進撃の剣人   作:カムカム@もぐもぐ

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16話

少女の目は…失礼な言い方だが、いつもとは違い活力とでも言うべき力に満ち溢れている。

場所は調査兵団居住区の食堂。

さすがに調査兵団に長くいる兵士たちはすぐに食事を始めたものだが…先の壁外調査の影響でまともに食事を取ろうとする影は無い。

そんな食堂に居る影は3つ。

少女、アニ・レオンハートと巨漢ライナー・ブラウン。長身の少年、ベルトルト・フーバーである。

アニの力の満ち溢れた姿とは裏腹に、ライナーとベルトルトはどことなく暗い雰囲気だ。

 

「本当に知らないの?」

「…俺たちの知ってる事はお前も知っている事だろ」

「そうだよ」

「じゃあ、“あの巨人”は…なんだって言うの?」

「…」

「…」

 

あの巨人…とは先日の壁外調査で現れた通称鎚の巨人のことだろう。

高い防御力と機動力、そして圧倒的とも言える攻撃力の高さは他の巨人と比べても普通じゃないことは誰の目にもすぐに分かった。

 

「俺達の知らない巨人…というだけで脅威だな。なにせ“俺達”を仲間と認識してるかどうかすら分からないんだからな」

「“俺達”?」

 

その言葉に反応したのは当然アニ。

力のある視線から一変。その目は不満に染まり、不機嫌一色に変わる。

その目の色の変化を感じたライナーは内心しまったと思うがもう遅い。

 

「私は降りたの。…忘れたわけ?」

「あー…言葉のあやだ」

「ふんっ」

「…でもさ…アニはやっぱり…」

 

言いにくそうにしながらも、何かを伝えようとするベルトルトに視線が集まる。

その顔はいつも弱気なベルトルトを表したような表情であり、それに合わさるかのように空気が少しだけ重くなる。

 

「悪いけど…私は変わらない」

 

言いたい事は伝わる。

それはなんとなくだけども、分かるのだ。

スッと肩を落としたベルトルトは溜息を吐くと、思った事をそのまま口にする。

 

「…まるでハンクみたい」

「まったくだ」

 

その発言にアニはふんっと鼻を鳴らすとさらに不機嫌そうな顔を背ける。

 

「とにかく…あの巨人が何を考えているかが私やあんたたちに分からない以上…あんたたちも私も一緒だって事は分かってる?」

「まぁ…な。といっても元々アニ、お前がやるはずだった事をやったんだ。俺達の事がバレてるのか…それとも何かあるのか」

「そう言う話になると怪しいのはあんた達なんだけど」

「…そうなるな。ただ、俺たちは違う。今はそれだけははっきりしてる。お前が離れた時点で俺たちはあの壁外調査はスルーするつもりだった」

 

アニの疑いの視線を物ともせずに視線をぶつけるライナー。

その視線は自分に非が無いと疑って無い強い視線。

 

「お前がやれる事を俺たちには出来ない。得手不得手がはっきりしているからな。…俺じゃ鈍足すぎるし、ベルトルトは話にすらならない」

 

大体顔が割れてるのがやりずらい。とライナー。

 

「…まぁ細かい話はいいわ。なにが言いたいかって言うと…」

 

今度はぐっと溜めるアニに視線が集中する。

やはり普段のどことなく力の抜けた雰囲気は感じさせず、意志の強さを秘めた瞳は容姿の美しさもあって人を魅了するオーラを出している。

当然本人にその意志は無いが。

 

「立ちはだかるなら潰す」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とまぁ、あの発言をした後こうやって人里離れた場所に監禁紛いの事をされてる感想はどうだ?アニ」

 

苦笑いしながら茶化すようにアニに話しかけるのはライナー。

正直急に荷物もまともに持たされず、こうして高原の真ん中にある一軒家に閉じ込められるかのように入れられている事にライナーは笑うしかない。

 

「…最悪」

「は、はは…」

 

柄にもなくぷっくりと頬を膨らませて視線を逸らすアニの表情は、年相応の少女の物だ。

そんなアニの態度にベルトルトは渇いた笑いをするしかなく、同期の面々は会話の内容は分からなくてもアニの表情に目を丸くしている。

クリスタなどはそんなアニの表情に柔らかい笑顔を浮かべていたりするのだが…。

 

