この度は更新が大変遅れてしまい申し訳ありませんでした。以前のような投稿頻度は望めませんが、さすがに今回のような長期失踪はないと思いますので、どうかよろしくお願い致します。
さて、多く寄せられたコメントを見てやる気がわき今話を書いたのですが、急いだ故に文字数が平均を大きく下回っております。その分執筆から投稿まで早く進められたのですが。
さて、少し長くなってしまいましたが、ここからは本文の方でお楽しみください。
ピクシス司令の命令が憲兵を通じて全員に知れ渡った時には、その場は兵士達の喧騒で埋め尽くされていた。そんな中、俺は部隊編成のために再びイアン班として集うこととなった。
「駄目だよ!」
動こうとする俺の手をクリスタが掴む。予想出来ていたことだが、やはりクリスタは俺が戦場へ出ることに反対のようだった。負傷兵として扱ってもらうよう上官に進言するつもりだという。
「………」
俺はその手をそっと外す。彼女の言葉は、人間としては正しいのかもしれない。しかし、それに従う訳にはいかない。生死への関心とか生き様とか以前に、俺は兵士である。兵士とは上官の命令に従うものでありそして、上官は出撃を命じている。動けない訳じゃ無い。つまり、俺が本能に従う理由にはならない。
「引き際くらいは弁えている。班長には支援に徹すると予め言っておく。傷の方も、出血多量を起こすようなものじゃないから大丈夫だ」
処置がよかったからか治癒力が上がっているのか、本部にいた時より大分痛みが引いている。立体機動時に腹部は痛むだろうが、戦闘は行える。
「………じゃあ、これはまだ預かっておくから」
クリスタはそう言うと、首にぶら下げていたペンダントを両手で包み込んだ。戦闘や怪我に気を取られて、片翼のペンダントをまだ返してもらっていなかったことに、その時気がついた。
「…絶対、死んだら駄目だからね」
強い気持ちを抱きこちらの眼をまっすぐ見つめるクリスタに対して、俺は小さく頷いた。
◆
調査兵団の報告によると「巨人は南から現れる」とされており、実際5年前に巨人が真っ先に突破してきたのは南に位置するシガンシナ区だった。そのため次に狙われるのはここ、トロスト区だと予想されていた。そしてそのトロスト区を含めた南側領土の最高責任者、人類の最重要区防衛の全権を任された人物こそが、今回援軍として駆けつけたドット・ピクシスであった。
「超絶美女の巨人になら食われてもいいんじゃが…」
ちなみに、生来の変人としても知られていた。
◆
「ヒイラギ!怪我の方は大丈夫なのか!?負傷したと聞いていたが…」
再び班と合流すると、真っ先に班長イアンが駆け寄ってきた。
「治療を受けたので支障はありません。……ミカサはまだですか?」
近くに彼女の姿がないためイアンさんに聞いてみたが、彼もよく知らないらしい。
彼女はそう簡単に軍規を乱すような行いはしない。それを含めた上で憶測を語るのなら、巨人化したエレンを捕らえるか殺害しようとしたのを阻止したか逆に捕えられたか、最悪はエレン諸共か。ミカサの兵としての能力を考慮すれば最後の選択はありえないだろうが、その時の権力保持者が器の大きい人であったことを願うばかりだ。
「……ヒイラギ。お前は」
イアンの声はある男の声によって遮られた。編成を完了した兵達は通達されたトロスト区奪還作戦に対して大いに悲観的になっている。それも当然だろう。ここにいる者達は皆、今日初めて巨人と戦い、今日初めて仲間が喰われるの目にしたからだ。それが次、自分の番かもしれないと考えると震えが止まらないのも道理だ。
「いやだ!!死にたくねえ!!家族に会わせてくれ!!」
喧騒の中で一際大きく聞こえたのは、聞き覚えのある声だった。声の出どころから少し離れたところにいる俺まで聞こえたということは、当然近くにいた上官にも聞こえたはずである。そして案の定、駆けつけた駐屯兵が声を上げたダズを問いただそうとしていた。
「任務を放棄する気か!?」
「ええ、そうです!!この無意味な集団自殺にはなんの価値も成果もありません!!」
他の人達のざわめきのせいで全ては聞き取れなかったが、ダズは二度と戦場へは出たくないらしい。普段はオドオドとして教官に怯えていた彼が上官に対して堂々と反抗する程に。そしてそれを俺と同じように聞いていた兵達が少しずつこの場から立ち去る方法を思考し始めた。訓練兵団のみならず、上官であるはずの駐屯兵団までも。
「注、もおおおおおおおおおく!!」
全体が乱れ始めたちょうどその時、雷鳴ような大声が辺りに轟いた。発生源は壁の上。微かに見えるその人影は、何度か肖像絵で見たことのあるピクシス司令だった。そしてその隣に立つ少年もまた、見覚えのある姿をしていた。
ざわつきが収まり、皆の視線が壁の上に集まってからピクシス司令は再びその大地を揺らすような大声で話し出した。
「これよりトロスト区奪還作戦について説明する!!この作戦の成功目標は破壊された扉の穴を、塞ぐ!! ことである!!」
塞ぐ……?一体どうやって…?
