もう一つ。
超絶急展開注意。
ではどうぞ。
目を覚ます。
どうやらあの後眠ってしまったらしい。起きて周りを見渡すと、同期の訓練兵が寝ていることが確認できる。どうやらもう真夜中の様で、窓から差し込む月明かりが眩しい。
義手を付けたまま寝てしまったらしく接続部の皮膚が赤くなっているのが気になる。特に気にするようなことではないが、やはり少しひりひりする。
寝起きということもあり、体がかなり凝っていて無造作に凝り固まった筋肉を動かすとゴリゴリと音が鳴るのが気持ちいい。寝汗を掻いていて髪の毛が顔に貼り付いたり、肌がべたべたするのがうっとおしいがすでに入浴時間が過ぎていることが悔やまれるが後悔はなんとやらだ。
はぁと一つ溜息をつくと何もしないよりはマシだろうと思い、俺は夜風に当たりに外へ出る事にする。
教官に見つかっても厄介なので宿舎から見えにくい訓練場でいいだろうか。
部屋から出て、さらには扉から外へ出ると夜風が通り抜ける。
汗ばみ、火照った体に少し冷たいくらいの夜風が気持ちいい。許されるのであれば、この場でもうひと眠りしてしまいたいほどだ。
首を回すとコキッと良い音がする。この場所でもいいが、いつまでもここに居るといつ教官が出てくるとも分からないので意識を切り替えて移動する。
移動した先は、入団当初の姿勢制御訓練でエレンがひっくり返り宙にぶら下がっていたあの装置の近くだ。
何となく昔のことを思い出したようで、気持ちが高揚する。
でも、それと同時に先日の巨人襲来を思い出し嫌な気持ちになる。
今更人の生き死にに思うことなんてない。
第一俺はあの戦いの中で一人の人間を手に掛けているのだ。
“結果的に”“仕方がなかった”
なんて偽善的で、なんてすばらしい言葉なんだろう。
誰も彼もなんて助けられない。俺の力の及ぶ範囲で出来ることなんていうのは知れている。
あいつを助けていたら、俺は助からなかっただろう。
常に自分を優先する姿勢は変わらない。あの男を殺したのも、ミカサを助けたのも、エレンに協力したのも、アルミンに賭けたのも、俺のため。
アニやクリスタと仲良くしていたのだって、きっと自分の――――――――――――
「…?」
声が聞こえる。
なんだこんな夜遅くに。
俺には立ち聞きや盗み聞きをする趣味など無いが、興味がないわけではない。
恋愛話や、くだらない話なら早々に去ろう。
「エレンを何としてでも手に入れる。俺が鎧で、お前が超大型である限りは」
俺の世界は、砕けた。
一瞬だが止まった呼吸を正常に戻し、冷静さを取り戻す。
手元には武器はない。月明かりのみで良く見えないがふと地面に折れた立体起動の刃を見つける。俺はそれを拾うと上着を脱ぎ、刃に巻く。
義手とはいえ素手でも持つなんていうのはもってのほかだ。
武器は手に入れた、気持ちも落ち着いている。
だから俺は、
ライナーとベルトルトを殺す。
声は壁の向こう側から聞こえる。まだ会話をしている気配があることから、すぐに移動したり宿舎へ戻ることはないだろう。
この場で殺す。
俺はすぐさま移動し、反対側へ出る。周りは暗いし遠目で分かり辛いが、2人いるのが分かる。
別に気配を消すとか、そんな小細工は必要ないだろう。ただ走って近づいて、首を落とす。
片方殺せればそれでいい。怒り狂って巨人化するならそれもいい。
両方殺せるならそれが一番いい。
思い切り踏み込み、ライナーの背後を取った。幸か不幸か気付かれなかったようだ。右手に持った刃を首目掛けて、振り抜――――――――――――
「それでだ――」
「ライナー!!!!」
「!?」
ライナーには気づかれなかったが、ベルトルトには間一髪のところで気付かれた。俺の刃はライナーの髪を数本巻き込み通過した。その巨体でしゃがんで回避するとはな。
ライナーはそのまま前転するかのようにベルトルトの横に移動し、俺を睨みつける。
…なんだその目は。どういうつもりだ。
「…ハンク。なんのつもりだ」
「…」
「そ、そうだよハンク!僕たちは仲間だろ!?急にどうしたんだ!」
「…」
聞かれてないと思っているのか。まぁいい。それならそれで都合が良い。
乱心したとでも思っていてくれ。殺すから。
ライナーが一歩前へ出る。それにカウンターの要領でタイミングを合わせて右腕を突き出す。
狙いは頭部。巨人相手には微妙だが人間の姿なら即死だ。
「っ!」
ライナーの右手に手首をを掴まれた。完全なカウンターを止められた。格闘訓練を見ている限り、この暗闇の中で防げるとは思わなかったが…実力を隠していた?
