女型の巨人捕獲作戦に参加していたヒイラギやエレンなどを除いたクリスタ達104期調査兵は壁内に巨人が出現したことにより軟禁状態を一時解除され、ナナバやゲルガー達熟練調査兵の指示に従い民間人の非難や壁の破壊跡を捜索しに一日中走り回った。結果として民間人の避難は済んだものの、壁の穴は見つからないまま疲労に限界が訪れてしまう。幸い「ウトガルド城跡」というならず者が根城にしていたであろう古城を偶然見つけたため一行はしばらくそこで休息を取ることにした。
中には少し前まで人がいたのか、焚き火跡や食料、酒などの物資が置かれていた。おそらく盗品なのだろうが、この際体を休めれるのならなんでもよかった。
「立体機動装置とかはないみたいだね…」
「そりゃそうだろ。盗賊がそんなもん持ってるわけねえからな」
皆が集まっている場所から少し離れた保管庫らしき場所で、クリスタはユミルと使えそうなものがあるか木箱の中身を漁っていた。空箱だったり書いてある文字が読めず中身がさっぱりわからないものもあったが、食べられそうなものはいくつか見繕うことができている。しかし、巨人に対抗できそうな武器はなかった。
「でも、これだけあればなんとか持ち堪えられそうだね。明日には増援も来るだろうし、きっとヒイラギも来るから」
「……そうだな」
早馬で問題なく伝達されていれば、確かに明日あたりで応援が駆けつけるだろう。しかしその中にヒイラギがいるかどうか、ユミルは確信を持てずにいた。確かにヒイラギのことは頼りにしている。クリスタを守ることに尽力しているように見える上、それが出来る腕も持っている。
だが、彼女はクリスタほど無条件にヒイラギのことを信頼はしていなかった。援軍として駆け付けられないこともあるだろうし、助けられないこともあるだろうと。
この際ヒイラギが本当はどんな結果を齎すかなんてことは関係なく、ここで重要なのはどんな結果を齎すと考えているかという点なのだ。その信頼がヒイラギの齎す結果を変える訳ではないのだが、この場においてその考えの違いは疲労した精神の活力に影響していた。
「よいしょ、先にこれ運んでるね」
「はいよ」
疲れは溜まっているだろうが、物資を抱えるクリスタはそんな様子を感じさせないほど軽やかな歩みで部屋を出ていった。
その様子を見送っていたユミルは、なんとも言えない顔をする。嬉しそうにも、寂しそうにも、誇らしげにも、悲しげにも見える、そんな顔を。その真意を理解できるのは、彼女以外には誰もいない。
◆
「ハンジ分隊長、もう少し急いだ方がいいかと」
エルミハ区を出て巨人が出たという南西へ向け一団は馬を走らせ続けていた。既に東側が白け始め、夜が明けようとしている。
ハンジ分隊長は高所から辺りを見渡すことに適しているウトガルド城を一旦の目的地していたが、そこへ向かう途中で俺はふと気付いたことがあって進言した。
「これ以上速度を上げるのは無理だよ。帰りのことも考えたら今のペースがいっぱいいっぱいだからね。何か理由でもあるの?」
「確信があるわけではないんですが、ウトガルド城が避難場所になってるかもしれません。見晴らしが良くて、巨人の存在に気付きやすい。他にもそう思った人はいたはずです。……しかし、これから夜が明けて巨人が活動を始めたら、接近に気づけたとしても逃げ切れるかどうかはわかりません」
巨人は夜になると活動出来なくなる。だが、日が出ると同時に動き始める。ここにいる完全装備の兵士たちであれば対処は可能だろうが、一時しのぎとして城にいるであろう人たちはそうもいかない。
「だから、日が昇るより前に城まで辿り着こうと。……その可能性はあり得るだろう。だけど考えは変わらないよ。二次被害が出たら元も子もないからね」
「……了解。出過ぎたことを言いました」
「いや、君の言葉はもっともだ」
ハンジ分隊長は大きく息を吸い、声を張り上げた。
「総員!ウトガルド城で巨人と遭遇する可能性がある!生存者がいた場合、保護が最優先だ!」
ハッ‼︎と調査兵が一斉に返事をした。
