食事後、ベルは正直に自らの境遇を話した。物心がつく前の事だったので赤子の時に送られる他の最下級戦士が与えられる程度の記憶しかなかったが、正直にだ。
「神である私でさえ知らなかった民族、サイヤ人か。他の神なら知っているかもだが、玩具にされる事を考えれば秘匿せねばな。……地上には居なかったか」
ミアハは神であり人の子のウソを見抜ける。だからこそベルが正直に話している事を理解した。
「地上には居ない……つまりはるか昔に地下空間に移り住んだのか。精霊からも知らされないという事は余程劣悪な環境で、それに適応する為に異常なまでの身体能力を持っているのだろうな……」
ベルは神々が知る地上の人間ではない、と説明した。誤魔化す気など全くなく、ミアハ達は見事に勘違いしている。追放されたという事で詳細を聞くのは悪いと聞かなかったせいでもあったが……。
それは兎も角、無事にミアハから恩恵を与えられたベルだが、翌日から即ダンジョンに潜る……という訳には行かなかった。ダンジョンに関する講義を担当官から受け、漸くダンジョンに潜る事が許される。初日の件は焦って恩恵を受けて直ぐに入ってしまったからと誤魔化したが厳重注意を受けた。
「お前は強いが、それでもダンジョンでは何が起きるか分からない。気を付けるのだぞ、ベル」
「これポーションや毒消し、それと腹持ちの良い食べ物をお弁当にしておいたから。……食費、ギリギリだったから無理しない程度に頑張って」
初日に登録前にダンジョンに潜った事で面倒な手続きなどが発生し、その上、中層の物が含まれていた為にギルドではなく他のファミリアに買取を頼んだ魔石やドロップアイテムは訳ありと足元を見られて買い叩かれた。それでもかなりの額ではあるが、ベルはダンジョンでの戦闘によるエネルギー消費がない日でも一食二十人前は食べる。それが毎食で、更にはディアンケヒトへの借金の返済も重なってほぼ消えていた。
「は、はい! 頑張ってきますっ!」
自ファミリアで制作した薬をホルスターに差し、ついでにと渡されたダンジョンで採取して欲しいアイテムのメモ、そしてカバンに詰まった食料を受け取ったベルは少し緊張した様子でダンジョンへと向かっていく。初日とは違い、ファミリアの看板を背負ってのダンジョンだ。
「さて、元気で帰ってくれれば良いが……」
「初日の成果からすれば大丈夫だと思うけど……せめて食費だけでも稼いで来てもらわなきゃ」
二人はベルの後姿を見送ると、商品であるポーションの制作に取り掛かった。無理だけはしないで欲しいと願いながら……。
「はぁああああああああああああっ!!」
周囲に誰も居ないのを良い事にベルは堂々と空を飛び、冒険者に群れで上空から襲い掛かり多くの犠牲を出す事から『上位殺し』との異名を持つデッドリーホーネットの群れを気功波の連射で倒していく。胸に魔石があるという事を覚えたので頭を狙い、時に完全に破壊しながらも二十匹程の群れを返り討ちにした。
「あっ! あれって確かホワイトリーフ! って、ビックリしたっ!?」
『キュッ!?』
ベルは喜んで希少な素材アイテムへと向かって行き、木陰から飛び出してきたメタルラビットを手で払い除ける。此処はダンジョン中層部『大樹の迷宮』。ミアハ達は無理はするなと言ってベルもその積りだ。ただ、この程度は無理には入らなかった。
デッドリーホーネットやメタルラビットの魔石やドロップアイテムを回収し、周囲から採取出来る物を採取しつくした頃、ベルの腹の音が鳴る。ダンジョン内では分からないが、どうやらお昼時のようだ。適当な小部屋で周囲の壁を破壊してモンスターの生産を防いだベルはウキウキしながら弁当を広げた。
干し肉のサンドイッチを咥えながら水筒の中のスープを蓋に注ぎ、サンドイッチを飲み込むと同時に流し込む。幾つか果物を齧り、干し魚を骨ごとバリバリと噛み砕いた。途中、喉に詰まったのか慌てて胸を叩いてスープで流し込み、再びサンドイッチに手を伸ばす。
「……ふぅ。ごちそうさまでした」
かさばるからと食べ物が入っていたスペースに採取したアイテムなどを詰め、此処がダンジョンでなければお昼寝をしたいなと思いながら立ち上がった。
「この辺のモンスターじゃ手応えがないなぁ……」
ベルはその気弱な性格から疎まれていたが、それでも根は戦闘民族サイヤ人。強敵と戦いたいし、戦いに集中したいから魔石やドロップアイテムの採取も実は面倒だ。
「よし! 次に行こう」
次に目指すのは下層 大瀑布『巨蒼の滝』。出現モンスターも当然手強い。
「てやっ!」
ベルの飛び蹴りを叩きこまれたブルークラブの体が衝撃に耐え切れずに砕け散る。足は反対側まで貫通し、魔石を見事に砕いていた。ドロップアイテムも見当たらない事に落ち込むベル。
「少し柔らかすぎるよね……」
地上で狩っていた獣ならばナイフを使うなどの
「……駄目だ。二人と約束したから無理は出来ない」
後ろ髪を引かれる思いでベルは空を飛んで上層を目指す。何時か戦うと心に決めながら……。
「……食料が問題だよなぁ。持ち込むのは一食分がやっとだし……」
なお、ダンジョン内での戦闘で腹が減ることを考慮した場合、ベルの一食は三十人前を超える。荷物が嵩張って当然であった。
「それならサポーターに任せれば戦いに専念できるが、口が堅い者でないと危ないな」
「Lv.5相当のLv.1とか神々が喜ぶ絶好のネタだものね。ディアンケヒト・ファミリアは大手だから信用を大切にして買い取った事に対して何も言わないけど……」
出向けば目に付くからと態々人目を盗んできて貰っているが、出張料金だなんだと言って相変わらず買い叩かれている。ダンジョン十八階層に存在するリヴィラの街並みの買取金額にナァーザは憤慨するが、ミアハはベルを目立たたせない為だと言って宥めた。ローブなどで顔を隠すにも限界がある。弱小である以上は仕方のない話だった。
「さて、食事が終わったら更新をしよう。もしかしたらランクアップしているかもな」
当然冗談だが、不安をのかき消す為の物でもある。Lv.1で下層まで行ったのだからしていても不思議ではないが、そうなれば厄介な神々の好奇心を刺激する。ベルの戦いを見られれば何時かは虚偽申告の疑いがかかるであろうし、そうなれば確認されるからそっちの方が厄介な事になる。
だが、その予想は意外な形で裏切られる事になった。
「むっ……いや、仕方がないのか?」
・【 力 】: I 0 → 10
・【耐久】: I 0 → 3
・【器用】: I 0 → 9
・【敏捷】: I 0 → 7
《スキル》
【
強敵と戦闘時にアビリティ及び獲得経験値に補正
戦闘欲求が高まる
「……殆ど伸びていませんよね?」
「いや、伸び方としてはそれ程異常ではないのだが……うーむ」
下層まで出向いて戦ったにしてはあまりに上昇率が低い。だが、理由もハッキリしている。元々の戦闘力が高すぎるせいで下層のモンスターを倒した程度では大した経験値が入らないのだ。
「あっ、そうだミアハ様! 下層に凄く強そうな双頭の竜が居たんですっ! 戦ってみても良いですかっ!?」
「うん、駄目だ。それ階層主だからな」
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