「ベル様お強ーい!」
厄介な訳ありと関わった、サポーターの少女、リリルカ・アーデは数日前に自分を雇った冒険者であるベルに媚びを売りながら焦っていた。
「お兄さん、お兄さん。サポーターは要りませんか?」
自ら戦う才能のない者がなるサポーターであるリリルカ、リリは視界に入った二人の内、ガラの悪そうな黒髪の青年ではなく、人の良さそうな少年を選んだ。本来ならばタイミングが合わなかった二人だが、オラリオまで上空を飛んでやって来たために到着時期がズレていたのだ。
今日の日銭を稼げればいい、その程度の予定だった。実際、装備は貧弱で本人も頼りなく、もう一人が如何にもっと言う感じだったから選んだだけ。だが、実際は違った。
「てやっ!」
「キュッ!?」
初日だから軽めにと言って向かったのは中層。身の程知らずを通り越して自殺志願かと焦ったが、アルミラージの群れを一蹴し、最後にミノタウロスを拳の一撃で仕留めた事で認識が変わる。
もっとヤバい相手だと、悪い方へと認識を改めた。帰り道、人通りの多い場所ではフードで顔を隠し、上層部で採れる僅かな魔石以外はリリ一人に換金を任せる。そして、口止め料なのか半額をポンッと渡してきた。
彼女は慎重だ。本来なら今度から関わらないが、渡されたのは彼女が報酬をキチンと貰えた場合の百倍近く。自分をカモにして稼いだ金を力付くで奪う同ファミリアの冒険者に奪わせる見せ金を除けても目標金額の達成など楽に思える。
(税金逃れの虚偽申告ってレベルじゃないのでしょうね。恐らくは公には顔を知られていない凶状持ち。あれだけお金を受け取った今ではリリも仲間だと思われるでしょう。……でも、せいぜい利用させて頂きます)
どう見てもお人好しの田舎物にしか見えない事がリリの警戒心を解かせようとするが、強さを見る度に警戒心が強くなっていく。引き際を見定めつつ、ベルに愛想を振りまくリリであった。
「其処の貴女、ちょっと良いかしら?」
其れは何時もの様にリリを獲物にしている冒険者達に暴行され、奪わせるために分けておいたヴァリスを奪われた後で残りを宝石に変えて貸金庫に入れた帰り道のこと、不意に背後から掛けられた声にリリは思わず振り向く。
「……あ」
この瞬間、リリは心の底まで『魅了』された。
「貴女と一緒にダンジョンに潜っている子に少し興味が湧いたの。本当に珍しい魂の色をしていたわ。……知っている事を教えて貰えるかしら?」
「はい、女神様……」
この数日後、リリは所属していたファミリアに脱退金を払って改宗を果たす。ファミリアは酒の販売で儲かっており、リリには特に価値のないにも関わらずそれなりの額を請求されたが何故か払う事が出来た。彼女の貯金では不足していたにも関わらず……。
「へぇ、前のファミリアで苛められていたのを見かねた神様が改宗を許してくれたんだ」
「はい! 其れで今までの雇い主で一番親切だったベル様の所が良いなと思ったわけです。宜しくお願いしますね、ベル様!」
大量の食料を買って帰るとホームにリリが居た事に驚くベルだが、事情を聞かされて納得する。嬉しそうに差し出されたベルの手を握り返すリリだったが、その目は別の誰かに向けられていた。
「……宜しいのですか? 何時もの様にホームまで勧誘しに行かなくて……」
「ええ、構わないわ。すぐさま欲しいと思ったのではなくて、今まで見たことのない色をしていたから興味を持っただけよ。例えるなら、吹けば消えそうな程に小さいのに眩い光を放つ種火。これからどうするかは近くにいる子に定期的に様子を聞きながら考えるわ」
「……了解いたしました」
リリがミアハ・ファミリアに入団してから数日後、リリの案で高い報酬のクエストが出たときの為に中層で採取できる鉱石を集めていた時、地響きと共に興奮した様子のミノタウロスが五体目の前に現れた。
「ベル様っ!」
咄嗟にリリは後ろに下がり、ベルは瞬時に飛び出す。未だミノタウロスが出てくる階層ではないが、一切の躊躇なく繰り出された飛膝蹴りは中央の一体の頭蓋を砕き、倒れていくそのミノタウロスを蹴って背後に飛んだベルは両手で計四つの気弾を放って残りを同時に仕留める。今度は魔石を破壊せずに済んだ。