「しかし、だ。アニはいいとしても、この現状は釈然としないな。…まるで監禁…なんてて言うのは言葉が悪いか?」

「…ちっ」

「…アニが拗ねて和んではいるが、この現状は普通じゃないと思わないか?」

 

ライナーの表情が引き締まる。

 

「なんで私服で待機なんだ?『戦闘服は着るな』『訓練もするな』だぞ?なぜだ?俺たちは兵士だぞ!さらに疑問なのは上官たちの完全装備だ。ここは前線でもねぇ壁の内側だぜ?何と戦うってんだ?」

 

ライナーの真剣な表情と疑問も食欲馬鹿とただの馬鹿には届かない。

頬杖を突いたままうーんと唸るくらいのもの。

 

「このあたりはクマが出るからな」

「えぇ。クマですね」

「クマなら鉄砲でいいだろ…みんなワケが分からなくて困惑してる。呑気にくつろいでんのはお前らだけだよ」

 

そして視線はアニへ。口外しないがライナーは「まぁ、例外も居るが…」と視線で語る。

それを受けたアニは当然視線で応戦、「…回す」と圧力をかける。

 

「…いっそ抜けだして上官の反応でも伺いたい気分だ」

 

ライナーは真剣な話をしたはずなのに、なぜか空気が軽いと感じている。

馬鹿二人の存在もそうだが、それ以上にアニが本当にやる気を無くしているからだ。

元々憲兵を目指しているといっても訓練兵時代もそこまで真剣ではなかったアニではあるが、その空気はいつも鋭かった。

変わったと言えば変わったんだろうし、根本的には変わってないのだろうが…こうして調査兵団の一員としているアニは昔とは違うと感じる。

訓練兵時代なら冷たい視線で完封されたものだとライナーは懐かしく感じるほど。

 

しかし、現実はどうだろう。

懐かしく感じる暇など無いほど、世界が人間に与える脅威、その障害はとてつもなく…大きい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…おい、なんだこの空気は」

 

扉を開けた先で、真っ先に視界に入ったのはベッドで寝ているエレン。

特に外傷は無さそうだが、ベッドの横に座るミカサの雰囲気から察するに大したことは無いんだろう。

だが、それ以上にここの空気は重い。

…また誰か死んだという考え方も出来るが、同期以外の人間の死でここまで感傷的になれるほど薄い経験はしてないと思うが。

 

「は、ハンク!」

 

俺に真っ先に反応したのはベッドの上に座りこんだアルミンの横に立つ馬面。

 

「…大丈夫なの?」

「そこそこ元気だな。ほら」

 

そう言って完成した義手をぶらつかせる。

見た目に変化は特に無し、具体的な変化のほどは見た目からは感じないがどうやら耐久性が向上したらしい。

しかし戦場での俺にとっての義手が生命線である以上、耐久性の向上ほどありがたい強化も中々無い。

まぁ、残念なことに耐久の変わりの重量が増しているそうだ。

渡された後「対人戦でのパンチは強力だぞ!」なんて言われたが、人間相手にこんな金属の塊で殴れば重さに関係なくさぞ強力な武器になるだろう。

 

「いや、義手もだけど、体は?」

「特に問題ないな。義手が完成するまでずっと閉じ込められていたから、肉体的には元気だ。まぁ、どれほど体が鈍ったかは…わからないが」

「…何にしろよかったじゃねぇか」

「…お前らは大丈夫そうじゃないが?」

「…は、ははは。ハンクにはそう見える?」

 

渇いた笑いで視線を向けるアルミンの表情は暗い。

ミカサの無表情もどことなく暗く感じるし、馬面の笑顔なんて張り付いたかのように硬い。

…大丈夫には程遠いな。

 

「…大丈夫には見えないな。なにがあった」

「唐突なんだけどさ…えーっと…人は、もしかしたら、なんだけど巨人に守られていたかもしれないんだ。ハンク、一旦今回何があったか話した方が良い?」

「いや、結論だけ話してくれ。お前たちが何をして、なにを経験したかを聞いてもしょうがない。有益な情報があればそれだけでいい」

 

実際多くは知らないが、鎚の巨人を捉える作戦に出たという話は先程聞いてから来た。

そこで何があったかなんて知らないし、知ろうとも思わない。

…情が移ったとでも言うべきなのか、こいつらが生きていた事が、まぁ、なんだ。

そんなに悪くない気分だ。

…………別に心配だったとかそういうわけではない。断じてない。

ただ、これ以上俺の目の届かないところで、知り合いが死んでいくのが堪らなく悔しい。

俺が訓練兵時代学んだ物はなんだ?得た物は?

