進撃の剣人   作:カムカム@もぐもぐ

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15話

戦いを望むわけではないが、こんなにゆっくりしたのはいつ以来だろうか。

現在ベッドの上で惰眠を貪ることしか許されていない俺にとってはある意味最大級の強敵は暇だった。

腕にはめている簡易的な義手は調子が良く、リヴァイ兵長が持ってくるという新しい義手に期待をしている。

…退屈だ。正直言ってここに来ての戦線離脱。頭の悪そうな意地の悪い顔をした憲兵の台詞がそのまま今の俺に当て嵌まっている。

別にあの憲兵の言葉が正しいとかそういったつもりは一切ないし、今更調査兵団に入った事を悔やんだりとかしているわけでもない。ただ、こうやって現実を突き付けられると自分の置かれている立場や現実が良く分かるというものだ。

結局俺は“ミカサと同等の評価”なんていう理想を描きながらも現実は“評価を覆すほどの欠陥品”と言ったところ。

評価なんてものを気にするつもりもないし、今更それに拘っている奴なんていないだろうけども…“欠陥品”なら“欠陥品”らしく、一発やらかしてやろうとも思った。

『自分の命なんてどうでもいい!俺は兎に角命懸けで事を成したいんだ!!』なんていう台詞で動けたらどれだけ楽か。

こういう台詞で動いて最後まで生き残れるのはエレンの様な男であって俺ではない。

だからこそ義手に仕込んだ発破は俺の切り札だった。しかし、初めから死ぬつもりだったかと言われればそうでもない。

あくまでも俺にとって大事な事とは巨人を殲滅して自由を掴む事。

その過程で命を散らして得られる物とは到底思えない。それこそ、生きているから価値があるという事だ。

ただ、あの場でエレンを助け出さないという選択肢はどうだったのだろうか。

人間が姿を変えたのか、巨人が人間の姿になっているのかは正確には分からないがやはり人類にとってそれが脅威であることは変わりない。

鎧の巨人や超大型巨人がそのいい例だ。人類を守っている壁の比較的脆い部分。それは開閉だから、超大型はそこを狙った。

内側の扉さえ破れば最初の壁の内側はもう駄目だというのも明確だ。だからこそ鎧はそこを狙った。超大型ではない理由は防御力の都合だろうか。

攻撃力のある超大型はでか過ぎて大砲の的になるからというのが俺の解釈。

…少し思考がずれたがとにかく思考が出来る敵というのはそれだけで脅威なのだ。

人間同士の喧嘩だとしても慣れていなければ体格と勢いで勝敗が決まるのと同じ。

人間と巨人が勢い任せに戦えば人間に勝ち目は無い。

だが、人間にはあって、巨人に無い物…まぁ、一言で言えば知能か。

頭を使わずにただ突っ込むだけなら立体起動があるうちはそう簡単には負けない。これでようやく五分。なんて言ったって相手はあれだけの質量で高機動。さらには攻撃が一撃必殺と戦力差は大きいのだ。

ただ、その“ようやく五分”という戦力差も巨人が思考してくれば違う。高機動、一撃必殺、さらには考える。…まるでおとぎ話の怪物そのものだな。

お姫様を救い出す勇者には本当に頭が上がらない。

とまぁ、ここまで揃えばいつでも人類を滅ぼせるはずなのだが…それをせずにわざわざエレンを狙う理由。これが不明だ。

巨人化できるから?…自分たちも出来るのに?

巨人の力を脅威と見るか?…巨人化したエレンを簡単に撃破できる巨人が居るのに?

もしくはそれ以外の何かをエレンが持っているか…だな。

まぁ、こんな事俺がいくら考えたところで俺程度の頭ではさっぱりだ。まるで皆目見当もつかない。

金…とか。

…あり得んか。このご時世金に価値が無いとは言わないが、それを巨人が欲する理由が思いつかん。

人類と共存する気があるようには到底思えないから人類に必要な物を巨人が同じように欲しがるとも思えない。ともすると……なんだ。

 

「はぁ」

 

ふと溜息が出る。少し考えに没頭していたようで少々時間が立っていたようだ。

といってもここに居る目的自体が体を休める事が目的の様なものなので、いくらだらけていてもいいと思うが…正直この生活も飽きてきている。

義手が出来るまでの辛抱とはいってもいつになったら出来るかも分からないし、それにもうすでにかなりの日数が経っている。

当初は何もしないという未知の感覚に戸惑ったりもしたものだが、人間の順応性の高さはさすがの物だ。

ただ、このままこうしているのもいただけない。

自ら体を鍛えるという事は余りしてこなかったが、こうしていると体が劣化していくような気がして仕方ない。

事実一日中ベッドの上に居ると用を足しに行くのも億劫に感じるのが証拠だ。

 