それから暫く走らせるうちに日が昇り始め、ウトガルド城も見えてくる。そして同時、一団に緊張が走った
遠目から見てもその建造物はボロボロで、多くの巨人が群がっていたのだ。確かに巨人との遭遇は予想されていた。しかしそれはこれからのことであり、夜明けから間もないというのにそんな惨状になっているなんて想像もしていなかったのだ。
「妙だ…もう日が出てるとはいえ損害が激しすぎる。あれじゃあまるで日の出前から活動していたみたいじゃないか…」
ハンジ分隊長が疑問を持つ。
日の出から20分も経っていないというのに、城は崩壊寸前にまで陥っている。あまりにも早すぎる。ならば、彼女の言う通り巨人が夜に活動していたのだろう。理由はわからない。けれど、今はどうだっていいことだ。
問題は『夜間活動する巨人に対してまだ耐えている』という点だ。ただの市民であれば為す術なく即全滅する状況だというのに、未だ巨人は城に固執している。つまり、巨人に対して防衛戦を行える程の能力を持った人が城にいるということだ。そんな人材、誰かなんて考えるまでもない。
「ハンジ分隊長!城にはきっと調査兵がいます!クリスタもあそこに!」
「なんだって⁉︎ちょっ、あぁもう‼︎ヒイラギまたぁ⁉︎」
手綱を振り、俺は一人飛び出した。後ろでハンジ分隊長が全体に号令を飛ばす。
「総員全速前進‼︎城に群がる巨人共を殲滅しろ!……ッ⁉︎」
そしてその時、それは起こった。目的地と定めていた塔が一気に瓦解し崩れ、数瞬の後に轟音が一団の元へと届く。事態は一気に悪い方向へと傾いた。皆一様に出し得る限り最高の速さで馬を走らせる。盛大に撒き散らされる土埃が既に手遅れなのではとすら思わせるが、動きを止める者はいなかった。
◆
「あぁ…やられた…」
今にも崩れそうなほどボロボロになったウトガルド城の上で、コニーが力無く腰を落とした。眼下では迫り来る巨人と必死に戦っていた調査兵団の先輩たちが惨たらしく喰われている。しかしクリスタはその光景から決して目を逸らさなかった。
「クソが……このままここで…塔が崩されてただ喰われるのを待つしかねえのか…」
コニーが悔しそうに涙を溜めながら塀を何度も叩いた。
「何か‼︎やることはねぇのかよ‼︎クソッ‼︎クソッ‼︎クソッ‼︎」
「何か…できること…」
クリスタが小さく呟く。その目からは決して諦めが感じられず、打開点を探ろうと必死に頭を回していた。
「せめて…何かこう…意味が欲しかったよな……任務も中途半端なまんま…全滅なんて…」
今与えられている任務は市民の避難誘導。昨日の時点でまだ回れていない地域へ行かなければならないが、その為にはまずこの状況から脱することが大前提。しかし塔に群がる無数の巨人と、壁から投石してくる謎の巨人から立体機動装置無しで打開するなど不可能。ここにいる戦力だけなら、どうすることもできないだろう。
「あれから20時間は経ってる。早馬が届いてたら、もうすぐ来るはず…」
「………」
現戦力では抜け出せない。だが、増援が来れば勝機はある。そこにヒイラギがいれば絶対に勝てる。そして、クリスタはヒイラギが必ず来ると信じていた。具体的な根拠なんて必要ない。
「どうにかして時間が稼げたら…」
ヒイラギが来るまで耐える。それがクリスタの出した結論だった。けれどその方法がどうしても思い浮かばない。
「ヒイラギなら…」
彼ならきっとこんな状況もどうにか出来てしまう。その確信をもとに考えるが、クリスタの尺度ではそれ以上の答えは出なかった。
「きゃあっ⁉︎」
そうこうしているうちに塔が大きく揺れる。クリスタはバランスを崩し倒れそうになるが、ユミルがしっかりと受け止めた。
「あ、ありがとうユミル」
「なぁクリスタ…お前変わったな」
「……え?」
ユミルはこんな絶望的な状況だというのに、どこか嬉しそうな顔をする。いや、あるいはそれは羨望か、寂寥か。
「前までは本気で死にたくないなんて思っちゃいなかった。いつも…どうやって死んだら褒めてもらえるのかばっかり考えてただろ」