あの醜悪で、存在そのものが嫌悪の対象になる、巨人を殺す力だ。

得たはずだ。それは通用したはずだ。

だが…届かない奴も居た。

それが鎚の巨人だったし、そこでは生命線である義手を失った。

感じた物、それは無力だ。あの無力さ。

培った物が活かせず、結局目的を果たせず、悪戯に戦力を失う。

全てが最後に繋がっていくのなら、俺が居ない場所でエレンやミカサのような力を失うのは全て俺の責任。

自意識過剰なのかもしれないが、そう思わなければいけない。

“俺が全ての巨人を殺せば、全て上手く行く”のだから。

 

「…そっか。あの巨人、えっと、鎚の巨人は結局捕まえた…で、いいのかな。なんか水晶みたいなのに閉じこもっちゃって、どうする事も出来ない状況なんだ」

「…」

「それと、偶然分かった事なんだけどね…壁の中に巨人が居るみたいなんだ」

「…ほう」

「理由も分からないし、これからの事を考えるとそんな事ばかりも考えていられないんだろうけどね」

 

壁の中に巨人、か。

どうしてそこに居るかなんて分からないが、とりあえず現状害が無いなら放置しておけばよさそうだ。

何かあるなら上の連中はもっと騒いでいそうだし、そうでもないなら後から何とかするつもりなのだろう。身近にいた事には虫唾が走るが…精々人間を守ってくれ。…最後には殺してやる。

 

「アルミン来て。会議に参加してくれって団長が呼んでる」

 

扉を開けて入ってきたのはアルミンを呼びに来た兵士。

アルミンは一言返事をすると、いそいそと準備をして付いていく。

どうやら馬面も付いていくようで、ミカサを誘うがミカサは残るらしい。

 

「俺も行く」

「うん」

 

ミカサはそう言うと視線をエレンに戻す。

俺はというと、それを確認するまでも無く部屋を出て外を目指す。

振り出しに戻った、とはいかないまでもかなり微妙な空気だな。

…どの道近道なんて、ありはしないのか。

不意に、大きな溜息が出た。

 

 

 

 

 

 

事件の日ストヘス区内の憲兵団支部の施設でこの日を総括する会議が行われた。

各々の考えが渦巻く会議はお互いに言いたい事を言い合い、平行線を辿っていると言っても差し支えない内容だ。

憲兵団側は「目星が付いているのならばなぜ憲兵団に協力を要請しなかったのか」というもの。

それに対し調査兵団の団長であるエルヴィン・スミスは「潔白を証明できる者のみで作戦を遂行する必要があった」と述べる。

どちらの言っている事も正しい。そこに隠れる思惑のありなしを除いたとしても、“口頭で”語っている事に不審な点は感じられない。

憲兵側のする質問に対してエルヴィンは「住民の財産を失わせてしまった事に関しては反省している。しかしそれでも結果的に、最終的に住民を安全かつ平和な世界へ導くためには今回の作戦は必要だった。壁の中に潜む敵は必ず排除する事を誓う」と大まかに言えばこのような発言をするエルヴィンの視線は鋭く、その意気込みが窺えるというものだろう。

しかし、今日の問題は止まる事は無い。

大きな音を立てて飛び込んできた一人の調査兵団の兵士。

その口から放たれた言葉は、本日日中の事件よりさらに大きな波紋を呼ぶ。

 

「エルヴィン団長!!大変です!ウォール・ローゼが!」

 

人類の砦とも言える壁。その危機は、常に隣り合わせである。

それが今宵、今一度砕かれる。

 

 

 

