ムシウタはいい作品だった…。ありがとうムシウタ!
というわけで本編どうぞ。
「甘くなった…ねぇ」
俺の言葉に訝しげに反応するハンジ。背けた顔を再びハンジに戻すと顎に手を当てて考えるようなポーズだ。その姿が様になっていて、おちょくられているような気分になる。
八つ当たりだ。そんなことは分かっているが、気に入らない相手と言うのもあってつい強く言ってしまう。
「…何が言いたい」
「私は君のことは知らないんだけどさ、あらかじめ聞かされてた情報だと…冷静、冷徹、それでいて頭が切れる。しかも実力がある」
「…とんだ出鱈目データだな。集めた奴は職務怠慢もいいところだ」
ふんっと鼻で笑い飛ばす。俺は結局自分のことしか考えていないのだ。冷徹?他に興味がないだけ。冷静?慌てふためいて事象が好転するのか?頭が切れる?他が頭足りてないだけだろ。
実力がある?才能を言い訳に逃げているかやる気がないだけだろ。
正直まともに訓練している奴なんて言うのは馬鹿真面目か目標意識のある奴らだけだった。
それ以外は事務的に…技術を高めて調査兵団で活躍しようとか、憲兵団を狙おうなんていう連中は少数だ。
結局流れに任せて軽く流して駐屯兵団に入り、運が良ければ内地を狙う。そんな考えの連中に比べて“実力がある”…か。
ただ、目的のために技術を高めてきたことに後悔なんて無い。別に褒められることが嬉しくないわけではない。
…比較対象が悪いとどうしてこうもイライラするのか。
「うん、そうだ。君はデータ通りだ」
「…」
「きっと君は何も変わってない。君の気のせいだ」
「…」
呆れて何も言えないとはまさにこの事だな。
こいつは一体何を言っている?実はやっぱり頭が悪いのか?
「そんな目で見るなよ。真面目に考えた結果なんだからさ」
態度に出ていたのだろう。嫌な顔をしていただろう俺に弁解に近い言葉を掛けてくる。
「どんな確証がある。俺の事は俺が一番分かってるはずだ。データ上の俺のことしか知らない俺の事に口を出すな」
「あんまり口出しする気はないんだけどね。…データを見た時の私の感想はこうだ。“まるで刃物のような男だ”って。例えるならリヴァイがそれに近い雰囲気を持ってるかな。でも、君は違う。リヴァイも口が悪いし、怒ると結構すぐ手を出すけど…ハンク、君は刃物そのもののような人間だと思った。きっと君の周りの人も同じことを思っているはずだし、エルヴィンもきっと同じことを思ってる」
「…で、結局何が言いたい。それで俺の変化と何か関係あるのか?」
「君は変わってない。データ上から読み取れる君と、今の君は同じに見えるからね」
「はっ。とんだインチキ評論家だな。イメージと実物の差異がなかったら何だって言うんだ」
「つまり、君は君が思っているほど変わっていないってことさ」
「…」
「人の心なんて誰にもわからないものだから、君が変わったって言うなら変わったのかもしれない。でも、私が見る君は誰が見てもきっと昔のままだと思うよ」
イライラする。なんだこいつは。何を言ってる。
別に俺が甘くなったとかなってないとか…俺の変化についてなんて二の次だ。
俺はこいつに俺について……俺よりも詳しい素振りなのが気に食わない。俺は変わったのかもしれない。“甘くなった”、と。
「ならお前の“厳しい人だと思ってた”っていうのは妄言か?」
「別にイメージ通りだからって、何でもかんでもその通りになるわけないだろ?食べる前のパンと実際食べたパンは違うものだ。ただ、私には君が甘くなったっていうのはまた違う。ただ、“想像よりは厳しくないがデータ上で見た範疇の人間だった”ってだけさ」
「ややこしいな。俺には違いが分からん」
「分からなくてもいいと思うけどね。君が君ならそれでいいんじゃない?」
「…俺の発言を否定していた人間の発言とは思えないな」
「君はくだらないと言うかもしれないけど、自分の事を知っておくと言うのは大事な事なんだ。自分よりも他人の方が自分を知ってるなんて言うのはよくある話さ。他から見た君は、昔と変わってないはずだよ」
「…本当にくだらない。言葉遊びにすらなってるか怪しい発言だな。妄想と断じて捨てられる」
「…かもね。ははっ…私は、何を言ってるんだろう」
「…」
そのあとハンジとは離れ、配置についた俺は…考えるのをやめた。
自身の変化についてなんて、結局誰にもわからない。甘くなったと言う考えが、すでに甘えているのかもしれない。
