アニがどうなるのかわからないと書きづらい。
というわけでBAD ENDです。
先刻全身に駆け抜けた衝撃は、間違いなく俺という存在がこの世に生まれてから最大の衝撃だった。
壁外遠征の最中に現れたそいつは、俺たち人間を蹂躙するには十分すぎる暴力を振りかざし、まるで虫でも払うかのように兵士たちを殺していく。
……実際そいつからすれば人間などは虫けら、ゴミのような存在であり、立体起動を所持して戦う力を得た人間ですら蝿程度にしか認識していないのだろう。
蠅にいくら集られても死なないように、そいつにとって正しく人類は虫けらなのだ。
朦朧とする意識を集中し、どこか壊れてしまったのかギシギシと変な違和感を発する義手に力を込めてみる。
いつもの無力感よりもさらに上の絶望感。俺にとっての無力の証明である義手が悲鳴を上げている事が、俺にとっての何かに訴えかける。
座りこみ、木に背中を預けた体に、これ以上ないほどの力を込め立ち上がる。
……大丈夫、立体起動はまだ動く。
これならまだ、まだ戦える。
俺は、湿った手を握りしめ、立体起動を開始する。
人類最強の兵士と称されるリヴァイ兵長、そして新人でありながらリヴァイ兵長同等のポテンシャルを秘めているであろうミカサ・アッカーマンのペアは、敵を追い詰めていた。
精鋭揃いの調査兵団内でも屈指の戦闘能力を持つ二人を前に、ついに“女型の巨人”は追い詰められたのだ。
幾人もの兵士を殺し、ついには巨人化能力を有するエレンを撃破。そのエレンを口内に含んだままの逃亡戦では、相当の劣勢だった事を除いてもこの二人を相手にして未だに生存している事がこの巨人が普通ではない事を物語っていた。
さらに一閃、リヴァイの刃が煌めき女型の巨人の身を削る。
当然巨人であるためその回復力は人間と比較するのは馬鹿らしい速度で再生していく。
しかし、どんな凶悪な再生能力でもラグがあり、無敵ではない。
それに人体構造が人間で酷似している事で、全身の筋、腱などを切断されれば当然行動を一時的に封じることだって可能。
とはいっても動く相手を的確に狙うのは難易度が高く、並大抵のことではない。それに女型の巨人は機動力が高く、その全力は巨人よりも速く走れるように調整された馬よりも圧倒的に早い。
だが、しかしだ、女型の巨人は普通の巨人と比較しても尋常ではない速度で動いてはいるが、それと相対する兵士は人間の範疇に収めるのが馬鹿らしいほどの技量と戦闘力。
立体起動と肉体の限界をあっさりと超えた身体能力、さらにはその身体能力を十全に生かした二人はそんな無理難題を軽やかにこなしていく。
ただそれでも二人の顔色が優れないのは、純粋に焦っているからだろう。
彼女―――と称していいかは不明だが、女型の巨人の口内に含まれているであろうエレン・イェーガーは、人類にとっての希望となりうる人物であり、ミカサ・アッカーマンにとっての命よりも大切な人物なのだ。
それが、生きているかも死んでいるかも不明。さらには時間経過と森が脱出された場合の追撃不可能と言う現状、それが冷静な技量を乱している。
だからこそ女型の巨人に対して、未だに有効な攻撃を与えられていないのだ。
それに女型の巨人の使う、硬化能力。これによって本当に重要な筋などは完全に守られてしまう。
ただ、本来であればいくら硬化能力を有していようともリヴァイ兵長からすれば全身を同時に硬化させない限りいくらでもやりようはあるのだが……この女型の巨人は何かを悟ったかのように冷静であり、超高機動での撹乱の類に一切引っ掛らない。
筋を攻撃すると見せかけ一気に駆け上がり、頬を破ってエレンを救出しようとした際には筋を守ろうともせず頬を硬化させた。
それどころか反撃など一切せずひたすら逃げに徹するこの巨人は、本当の意味で人類に絶望を与えようとしている。
それが、どれだけの焦燥感を煽るかなど……考える事すらできない。
事実、もはやリヴァイとミカサ・アッカーマンは思考することすら疎かになり、ただ現実を悪夢に変えないようひたすらに努力を繰り返すことすら許されない。
当初は一旦止まって作戦を練る時間もあったものだが、現状そんな事をしていたら逃げ切りを許してしまう。
立体起動など足元にも及ばない全力疾走を隠し玉にしている女型の巨人にとって時間を与えられると言う事は、逃げてくださいと言われているような行為に他ならないからだ。
現在それが許されないのは二人の猛攻があってこそであり、時間を与えてしまえば本当に一瞬で逃げ切りを許してしまうことは間違いのない事実だ。