「…っ!ハン、ぐがっ!!!」
「ライナー!?」
手の中で刃を一回転させ手首にある腕の筋を断ち切る。
一気に力が抜け振り払うと逆手持ちのまま首を狙うが左で殴られる。体格道理の物凄い一撃だが目を逸らさない。無感動に、無慈悲に、それでいて芸術的に。
この場で殺す。
「なんのつもりだ!もう冗談じゃ済まされないぞ!」
「…笑える話だな」
「なに?」
「大量殺人の主犯が、高々腕を切られた程度で冗談じゃ済まされないとは」
「…何の話だ?」
「…詰まらない冗談は嫌いだ」
怯んで動けないベルトルトは後でいい。一筋縄ではいかないだろうが次の攻防の中でライナーは確実に殺す。
再び攻撃を―
「…俺たちの話を聞く気は?」
「ないな」
「…僕たちにだって、」
「事情があった、か?」
「…そうさ」
「だからどうした。お前たちが鎧と超大型であるならば、その事実だけで俺はお前たちを無限に殺し続けることを誓える」
言い訳など聞く必要がない。会話の流れとこいつらを見ていれば事実であるということが丸わかりだ。
逆にこいつらが無罪だったとしても俺は謝らない。誰にどう責められようとも、怪しいこいつらを殺したことに後悔はないはずだ。
「お前は良いのかよ」
「…」
「周りを見ろ!こんな淀んだ世界に何を見る!お前の語る自由はここにあるのか!?先の無いものに縋って、信じて、裏切られた時お前たちはどうするんだ!」
手を広げ、声を荒げながら力説するライナーの顔は真に迫ると言った様子だ。教官が来たら厄介だと言うのに、などと考えてしまうが口には出さない。
「…たとえ裏切り者だと言われても、俺たちは前へ進む。だから、」
「人に委ねる安心感」
「…?」
「お前たちが何を考えているのかなんていうのは知らん。だが、」
「前を見る振りをして足踏みをするのは楽しいか?」
「血に染まった手で食った飯は美味かったか?」
「口先だけで語る兵士論を掲げて生きる生活は快適か?」
「人様の心を、土足で踏み躙るのは楽しいのか?」
「そうして、」
「そうして得た自由に価値はあるのか?」
「…あるさ」
俺の言葉に一瞬だけ動揺したようにも見えたが、すぐに言葉を返してくる。
苛立ちにも似た感情が俺を支配する。歯を食いしばり、飛び出しそうになるのを堪える。
「もう十分間違って来たんだ。ここで引き下がれるわけがないだろ!」
「…そうさ。もう下がれない」
「当たり前だ。お前たちの最後はここだ」
目に殺意を込めて睨みつける。負ける気はしないがむやみに飛び出すのは危険だ。実力を隠していたとなれば実力は不明。それでなくとも成績上位2名だ。警戒するに越したことはない。
「…ハンク」
「…」
「見逃せとは言わない。だが、俺たちと一緒に来ないか?」
「ライナー!?」
「命乞いなら聞かない」
今更何を言われても揺らぐはずがない。俺はずっと、そうやって来たんだ。
今更言葉なんかで変わるものか。
「…お前さえ良ければ、こっちへ来てほしい。確かにこの場での命はお前が握っている。だからこその交渉もあるが、それだけじゃない。お前の語っていた自由な世界を、俺はお前に見せることが出来る」
「そのために巨人どもの仲間になれと?」
「そうだ。それが最善だ」
「中々魅力的だが、」
言葉を発すると顔色が変わるのが分かる。殺されるのがそんなに嫌だったか。
まぁ、嫌だろうな。俺の腕を奪ったくせに。
「やめておこう」
「…。なぜだ」
「説明が必要か?まぁいいけど。あんな家畜以下の奴らと見る世界なんていう物に興味はない。どんなにおいしい料理も一緒に食っている奴が嫌ならおいしくないだろ」
「…そんな理由で、」
「それにな、」
「俺は人間だ。人間で十分だ」
「…そうか」
血を吐くように絞り出したライナーの言葉を聞くと、俺は刃を構える。
さっき手の中で回した時に布が落ちたらしく義手で直接持っているため義手に刃が食い込んでいる。こういうとき義手で良かったと頭の片隅で考えてしまう。
「…悪いなハンク」
背後で足音がする。
―もう一人いたのか。
ライナーとベルトルトが敵だった時点でもう誰が敵だったとしても驚かない。
誰だって殺して見せる。
隙を作らないように、コンパクトに背後に向かって刃を振り抜く。外れても回避して、体制の崩れた相手なら十分距離を取れるは――――――
ドンッ!と大きな衝撃が体を突き抜ける。次の瞬間、俺の視界がぶれ体を襲う浮遊感。訓練兵時代毎日のように味わっていたあの感覚だ。
