「
神会にてアポロンは白々しく語るが、参加している神々は誰の仕業かなど理解していた。欲しい人材を手に入れるのに手段を選ばない彼の悪癖は知れ渡っている。その執拗な手口に辟易している者も多いが、今回は対岸の火事とばかりに静観するようだ。
「アポロン容赦なさすぎ!」
「ってかミアハがキレてるの初めて見たぞ」
退屈を持て余した神々は普段の温厚な姿など捨て去ったミアハの姿さえも面白いと思いつつ、どちらが勝つかと話し合うも、やはり優勢なのは圧倒的にアポロン側。ランクアップの秘匿が誤解だった以上は尾ひれが付いた噂程度に思っており、フードで顔を隠して戦っていた為だ。
もしもの話だが、顔を隠していなければ目撃者多数によって今回のような事態にはならなかったかもしれない。
「あっ、そうそう。絶対にないと思うけど、そっちが勝ったらどんな要求も飲むぜ。勿論こっちが勝ったらベル君を貰うけどね」
その後、ミアハを闇討ちして天界に送還する計画を練りながらアポロンはほくそ笑む。ベルをどうやって可愛がろうかと欲望にまみれている頃、彼の眷属のカサンドラは悪夢を見ていた。見上げるほどに巨大な大猿が太陽を地に引きずり落とすという夢を……。
不安になって仲間に話すも誰も取り合わない。そして彼女の予知夢の力を知るアポロンも今回ばかりはただの夢だと判断した。
そして十日後、打ち捨てられた砦にて万全の布陣で待ち受けるアポロン・ファミリアに対し、ベルたった一人の決戦の幕が開かれた。
「ベルの勝利に賭ける。ホームから探し出した運営資金と各自の貯金だ」
この日ばかりは常日頃と違って神の力を一部使うことが許され、虚空に浮かぶ鏡に砦が映し出される中、朝早くから開いた酒場は賑わいを見せ、アポロン・ファミリア側圧倒的有利に賭博が行われていた。そんな中、怪我で本調子でないナァーザとリリを引き連れたミアハが姿を見せた。
「ベル君たった一人でなんて酷いな、ミアハ。ああ、即座に降参する気か? その金はご祝儀だね」
自分の勝利を信じて疑わないアポロンはミアハが出した大金に驚きながらも直ぐにニヤニヤ笑い出す。明らかな挑発だが、三人は全く反応しない。
「……アポロン、約束は覚えているな?」
「ああ、そっちの要求は何でも聞くよ。無駄な取り決めだけどね。ああ、開始が待ち遠しいよ」
「ああ、そうだな。此方も早く始まらないかと楽しみにしている所だ」
賭けは当然の様にアポロン側に九割以上が賭け、ミアハを除けばベルに賭けたのはロキ等の僅か数名。そして開始を告げる正午の鐘が鳴り響いた。
「色々噂になってるけど全部尾鰭背鰭だろ。だって冒険者になって三十日程度だぜ。なんならオイラ一人で倒してやるよ」
普段は仲間から舐められて雑用を任されている
だが、仕方のない話だ。ランクアップの際に受ける恩恵は凄まじい。基本アビリティが最高値近くのLv.2と極めて高いわけでないLv.3、ここには数値だけなら大差がないように見えるが圧倒的な差が存在する。そしてアポロン・ファミリア団長ヒュアキントスはLv.3で、Lv.2の団員も数多く在籍する。
悪夢を見た少女以外が勝利を疑わない中、飛んできても良いようにと弓や杖が構えられる。圧倒的人数差を覆すには奇襲しかなく、実力差から万が一もなくてもアポロンの命令で準備は万全。
「……彼奴馬鹿か?」
だが、ベルは正面から現れた。悠然と歩を進め、表情からは諦めも怒りも恐怖も感じられない。
「おーい! アポロン様の愛が欲しいから降参する気かー? まあ、ダンジョンが怖い団長に雑魚のサポーター、そして情けない主神、そんな役立たずより……」
ルアンの挑発の最中もベルは進み、砦を囲む塀の頑丈そうな門の前で立ち止まるとルアン達に声を掛けた
「怪我をしたくない人、僕みたいに何かされて入団させられた人は逃げてください。僕も追いません。強い人と戦うのは好きですが、弱い物いじめは嫌いなんです」(ここは弱い者が正しい…けども…)
ベルの声に馬鹿にする様子はなく、本気で言っているとルアン達は受け取った。怒り出す者もいれば気が狂ったのかと指を指して笑う者もいる。ルアンもその一人だ。
「ははははは! 彼奴凄い馬鹿だ! おい! 早く飛んで塀を越えて見せろ! その前に撃ち落とすけどな!」
ルアンの挑発によって周囲の仲間も笑い、直ぐに放てるように弓を構える。だが、ベルは首を傾げていた。