「…?」

 

ドンドンと扉を叩く音がする。

大体誰が来たかは察しが付くので適当に返事をすると一言失礼しますと声を発しながら入ってくる。

そいつは俺がここに入れられた時から監視役に任命された女…というのはいくらなんでも失礼か。

ミカサより少し短めの髪、色は茶色。顔は…美人というよりかは可愛らしいという表現が似会う。可愛らしい顔をして凶暴というタイプにも見えず、先日聞いた理由だとリヴァイ兵長に憧れて…とか何とか。

まぁ、リヴァイ兵長に信頼されて俺の監視を任せられたというのなら良かったんだと思う。

俺みたいな捻くれ者に何日も付き合わされるのはご愁傷様としか言いようがないが。

…あぁ、もしかしたら作戦に参加できるほどの技量が無い可能性もあるのか。

 

「ハンク君」

「なんですか」

「うん、今日もいつも通りだね!」

「…暇なんですか?」

「いやいや、これが私の仕事だから!“あの”リヴァイ兵長から直々に頼まれた仕事だから!」

 

“あの”の部分を強調するあたりよほど嬉しかったのだろう。

そう言えば俺たちの先輩に当たる兵士の大半はエルヴィン団長、もしくはリヴァイ兵長に憧れて入団したという噂がある。

聞いた時は鼻で笑ったが、リヴァイ兵長の技量は純粋に感服するし、エルヴィン団長の指示やカリスマとでも言うべき雰囲気には純粋な関心が持てる。

それに入って見て分かったが、リヴァイ兵長達への雰囲気からしてあの噂が本当だと確信した。

 

「それは御苦労さまです」

「まぁ、嬉しいっちゃ嬉しいんだけどねー」

「…」

「…」

「…」

「…あれ?聞かないの?」

「驚くほど興味が無いので」

「……いいわ。それは置いときましょう」

 

そういって椅子を持ってきて俺の対面に座る。俺はベッドの上で胡坐を書いているためベッドの横に椅子を付ける形だ。

椅子に座り、一息付くと話し始めた。

 

「義手はもう少しで出来るそうよ」

「…そうですか。それは純粋に有りがたい」

 

簡易の義手はあくまで簡易。本当に最低限で手としての機能を果たしているが、あくまで最低限だ。

細かい作業など出来ないし、強度なんて不安しかない。

立体起動の刃の切れ味は信じられないほどいい。そのおかげで巨人の肉を削ぐ事が出来ているが、それを差し引いても巨人の肉は固い。

あくまでも体感だがこの簡易の義手の感じからすると、二三回肉を削げば次は腕の方が折れるだろう。

俺としてもこんな玩具は言い過ぎとはいえ情けない義手で戦場に出ようとは思わないが、本当にいざという時の事を考えると良い物が用意されることにこしたことなど無い。

 

「しかし君も恵まれてるよね」

「…?」

「あ、気付いてないの?」

「…まぁ」

「贅沢だなー。だってよく考えてみてよ。調査兵団きっての英雄、エルヴィン・スミス団長と人類最強の兵士の称号を持つリヴァイ兵長に目を掛けられてるんだよ?もう普通じゃありえないよ!」

「…そう言われればそうかもしれないですね」

「それにこの待遇!部屋を一室借りて世話係が付いてるなんて一言で言えば驚きだよ!超待遇!貴族か何かなの!?って感じ」

「いや、そんなことはない」

「…とまぁ、これだけ上げただけでもおかしいのに、更には特注の義手を用意するんだとか何とか。義手って作るの大変なんだってね」

「…妙に含んだ言い方だな」

「…」

「…」

 

睨み合うかのように見つめ合う。

別に睨んでいるつもりはないが、空気が勝手にそういう雰囲気を作っているのだ。

相手もじっと何かを考えるように俺を見ている。

折れたわけではないが、焦れた俺は一つ舌打ちをすると視線をずらす。

 

「面倒な女だ」

「半分は嫉妬」

「…は?」

「含みのある言い方が気になったんでしょ。その理由」

「…」

 

はぁ。と一つ溜息を吐くと視線を俺から外しながら話し始める。

 

「子供っぽい我儘なだけ。半分は嫉妬、もう半分は羨望。憧れて、憧れて、命を落とすことも厭わずに入った調査兵団。今はこうして生きているけど、正直私なんていつ死んでもおかしくない。…でも、諦めずに食いついてようやくリヴァイ兵長にこうして仕事を任せられた。そしたら今期の入団兵の面倒を見ろだってさ。別に仕事内容とかに不満があるわけじゃない。それに私の技量が低い事なんて百も承知。ただ、そんな私の憧れは消えて無くて…英雄二人によく扱われる君に嫉妬しただけ」

