ベルがサイヤ人なのは間違っているだろうか   作:ケツアゴ

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当初はシリアスにする予定だった


第二十話

 駆ける、駆ける、駆ける。月光以外に地上を照らす物の存在しない港町を駆け抜け、少年は必死に逃げていた。追走者の姿は見えず、されど確実に己を追って来ているのを感じ取る。恐怖に支配された心は冷静な思考を阻み、最適の逃亡経路に行き当たらせない。

 

「ひっ!?」

 

 水面を魚が跳ねる音に思わず悲鳴を上げる。この時間は沖の方に出かけているのか漁師達の騒がしい声も聞こえず、風で枝が揺れる音や虫の声だけが耳に入ってくる静けさだ。聞こえるはずのない足音の幻聴を感じベルは身を竦ませる。捕まれば只では済まないと本能が告げ、兎に角距離を開けることしか考えられない。

 

「と、取り敢えずこっちにっ!」

 

 接近する気配に震えながらベルは足音を忍ばせつつ逃走を続ける。何故こうなったのか、それは前日まで時間を遡る……。

 

 

 

 

 

「イシュタル・ファミリアの団員が居た? ベル様、それは確かですか?」

 

「うん。随分弱々しい気だったから恩恵は受けていないみたいだけど、多分同じ気配の持ち主があの時に居たと思う」

 

 釣りを楽しんだ旅行初日の昼時、特大の巨黒魚(ドドバス)の丸焼きの十皿目を食べていたベルは思い出した事をミアハ達に告げる。すわ報復か、と警戒したリリであったが恩恵を失ったままと聞いて一安心。一瞬、イシュタルに熱を上げていた神が彼女から話を聞いてベルに見当違いの怒りを抱いたのかもと思ったが、恩恵を失った状態の者一人を見張りにするのなら可能性は薄い。

 

「恐らく偶々見かけた程度だろうが……ふむ」

 

「ああ、だったら午後は船釣りに行く? もしもの時はベルが飛んで運んでくれれば良いし」

 

 トラブルに巻き込まれることより、巻き込まれた後でベルが気にすることを心配したミアハだったが、ナァーザがベルに提案した内容で解決する。観光客用に行っている船釣り、それが午後からの予定になった。

 

 

 

 

 

「モンスター除けのアイテム?」

 

「ああ、これを撒いてるとモンスターに襲われにくくなってな。でも、襲ってくるのがいたら頼むぜ?」

 

 釣り竿を持ち込み釣り船の乗り込む一行。水中にも既に塞いだ穴を通ってダンジョンから抜け出したモンスターの子孫が存在し、漁業に深刻な損害を出しているらしい。先程ベルが店の在庫を食べ尽くした巨黒魚(ドドバス)もモンスターに対抗すべく鱗が異様に発達する始末。だが、船員が今撒いている黒い粉が有れば船が襲われる確率が減るとの事だ。

 

(あれ? これは避けているって言うよりも……)

 

 船員の言葉が気になって水中に意識を向ければ手に取るように魚やモンスターの気配が感じられる。此方の気配を察知したのか非常に弱いモンスターの気配が接近するも、別のモンスター、それもダンジョンで普段戦っているのとはどこか違った気配の持ち主が襲い掛かっている。この気配、何処かで会った事がと思ったが思い出せない。

 

「ベル、どうかしたのか? ……おや? 襲われたようではないが随分ボロボロだな」

 

 ベルが思い出そうとしているのが気になった様子のミアハ。船が港から遠ざかろうとした時、桟橋に引っかかる様にして浮いている小船を発見した。襲撃による物というよりは過剰な負荷、それこそ尋常極まる速度を出した様なそれによって受けたらしきダメージを負った船とオール。少しだけ嫌な予感がした……。

 

 

 

 

「……アイツか?」

 

「う、うん! そう。あの子が激怒兎(ベルセルク)ベル・クラネル。Lv.5のティオナ相手にLv.1の時点で互角以上に戦ってたよ。……えっと、もう行って良いかな? 案内はしたしさ……」

 

 まだ少女特有の顔立ちや未発達の体を持つ彼女、ベルが言っていたイシュタル・ファミリアの元団員はビルス達によって飛ばされた先に存在した船の乗組員、その中でも最強の二人相手にオドオドしながら話をしていた。

 

 アマゾネスの国から主神であるカーリーと共に来た彼女達に曲者だと殺されそうになるも、急に現れた事に興味を持ったカーリーに事情を話して助かった。どうやらイシュタルと約束があったらしいが恩恵が消えた事から地上に不在だと計画は頓挫。その代わり、ベルに興味を持たれた。