 

 

 

また壁が破壊されたかもしれない…か。

なんていう絶望感。

もはやここまで来ると絶望ここに極まり、とでも言いたいところだな。

呆れてしまう。

馬車に揺れる俺やエレン、ミカサとアルミンは話の内容に驚愕に染まっている。

正直、ぶん殴ってやりたい。が、我慢する。

どうやらリヴァイ兵長やハンジ副隊長が言うには一緒に乗っている司祭…ニックとか言ったか。こいつは壁の中に巨人が居る事を知っていたらしい。

理由は不明。聞きだそうとしても答えない。何で知っているかも不明。当然話そうとしない。

不明不明不明。ただ何も話そうともせず、何も語らない司祭にイライラが募る。

 

「どうしたハンク、やけに静かだな。お前ならエレンのように噛みつくかと思ったが…」

「…冗談」

 

リヴァイ兵長の言葉を受け、肩を竦めて返す。

 

「言って聞かないようなら……俺は調査兵団をそういう組織だと思ってる。兵長たちに聞き出せないなら今更俺が言っても意味無いかと」

「…違いないな」

「は、ハンク…」

 

かわりに視線を司祭へ送る。

一瞬視線がぶつかるが司祭はすぐに逸らしてしまう。

…あまりにも判断に困っている目をしていてやり辛い。なにを知っているか分からないが、出来るならあまり手を焼かせないでもらいたいものだ。陰謀か何かで黙っているなら濁った眼をしてるからすぐ分かるものだが、そうも見えない。…本当に厄介。

 

そんな事をしている間にも話は進んでいく。

どうやら壁の材質は硬化した巨人の皮膚と同じだと言う事。

アルミンが何かに気づいていたこと。

本来であれば20年はかかる壁の修理もすぐにでも修復が可能になる可能性がある事。

そしてそれは全て…エレン次第だと言う事。

 

「できそうかどうかじゃねぇだろ…」

「…!」

「やれ…やるしかねぇだろ」

 

否定を許さない真っ直ぐな視線がエレンを貫く。

リヴァイ兵長の言葉は重く、プレッシャーのようにも感じるだろうが…出来る奴が一人しかいないんじゃな。

 

「こんな状況だ…兵団もそれにを死力尽くす以外にやる事はねぇはずだ。必ず成功させろ」

「…はい!オレが必ず穴を塞ぎます!」

 

言いきり、鍵を握りしめるエレン。

いつか言っていた全ての答えがある地下室への道。どの道いつかは解決しなくてはいけない問題。

全ての命運はエレン次第。

ま、そうすりゃあ分かるんだろ?俺も感じてる。

 

「この怒りの矛先をどこに向ければいいかが…」

 

そうしている内に馬車はエルミハ区に到着した。

リヴァイ兵長と司祭はここで降りるので全員に一言ずつ言葉を掛けている。

アルミンには頭を使え、ミカサにはしくじるな…そして俺へと視線を向ける兵長。

視線だけで何となく緊張感が走るこの人にはさすがに頭が上がらない。

 

「ハンク、お前には特に言う事は無い。言っておくがこれは信頼じゃない。お前の事だから言っても聞かないだろうし、俺の期待をいい意味で裏切れると思っているからだ。期待はしていないが、お前がやれることもやり尽くせ。…いいな」

「…了解」

 

最低限、いや、全力を尽くすことに変わりは無い。

 




お久しぶりです。
遅れてすいません…と言いたいところですが、おそらく次も遅れます。
ですので次の機会にとって置きたいと思います。

原作の方も進んでいますし、これからどうするかは悩みまくっているのでどんどんペースが落ちると思います。
月刊の方を読んでいるとなんかこのまま行って先が見えるのか見えないのか…納得できる形に持っていければいいのですがそこも考えものですし、色々難しいです。
もしかしたら一旦大きく時間を空けて考える時間をとってもいいかもいいかもしれませんね。
中途半端な作品を読んで面白いと思う人もいないでしょうし。
まぁ、元々のクオリティが低いのでどうなるかわかりませんが…。

ともかく、読んでくださりありがとうございました。
誤字脱字報告及び、感想評価待ってまーす。でわわわ
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