「ユミル……?一体何を言って…」
「変えたのはやっぱヒイラギだろうな。あのスカした野郎なのは気に食わねえけど、仕方ねえか」
「だから、何を…っ⁉︎」
突然ユミルが両肩を掴み、ただならぬ雰囲気でクリスタに迫る。
「クリスタ…こんな話忘れたかもしんねぇけど…」
「…!」
「………多分、これが最後になるから…思い出してくれ。雪山の訓練の時にした…約束を…」
忘れるはずもなかった。初めて自分の正体を見破られた日のことで、今でも謎が残る出来事だったから。
負傷して動けなかったダズを、縄もなしに高い崖をユミル一人で雪山から下ろしたこと。どうやったのか聞いたが、ユミルはいつか教えてやると言った。そして、交換条件として一つ約束をしていた。その全てを、クリスタは鮮明に記憶している。
『元の名前を名乗って生きろ』
朝日が昇り、辺りは明るく照らし出される。こんな状況だというのに、陽は相変わらず綺麗なことが酷く皮肉だった。
「最後に…陽を拝めるとはなぁ…」
「コニー、ナイフを貸してくれ」
「……ほらよ」
ユミルに言われた通り小さなナイフを手渡すが、コニーは一体何に使うつもりなのか検討もつかず怪訝な顔をする。
「…何に使うんだよそれ…」
「まぁ…そりゃ……これで戦うんだよ」
「オイ?ユミル、何するつもりだ…?」
ユミルの言動に異様さを感じたのか、ライナーが咄嗟に呼び止める。
「さぁな。自分でもよくわからん」
その呼び止めにはまともに応じず塔の端から数歩下がったユミルは、相変わらずこの状況に困惑しているクリスタと目が合う。
「…クリスタ、お前の生き方に口出しする権利は私にない。だからこれはただの…私の願望なんだがな…」
ユミルは言葉を切り、口角を少し上げる。
「お前、胸張って生きろよ」
「え………ユミル?待って‼︎」
言い終わると同時に彼女は駆け出した。クリスタの静止を振り切り、そのまま塔の塀を飛び越える。真下には塔を登ろうとする巨人の姿。けれど彼女が臆することはない。そして、落下する最中で手のひらをナイフで切り裂いた。
「ッ‼︎」
直後轟音と熱風、そして激しい閃光が周囲を照らした。
◆
必要なくなった松明を投げ捨て、俺は馬を走らせる。目的地としていたウトガルド城は無惨に崩れ落ちていた。ハンジ分隊長の制止を無視し飛び出した直後に引き起こされた惨状。当然、塔にいた人は瓦礫に潰されたか、高所から叩き落とされたかのどちらか。いずれにしても死亡は必至。
しかし、俺は馬を走らせる。確かに普通に考えれば結果は必然だろう。だが、あの場に限って言えば普通も必然も通用しない。普通に縛られた必然は存在していない。何故ならば、あの場にはユミルがいるからだ。
『私はクリスタの味方だ』
例え他の全てが偽りだったとしても、その言葉に偽りはないと俺は思う。思ったのなら、迷わず前へと進む。それだけなのだ。
ウトガルド城跡の外壁が近づき、俺は飛び立った。
◆
塔は崩れたが、巨人となったユミルにしがみついていたおかげで瓦礫に埋まった者はいなかった。反対に塔に群がっていた巨人は生き埋めとなっている。
「ユミル…!」
クリスタはユミルが巨人となったことやその目的が定かではないことに混乱していたが、彼女が人類に味方していることは理解できた。
「巨人が…起き上がってきてるぞオイ‼︎」
地揺が起きたかと思うと、瓦礫に埋まったはずの巨人が次々と起き上がってきていた。
それに気がついたユミルが大きく跳躍し、そのうなじに喰らいつく。が、背後から現れた巨人に髪を掴まれ地面へと叩きつけられる。その時瓦礫の端にぶつかり、鈍い音と共に頭蓋が潰されるのが見えた。そしてそのダメージから回復する間も無く周囲の巨人が群がり出し、片腕が引きちぎられる。
「ユミル‼︎」
クリスタは堪らず駆け出すが、何か策があるわけでもない。唯一の突破口になると思われたユミルが今危機的状況になっているのだ。助ける力はない。蹴散らす戦術もない。そもそもユミルの元へ辿り着くことすら難しい。冷静な判断なんてもはや捨てている。だから彼女は叫ぶ。精一杯の信頼と信用と愛情を込めてその名を呼ぶ。