…やめよう。俺は俺。それでいいだろ。今までそれを曲げずに来たんだ。変わったと思うなら、元に戻す。変わってないなら、それでいい。きっと、それが俺なんだ。
「撃て!!」
エレンたちが連れて来た巨人に罠が炸裂する。
理論上直撃したら脱出不可能の対巨人最強の罠だ。
どうやら対巨人最強罠は伊達ではないらしく、全方位からの直撃を受けた巨人は身動きが取れなくなっているようだ。
ただ、ぎりぎりで反応したのか両手で項を守っている。やはり明確な弱点である項を守っているところを見ると、知能があるタイプ。人間が巨人化した姿に間違いはなさそうだ。
エレンたちは見事囮の役目を果たしたのでそのまま離れていく。そこから飛び出した一つの影がエルヴィン団長へ近づいていくのが確認できた。軽く動いているように見えて超軌道をしているところを見るとリヴァイ兵長だろう。
ギシギシとワイヤーを抜こうとする巨人を視界の中心に入れる。
簡単な言葉を使うのならば、異形だ。生殖器の無い巨大な人型の生き物…それが巨人だ。
といってもそれは俺の勝手な解釈で、正確にはもっと分け方があるのだろうが視界に捉えた時の見分け方なんてサイズ位なものだ。
異形としか言えない見た目をしたこいつは、やはり巨人なのだろう。大きさは15M級くらいだろうか。大きな特徴を上げるとするならば、巨大な岩石のような顎だ。
突き出していて、平べったく巨大な顎は差し詰めハンマーと言ったところだ。
巨人なんて眺めていても気分のいいものじゃないので視線を上げると、ひゅんひゅん音がするかと思うとガキンと金属の砕ける音が響く。
リヴァイ兵士長とミケ分隊長が腕を切り落とそうとしているようだが、難航しているんだろう。
…腕が硬質化でもしているのか?生身の部分もあるようだが、硬質的な部分もある。
チラリと視線を巨人に戻すと特徴である顎は、自然の鉱物のようには見えない。
面白半分、興味本位で刃を一本顎を狙い投擲してみるとしっかりと命中し…木端微塵に砕けた。
結果を見るにあの顎は伊達ではなさそうだ。少なくともあれが武器だと仮定して、人間を叩きつぶしたらミンチどころの騒ぎではないだろう。壁に叩きつけられたカエル。高所から落としたトマト。…違うな、踏みつけた昆虫が適切か。どの道死ぬな。
ハンジもテンションが上がってぎゃあぎゃあ騒いでいるし、どうしたものか。
捕獲したはいいが、手詰まりだろう。
調査兵団に限った話ではないが主力の武器が立体起動の刃である以上、調査兵団最強の戦力であるリヴァイ兵長が何も出来ないとなるとどうしてもそれ以上の物が必要になってくる。
「ハンクもさぁ!こっちこいよ!!」
ハンジとか言う理解不能な生き物が俺を呼ぶ。
当然俺は無視を決め込む。何か叫んでいるようだが俺は反応しない。ライナーもそうだがこういう輩は無視するに限る。それが一番効果的なのだ。
次の瞬間…ひゅーっと空気の動く音がする。
たいして気にするような事じゃないのだが、ちょっと気になる。気にしていたらきりがないのだが、他の面々も気になったらしい。
音の出所は…巨人だ。
磔にされた巨人に空気が集まっているのだ。
…なんだ?何をしてい
「グ………グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
響き渡る重低音。甲高い声よりかは耳に良いが、それでも爆音に近い巨大な咆哮は俺達を吹き飛ばすには十分すぎる音だった。
音の巨大さに吹き飛ばされたと言うよりかは大きすぎる音の壁に押し出されたという表現が正しいだろう。
意識が飛びそうになるのを抑えて、ワイヤーを飛ばし木にぶら下がる。断末魔と言うには早すぎる気がしないでもないが、自業自得だろうという気持ちでいっぱいになる。
次には殺意。全ての面倒事がこいつのせいなのではないかと言う錯覚すら起きるのだから相当だ。
どうやら弾かれたのは俺だけではないらしく、多くの調査兵団の兵士が頭を抱えている。
ハンジはなんだかわからんが騒いでいるのが視界に映ってうっとおしい。
くらくらする頭を押さえて木の上に戻ると、今度は急激な寒気に襲われる。
簡単な言葉を使うと嫌な予感。
戦闘において直感がいかに大切な物かは嫌というほど分かっているつもりだ。
まぁ…嫌な予感どころか嫌な現実になったけどな。
面白い顔の連中が連続で数匹近づいてくる。それを先陣切って迎撃しようとした兵士が攻撃しようとするもあっさりと“無視”された。