それに、ガスと言う消耗品を使用してこそ許された高機動には当然限界がある。
当然補給など軽々しくできる物ではないし、戦闘中にそれが許されるような相手ではないのだから二人の意識は自然にそっちに向く。集中力こそが戦闘の要であるのは言わずもがなであるが、集中しきれていないというのは非常にマズイ。
こうした複数の要素が絡み合い、何とも言えない微妙なバランスでの追撃戦が行われているのだ。
「クソったれが……っ!」
苛立ちを隠そうともしないリヴァイは更に速度を上げる。それを見てミカサは瞬時に意図を理解。なりふり構わない特攻ではなく圧倒的な速度と技量を前面に押し出した短期決戦。これ以上長引かせる事はナンセンス極まりないというリヴァイの判断だろうとミカサは考え、それに続く。
巨人は速いと言っても立体起動で追えない速度ではなく、追いつくこと自体は簡単だ。それに対巨人戦はむしろ複数人で攻めて、単体ならば逃げるのが定石であるため巨人の全力疾走からも複数の条件が重なれば逃げることなど容易い速度を出すことが可能だ。
それはいくら運動性能が高い女型の巨人でも例外ではなくただ単に走るだけならば、一瞬で追いつくことが可能である。
リヴァイは瞬時に足元に纏わりつくような機動を取ると、刃で斬るのではなく“叩く”。
本来ならば巨人にこんな手段を取る必要など無いだろうが、この女型の中身が人間であるならばその限りではない。痛みが有るのか、むしろ神経が有るのか不明だが……何かを掴む、口にエレンを入れていることから一定の感触を感じていることに違いはないはずだ。
では無ければ掴むことなど出来ず、いや寧ろ力加減が出来ず一瞬で握りつぶすだろうし感覚が無ければ口の中のエレンなど一瞬で飲み干すだろう。
だからこそ、“叩く”。痛みはなくとも感触さえ伝わっているならこれで十分フェイントとしては有効なはず。噂に聞く鎧の巨人が全身なのに対し、一部……もしくは数か所程度の硬化しないのならやりようはある。いくら冷静に局部だけ守ろうとも口か項か、はたまた筋か。どれか潰せばチャンスが生まれるのだから、中身が人間であり神でないのなら判断を鈍らせたり混乱を招くと言うのは相当有効なはずだから。
それと同時にミカサは頭部へ飛ぶ。その役目は、確認。リヴァイが何回か足まわりに衝撃を与えると女型はついに頬を硬化させた。
最強格の兵士二人による完璧とも言えるコンビネーション。そしてそれが初とは思えない圧倒的なまでのタイミング調整。
「兵長!!」
次の瞬間にはリヴァイ兵長が足の腱を切り裂き、勝利を収めるだろう。
だが、運命は残酷だ。世界は優しくなんて無いし、人の気持ちや意思なんて簡単に踏み躙る。
全てが完璧な作戦に唯一の失敗が有るとすれば、ミカサが合図に声を出した事だろう。
女型の巨人はその声を聞いた瞬間大きく屈むと……まるで砲弾のように前進した。それは、恐れていた超加速だ。
まるで空気を抉り取るかのように突き進むための初速から生まれた風圧は、人間など紙屑同然に吹き飛ばす。サイズの問題など身体能力云々の問題ではないのだから人類最強だろうがなんだろうが、“人類”である限り抗うことなど不可能だろう。
「っの……!!がぁぁぁぁぁ!!!」
吹き飛ばされながらも、気合いを充填。木に齧りつくようにしがみ付くとリヴァイは立体機動へと移る。その瞳には絶望の色はなく、ただ目先の生涯を一身に排除しようと言う気持ちが色濃く出ている。
それに対しミカサはというと、顔色は蒼白でその心に大きく絶望が圧し掛かっている事だろう。
ミカサは思う。警戒していたあの加速をされた時点で詰み。もう、全てが終わりなんだ。エレンも取り返せず、結局守ることなんてできなかった。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい、エレン。
実際、平地では馬ですら一瞬で追いつき追い越す女型の加速は立体起動でさえ追尾するのは不可能に近く、その性能を十全に活かせる森ですら五分ではないのだ。
まっさらな平地に出られれば本当に詰むのだから、やれる事はやる。リヴァイはそう考え、全力で飛ぶ。
奇跡は待っていても起こせない、だからこそ起こせる者を世界は、人は必要とするのだろう。
この時人類の希望たるエレン・イェーガー救出に、奇跡は………起きた。
ただ、殺す。虚仮の一念なんてモノじゃない。そんな純粋なモノじゃない。
