、木の上に登って巨人を食い止めること」

 

「食い止めるって…いったい…」

 

巨大樹の森で外からの巨人を食い止めることは容易い。要は枝の上で突っ立っていればいいのだ。巨大樹の高さは80m。そこから伸びる枝は当然太いため人が乗ろうがビクともしない上、巨人の手が届かないほど高い位置にある。しかし大した知能を持たない巨人共は決して届かない餌に釘付けとなる、というわけだ。まあ、彼女が疑問を抱いでいるのは別の方だろうが。

 

「そろそろ馬を降りるよ。その辺の木に繋いだら、木に登って待機する」

 

ようやく巨大樹の森までたどり着いた頃、ナナバ班長がそう言って速度を落とした。近くの木には何頭か馬が繋がれており、俺達より前列にいた人達は既に木の枝へ登っていた。

 

「ではナナバ班長、俺はこれで」

 

「…そうだね。馬は私が繋いでおくよ」

 

「ありがとうございます」

 

補給も終えて多少の傷を除けば万全の状態となった俺は馬の上に立つ。俺に下った命令は女型の巨人を捕獲するまでとなっているため、ここで止まるわけにはいかない。

 

巨大樹の森において荷馬車がまともに走れるのは観光地として整備された路地のみ。エレンを含めた中列がそこを通るのなら、女型の巨人がそこを行くのは必然。敵がどこからどう行くかが分かれば、居場所を突き止めるのは容易なことだ。

 

「待って!!ヒイラギもここじゃないの!?」

 

出来れば言葉を交わさず行きたかったのだが、やはりそうはいかないようだった。右腕は振り払っても解けないほど強く掴まれていて、誤魔化せる雰囲気でもない。

 

「…クリスタ」

 

彼女の名を呼び、その目をじっと見つめる。クリスタはしばらく沈黙した後、胸元のペンダントをきゅっと握りしめこちらを見つめ返してきた。そして、思案の末に一言だけ告げる。

 

「………わかった」

 

それは悲しみでも、諦めでも、ましてや怒りを込めた言葉でもない。強いて言うなら、信頼という単語が最もふさわしい一言だった。必ず生きて帰ってくるという根拠の無い希望的観測のようにも見えるが、彼女は彼女なりに今自分に出来ることを選んだのだ。

 

当然悔しさはある。待つことしか出来ない無力さには大きな悔しさが。しかし彼女は、それは今すべきことではないと判断した。それらを踏まえたからこそ、クリスタは「わかった」とだけ言ったのだ。

 

「ありがとう」

 

その思いを無下にしてはならない。

一つの覚悟を胸に抱き、俺は巨大樹の森へ飛び立った。

 

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