すぐさまリヴァイ兵士長が切り刻むが、俺は面倒な事態だと思う。
人間が狙いじゃないなら狙いは一つしかない。
――エレンの時と同じか。
リヴァイ兵士長が洩らした小型の巨人の頭部にアンカーを発射し、巻く。
急速接近するとそのまま頭に着地し、前方へ一回転。地面に落ちざまに項を削ぎ落し、殺す。
あの時も人間を無視しエレンを狙っていた。かなりの距離接近するまで無視をするということは何か不思議な力で人間より巨人の姿を纏った人間の方が優先度が高いと言う事。
「全方位から巨人出現!!」
その言葉と同時に俺の嫌な予感はピークを迎える。全方向どこを見ても巨人が居て、顎のしゃくれた謎の巨人目掛けて集結しているのだ。
「全員戦闘開始!!鎚の巨人を死守せよ!!」
そのエルヴィンの言葉と同時に全ての兵士が飛び出す。俺もアンカーを木の高いところへ突き刺し高度を維持。そのまま巨人の群へと飛び出した。
しかし鎚の巨人か。エルヴィンセンスあるな。
「総員撤退!!巨人が鎚の巨人の残骸に集中している内に馬に移れ!荷馬車はすべてここに置いていく!巨大樹の森西方向に集結し陣形を再展開!カラネス区へ帰還せよ!!」
大量の巨人が一匹の大きな巨人へ集中し、その肉を貪り食うと言う実に目を逸らしたくなる気持ち悪い現実を俺は見つめている。
巨人の体が蒸気となり朽ちて行くさまと言うのも実に気分が悪い。
大損害。というか実益ゼロ。皆無。無意味な遠征。
多くの兵士を無意味に失っただけ。正直壁の中にこの手の連中が居ることが分かっていたなら今回の遠征の意味なんて捕獲意外になかった。それを逃したとなれば、当然実益ゼロの骨折り損。
無意味な事この上なしだ。とりあえずエレンが生きているようでなにより。
「ハンク!」
「…?」
「君もリヴァイとともに補給をし…エレンの元へ向かえ!」
「…任務了解」
何はともあれ最大の不安要素であるエレンの元へ自分で迎えるのだ。現実は、自分の目で確認しなければ。
「エルヴィンはかなりお前の事を買っているらしい。エレンを任せると言うのはよほどの事だ」
「…」
「とにかくだ、俺とお前はとっととエレンを見つけて護衛に回る。いいな」
「…あぁ」
リヴァイ兵士長は、正直言って想像以上に速い。ミカサも速いと感じていたが、それでも俺と五分くらいだ。この人は、やはりすごい。
別に俺として興味があるのは、何を思って戦っているかだ。崇高な目的意識があるのか、それともなんとなく戦っているのか。俺はこの人がどんな人か知らない。
だが、そんな事は聞けるわけもない。俺の戦いがあるように、きっとこの人にはこの人の戦いがあるんだろう。
「そういえばハンク」
「…?」
「お前の腕の“ソレ”…俺は使わせる気がない」
「知ってた…んです…ね」
「エルヴィンから真っ先に聞いた。確かにかなりのものだ。位置によっては巨人ですら倒せる。だが…そんなクソみたいなものを俺は使わせない。そんな場面にさせない。お前みたいなケツの青いガキが一人前に責任感を感じているのは大人の責任だ。ゴミのような世界でもクソのように生きてクソのように死ぬんだとしてもだ」
「…良く喋りま…すね」
「知らないのか。俺は元々良く喋る」
ただ、お前の“ソレ”は見逃さないがな。とリヴァイ兵士長。
目聡いな。だが、俺は使うと思う。
「…使いますよ」
「何?」
「本当に必要な時が来れば、いつでも」
視線をリヴァイ兵長へ向けると、無表情ながらも含みのある視線を俺に向けている。
それでも速度は一向に変わらないのが凄いところだ。
「お前は、」
リヴァイ兵長が何か言おうとした時、何かの叫び声が聞こえる。俺も聞いたことがあるその声は…
「エレン?」
「お前もそう思うか。…こっちだ」
そう、エレンだ。エレンの巨人化した際の叫び声に似ている…気がする。直感を信じるのならば恐らく間違いない。
声のする方向へ向きを変え、素早く移動する。静かな森とはいえあれだけ聞こえたということは近くに居るのだろう。
…死ぬなよ。
中途半端にならないように投稿はしていませんが実はいろんな作品を書いてます。
ですので巨人の投稿が遅いのはそのせいもあります。楽しみにしてくださっている方は申し訳ありません。
本編の解説は特にないです。あ。オリジナルの巨人が出てます。
この巨人についてはそのうちお話ししますね。
ではこの辺で。誤字脱字報告、感想評価待ってます。でわでわー。