「あっ、この世界滅びるな」
ギルド最奥の祭壇にて祈祷を続けダンジョンを鎮めている神が居る。名をウラノス。バベルによって封印されたダンジョンへの大穴を封じるのに貢献した神々の内の一柱であり、威厳のある老人の姿をしている。
そんな彼の諦めきった様な声色でいつもと違う口調の呟きに対し、部屋にいた男は我が耳を疑った。この神の性格からして冗談など言うはずがないのだ。つまり、彼が世界が終わると思うほどの何かが起きており、まず思いつくのが一つある。
「まさかダンジョンの封印が解ける……オラリオが崩壊するのか!?」
大昔の伝承に残る地獄のような戦いが再び始まるのかの問いに対してウラノスは静かに首を横に振った。
「それならば希望が残っている。だが、あのお方の気分次第では世界が文字通り消え去るのだ。我らこの星の大神や神が力を合わせても到底敵わぬ存在によってな」
長い付き合いだ。苛立った顔、焦った顔は見て来た。だが、今回のように目の前の神が全てを諦めた顔をするのを見るのは彼にとって初めてのことであった。
「ききき、聞きたいことですかっ!? ぼ、僕に答えられる事なら何なりとっ!!」
イシュタル・ファミリアの面々は急展開に取り残されていた。主神のターゲットを万全の状態で待ちかまえていたにも関わらず人質を奪還され、無謀にも一人で戻ってきたかと想えば巨大な猿に変身した。既にお腹一杯なのだが、突如現れた謎の
「おいっ! 私が先だ、引っ込んでいろっ!」
だからだろう、イシュタルが片方の紫の猫の様な方に怒鳴ったのは。言葉を話すモンスターに微塵も驚いていないのは理由有ってのことで、外のモンスターはダンジョンのより弱いから眷属がこれだけ居れば瞬殺だと思っていたのだろう。結果から言えば無知無謀の行動だった。
イシュタルが怒鳴った方……破壊神ビルスの目が不愉快そうに細められ、指先が彼女に向けられる。
「破壊」
ただ、それだけ言っただけだ。それだけでイシュタルの体は足下から透け、やがて完全に消え去る。眷属達は目の前の光景が飲み込めず、ビルスは横に立つお付きの青年に視線を向けて顎でしゃくる。
「おい、ウイス。残りの適当に飛ばせ。僕は眠くて面倒臭い」
「はいはい。ご自分で行くとおっしゃっていたのに、まったく」
文句を言いながらもウィスが杖を掲げると光り輝き、イシュタルの眷属達の姿が消え去った。それを見たビルスの視線が縮こまったままのベルに向き、彼は巨体をビクッと跳ねさせる。
「邪魔者は居なくなったね。じゃあ聞くけどさ……この星から僕の偽物っぽい力が放たれたんだ。君、何か知ってるかい?」
誤魔化しは許さないとビルスの目が告げ、ベルの記憶が蘇る。父が宇宙一寝心地の良い枕を要求されたのに自分で使い、ビルスには二番目のを差し出したのがバレて怒りを買った時の光景だ。ベジータが堪えきれずに向かっていって触れることすら出来ず、自分は物陰から震えて見ているだけだった。
「何か知ってるぽいね。早く言わないと僕不愉快に思っちゃうかもよ?」
「い、言いますっ! 実は……」
ベルは観念し、ビルスの怒りを買わないことを願いながら魔法の事を話し出した。ビルスは時折神から貰える恩恵について聞き、漸く質問が終わったと思った時、ベルは完全に消耗しきっていた。
「まっ、ワザとじゃないなら勘弁してやるか。超サイヤ人ゴッドについても知ってたしね。……あー、でも僕の眠りを邪魔したしな」
「ビルス様ったら大人気ないですよ。許すとおっしゃったじゃないですか」
「……じゃあ何か芸をしろ。それで許してやる」
この時ほどベルはバトルアリーナを会得して良かったと思うことはなかった。何せバトルアリーナのせいで呼び寄せてしまったビルスの機嫌を取る為の芸はバトルアリーナで出会った知人の虚像から伝授されているからだ。
「それではビルス様との再会を祝してギニューさん直伝の喜びの舞を披露いたします!」
数日後、また変身するかもと焦っていたベルだが、魔法を使ってベジータに尻尾を抜くコツを聞いたおかげで、聞く前に四苦八苦しても抜けなかった尻尾が何とか抜けたベルはホームでご飯を食べていた。
「それで踊りを見せたら帰ってくださったのか。ビルス様とやらは……」
「ええ、ウィスの踊りの十倍酷い、怒る気力もなくした、っておっしゃって帰って行かれました」
ウィスによってバラバラに飛ばされたイシュタルの眷属達だが、運良くオラリオ内部やオラリオ近辺に飛ばされた者も居たようで、今はイシュタルが行った事をギルドに報告している所だ。だが、ビルスに関する事項はウラノス直々に箝口令が敷かれ、ミアハ達にも多額の口止め料と共に話さないようにとの書状が誰かの手によって届けられた。
「だけど僕のせいで皆がまた……」
「何、気にするな。此処にお前を責める者は一人もおらん。それに例の春姫だが、仲の良かった団員と共にオラリオに戻ってきたそうではないか。不幸中の幸いといった奴だな」
イシュタルが消えたことについて言及しない所を見るとミアハも怒っていたようだ。だが、それ以上に嬉しいこともあった。春姫だが、豊穣の女主人で働きながらタケミカヅチ達との交流を取り戻したようだ。本人の娼婦に関するコンプレックスも、ウブすぎて使い物にならなかったと知ったらしい。
「でも、もう変身は懲り懲りですよ。スキルの効果で理性は保てるって兄さんとの修行で知ったけど、服は破けるし、遠吠えはオラリオまで響いていて、箝口令も相まって謎のモンスターって騒ぎになっちゃうし」
もっとも、面倒な事もあったが。何とかローブで全裸は免れたが、風が吹くたびにビクビクしながら歩いたのは苦い思い出になった。
「それよりもランクアップですよ、ベル様。今更ですから騒ぎになっていませんが、世界最速記録って噂になっていますよ。
そう。今回得た経験値でベルはランクアップを果たした。浚われた直前までに稼いだ分か、星を救ったとカウントされたのかは分からないのだが。もう起きるであろう騒ぎに慣れてきた一行がさほど心配していなかった時、不意に来客があった。名をヘルメスという。
「やあ、ミアハ。朝から悪いんだけど、帰ってこないヘスティアの眷属を救出するのを手伝ってくれないかい?」
「所でウィス。彼奴って神なのにどうして僕を知らなかったんだ?」
「普通の星とは違ってあの星は神が司る物を分担してらっしゃいますからね。通常の神の業務である星の管理をしている大神数名だけが知っているのですよ」
「しかし踊りは本当に酷かった。……ギニューって奴が教えたんだっけ? 起きたら文句言いに行かなくちゃね」
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