「なななななっ! なんであの人がこの星に居るのっ!?」
十八階層にて夢中になって果物を採取していたベルだが、遠目にとある人物を見掛けるなり咄嗟に物影に身を隠す。幼い頃の朧げな記憶、怖くて仕方がなかった父が憎み恐れていた相手の側近。
名をドドリア。サイヤ人を支配下に置いていた宇宙の帝王フリーザの側近だ。
鼓動が早鐘を打ち鳴らす様に高鳴り、警戒心の強い野生の小動物を捕まえる為にしていた様に何とか会得した気配を殺すコントロールをしながら息を殺し、下の階層へと進んでいるその人物を盗み見る。幸い、スカウターと呼ばれる戦闘力を計る機械を装着していないので気付きはしないだろう。
だが、それも無駄だと分かっている。相手がその気になればこの星さえ吹き飛ばすことが可能なのだ。そしてそれを平気で行う残忍な性格だと薄っすらと記憶している。恐怖で体が震える中、歯がガチガチと打ち合って音を立てるのを手で必死に抑えたベルはある事に気付いた。
「あっ、ドドリアさんじゃないや。そっくりだけどアマゾネスだ。……でも、色黒の親戚って可能性も」
ベルが見掛けたのはとある大手ファミリアの団長であるアマゾネスであり、宇宙の帝王の側近は今頃何処かの星を綺麗な花火にしている所だった。
「……あー、ビックリした。流石に神様でもフリーザ様は倒せないだろうし、来たら終わりだよね」
これで遠目に少しだけ見た事がある破壊神でも来た時には恐怖で気絶するのではないかと思った時、リヴィラの街が騒がしくなった。偶にモンスターの襲撃を受けるのでそれが起こったのかと思って視線を向けたベルの視界に映ったのは昨日倒したばかりの食人花の大群に襲撃される街の姿。
「行かなきゃっ!」
一瞬の迷いもなく果実を入れた袋の口をしっかり締め、両手に気を溜めながら全速力で飛ぶベル。その時、異変が起きる。町外れで無数の食人花が融合し、女性に酷似した上半身と無数の食人花の足を持つ巨大なモンスターへと変貌したのだ。ティオナ達は食人花達を次々に葬るが数が多く、リヴィラの住人を守りながらでは後手に回りがちだ。
「……此奴、魔法に反応するのね」
ティオネが呟いたように、オラリオに出現した際にはベルが倒したから分からなかったが、食人花達は魔法の詠唱を始めた途端に他の獲物を無視して襲い掛かって来る。だが、その事によって策が出来た。以前から考えていたコンビネーションをレフィーヤに指示しようとリヴェリアが顔を向けた時、湖の水が荒れ狂いながら天井へと上っていく。其れだけではない。同じ様に砕けた地面の欠片も上昇気流に乗ったように上へと向かっていた。
「一体何が……む?」
視線の先で紫の光が輝く。魔法に反応する食人花が反応を示さない光の中心は宙に浮くベルの手元。腰だめに構えて向け合う手の平の間で輝きを増していき、女形のモンスターに向かって腕が突き出されると同時に波動となって突き進む。
「ギャリック砲ぉおおおおおおおおおおっ!!」
一直線に進む紫のエネルギーは規模を増しながら突き進む。余波で強風が吹き荒れる中、正面から受けたモンスターの巨体を浮かせて垂直に飛ばす。巨体を押しやりながら突き進む紫の光は天井へと向かい、モンスターが天井に激突した瞬間に炸裂した。轟音と地響きが十八階層を襲い、大きくえぐり取られた天井から時折土塊が落下している。
「……凄まじいな」
「誤解が解けたって言ってたね。……つまりアレはLv.1の魔法……いや、魔法とは異なる何かって事だ」
絶句するしかない光景にリヴェリアは思わず呟く。隣ではフィンが冷や汗を拭っていた。だが、今はこうしている時間ではない。遠くでアイズが戦っているからだ。
「……駄目だ。こんなんじゃ全然届かない」
リヴェリア達が絶句するほどの高威力の攻撃を放つもベルの顔は晴れない。先ほどの技は記憶に残っている兄の必殺技を模倣した物。だが、本物を知るベルからすれば劣化コピーの後に同じ言葉が幾つも付くレベル。ターブルを除く家族が向けてきた蔑む視線を思い出した時、ベルの腹の音が鳴り響いた。
「お腹減ったなぁ……」
