進撃の剣人   作:カムカム@もぐもぐ

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17話

 

 

ユミルという女のことは苦手でもなければたいして好きでもないし、だからと言って特別嫌いでもない。

『どうでもいいやつ』位の評価のやつ。

 

だがどうでもいいやつではあるが、俺との絡みは実はそんなに少なくなく、訓練兵団時代にはアニやエレン、ライナーやミカサといった近接戦闘の怪物達との訓練の傍ら、なんと驚くことに力業で強引に押し倒す以外の能力は五分といった様子のクリスタとはよく訓練をしていたので、クリスタになぜか異常なほど過保護なユミルとも話す機会自体は多かった。

 

以前クリスタが強くなってるかもみたいなことを言っていたがそんなことは全くなく相変わらず素手での戦闘能力は酷いものだ。

 

「成長が見れねぇな」

「うちのクリスタを見習えよ」

「あんな化け物みたいな強さの連中と一緒になってやってる意味あんのか?」

 

等々口を開けば文句や皮肉ばかり。

 

「もう!ハンクだって頑張ってるんだよ!」

 

と、クリスタに言われれば大人しくなるがお節介ライナーやエレン狂いミカサより何を考えているかわからないから厄介で仕方ない。

それでいて構うなというとクリスタを引き合いに出してごちゃごちゃ言ってくるのが質が悪い。

これだけ俺の中には悪評があるのに、どうでもいいやつから鬱陶しいやつにならないのはクリスタの、

 

「ユミルは口が悪いけど、根は良い人だよ。それにハンクに悪口ばっかり言うけど…その、えっと、義手には触れないでしょ?やっぱり踏み込んじゃいけないところっていうのは理解してるんだよ。だから、ハンクも仲良くしてあげて」

 

との言葉が以外とスッと頭に入ってきたからだろう。

コンプレックス…とでもいうのか義手にしてから言われてきた『お荷物』『役立たず』この手の言葉は確かに嫌いだ。言われてもなんとも思わないが、それでも言われたいわけではない。

その点文句ばかりだが、そう考えると言われたくないことを言ってこないユミルは一歩線を引いているのかもしれない。

しかしそれで帳消し。悪態とクリスタの言葉でマイナスイメージがプラスになったりはしないからちょうど『どうでもいいやつ』と言ったことろだろう。

 

だからこそ俺は、巨人に群がられて貪られかけているそいつを『ユミル』と呼んだクリスタの言葉を信じて巨人を助けようとしているのだろう。

 

「ハンク!?」

 

驚きの声は誰のものだろうか。

崩れた城での戦闘は、立体起動を用いた戦闘とは相性がよくない。

高さを生かした手の届かないところからの一撃離脱戦法ならともかく、ほぼ更地同然の瓦礫の山の上では平地と大差ないのだ。

 

「邪魔だ」

 

しかしそんなものは大した問題ではない。

目の前のボコボコにされている巨人がユミルなら、そいつを死なせるわけにはいかない。

そもそも援軍が俺一人なら、という条件付きの敗北条件だ。

 

「討伐数…一ィ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「助かったぜ、ハンク」

「あぁ」

 

腕を怪我したのか支え木をした腕を吊るしたライナーは、いつものフランクさで話しかけてくる。

しかしフランクさとは裏腹にその顔は本当に疲れているようでどことなく覇気がないような気すらする。

 

「正直もうダメだと思ったぞ。上官がなに考えてるか解らないが、武装なしの待機が今回は悪い方に傾いた。理由を是非とも聞かせ」

「ユミルが巨人になったところを見たか?」

「…」

「どうなんだ、ライナー」

 

言葉を遮って告げた俺の言葉に、ライナーは壁の向こうに視線をずらすと言いづらそうに口を開く。

 

「あぁ、見た」

「そうか」

「ハンク、待て。落ち着け」

「?なにがだ」

「何ってお前…そりゃお前のことだ、巨人は皆殺しって」

「ユミルは別に殺さない。エレンと同じだ。巨人を殺してくれるならわざわざ殺す必要なんてないだろ」

「…なんかハンクのことがまた少しわかった気がするよ」

「…なんだ居たのかベルトルト」

 

酷い!と騒ぐがライナーとベルトルトは大体セットだがベルトルトはデカいわりに口数がやたらと少ないから空気みたいなもんだ。

図体がでかいんだからもっと存在感をだせ。

どうでもいいけど。

 

「俺の夢は変わらない。巨人は殺す。自由を掴むために、な」

 

なら、使えるものは使うし、使えるものをわざわざ殺す必要なんてないだろ?