どさりと自分の体が地面に落ちる音を確認すると、反射的に体を起こし距離を取る。脳震盪を起こしたかのように頭に鈍い痛みが起こるが全力で体に渇を入れ、前を向く。
視界がぼやける。跳ね起きたはいいものの膝が震えている。今襲われたら何もできない間に殺されるだろう。
しかし、表面上は無表情で睨みつけるかのようにライナーを見据える。
だが俺を襲った攻撃の主を、目に入れない。
意識して、外す。頭がくらくらするというのもあるが、思考は冷静だ。
残酷なまでに現実を脳に叩きつけてくる。
こいつらを助けて、俺を攻撃。
―あー、駄目だ。
きっと、泣いてしまう。
ただでさえ膝が震えているというのに、見たら確実に崩れてしまうだろう。
常に殺し、抑え、それは平常心へと変わっていた心の防壁は、ぼろぼろと音を立てて崩れていくような気がする。
―何やってんだよ、アニ。
「助かったぜ、アニ」
「…」
「本当に助かったよ」
「…」
「…アニ?」
「…何やってるの?」
無感情にそう告げる金髪の少女は、言葉の内に恐ろしいほどの激情を秘めていた。
『分かりにくいがあいつは色んな表情をしている。お前らにも分かるだろ。』
ライナーは過去にハンクがそう言っていたことを思い出す。今のアニは、一見無感情に状況を訊ねているように見えるがそうではない。
怒っている。それも、本気で。
過去に何度か挑発して怒らせたことがあったが、それの比ではない。比べるまでもない。
今、この場でアニが殺しにかかって来ても何の不思議もないくらいに激怒している。
「…いやこれは」
「…なんで、」
「…え?」
ベルトルトは弁解の言葉を口にしようとするが、それを遮るようにアニの言葉が被せられた。アニは気付いている。
今この場がどういう状況なのか。ライナーは口に出さず何も言わないが、ある種危機的状況なのではないかと思っている。
「なんでハンクがここにいるの…?」
「…」
ライナーは視線を逸らす。ベルトルトは何も言えずに俯く。
アニはその二人を見ようともせず視線を下げたままだ。どういった表情をしているかは誰にもわからない。
ハンクはと言えば、アニの登場から息をしていないのではないかと言うほど動かない。
「答えなさいよ。ライナー、ベルトルト」
静かな声が、響く。
答えられない。答えない。
ライナーもベルトルトも知っていた。アニはこのことを、誰よりもハンクに知られたくないことを。
やってしまった。ライナーとベルトルトは至極単純な失敗から、アニを傷つけた。
どうしてこうなったのだろう。
アニは呆然と考える。背後からでは誰か分からなかったため攻撃したが、それがハンクだったとは。
これではまるで仲間だと。弁解の余地などない。
「…最悪」
「…すまな」
謝罪の言葉の口にしようとしたライナーに石が当たる。
投げたのはハンクだ。
刃なら即死していたかもしれない事にライナーは危機感を覚え、視線を鋭く向けるがハンクは石を投擲したポーズのまま視線を向けるだけだ。
耐えられない。
なんだ、どういうことだ。
アニは…敵だったのか。
なんだ、この感情は。
湧き上がる不思議な感情は俺の意識をあやふやにする。
先程まで感じていた殺意はどこ吹く風。俺は真っ白な頭でひたすらに考える。
どうすればいい。どうすれば。
俺はとりあえずといったよくわからない意識でこう判断した。
―攻撃、しなきゃ。
足元にある石を、投げる。
寸分違わずライナーの額に直撃するが、体にまったく力が入っておらずダメージにはなっていなさそうだ。
こちらに視線を向けたアニと目が合う。
アニは――――――
泣いていた。
それを見た俺は、目頭が熱くなるのを感じる。
なんだこれは。なんなんだ。
やめろ、やめろ、やめろ。
俺の中に、入ってくるな。
体が動かない。よくわからない感情が俺を支配する。
動け。動け動け動け。
ただひたすら、自身の中で繰り返すたびに体は痺れていく。
「…ハンク」
俺の名を呼ぶその声は、震えている。
その声を、俺は好いていた。そんな声で俺を呼ぶな。
「わた、し、は…」
俺の体に熱が籠る。動けと念じるエネルギーは、爆発した。
一瞬だった。これでもかと地面を踏みしめていた足から出た速度は早く、一瞬でライナーに近づき殴り飛ばす。
一瞬のことで動けなかったベルトルトを蹴り飛ばす。
刃を、アニに突き付ける。
「なぜだ」
「…ごめ、んな、さ、い」
「詰まらない冗談は嫌いだ」
「…」
アニは、泣いている。
俺は、泣いているのだろう。
顔を伝う液体に、温かさを感じる。
