「ずるっ………
食事時、大鍋一杯のヌードルを啜っていたベルはふと会話に出た行事について物を口に入れながら喋ったことを窘められつつ説明を受けた。ミアハが言うには観客の前でモンスターを調教するらしく、先日ガネーシャ・ファミリアが開いた神の宴も自分達が執り行う行事の邪魔をしないようにとのご機嫌取りらしくもう一度会いたいと思っていたそうだ。
「私とミアハ様は新薬の材料が熟成する頃だから行かないけど、ベル達は見に行ったら? 屋台も出るし気分転換になるわよ」
「屋台かぁ。……あの人も来るかなあ?」
「あの人? ベル様、どなたかお会いしたい人でも居るのですか? ならリリは別行動致しますが……」
最近になると変に疑うのが馬鹿馬鹿しくなったリリのベルへの警戒心は薄れている。代わりに別の感情が芽生え始めていた。
「ベル様、財布を落としたり盗まれたりしていないか確かめてから食べてくださいね。其れと路地裏の怪しいお店に誘われても行かないこと。いざという時は飛んで逃げてください。どうせ降りられなくなった木の上の猫を助けたり、迷子の親探しで飛んでる所を見られているんですから!」
、
「はははは。まるでベルの保護者だな」
「いや、確かにリリはベル様より年上ですが保護者と呼ばれるほど上じゃありませんからね、ミアハ様。これも全部ベル様が心配をかけるのが悪いんです!」
強いくせにお人好しで抜けているベルを近くで見ていると落ち着かないのだ。だからリリは何かと助言を繰り返し、保護者や秘書やマネージャーの類になっていた。
(それにしてもお子様だと思ってたけどベルも女の子に興味を持つのね。他のファミリアだと難しいから一般人だと良いのだけど)
この場の三人はベルがその人物に恋でもしたのかと思っているが、年頃なので無理に聞き出そうとはしない。だから決定的な勘違いに気付かなかった。
(あのアマゾネスの人、多分凄く強い 。戦ってみたいなぁ……)
力量を示すためでも、必要に迫られているからでもない。そもそもベルは暴力で解決するのは嫌いで苦手であるし、喧嘩も避けられるなら避けたい。ただ、強い相手と正面から戦ってみたいという欲求だけは持っていた。思い出すのはミノタウロスを追って来たアマゾネスの少女。身のこなしや纏う空気から強さを察したベルは三人の認識とは全く違うが、確かに彼女に会いたいと思っていた。
「そこの君! じゃが丸君は要らないかい? 今日は少しお買い得だぜ!」
「じゃあ、甘くない奴を五個ずつ下さい」
ミアハ達に言われた様に怪物祭を楽しもうと決めたベル。だが一番の目的は食べ歩きだ。ここぞとばかりに屋台が出ており、普段から出ている屋台は値段を下げる事で客を確保しようとしている。ベルを呼び止めた少女の姿をした神もそんな屋台の従業員だ。悲しいことに眷属がいない神はバイトをして生活費を稼いでいた。
「へぇ。仲間の分まで買ってくれるんだね。少し時間が掛かるから待っていてくれ」
「いえ、全部僕が食べます」
「……えぇっ!?」
神は人の子の嘘が分かる。だが、本当だと分かっていても大量の食べ物を抱えた細い少年のどこにそこまで入るのか信じられなかった。だが仕事は仕事。いそいそと揚げだした時、会いたくなかった相手が眷属を連れてやってきた。
「なんや、どチビー。こないな時までバイトかい。眷属の一人もいない奴は哀れやのー。ほれ、買うてやるから愛想振りまけや。お客様やで、お客様!」
「ぐっ、くくっ……! しょ、少々お待ちください。お先に注文したのを揚げていますので……くそっ!」
「いやー! 気分ええのぅ! うん。気分ええから坊主の分もウチが出したるわ!」
じゃが丸君は安くて美味しいと人気の食べ物だ。味も豊富で色々楽しめる。
「じゃあセール価格で全部で二千ヴァリスになります」
「二千っ!? いやいや、どんだけやねん!?」
「確かにそこの少年が注文した品だし、まさか前言撤回はしないだろ?」
「ええい! 払ったるわ! どこかの貧乏神と違って裕福やさかいにな!」
「あの、小豆クリーム味ください」
道の真ん中で醜く争う主神に眷属らしき少女は呆れた様子で自分の分が作られるのを待っている。一方ベルは奢ってくれた相手にお礼を言うと揚げたてを頬張りながら去っていった。