そう言って小さく笑うと、ライナーとベルトルトは目を見開いて驚く。

そんな驚くことじゃないだろうが。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はライナー達から離れてクリスタとアニの近くにいる。エレンとミカサが話したいというので離れたのだ。

込み入った"話"もあるだろうし、俺らに聞かされた"話"もあるがそんなことは何かが起きてからしか考えようのないことだ。

 

「ハンクはさ」

「…」

「ユミルの、味方、だよね?」

「…」

「ユミルはさ、良い人だよ。私がイイことする度になんでイイことするんだって怒るんだ。だけどそれは、誰かのために誰かが犠牲になるのが気に入らないんじゃないのかな」

 

私の想像も入っちゃってるけどね。と笑うと俺の目を見て言葉を続ける。

 

「それはきっとユミルの本心だろうし、それをやってる私は偽善的に写ってたはずなのにいつも私の事を心配してくれて、それで…」

 

言葉に詰まったのか俯き、拳を握って冷静に言葉を探すクリスタ。

ほんの少しの間のあと、顔を上げて

 

「結局私達のために、命を懸けて戦っちゃうんだもん。とんでもないイイことして、私には前を向いて生きろなんて偉そうなこと言うんだよ!どっちが良い人なんだよって思うよね。…ねぇ、ハンク」

「なんだ」

「ユミルは、きっと大丈夫。だから巨人になれるけど、仲間…だよね。エレンと同じように、これからも仲良くしてくれるよね」

 

…なるほど。エレンが周りにどう思われてるか解らないが、これはさっきのライナー達と同じだな。

 

「別にユミルは殺さない。元からそんなつもりはない」

「…本当?」

「エレンが特別なんじゃない。エレンがその辺の巨人と同じように暴れるなら殺す。同じ志があろうが無かろうが敵は殺すだけだ。…ユミルはエレンと同じで巨人を殺す巨人になるなら、味方を殺す必要なんてあると思うか?」

「…そうだよね!そう思うよね!」

 

そう言って抱き付かれてしまったがこれは

 

『エレンとは仲良しだったから殺さなかったけど、ユミルは酷いこと言ってたし巨人になったからハンクは絶対ユミル殺すよね。どうしよう、ユミルは悪い人じゃないよ!』

 

と言うことだろうか。俺がユミルを殺さないから抱き付いてきたのなら、一体俺は何だと思われているんだ。

いや、心当たりを探れば山ほどあるか。

エレンと違って社交的とはほど遠いしな。

 

「ちょっと」

「ぐえ」

 

普段ならそんな言葉を発したのを見たことのない声を出したのはクリスタで、出させたのはアニだ。

後ろ襟を引っ張って俺から引き剥がしたのだ。

 

「イイ感じのところ悪いんだけど、私も居るんだよね」

「イイ感じ!?」

「俺がユミルに手を出さないから安心しただけだろ」

「ハンクは黙ってて」

「…」

 

やる気のない雰囲気のアニには珍しく、格闘訓練中のような覇気を灯した目に威圧され大人しく黙る。

こうなったやつは大体人の話を聞かないからな。

戦闘中や、戦闘準備中なら何を言い出しても大人しく戦闘に集中しろと怒るだろうが命の危機を脱した後な訳だし少しくらい好きにさせるか。

 

「抱き付くとか、クリスタはこいつのこと好きなの?」

「…え?」

「皆から天使だとか言われてるあんたのその辺の事情は気になるところなんだよね。ユミルとあんたの感動話はいいけど、それはそれだし」

 