流れ出た涙が、今まで自分を守ってきた防壁を崩す。
自分が、出てしまうのが怖い。
本心を伝えるのが。
突き付けた刃を持つ手をアニが優しく包む。
言ってしまいたい。
でも、言えない。
俺が、今のままの俺でいるために―――、
「私は、ハンクの敵」
「―――――あ」
俺は、崩れた。
泣いているのだろうか。
これは涙なのだろうか。
あの日あの時、俺が俺でいるために作ってきた防壁は完全に崩れ去った。
全てを奪った巨人共を殺す、刃。
そうあるために生きてきた俺は、“ハンク”
何でもない、ただのハンク。
「なぜ、お前なんだアニ」
まだ手はアニに握られている。
顔も上げられず、震える声で言葉を放つ。
動けない。動かない。
上手く言葉が出てこない。
でも、それでも内から湧き上がる言葉をぶつける。
「他の誰でも良かった。敵ならば殺した。でも、なぜだ」
アニは言葉を返さない。時折頭に温かいしずくが落ちてくるのを感じる。
「なぜ、お前なんだ」
恥も何もない。一度崩れた防壁は、簡単には治らない。
「全てを切り裂いて、貫いて、自由を、掴むから――――」
ヤメロ。言うな。言うな、俺。
止まらない。これを言ったら、もう俺は―――――――――――
「“俺を、一人にしないで”」
言葉を発すると同時に視界が暗転してゆく。
願わくば、悪夢が去りますように。
「“俺を、一人にしないで”」
そう告げたハンクはアニにもたれかかるように気を失ってしまった。
アニは、泣いている。
ハンクは強いようで、弱かった。脆い柄に取り付けられた名刀。支えていた物がなくなった名刀は、自身を傷つけたのだ。
ライナーはその光景を一部始終見ていた。そして、悔やむ。
ベルトルトは、見ていられないとばかりに視線を外す。
二人の目にはうっすらと涙が浮かんでいる。
アニは気を失ったハンクを抱きしめると、囁きかける。
「一緒に、いるから」
「…アニ」
ライナーは声を掛ける。アニは意志の戻った瞳をライナーへ向け、睨みつけるかのように見つめ言葉を紡ぐ。
「私は、降りる」
「…」
ライナーもベルトルトも何も言えない。
決めたのだ。もう誰にも何も言わせない。アニの言葉にはそういった思いが込められていることが伝わってきていたからだ。
「いいのか、それで」
「いい」
「…ハンクは、」
「一人になんて、させない。どう思われていたっていい。私には、ハンクが必要」
「…そうか」
アニの決意の固さに、血を吐くように言葉を返すライナー。
裏切るなら殺してしまおうかと考えてしまうライナーは、先程の光景を思い出し自己嫌悪に陥る。
(あれを見て、そんなことしか考えられないのか…っ!!!!俺は…っ!!!!)
目的を遂行するだけならば何も間違っていない。しかしそんな考えを持つだけ無粋なのだと、歯を食いしばり自分を殺す。
「大丈夫。何も言わないから。…ハンクを、お願い」
「…あぁ」
「…アニ!!」
「…」
「いつでも、戻ってきていいから」
「…そう」
そう言うとアニはライナーにハンクを預け、去っていく。
ライナーはそれを見送るとベルトルトに視線を送る。
ベルトルトは泣いていた。
ライナーは勘付いていたが、ベルトルトはアニの事が好きだったのだろう。
でも、だからこそ。優しいベルトルトは本人の意思を尊重する。
人を殺す巨人であっても、心だけは人間でありたい。
ライナーはそう思い、何も言わずにハンクを宿舎へと運んで行く。
個人的にはこれくらいあっさり進んだほうが楽しいと感じます。
ハンクのフルネームはまだ出てきていませんが、ハンクは自分のことをハンクとしてしか回りに紹介していません。
ある種クリスタが偽名的なそんな感じ。ちなみにハンクという名前は本名です。家族とかそういう柵に囚われない一人の刃…という感じでファミリーネームを名乗りません。
俺の中のアニと違う!!とかそういうのは勘弁してください。本当に。
ハンクは感受性の高い時期を自分を殺すことで生きてきたので無感動自分がよければいいや人間に成長しています。今後もずっとこんな感じでしょう。
ただ、本心を隠しているとかではなく単純に自身の変化に感情が追い付かずに言わなくていいような余計なことまで言ってしまったのが今回のハンクです。
聡い皆さんのことですから大丈夫でしょうが、一応いつもの補足。
次の展開も自分の中ではできてるので早めの更新を頑張りたいと思います。
誤字脱字・及び感想、質問等あればお願いします。評価とかしてくれても嬉しいです。
では今回はこの辺で。でわでわー。