「お見事です、ベル様! でも、一体どうして五体も上階に進出を……?」
ベルが飛んだり気を放ったりするのは念には念を入れたミアハの方針でスキルや魔法の類だと聞いているリリは魔石採取の為の刃物を取り出しながらも首を傾げる。その時、通路の向こう側から慌ただしい足音が聞こえてきた。
「おーい! 大丈夫ー?」
「『
慌てた様子で現れたのはアマゾネスの少女。特徴的な武器こそ持っていないが、その顔に見覚えのあるリリは思わず叫んでしまうが、当の本人は気にした様子もなく、頭部を無残に破壊されているミノタウロスの死骸を興味深そうに眺め、次にベルに視線を向けた。
「これ、君が倒したの?」
「ごごごご、ごめんなさいっ! 別に横取りする気はなかったんですっ!」
ロキ・ファミリアはオラリオでも最上位の勢力を持つ。そんな相手にダンジョンでの御法度である獲物の横取りをしたと睨まれては弱小ファミリアなど商売が成り立たなくなるだけでは済まないと慌てるベルだが、相手は一瞬面食らった後で吹き出した。
「あははははは! こっちのミスで逃がしちゃった訳だし、寧ろ助かった方だって。それにしても短時間で五体も倒すって強いねー。あっ、あたしティオナ。君達は?」
「おーい! そっちは仕留めたのー!?」
「あっ、未だ残ってたんだ! ごめん、もう行くね!!」
貧弱な装備にも関わらず自分が見失った僅かな時間で五体も頑丈なミノタウロスを倒したベルに興味を持ったのかベタベタ触ってきたティオナだが、通路の向こうから声を掛けられて慌てて去っていく。まるで嵐のような相手に暫く呆然としていた二人だが、リリがいち早く我に返った。
「ベル様、早くリヴィラの街に行って貸倉庫の交渉をしませんと。保存食を倉庫に入れておけばダンジョンに長く潜れますね」
「うん! 僕の食事量じゃリヴィラで買い求めたら全然足りないからね。。……あっ、今日は夕食どうする?」
今日は上層部でナァーザに頼まれた新薬の材料を集めるのに時間が掛かり、リヴィラの街で倉庫のレンタルに関しての交渉を終えたら直ぐに帰らないといけないが、ナァーザは取引先に食事に誘われており、ミアハは友神の愚痴を聞くために出掛けるらしい。なので今日の収入を使って偶には贅沢をしろと言われていた。
「……ベル様のお陰でそれなりの換金額が期待できますし、値段は張るけれど豊穣の女主人という店の料理が人気だとは聞いていますし行きませんか?」
その後、足元を見たレンタル料に二人が諦めて地上に帰った後、二人はリリが言った店へと向かった。
「いらっしゃいませ! お二人様ですね、こちらにどうぞ!」
二人が店に入ると愛想の良い声で店員の少女、シルが出迎えてカウンター席へと案内される。漂ってきた香りにベル達の食欲が刺激されるも、メニュー表の値段を見て呆然とした。
「た、高い……」
お金は足りるが、ベルの食欲を考えれば使い切ってしまうという事態に慌てるも、店長のミアの重圧が怖くて帰れない。仕方なく今日の収入をカウンターの上に出す。
「あの、予算はこの範囲で……」
「結構あるじゃないのさ。アンタみたいのがそんなに食えんのかい?」
「もぐっ! あっ、今日のオススメ三皿追加で……はぐっ! 其れとドドバスの丸焼き七皿と肉野菜炒め五皿と飲み物を……あっ、オススメはやっぱり六皿でお願いします。いやー、本当に美味しいですね、このお店」
カウンターの上に積まれた皿の山は絶え間なく増え続け、ミアだけでなく料理ができる店員まで総動員して作り、残りの店員も洗い物や接客で慌ただしい。彼女達はシル以外が実は高いLvを持つにも関わらずだ。
「いや、その細い体の何処に入っているんだい……」
「……ベル様、それで最後ですからね。お金が足りなくなりますから、本当に……」
この人、本当に悪人なのかと料金を計算して落ち込みながら考えるリリであった。
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魂の色? サイヤ人だし原作と違いでるって