……なんだこの空気は。

冷徹なアニの視線を真正面から受け止めるクリスタ。

元々自分の考えがあり、しっかり者のクリスタらしいと言えばらしいが…普段は喧嘩をすぐ仲裁する側なだけに、

 

「アニには関係ないよ」

 

なんて言い返すとは思わなかった。

 

「…ふーん」

 

クリスタの言葉にアニは少し驚いたようだがすぐに刺々しい雰囲気を纒だしたので、さすがに止めようと口を挟む。

ちょっとした軽口くらいならいいが、喧嘩にまで発展するのはやりすぎだ。

 

「おい、いい加減にしろ。なんでもいいが、安全圏に移動してからにした方が良い」

 

痺れを切らした俺の言葉に二人は渋々といった様子でこちらを見る。なんだその目は。

 

「そもそもあんたが…」

「どうでもよくないよ…」

「?なにが」

 

このピリつきながらも、訓練兵の時のような空気は文字通り閃光と爆発によって掻き消された。

よりにもよって俺が世界でもっとも憎い、巨人の出現で。

 

 

 

 

 

 

 

 

「地獄だ」

 

長年調査兵団の兵士をやってきた、男は目の前の光景に言葉をこぼす。

調査兵団は巨人との接触機会がもっとも多く、男はそんな人類の宿敵である対巨人戦闘を何度も繰り返してきたのだ。

それでいてこうして生きていることは、複数の幸運があったとはいえ男を優秀な兵士と言える要因だろう。

 

「地獄だ」

 

そんな数々の修羅場を潜った男も、こんな地獄とも言える空間を体験したことなどない。

いや、命の危機を感じるという点ではもっと背筋を凍らす恐怖体験は数あるが。

 

「地獄だ」

 

ベクトルが違う。

まるでこの世の終わりを見ているようだ。

 

バチンと肉が物を叩く音が響く。

ちらりと男は話に聞いたエレン巨人の運動性能に、驚嘆のため息が出る。

見たことのない、見慣れない…そう巨人を何体も見てきた男にすら見たことのない巨人だ。

優秀とはいえ所詮は優秀の域をでない男を遥かに越す、対巨人戦闘のプロ。副隊長や側近が、エレン巨人とその側で構えを取る『鎧の巨人』を取り囲む。

人類に明確な敵意をもつであろう鎧の巨人は、エレン巨人の、横にいる。

そう、男にも理解し難く、何が起こっているのかよく分からないのだが、エレン巨人と鎧の巨人は『共闘』しているのだろう。

 

めちゃくちゃだ。

そして人間が巨人になった戦闘能力の計り知れなさは、エレン巨人が、そして先の作戦である鎚の巨人捕獲作戦の犠牲者の数が物語っている。しかもエレン巨人と鎧の巨人に巨人殺しのエキスパート達だ。

どんな巨人が勝てるというのだ。

 

鎧の巨人が宙を舞う。

地面から突然生えた戦鎚の様な塊に吹き飛ばされたのだ。

アレだ。

アレだけでも鎧とエレンは苦しめられている。

どこからともなく、前触れもなく攻撃されているのだからその厄介さは計り知れない。

更にはどこから湧いたのか、見慣れた巨人がうようよとエレンたちに群がって来たのだ。

運動能力が違うエレンと鎧、更には調査兵団のエリート達に巨人など物の数ではないが、正体不明の攻撃はエレンや鎧はともかく生身の人間には触れただけで即死の攻撃である。

すでに何人も犠牲になっていて、普通の巨人相手でも安易に攻められない。

人間と巨人が入り乱れ、この世の終わりのような光景を見て、男は言葉を溢す。

 

「地獄だ」

 

これは、人間が巨人に刻まれた恐怖から来る、本能の言葉だ。

男は震える拳を握り締め、その地獄を見つめる事しかできない。

なぜなら人は、何度もこうして巨人に敗北し、恐怖を刻まれてきたのだから。





ルート分岐点の一つ

城での場面はアニが追加されただけで特に変化なしなのでカット

次話ではエレンと鎧の共闘が始まるまでを起点に書きたいと思います。

なんやかんやクリスタって可愛いよね!

ではまた次回、よろしくお願いします!
でわでわー
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