「…もう半分は?」

「…今のの中に入ってるけど、君の技量が羨ましいの。君くらい戦えれば私のことをもっとみんな評価してくれるのかなって。まぁ、最初は普通の子供かって思ったけど、接してみたら君は案の定普通じゃなかった。存在感…?いや、そんな不思議な力を感じるとかじゃないけどこう…やっぱり一人の人間として“持ってるな”って。だから羨望」

「聞いてみたら凄いくだらない話だな」

「君にしたらそうかもね。でも、私みたいにあの二人に憧れて入った兵士はみんなそう思ってると思うよ。だって、“どう見ても君は普通じゃないもの”」

 

普通じゃない、か。そりゃあそうだ。

俺は普通じゃない。そんな当然のことを今更言われたって何とも思わないな。

 

「当たり前だ」

「…?」

「普通の人間は、こんな目にあってる最中に巨人を殺したいなんて思わないだろ」

 

驚いた顔をする先輩兵士。名前のなんて覚えていないが、そいつの驚いた顔は中々に面白かった。

 

 

 

 

 

 

「…それは普通じゃないね」

 

そう言って先輩兵士は出て言った。

ただ、もう一言そのあとに付け加えた台詞が俺を悩ませる。

 

「そういえば例の巨人、目星が付いたって近日中に作戦行動に入るらしいわ。…私も君もこのままだと待機ね。参加したかったけど、君も同じ気持ち…かな?」

 

別にあの鎚の巨人の人間の姿に目星が付いたのは良い事だ。だが、自身の無力さを痛感する事に変わりは無い。

今までも繰り返してきた自己嫌悪。後悔の無い選択をいくらしたところで限界のある事なんていくらだってあるに決まっている。

それが俺のこの腕であったり、先日の壁外調査の時の鎚の巨人との戦闘だったり。

ただ馬鹿みたいに何も考えずひたすらに力を振るい続ける事が出来れば楽なのだろうか。

自分の性格や考え方を今更矯正できるなんて到底思えないわけだが、今ほどもっと前向きだったらと思う事は無い。

性格やら何やらというのが形成されるのは幼少期という話を聞いた事があるのか本で見た事があるのか…理由は思い出せないがふとそんな話を思い出す。

俺の場合はどうだったろうか。腕を失う以前の事なんて碌に思い出せない。

友人が居たのかどうか、どんな生活をしていたのか。

自分の事とは思えないほど曖昧な記憶は、思い出そうとするのが無駄に思えるほど情報量が足りていない。

記憶喪失とは違う、全体的に曖昧な感じ。こう、空白なのではなくもっと、足りない感じ。

口頭で説明できるならどれほど楽な事か。

つまり、俺の人格は腕を失った後…さらに言うなら病院で目を覚ました後か。

その後の俺は自分で言うのもなんだが、碌なものじゃない。

ずっと巨人を殺すことだけ考えてて、義手だからって役立たず扱いされたり、訓練兵になってあいつらと出会って…何だかんだで今に至る。

本当に碌な人間じゃない。自分を見つめ直すいい機会だから、と思ったがこれは本当に酷いな。社交性皆無なのは分かっていたが、自分で思っていたよりずっと酷い。

しかしまぁ、意図せずそんな態度を取っているのだからこれからも変わらないだろうし、変える気も無い。

結局、俺が俺であることに変化を持たせる必要など無いのだから。

自己嫌悪するだけじゃ何も変わらない。

義手が出来て、自分にしか出来ない事を…やり遂げる。

それが、無力を痛感している俺に出来る唯一の覚悟の形。

 




約一カ月更新より少し遅れてしまいました。
なぜかというと、疲労、トライエイジ新弾、FBDLC、迷走、疲労による睡魔。
この辺の単語からなんとなく読解してくださるとありがたいです。

ライジングの新弾は全くできてないです。辛いです。
遊戯王もやってますが、疲労でそれどころじゃないですね。大会にも全く出られていない状況。

とまぁ、関係ない話はいいとして…内容が全然進んでないですね。時系列的には一応進んではいるのですが、戦線離脱した主人公サイドの話なので主人公の視点からぐだぐだ過ごしているだけの話です。
いわゆる難産でした。言い訳させてもらうとこの辺の話は本当に悩みました。というよりこの先の展開どうしようかとてつもなく悩んでます。
クウガ書いてるほうが気楽だったりそうでなかったり…。

あまり関係ない話ばかりしても仕方ないのでこの辺で。
では、感想とか評価とか誤字脱字とか…お願いします!
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