「飛ぶ? ……ああ、この程度の門で入れないと思ったんだ。えい!」
大して気合いも入れていない様な声と共にベルの腕がブレて見えなくなり、分厚い金属製の門が水平に吹き飛んだ。唖然とするルアン達の耳に響いたのはひしゃげた門が砦に激突した音。
「五秒あげる。逃げるなら逃げて」
「撃て! 撃てっ!!」
「……逃げてくれないんだ」
恐怖に駆られながらも一斉に放たれる矢や魔法。だが、ベルに届くよりも前に彼の姿が消え去り、ルアンの眼前に現れる。少し悲しそうな顔をしながらルアンの顔面を掴み持ち上げたベルは静かな声で言った。
「さっき変な事を言ったよね? ミアハ様達が役立たず? ミアハ様やナァーザさんは色々と薬を調合できるし、リリだって経験豊富なサポーターってだけじゃなくって最近じゃ調合を勉強してるんだ。戦うしか出来ない僕と違って凄いんだ。……そんな皆を馬鹿にするなーーーーーーっ!!!」
「げふっ!?」
ベルはルアンを振りかぶって投げつける。直線上にいた団員が纏めて吹き飛ばされる中、砦の中に居た団員達が飛び出して来た。
「アポロン様の愛を受け入れぬ愚か者を討ち取れー!!」
「魔法に注意しろ! 取り囲んで叩け!」
得意とする武器を構えて殺到するのはアポロンの趣味で集められた見目麗しい冒険者達。その一人、先陣を切って進むエルフは仲間に指示を飛ばしながらベルに飛びかかり、顔面に拳を叩き込まれて殴り飛ばされる。ルアン同様に後方の仲間を巻き込んで地面に叩き付けられた彼が気絶する中、ベルはアポロン・ファミリアの団員達の真上に飛び上がる。そして身を捻って大きく振りかぶった右手に気弾を作り出すと、勢い良く放つ。
「この化け物!」
団員達の真上で炸裂した気弾は轟音と衝撃をまき散らし、出て来た団員を吹き飛ばす。隙有りと背後から弓が射られるもベルは振り向きもせずに片手で受け止め投げつける。弓を射た犬人の少女の足下に着弾し、足場を瓦礫に変えた。
「……馬鹿な。有り得ん……」
鏡に映し出される映像にアポロンは思わずグラスを取り落とし、砕けたグラスの破片とワインが床に広がる。ランクや人数に圧倒的な差があった筈の戦いはベルの圧倒的有利で進んでいく。開始から十分足らずで既に九割近くが倒され、残りの多くは戦意喪失から逃げ出した。ベルは最初に口にした通りに逃げる者には手を出さず、只上を目指す。ヒュアキントスが待ち受ける上を目指して歩を進め続けた。
「おや、随分と余裕がないな、アポロン」
「……ふ、ふん! どんなトリックが有るかは知らないが、ヒュアキントスには通じない! そうだ! ファミリア最強のあの子がいれば僕の勝利は揺るがない!」
二人同時に飛びかかったダフネとカサンドラが同時に壁に叩き付けられる映像に顔を引き攣らせながらもアポロンは笑う。そしてついにベルはヒュアキントスの待つ部屋へと辿り着いた。
「……随分と派手にやってくれたな。お陰でファミリアの面子はボロボロだ。もはや貴様を血祭りにあげる必要が有るほどにな」
鎧を着け剣を構えたヒュアキントスは剣を構え、ベルを見据える。もはや侮ってはおらず全力で殺す気でいた。そんな彼に対してベルは静かに問い掛ける。
「……ファミリアの面子がボロボロ? 貴方達、その程度の覚悟で僕の仲間を襲ったんですか?」
「それがどうした! 弱小ファミリアなどどうなろうと……」
観覧していたオラリオの住民達が静まり返る。一瞬、それこそ瞬きをした僅かな時間だった。五メートルの距離を詰めたベルの拳がヒュアキントスの腹に突き刺さったのは。高価な値段に見合った性能であろう鎧は砕け、くの字に体を折り曲げたヒュアキントスの足は床から離れている。
「少しだけ心配してたんです。ホームを襲ったのは別の誰かかもって。……お陰で安心して倒せました」
静かな声で拳を引き抜くベル。ヒュアキントスは膝から崩れ落ち、白目を向いて気を失っている。素手によるたった一撃でジャイアントキリングを成し遂げたと観客が理解するのに数秒の時間を要し、オラリオに歓声が響き渡った。
本当はスラッグの時の中途半端超サイヤを出す予定でしたが・・・勿体ないので止めました
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