『ペンデュラムスクール』前世で話題になったblゲームだ。高校に進学した主人公正村 司は5人の学生たちに出会い……アッー!な展開という。なんともオーソドックなもの。なんで流行ったなんか知らない。前世は男だったんだわかるわけない。なら、なぜ知ってるかって?有名だったんだよ。それこそ深夜アニメの覇権をとってSNS上でも話題になったせいで簡単なあらすじくらい言える。そしてなんと今世がその世界なのだ。しかも正村 司が幼馴染という楽しげなポジション。
「何いってんだ、お前」
「え、司の未来? 」
中学生最後の春休み 司の部屋でゲームをしている最中にせっかくアッー!な未来を教えて上げたのにアホでも見る様な視線を送られる。
「……はあ、まあいい。仮にそれが本当だとして色々と問題がある」
可哀想に、どうも自分の未来を信じられないらしい。分かるよ、私もBLゲームの主人公の幼馴染になるなんて信じられなかったし。
「いいか、葵。まず第一にオレの両親は離婚してない。止めたの葵じゃねえか」
「……確かに」
ゲームでは7歳の頃司の両親は大喧嘩の末離婚して、それがトラウマになって司が女性が苦手になるはずだった。のだが、隣の私の家まで聞こえてきてつい乗り込んで怒ってしまったのだ。思い出すと今でも怖いけど、仲良くしてる2人を見ているとしてよかったと心底思える。
特に沙奈さんには本当に良くしてもらっていて娘の様に可愛がってもらっている。『本当の娘になってくれたらいいのに』なんて言ってくれる程だ。
「後、オレが今一人暮らししているのも母さんが父さんの単身赴任についていったからだろ」
「おお」
そうだ。ゲームなら別れた妻を思い出すからと殆ど帰らなかった父親だが、今は夫婦仲良く単身(?)赴任している。一人暮らししているにしても中身が全然違う。あれ、もしかして全然違うのか?
「……それに料理が下手で家庭科部に入るっていうのもねえだろ。誰が昼飯用意してやってんだと思ってる」
アニメではトチ狂ったのか勇気を出して家庭科部に入る話がある。そこで攻略対象と出会うのだが、それもなさそうだ。なにせ司の卵焼きは絶品だ。他にも栄養に気をつけた料理のバリエーションは最早オカン級と言っても過言じゃない。
「てか、料理下手なのお前だろ」
「ぐう」
痛いところを突かれたなんて的確な指摘。ふ、だが気にしないさ。ここに食べに来れば司が作ってくれるのでなんの問題もないからだ。
「それに……」
「それに? 」
なんだろ、じっとりとした視線が私を射抜く。心がザワザワと揺さぶられる。けど、フッと、何もなかったように何時もの司の目に戻った。……気の所為かな?
「……いや、何でもねえよ。もう直ぐ昼飯だし買い物行こうぜ」
「もうそんな時間か。今日のご飯はなんだ?司の料理は何でも美味しいから何でもいいぞ」
「そうだな、ハンバーグにでもすっかな」
「やった私、ハンバーグ大好き! 」
「たく、何処でも寝ちまうんだからよ」
夕方 遊び疲れた葵は人の部屋でスヤスヤと寝ている。ここが男の部屋だという自覚はないのだろうか。……いや、無いというより自分が男だと思っているのだと思う。
小さい頃それこそ幼稚園の頃から葵は前世は男だと幼馴染のオレには教えてくれていた。昔はただ凄いなんてアホな事しか思っていなかったが今なら分かる。本当にそうなんだろう。
行動はアレだがテストではいつも100点。小学校から今までずっと成績はいい。塾になんて通ってもいない。一緒に入学する学校も葵は特待生だ。
しかし、今日のは驚いたな。まさかオレがBLゲームの主人公だなんて言われると思ってもいなかった。葵の突拍子もない行動には慣れたつもりだったがこんなこと言われるなんて考えてなかった。考えてる方がどうかしてるが。
だが、仮にそうだったとしてもなんの問題もない。男に靡くなんてあり得ねえからだ。昔から憧れてたヤツなんて一人しかいねえ。