同じ疑問を持った者は少なくなかった。というより、大半が同じ考えだったはずだった。しかしそんな兵士たちに構わずピクシス司令は言葉を続けた。
「穴を塞ぐ手段じゃが、まず彼から紹介しよう!!訓練兵所属エレン・イェーガーじゃ!!」
見知った顔がこの場で最高位の権限を保持する人物の横にいることに第104期訓練兵は驚きを隠せないらしく、至る所で彼の名を呼ぶ声が聞こえた。
「彼は我々が極秘に研究してきた巨人化生体実験の成功者である!!彼は巨人の体を精製し、意のままに操ることが可能である!!」
嘘だ。
これもまた皆が思ったことだろう。確かにエレンは巨人の体を精製できる。だが、それを自在に操ることが出来る点はかなり怪しいところだ。そして何より巨人化生体実験とやらが完全に嘘だ。訓練兵時代を含め幼少期からエレンと行動を共にしているミカサがそんな危険な実験に気づかないはずがない。気づいていたとしても、エレンの身を按じる彼女がそんなものを許すはずがない。なにより、実験が成功したとしてもそんな存在を普通に生活させて、護衛もなしに実地運用なんてことは有り得ない。
「巨人と化した彼は前門付近にある例の大岩を持ち上げ、破壊された扉まで運び穴を塞ぐ!!諸君らの任務は彼が岩を運ぶまでの間、彼を他の巨人から守ることである!」
確かにトロスト区には丸い大岩がある。家屋並みの大きさを誇るその岩だが、確かに先程エレンの生み出した巨人ならば持ち上げることは叶うのかもしれない。だが確証がない上にリスクが高すぎる。大岩を持ち上げられたとして、穴の空いた門まで運ぶ間は人間が他の巨人を駆除しなくてはならないのだから。
ピクシス司令の突飛すぎた作戦に全兵がざわめき混乱する中、真っ先に大声を上げたのはやはりと言うべきか、ダズだった。
「嘘だ!!そんな訳の分からない理由で命を預けてたまるか!!俺達を何だと思ってるんだ!?俺達は……使い捨ての刃じゃないぞ!!」
巨人への膨大な恐怖心によって司令の言葉を一切信用出来なかったダズは、本能のままにそう言い放って立ち去ろうと壁に背を向けた。
「オイ!!待て!!死罪だぞ!?」
「人類最後の時を家族と過ごします!!」
引き止める上官に対しても見事に言い捨ててみせた。それが皮切りとなり離脱者が至る所で現れ始め、隊列が崩れていく。
「今日ここで死ねってよ!!俺は降りるぞ!!」
「俺も!!」
「わ…私も…」
見かねた上官の一人がついに刃を抜いて吠えた。
「覚悟はいいな反逆者共!!今!!この場で叩き斬る!!」
厳しい形相で迫る上官に対抗しようと離反者までもが刃を抜こうとしたその時、空気が震えた。
「ワシが命ずる!!今この場から去る者の罪を免除する!!」
「なっ…」
ピクシス司令の言葉に耳を疑った。規律を保つべき立場の人間が、規律の混乱を良しとした。その意を理解できない者は俺だけではなかったらしく、さすが離反する素振りすら見せないイアンさんや他の班員も訳も分からないままただ見上げていた。だが、その意はすぐに司令本人の口から言い渡された。誰もが納得せざるを得ない形で。
「一度巨人の恐怖に屈した者は二度と巨人に立ち向かえん!巨人の恐ろしさを知った者はここから去るがいい!」
巨人への恐怖を目にしただけで簡単に折れる自分の心。それを事実として、現実として真っ直ぐ突きつけられたことへの屈辱。されど彼らは壁から背を向けたまま。それを苦く噛み締めるだけで命が得られるというのならば安いものだと言うように。
「そして!!」
しかし、悲しいかな。巨人から、あるいは現実に背を向けた者達にも、ソレは逃がすまいと追い打ちをかけトドメを刺しに迫ってくる。決して逃げることの出来ない、それが目の前で実際に現れた事実。現実なのだから。