 

 曰く、何度もランクアップする素質も欲しいが、一度もランクアップしていないのにそこまで強いのは体に何かあるのだろう、と。肉体的な物なら引き継ぎやすいだろうとベルを攫う事になり、目立たない為にLv.6の二人と共に小船でやって来たと言う訳だ。

 

「ああ、国に来ないなら用はない。ワタシ達の目的はあの男だ」

 

「まあ、種馬としては役に立つだろうな」

 

 この二人、と言うよりはベルとこれ以上関わりたくない彼女は返事を聞くなり急いで去っていく。ベル達がこの町に来ていなければオラリオの内部を案内しなければならなかったので幸運と言えるだろう。この後、次のファミリアが見付かって嬉しさから飲み過ぎた結果、とある狼人の青年に絡んで返り討ちにあうのだが、また別の話だ。

 

 

 

 

 

「……漸く戻ったか」

 

「ナァーザさん、リリ、ミアハ達を。先に宿に帰って料理を注文しておいて下さい。来るまでに向かいます」

 

 元々別の言葉を使っていたのか少々訛のような物が感じられるアマゾネスが二人、宿に向かうベル達の前に立ちふさがる。二人とも拳を構え、これから闘いを始める気なのは一目瞭然。後ろを歩む三人を手で制したベルは二人から視線を外さないまま、それでも当たり前のように言い放つ。この二人は自分より弱いから直ぐに済むと。

 

「私としては闘いは避けて欲しいのだがな。怪我はせぬようにな」

 

 ミアハは戦うこと前提のベルに溜め息を吐きながらも心配した様子はなく、リリやナァーザも全く不安そうにしていない。一行の態度が気に入らないのかアマゾネス達の表情が険しくなる。戦士としての矜持を傷付けられた、その様な表情だ。

 

 

 

 

 

「……それで僕に何の用ですか? えっと、初対面ですよね?」

 

「ああ、貴様の事を聞いてな。あの女の言葉を鵜呑みにする訳じゃないが、国にまで来て貰うぞ」

 

「その前にどれだけ戦えるか試してやる」

 

 あの女とは自分を観察していた少女の事かと思っていたベル。その思考による隙さえ侮辱と感じたのだろう。二人は同時に襲い掛かった。

 

 

 

 

「わっ!? きゅ、急に来るなんて……」

 

 二人の拳打、手刀、蹴り、一撃一撃が常人なら挽き肉になる程の威力で振るわれ、容赦なく繰り出され続ける。アマゾネス特有の武術によって果敢に攻め立て、嵐の如き勢いで前進を続ける。ベルは全く反撃する様子を見せず後退するばかりだ。

 

「……うん。もう良いかな? 厄介なスキルを発動されても困るし」

 

 端から見れば一方的な闘いだが、表情を見れば有利不利が覆る。焦りを見せる二人に対し、ベルは無傷のまま表情を変えない。二人による猛攻を受け止め、弾き、逸らす。反撃できないのではなく、しない。ベルは背後を見て呟いた。彼の背後は騒ぎに巻き込まれまいと先程まで居た人々が逃げ出して誰も居らず、もう十分に時間は稼いだ。

 

 怒りの籠もった二人の突きはベルの急所めがけ放たれ、残像をすり抜ける。背後から聞こえる着地音。直ぐ様振り向く二人。ベルの両手から放たれた気功波は二人を飲み込み、湖の上を突き進んだ後で上空へと昇っていく。Lv.6の耐久性故か気功波の直撃を受けても立っていた二人だが、最後にベルのデコピンで二人揃って仰向けに倒れた。

 

 

「えっと、人を呼んでおけば良いかな?」

 

 二人の事を騒ぎを聞きつけてやって来たギルド支部の者に説明し、事情聴取を言い渡されるより前に逃げ出すベル。わずかな時間だが戦いによって空腹だった。当然、ご飯を食べた後に見付かって長時間事情説明をするはめになったのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 ……その夜、奇妙な気配を感じたベルが目を覚ませば部屋に誰か居る。

 

「あ、貴女達は昼間のっ!」

 

 居たのは昼間のアマゾネス。どうもリベンジ、という訳では無さそうだ。殺気も感じず、瞳は熱を帯びている。

 

 

 

「……パーチェだ」

 

「アルガナだ……」

 

 何の用か、ベルは怖くて聞けなかったが二人は聞いても居ないのに口にする。自分達を圧倒したベルの子供が欲しい、と。

 

 

 ベルは当然の様に逃げ出した。もう父親とは別のベクトルで怖かったらしい……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、同じ町にロキ・ファミリアの一行がやって来た。




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