。
小さな時は引っ込み思案だった。両親は困ってたと思う。けど、そんなオレをいつだって葵は手をつないで部屋の外に連れて行ってくれた。ヒーローだった。
7歳の頃大喧嘩した両親。昔はすれ違いを起こしていたのかよく小さな諍はあった。けど、その日は違った。周りに響くほどの大喧嘩。オレはどうすることも出来なくて泣くしか出来なかった。
けど、葵はいきなり現れたと思うとポカポカと親父と母さんを叩いた。痛くなんてなかったはずだ、けど、鼻水垂らして大泣きしながら止めようとする葵の姿を見たら二人とも冷静にならざるを得なかったんだろう。二度と親に会えない少女の言葉にはそれだけの重みがあった。
おかげで今じゃ息子のオレが引くくらいの仲に戻れたのだからまあ、良かった。
けど、悔しかった。ただ見てるだけだった自分が悔しかった。葵が、オレのヒーローが泣いているのに何もしてやれないことが本気で悔しかった。ヒーローは完全無欠なんかじゃなくてただの意地っ張りな女の子だったんだって、その時ようやくオレは気がつけた。
――だから決めた。
いつか、そんな誰かのために泣ける女の子を守れる程の
〜♪〜♪
スマホがなる。母さんからだ。
『もしもし、司、葵ちゃん元気?』
「そこは、オレの様子を伺うべきだろ?」
『司が元気なのは知ってるから。それより葵ちゃんは?』
扱いが酷いがまあ、親子の信頼としておこう。
「ああ、元気だよ。今も他人の部屋で勝手に寝てやがる」
『そう、良かった』
心底安心したといった様子なのは顔を見なくても分かる。いなくなった親友の遺児だ。特別気にかけるのも分かる。
『葵ちゃん、司と違って内に溜め込みやすいタイプだから心配になっちゃうのよ』
「……そうなのか?」
知らなかった。いつも自由気ままで、だけど正義感が強い性格だと思っていたがそれだけじゃないらしい。
『そうよ。司、鈍感だから分かんないなら無理して理解しようとしなくていいのよ。司は自然体でいなさい。猫みたいな感性してるから変に意識するとすぐ気がつかれるわよ』
「……さいで」
そうだ、あの話してみよう。
「もし、オレが男に惚れたらどう思う?」
『はあ!?何言ってるの!?私の葵ちゃん娘計画を潰す気!!??』
待て、なんだその計画。聞いたことないぞ。
『もしかして、葵ちゃんに異性と認識されなさ過ぎてそんな奇行に……』
「ねえって、冗談だっての。つうか、葵は絶対振り向かせる」
『そう、安心した。そうだ近いうちそっちに帰るから葵ちゃんにまた服見に行こうって伝えといて、じゃあ元気でね』
「……母さんもな」
電話が切れる。
今葵が着ているワンピースも母さんと一緒に買いにいったものだ。前世が男と言うだけあって女物を買いたがらない、ということはあるが、それとはまた別に葵はあまり進んで物を買おうとはしない。両親が残してくれた遺産があるとはいえ、二人暮らししている祖母にあまり迷惑をかけたくないと感じているのでは、というのがオレの所感だ。
風が吹く。心地のいい季節になってきたとはいえ日が傾くと肌寒くなってくる。
「う、うーん」
いつの間にか葵は赤ん坊のように縮こまっている。まあちょうどいいか。
寝ると中々起きないことはよく知っている。身体の下に腕を通し持ち上げる。俗に言うお姫様だっこだ。起きても文句は言わないだろう。どうせオレの事は弟くらいにしか思われてない。……言ってて悲しくなってきた。
。
持ち上げた身体は思ったより軽かった。3年生くらいまでは葵の方がデカかった気がするが今は葵が157くらいだったか、170ちょっとのオレに比べたらずいぶん小さい。
他の意味で不味いかもしれない。柔らかい肌にシャンプーのいい匂い。長い髪がオレの腕を撫でる。とんでもない役得だ。
理性で押さえつけながらオレは葵を家まで運ぶのであった。
タイトルの前半は主人公、後半は幼馴染のセリフだったり