「……あれ? さっきの子、ティオナが言っていた子と特徴が似ている」
「うん? ミノタウロス数匹を秒殺したっていう奴か、アイズたん? ううん? 確かあの見た目、最近面白半分に神の間で噂になってる空飛べる兎みたいな冒険者と違うか? どうも詠唱無しで飛んだからスキルの類やないかって聞いたわ。 あっ、ウチは普通のな」
「あっ! 空飛ぶ兎ちゃんだ!」
「ちょーっとお話し聞かせて貰おうか。スキルとかについて洗いざらい」
「まあまあ、少しステイタス確認させて貰うだけ……あっ、逃げた。マジで飛んでるよ」
途中、暇を持て余した神の玩具にされそうになりながらもリリの助言通りに飛んで逃げるベル。だが人通りの多い場所で飛んでも目立つばかりで別の場所でも他の神に絡まれる。結果、屋台が軒を連ねる通りから何とか逃げ出し、今はフードの代わりに捨てられていたボロ布を被って路地裏を歩いていた。
「お、お爺ちゃんが言ってた通りだ。今度からはあまり飛ばないようにしないと」
もう手遅れな気を感じながらも目当ての屋台を目指そうとした時、突如地面から巨大なモンスターが出現した。先端が太く丸っぽくなった蛇のようなモンスター。通りにいた人がパニックに陥る中、モンスターは猛然と突き進む。
「させるかっ! っ、堅っ!?」
横合いから跳び蹴りを叩き込んで軌道を逸らすことは出来たが、ベルの足に痛みと痺れが走る。目の前の名前も知らないモンスターは非常に固かった。
「僕が引き付けますから逃げてください!」
一般人らしき人々とモンスターの間に入って立ちはだかる中、建物に激突したモンスターが大して効いた様子もなく動き出し。先端が開き花が咲く。同時に地面から無数の蔦が現れた。
「蛇じゃなくって花だったんだ……」
ベルが見上げる中、花弁の奥の歯を唾液で濡らしながらモンスターは突進してくる。その口内、上顎に魔石が存在するのをベルの目は捉えていた。
「限界まで引き付けて……はあっ!!」
最低限の動きで蔦を避けながら右手に気弾を作り出し、愚直に突進してくるモンスターの口内に向かって放つ。咄嗟に避けようとするよりも早く気弾は口の中に飛び込み炸裂する。内部から魔石と花を破壊されたモンスターは灰になった。
「うぇ、ぺっぺっ! 口に入った!」
ベルが口に入った灰を吐き出した時、先程屋台で出会った少女が高い所から下りてきた。
「……遅かったみたい。君が倒したんだね」
「は、はい! あの、巨大な花みたいなモンスターでしたけど何て奴か知りませんか? 極彩色の魔石だったり知らない奴で気になって……」
「! 少し話を……」
極彩色の魔石と聞いた少女が反応する。もっと詳しい話を聞き出そうとした時、再び地面が盛り上がって先程と同じモンスターが三体出現した。
「新手っ!?」
咄嗟に剣を抜いて詠唱しようとする少女。だが、其れよりも前にベルの気弾が大きく開けられた口の中に飛び込み、今度は喉の奥で炸裂、頭部が体から切り離された事で即死した。
「……ふぅ。これで調査が出来るかな? 全部灰にしちゃったら怒られるよね、多分」
今度は魔石を破壊しなかった事に安堵するベル。その手を少女はジッと見つめていた。
(今、詠唱を全くしなかった。なのにあの威力。……魔力も全然感じなかったし、アレは本当に魔法?)
あまりにも自分が知る魔法と比べて異質な事に戸惑う中、慌ただしい声が聞こえてきた。
「おーい! アイズ、大丈夫ー!? って、もう終わってるわね。うげっ!? 何なの、このモンスター。見たことも聞いたことも無いわよ」
「……あれれ? 君って確かこの前の……あっ、名前言ってなかったね。あたし、ティオナ。君は?」
「ベ、ベル・クラネルです。ティオナさん……あの日からずっと会いたかったです」
「……ほへ?」
会いたかった相手との思わぬ再会と戦闘の興奮から自分が何を口走ったのか分かっていないベル。多分分かっていても気付かなかっただろう。どんな風に解釈されるのが当たり前な内容だったのかを……。
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