今すぐ帰って仲間と食事にしたいと思ったが街にはモンスターによる被害が出ており負傷者も居るようだ。当然見捨てる事が出来ないベルは空腹を我慢しながら街へと向かっていった。
「やあ! さっきは凄かったね」
負傷者の救助が一通り終わった頃、フィン達が話し掛けて来た。ティオナは未だティオネの背後に隠れているが興味深そうに視線を向けてきている。だが、アイズは更に強い視線をベルに向けていた。
「は、はい。有り難うございます……あっ」
自分では未熟と思っていても誉められれば嬉しい。少しだけ表情が明るくなった時、再び腹の音が鳴り響く。思わず赤面してお腹を押さえたベルにフィンは笑い掛けた。
「暫く潜るつもりだったけど事件があったし予定は変更だ。食事にするから君も一緒にどうだい?」
「あっ、じゃあホームで作っていると思うので軽く……」
何か聞かれそうだと思いながらも空腹には勝てず申し出を受け入れるベル。フィンも一人分増えても暫く潜る予定だったので余裕はあると思っていた。
「……ふぅ。何とか一息付けました……」
満腹ではないが空腹から脱した事で少し気が晴れたベル。尚、軽めだったので十人前程で済んだ。
「そ、それは良かった……うん、まあ良かったかな?」
笑顔のままだがフィンの口元は引きつっている。レフィーヤなどは見るからに細いベルの何処に入るのかと唖然とする中、アイズが口を開いた。
「……貴方が使っていたアレは一体何?」
「え、えっと……内緒です」
育ての親にもミアハにも出来るだけ黙っているようにと言い含められているベルは、ズイッと身を乗り出して問いかけてくるアイズに飲まれながらも言葉を濁す。
「これ、アイズ。他のファミリアの情報を探るのはマナー違反だ。すまんな、ベル。どうもあれだけの威力を見せられて興味を持ったらしい」
「いえ、僕なんてまだまだです。気の総量だって五歳の頃の兄さんの十分の一も無いですし……」
「気? ……それが貴方の使っている力?」
思わずこぼしてしまった言葉に反応するアイズ。ベルがしまったと思っても遅く、聞いたことのない力に他の面々も興味を引かれた様子だ。
「し、失礼しますっ!」
慌てて飛んで逃げるベル。その後ろ姿をジッと見つめていたティオナは思い立った様に立ち上がると手で両頬を挟むように叩く。
「うん。ウジウジしてても始まらないし、あたし決めた! ベルがあたしより強いのか戦って確かめる!」
「……弱かったらふるのね。でっ、強かったら?」
「……えっと、どうしようか?」
姉の指摘に決意に満ちた顔から一変してモニョモニョと口ごもり出すティオナであった。
「……え? 何だよ、これ……。ミアハ様っ!? ナァーザさん!? リリ!?」
ホームへと帰る途中、遠巻きに自分を見て何やら言われるのを気にしながらホームへと戻ってきたベル。だが、ホームは半壊していた。瓦礫の山と化しているホームに駆け寄ったベルは必死の形相で瓦礫の山を漁る。その時、背後から声が掛けられた。
「これこれ、私達は此処だ、ベル」
「ミアハ様っ!」
怪我を手当した様子のミアハに慌てて駆け寄るベル。その隣には少し汚れているが特に目立った外傷のないリリの姿がある。だが、ナァーザの姿はなかった。
「……ナァーザならタケミカヅチの所に居る。私を庇って少し大きな怪我をしたが命に別状は無い」
「……ミアハ様、一体誰がこんな事を?」
温厚なミアハから怒りを感じ取ったベルは何者かの仕業だと察する。ホームが襲われ仲間が傷つけられたらという事態に怒りがこみ上げていた。
「……証拠はない。だが、確証はある。アポロンの奴が言ってきた。お前を賭けて
拳を握りしめながら頭を下げるミアハ。リリも同様に怒りを感じているのか震えている。そして、ベルも当然同じだった。
「……ええ、受けてください。僕も仲間にここまでされて目立たないように居たいなんて言えません。戦いましょう。誰が相手であっても!」
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