「助けて‼︎ヒイラギ‼︎」
バシュッ———
立体機動装置のアンカー射出音。直後、クリスタの頭上を一人の男が飛翔する。自由の翼の紋章を背に抱くその男は、ユミルへと群がる巨人の方へ突っ込んだかと思うと、一息のうちに三体の巨人を切り刻んだ。その速さに目を奪われた一瞬、男の姿が視界から消える。すると突然クリスタの近くで金属音が鳴った。
「ッ‼︎」
その方向を見やるといつの間に一体の巨人が立っていて咄嗟に身構えるが、その巨人は糸が切れたように倒れた。既に生き絶え蒸気を発する中、その後頭部には刃についた血を振り払う男の姿があった。彼はクリスタの姿を見て安堵の表情を浮かべる。
「無事だったか。よかった」
そしてクリスタもまた、彼の姿を見て顔を綻ばせる。だが、ユミルのことを思い出してすぐに呼びかける。
「ヒイラギ!ユミルが‼︎」
「いや、もう大丈夫だ」
ヒイラギがそう言うや否や、再び頭上を何かが飛翔する。しかし今度は一人ではない。自由の翼はいくつも空を駆け、巨人のうなじを的確に削ぎ落とした。
「調査兵団…!」
たった今救援に来た兵士は五年前から兵団に所属している者ばかり。その戦力、統率力は群を抜いて秀でている。通常種巨人の一群れを十分戦力を有した中で狩り尽くすことなんて朝飯前なのである。
「…あの中はユミルなのか」
次々と巨人が討伐されていく中、ヒイラギは倒れたまま動かない一体の巨人を見ながらクリスタに問いかける。
「えっ?う、うん…そうだけど………えっ⁉︎どうしてわかるの⁉︎」
「やはりそうか…」
足元にいた巨人が完全に蒸発する直前でヒイラギは再び飛び立ち、残る巨人の掃討へと向かった。
◆
ウトガルド城跡にいた巨人を全て討伐した後、調査兵団は壁の穴が発見できなかったという報告やユミルの巨人化という状況を鑑みた上で、近場にある壁の上へ向かうこととなった。
人へと戻ったが昏睡したままのユミルは、簡単な手当を施されてから荷馬車で乗せられ、そこにはハンジ分隊長の命令でヒイラギが同伴していた。友人であるという理由もあるが、警戒という意味合いの方が強いのだろう。そして同伴者はもう一人。ユミルともヒイラギとも最も仲の良いクリスタが乗っていた。もとい、そこにいるのはもう『クリスタ・レンズ』ではない。
「……ヒストリアって呼んだ方がいいか」
「………うん。ヒストリア・レイスが私の本当の名前。今まで黙ってて、ごめん…」
ヒストリアはヒイラギの顔色を伺いながら謝った。いくら難しい事情があったとはいえ、彼に対して偽名を名乗って身分を偽っていたことに少なからず罪悪感はあったのだ。だから怒られても、遠巻きにされたとしてもしょうがないと彼女は思っていた。
「謝る必要はない。ヒストリアの事情に関して俺は部外者だからな。気にしなくていい」
だが、ヒイラギはそんなことかけらも思っていなかった。部外者なんてまるで冷たく突き放すような言葉を使うが、その声音にはヒストリアを気遣う想いがあり、その想いは彼女にも届いた。
「ヒストリアに事情があることはなんとなく察していたんだ。確信を持ったのはつい数時間前なんだがな。ユミルの巨人化についても、一月前から疑ってはいたんだが誰にも話さなかった。秘密にしてたということなら俺も同罪だ」
「っ……そ、それは…」
自分のこと、そしてユミルのことにすら迫っていたヒイラギの洞察力に驚愕するが、最後の言葉は間違っているとヒストリアは思う。ヒイラギの考えはあくまで推理や考察であり証拠はない。だが、ヒストリアの抱えた秘密は自分自身についてなのだ。確証も証拠も必要ない。
「それに、俺にもまだ話せてない秘密がある」
「えっ?」
ヒストリアはその言葉の意味を聞こうとしたのだが、ヒイラギの顔を見て口を閉ざした。今何を言っても答えてはくれないと感じ取ったからだ。それに、今話してくれなかったとしても秘密があると打ち明けてくれたならいつか話してくれる。そう思ったのだ。