もっと醜くて、希望を照らすはずの未来さえ消すかもしれないほど醜悪なほどの殺意。
俺という存在が、俺という人間の生き方がそれを証明する。
いつだったかエレンに言ったあの言葉。……本当にいつだったかもわからないほど全身の激痛と頭痛で何も分からないが、間違いなく思いだせる。
「……巨人は皆殺しだ。絶対に―――殺す」
俺の存在を賭けた……殺意の権化と化した俺は、あの女型を……絶対に許さない。
待ち伏せなど余裕だった。エレンを捕まえた以上兵長とミカサが黙っているはずなど無い。あの二人を信頼してないわけではないが、最低でも遅延くらいはしているに違いない。
ほとんど森の中心でエレンとの戦闘が有った事を考えると俺を跳ね飛ばした後の方向から推測できる逃げ道はそう多くない。立体起動を使えば分かるが方向転換とはかなりの速度を削ぎ落される。逃げるなら真っ直ぐ、愚直に直進するはずだ。
俺の体のダメージはかなり大きい。もしかしたら今後戦えなくなる可能性もある。
だからといって自棄になったわけではないが、俺の怒りは振りきれた。エレンがどうとか人類がどうとかじゃない。もう、我慢なんてできない。
あの女型だけはどんな手段を持ってしても殺してやる。
案の定回り込みに成功した俺に向かって女型が猛スピードで突っ込んでくる。その速度たるや立体起動の比ではない。
が、逃げるのを追うのは無理でも向ってくる物を迎撃するなんてたいして難しくはない。
それこそ逃げる相手には槍でも刺さりにくいが向ってくるなら木の枝でも刺さる。
……どうやら女型も俺に気付いたようで速度を上げる。どうやら勢いを殺して捌くよりそのまま吹き飛ばした方が確実という判断だろう。
賢明な判断だ。冷静だし、まともにやり合って勝てるとは思えない。
だが、お前はここで死ぬ。お前が巨人である以上俺は殺さなきゃいけないんだ。
俺の命を賭けた殺意に、貴様なんかが……勝てるもんかよっ!!!!!
「ふっ!!!」
木から飛び降りアンカーを飛ばす。目標は女型の額だ。どんな判断をしようが硬化させるならどうせうなじだろ?
俺は勢いよく突っ込んでくる女型の勢いに流されながらも体制を立て直し項にしがみつく。
これで、詰みだ。
目の前の項は高質化して見ただけでも刃ごときじゃ通らなさそうだ。
だが、俺の“コイツ”は絶対にお前を殺す。
「悪いが、俺と一緒んに死んでもらうぞ。……“ ”」
そんなに嫌いじゃない奴の名前を投げかけると、少しだけ速度が遅くなった気がした。
うん、たぶんの気のせい。
だから俺は、何も考えずに自爆した。
そこで何が起きたのか、何が有ったのか。ミカサ・アッカーマンとリヴァイ兵長は何も語らない。正確には団長やその側近には語られたらしいが、その詳細を知るものは少ない。
だがエレンという人類の希望が帰って来た事に喜ぶ半面、大きな犠牲を出したことも事実。
そして行方不明者、戦死者の中に刻まれた名前は“彼”と同期の物にとっては衝撃的な名前だったという事は間違いないだろう。
「オレを助けたのかな」
「……どうだろう。少なくともハンクはハンクの考えで動いたって事だと思うけど」
「私はハンクじゃないから何も分からない……けど、もしエレンを助けるために命を賭けたのなら私はハンクに大きな借りを作ってしまった」
「……ミカサ」
「一人ぼっちは寂しい。心が寒い。……エレン以外はどうなってもいいって思ってた時もあった。今でもその気持ちは強い」
すぅっと一つ息を吸うミカサ。心なしか肩が震えているようにも見える。
「私は今、すごく、すごく寒い」
「そんなこと、オレだって分かってるよ」
「僕だってそうさ」
「だからこそ、殺さなきゃいけない。敵が誰であったって、どんな強敵だったって……巨人は皆殺しだ」
「駆逐してやる、一匹残らず……切り刻む」
こうして、ハンクという一人の男は死んだ。
だが、残された物もある。それが何かは言うまでも無いが……多くのうち一つを上げるとすれば、想いだろうか。
これは、いくつもある終わりの一つの形。一太刀に命を掛け、巨人を切り続けた男の一つの終わりである。
ただ、何も考えず口とうなじだけ守ってる女型ってわりと手の着けようがないと思います。
あと、ハンクを跳ね飛ばしたことで殺したと思った女型中の人は感情が振り切れて逆に冷静になってるパターンです。
まぁ、とりあえずの更新ということで……次はアニが出てきてどうすればいいのかわかるようになったら更新します。
感想などまってます!