ベルがサイヤ人なのは間違っているだろうか   作:ケツアゴ

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第十三話

「へぇ。アンナさんを脅していたカジノのオーナーってお尋ね者だったんですね」

 

 お昼時、昨日行われたガネーシャ・ファミリアによるカジノオーナー捕縛の詳細をナァーザから聞いたベルは三十個目のパンを食べる手を止めて呟いた。

 

「いや、大変だったんですよ、ベル様。リューさんはどうもギルドに直接出向けない理由があるらしくって、リリが代わりに色々誤魔化して説明したんですから」

 

 どうも前々からガネーシャ・ファミリアはエルドラドリゾートのオナーであるテリーを怪しんでいたらしく、迅速な行動で聴取に出向き、事前に調査をしていた何者かからのタレコミもあって背中に刻まれた恩恵から手配中のお尋ね者だと判明した。なお、なぜ背中を見る事が出来たかというと、偶然が重なって背中が露出した……という事になっている。

 

「まあ、今回は私達は目立たなくて良かったな。アポロンの一件から注目されている事であるし、別の話題に興味が移るのは良い事だ」

 

「それは良いんですが……アンナさん、辞めてしまいましたからね。また新しい人を探さないと」

 

 事件が解決し、借金を理由に妾にされていた女性達も解放された。その中にアンナもいたのだが、さすがにスパイ活動をしていた事が心苦しいのか親元に戻る際に家政婦を辞めてしまったのだ。結果、ベルの膨大な食事を作る人手が減ってしまった。

 

 

「おや、客のようだな。急な怪我人かもしれんし、開けるとしよう」

 

 今はお昼時であり、休憩時間の看板を店のドアにぶら下げていたのだが、ノックをする音が聞こえてくる。ミアハが席から立ち上がり鍵を開けた時、慌てた様子で飛び込んで来たのはタケミカヅチであった。

 

 

 

 

 

「ミアハ、頼む! 金を貸してくれ。大金が今すぐ必要なんだっ!!」

 

「ちょっと待ってくれ。説明を頼む」

 

 ミアハの顔を見るなり土下座をして頼み込んでくるタケミカヅチ、そして続いて入ってきた眷属達も同様だ。土下座が何を示すか住んでいた場所が違うので知らないミアハだが、流れから大体察する。その上で事情を聴きだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……春姫が歓楽街に?」

 

 リリから話を聞いた桜花達はホームに帰るなりタケミカヅチに春姫がイシュタルの所に居るかもしれないと話をした。彼女と彼らの付き合いは古く、タケミカヅチが管理する孤児院に春姫の頼みで支援がなされ、それを切っ掛けに屋敷に忍び込んで遊ぶようになったのだ。

 

 だが、ある日を類に行方不明になった。その彼女が歓楽街、しかも娼婦を束ねるイシュタルの所に居るかも知れないという。

 

「名前が同じな上に種族も同じらしく……」

 

 信じたくなく、勘違いであってくれと願いながら命は言葉を濁す。沈黙が流れる中、タケミカヅチが立ち上がった。

 

「こうして話していても埒が明かん。実際に歓楽街に行って確かめに行こう」

 

「しかし探っているとイシュタル様に知られれば……」

 

 イシュタル・ファミリアは大手だ。弱小の自分達など簡単に叩き潰されると、此処に居る皆分かっている。だが、それでも本人かもしれないという気持ちは抑えきれない。

 

「よし! 俺が他の客の様に客のふりをして探りに行こう。冷やかしで見て回るだけの奴も居ると聞くし……」

 

「取り合えず私達の中の誰かが見に行きましょう。女性より男性の方が良いですよね。桜花……はランクアップしているから止めておきましょうか。アマゾネスに狙われるかもしれない」

 

 タケミカヅチが行くという選択肢は眷属達の中にはない。本人は無自覚なだけで女性にモテる彼を送り込むのはウナギの群れの中に麩を放り込むようなもの。食われて終わりだ。そして桜花だが、命は彼に好意を寄せる千草に視線を送り、止めさせる。

 

 結果、Lv.1の男が見学のふりをして見に行く事になった。お金などないので間違っても客引きに引っかからないようにと言い含められ、数日を掛けて調査をした結果、春姫を発見したのだ。

 

 

 

 

「……だが、人違いだと言われたらしい。恐らくは今の姿を俺達に見られたくないのだろうな」

 

 良家の箱入り娘が何故遠国の娼館等に居るのかは分からないが、少なくても辛いであろう事は理解出来る。だから彼らはある手段に出る事にした。身請け、脱退金を払ってイシュタルの所から抜け出させるのだ。多少強引な気もするが、それが春姫を助ける唯一の方法だ。

 

「だが、俺達は孤児院に仕送りする為に出稼ぎに来て、俺までバイトをして金を稼いでいる身で身請け金など到底出せん」

 