「その巨人の恐ろしさを自分の親や兄弟!愛する者にも味わわせたい者も!!ここから去るがいい!!」
あるいは皆、わかっていたのかもしれない。ここから逃げても、これからも逃げ続けても、鳥籠の中にいる自分たちには限界があると。そうなれば当然、身内にもソレは迫る。それでも、一瞬でも長く一緒にいられるのなら……。
しかし現実は突きつけられた。あやふやにして目を背け、責任から逃れようとした彼らの前に現実はハッキリと戻ってきた。
「それだけはダメだ…」
誰かが絞り出すようにして呟いた。彼らの足先が回る。その肌は恐怖で青ざめていた。その手は恐怖で震えていた。しかし、その目は。壁の向こうを見るその目は、愛する家族だけを見ていた。
「4年前の話をしよう!!4年前のウォール・マリア奪還作戦の話じゃ!!」
ピクシス司令が語るうちに、隊列が戻っていく。
「あえてワシが言わんでもわかっておると思うがの!!奪還作戦と言えば聞こえはいいが!要は政府が抱えきれんかった大量の失業者の口減らしじゃった!!」
シガンシナから生き残ったアルミンの両親を含めた、当時の人口の2割。約25万人が命を落とし、僅か100名しか生還しなかったという王政府が発令した奪還作戦。彼らはまともな装備も訓練も与えられないまま壁外へ行き、無残に散った。
「皆がそのことに関して口をつぐんでおるのは彼らを壁の外に追いやったおかげで!!我々はこの狭い壁の中を生き抜くことが出来たからじゃ!!ワシを含め人類すべてに罪がある!!」
「ウォール・マリアの住人が少数派であったがため争いは表面化しなかった!!しかし!!今度はどうじゃ!?」
「このウォール・ローゼが破られれば人類の2割を口減らしするだけじゃ済まんぞ!!最後のウォール・シーナの中だけでは残された人類の半分も養えん!!」
仮にこの目の前にそびえ立つ壁が破られた場合、どうなるだろうか。南側に住む人々がどれだけ生き残るかはわからないが、その他3方角に住む人は殆どがウォール・シーナまで辿り着くだろう。しかしその内側の容量はピクシス司令の言う通りかなり狭い。そこを仕切っている政府や憲兵団の良い噂はあまり聞かないことから、ほぼ間違いなく門は閉じられるだろう。
だがそれで仕方がない、諦めようなどと人間は考えたりしない。なんとしてでも生存を勝ち取ろうと、利害の一致した者達が『敵』に立ち向かう。ただの一般民なら大したことにはならないだろうが、外側には調査兵団や駐屯兵団も含まれる、つまりそれは────
「人類が滅ぶのなら巨人に食い尽くされるのが原因ではない!!人間同士の殺し合いで滅ぶ!!」
戦争である。
「………」
責任者は堂々と叫ぶ。この壁を放棄することは人類の敗北を意味すると。だから、立ち向かわなければならないと。誰かが彼に陰口を叩くかもしれない。自分は直接戦わないくせにと。中には彼に大きな不満を抱えた者もいるかもしれない。俺達は捨て駒なんかじゃないと。
しかし、彼は叫ぶ。決して謝罪の弁を述べることはなく、決して頭を下げることもない。どれだけ酷評されようとそれは承知の上。『敵』に打ち勝つこと。今はただそれだけが彼の背負った責任であり、その為なら自分の評価だろうと自分の部下だろうと、捨てることを決して厭わない覚悟がある。それが、現状に変化をもたらす最善手であるために。
「我々はこれより奥の壁で死んではならん!!どうかここで───」
「ここで死んでくれ!!」
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