「名前が変わろうが、身分が変わろうが、関係がなくなるわけじゃない。今この関係があるのは名前や身分が理由じゃないからな」
とはいえ…、とヒイラギは続ける。
「これからかなり面倒なことになると思う。調査兵団にとってヒストリアは重要人物になってるからな。ユミルが今後も協力してくれるなら随分楽になると思うが」
「ヒイラギは、ユミルが私たちの敵だと思ってるの…?」
「いや、ヒストリアがいる限りユミルは味方だろう。裏切ったりすることはない」
ユミル自身に人類を守るなんて正義感はない。あるのはヒストリアを守ることだけ。その真意をヒイラギが理解することはないが、それが嘘ではないことだけはわかっていた。
「そっか……」
ヒストリアはヒイラギの言葉に安心する。そしてその言葉を境に、ヒイラギは口を閉し周囲を警戒するように見渡した。そしてその様子をヒストリアはぼんやりと眺める。
邪魔だという理由で短めに整えられた黒髪に、切長の目と赤みがかった瞳。鼻筋はスッと通り端正な顔立ちだが、その雰囲気はナイフのように鋭い。
幾度となく見た顔だがその表情はいつも険しく、どこか辛そうに見える。けれどたまに、とても穏やかな表情を浮かべることがある。それは一緒にご飯を食べ時だったり、昼寝をする時だったり、任務がひと段落した時だったり。そのタイミングはふとした時だが、その表情を見るのがヒストリアはとても好きだった。好きな人がリラックスする姿を見るのが好きなのは、当然のことだろう。
「あぁ、そういえば」
「えっ⁉︎な、なにっ⁉︎」
突然ヒイラギの眼が向いたことで、ドキッと鼓動を強く感じる。それに伴って声が上擦ってしまい、ヒイラギはその様子を不思議に思い首を傾げる。
「…いや、なんともなさそうだったから聞かなかったんだが、どこか怪我はしてないかと思ってな」
「あ……う、うん、大丈夫。どこも怪我はしてないよ。でも他の人…ライナーは腕を巨人に噛まれて骨が折れちゃったみたい…」
「……………そうか。処置はヒストリアがやったんだよな」
「う、うん。お酒があったからそれで消毒して……その、包帯の代わりに布を使って…」
ヒストリアは本来の長さから膝上まで短くなっていたスカートを恥ずかしそうに手で押さえる。スカートの長さのことを今まで完全に失念していて、ヒストリアは対面にヒイラギが座っているにも関わらず両膝を立てそれを抱えるように座っていた。当然ヒイラギからは下着が見えてしまう座り方で、その状況を認識したヒストリアはカァッと赤面させる。
ヒイラギはそれを察し、ヒストリアの隣へと座り直して質問を続けた。
「…その時、何か妙なことはなかったか?」
「み、妙なことって?」
「…いや、気になることがあったんだが、何もなかったならそれでいい」
「……?」
それ以降ヒイラギがヒストリアに対して何か言うことはなかった。どうして兵士になったのかも、彼女の立場についても、昨日の出来事を問い質したりもしない。ヒストリアはそんな彼にそっと寄りかかり、その手に触れて温かな熱を感じる。
未だ自分の身に起きた事を整理しきれずにいるが、すぐ傍にヒイラギがいることを示すその熱はヒストリアの心を落ち着かせた。
20話『純然たる明朝』でした。サブタイトルは全て意味合いを込めて付けてるのですが、たまに深く遠回しに意味をつけすぎて「このサブタイ、どういう意味…?」と我ながら思うことがあります。
さて、最近とある人から自分の書いた小説の一部を読まれて(この作品ではありません)、馬鹿にするようなことを言われて少なからず腹が立つという出来事がありました。小説に限らず作品を作る人の中には創ったモノに自信がない人もいて、軽い気持ちだったり他意がなかったりしてもそれがトラウマになって創作意欲が削がれてしまうことがあると思います。幸い私の場合はありませんでしたが、創作をする人を揶揄ったり誹謗中傷を浴びせたりするのはやはり控えた方がいいでしょう。
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