「……それで私達に貸して欲しいと、そういう事ですね」

 

 ナァーザは内心面倒だと思っていた。主神は友神同士かもしれないが、見受けに使う様な大金を貸し、イシュタルに何かの形で目を付けられるのも嫌だ。だが、同時に悟っていた。ミアハは言って止めるような神ではないと。……だからこそ自分は彼に好意を寄せているのだとも。

 

 

「ベル、貯えが減るから暫くは深層で稼いで来て貰える? 高く売れる物をリストアップしとくから。……言っておくけど階層主に挑んだら駄目だから」

 

「は、はい! ……どうしても駄目ですか?」

 

「魔法が有るでしょ。昨日は見た事もない緑の化け物だっけ?」

 

 抜け目なく釘を刺すナァーザに落胆しつつも一応お伺いを掛けるベル。最近気の扱いを学んだので一度挑んでみたいと思ったのだが、結局却下された。尚、緑の化け物は自分にはベジータの細胞が云々といわれたがベルにはチンプンカンプンで理解出来なかった。

 

 

 

 

 その後、『巨蒼の滝』に通いつつ、ティオナとの組手や魔法を使っての強敵との戦闘にならない戦闘を繰り返しながらベルの日常は過ぎていった。青いハリケーンや赤いマグマを名乗る者達に二日続けて瞬殺されたベルは今日も『バトルアリーナ』を使用する。

 

 

 

「ふんっ! 生温い星では碌な修業が出来んかったようだな。だが、強くなろうとする意志は認めてやる」

 

「えっと……誰ですか?」

 

 この日現れたのは父親によく似た男だが見覚えがない。だから素直に聞いたのだが、不機嫌そうな顔で返された。

 

「貴様は自分の力もよく理解していないのか、馬鹿め。現れる虚像の年齢はランダムで決まり、それ以降は固定される。もっとも、ランダムでしか呼べない今のお前では意味がないがな。……さて、御託は此処までだ。はぁっ!!」

 

 男が気合いを入れると同時に全身が金色のオーラに覆われ、毛も金へと変貌する。放たれる圧力にベルは後退りしそうになり、寸前で踏みとどまった。

 

 

「一々気のコントロールや探知などを教えてやる気はない。ベル、貴様もサイヤ人なら分かっているな?」

 

「はい! 実戦で学べ、ですね!」

 

 男に向き合ったベルは気を練って戦闘力を高める。目の前の相手に比べれば雑で未熟すぎるが、ベルに出来る最大限だ。そして、男が指で掛かって来いと合図した瞬間、ベルは全速力で飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

「今日は随分と長かったですね」

 

「ああ、それに随分と嬉しそうだ……」

 

 何時もは数秒なのに、この日は数時間が経過した頃に気絶して出て来たベルだが、その顔はとても晴れ晴れとした物だった。まるで憧れていた存在に少し認めて貰った様な、そんな顔で気を失っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「……春姫を身請けしたがっている奴らが居る?」

 

 美の女神イシュタルは美童が差し出した果物を口に運びながら側近の青年からの報告を受ける。面倒だという感情を隠そうともしないが美貌に陰りはなかった。

 

「はっ! どうも同郷の知人らしく、タケミカヅチ・ファミリアの様です」

 

「それで引き取ろうってのかい。下手に拒否をすれば勘ぐられてフレイヤとの抗争に響くかも知れないね」

 

「……潰しますか?」

 

 寵愛を注いでいる眷属の言葉にイシュタルは首を横に振る。もう目当ての物の入手の手立ては付いた。潰すのは容易いが、どうせ何も出来ない連中を警戒するのも癪だった。

 

「春姫を閉じ込めておきな。他の者に買われたとでも言っておけば良いさ。タケミカヅチには嘘がわかるが、騒ぐならその時には潰せばいい。……それより例の小僧の情報は集まったのかい?」

 

「どうやら最近は一人で深層まで行っている様です。ですが、ギルドからランクアップしたとの発表も無く……」

 

 その報告に対し、イシュタルは面白そうに目を光らせ舌なめずりをする。そして忌々しそうにバベルの上層部、フレイヤの部屋に視線を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「春姫同様にとんでもない秘密があるんだろうさ。利用出来そうだし、もっと調べるんだ」

 

 これからの計画を思いイシュタルは笑みを浮かべる。空に浮かぶ月は後数日で満月になろうとしていた……。

 

 

 

 

 そして次の日、ベルは今までの最短記録で魔法で作り出した空間から飛び出してきた。彼は譫言のように呟いていたという。破壊しないで下さい、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

「おや、どうかなされましたか?」

 

「なーんか僕の偽物っぽい力を感じてさ。……一眠りしたら見に行くぞ」




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