「あー、僕、グー出すかもしれないー」
なるほど、高度な作戦だな。だが私がそう簡単に引っかかると思わないことだ。
「ふ、分かった。そっちがその気なら私も全力でいく」
「あれ? 三浦さん、僕、グー出したいなー」
「「最初はグー、ジャンケン」」
───
「ま、負けた」
「たり前だろ。何でチョキ出すんだ」
「てっきり罠かと」
「いや、どう見ても、譲る気満々だったろ」
「うー」
表情を含めて油断を誘う罠だと思っていたが違うかったらしい。
不覚
さっきのは朝のHR話で今は昼休み。今は中庭でご飯を食べながら雑談中だ。
新任だった担任がすっかり忘れていた係と委員会を急いであみだとジャンケンで委員会決めをしたのだ。
司はあみだの時点で抜けてなし。私は、負け続けて図書委員の座を得てしまった。因みにジャンケンをした某君は美化委員の座を勝ち取った。
「相変わらずね」
私と司の会話にどうでも良さそうに感想を言う森野 泉。まあ、それが標準なので気にしない。
泉は中学からの友だちで数少ない女の友だちだ。そして、司の次に息の合う親友。ショートボブにメガネ。口数も少なくあまり表情に感情を出さないが、何故か私と意気投合している。残念ながらクラスは別になってしまったがこうして昼ごはんを一緒に食べたりする。
「葵ちゃんは勝負事に向いてないのよ」
「私は競争は好きだ」
まさかの宣告にすぐさま反論する。おかしい、リレーやソフトは大好きだ。なのに勝負事に向いてないとは如何に。
「どうせ運動のこと考えているでしょうけど全然違うから」
「え、なんで分かったの? いや、私は勉強もできるぞ」
胸に手を当てて答える。この3人の中で一番勉強ができる自信はある。何せ、入試でトップ5の1人だからな。
「……」
「はあ」
あら? 泉の返事がない。というか司にため息つかれた。解せん。
「おい、葵。あっち向いてホイ」
「へっ、あ」
負けた。
「ち、違うから。今のは急だったから」
「じゃあ、もう一度だ」
「あっち向いてホイ」
「も、もう一回」
「あっち向いてホイ」
「偶然だから」
「あっち向いてホイ」
「……」
「あっち向いてホイ」
「あっち向いてホイ」
「あっち向いてホイ」
…
……
………
バカなっ……! 10連敗だとっ!
膝から崩れ落ちてしまったのは悪くないと思う。
「何で、何でなんだ!? 」
ここまで来れば認めざるえない。私は、弱いのだと。
「葵は表情に出過ぎてるんだって。一対一で戦うときはほぼ負けてるからな」
表情、頬を触るとぷにぷにと柔らかく高度な柔軟性が維持されている。泉の頬を触る。柔らかいけどあんまり伸びない。司の頬を触る。伸びなくてザラザラして硬い。
確かにこれだと直ぐに表情に出てしまう。
「……これに懲りたら相手の善意は受け取っとくんだな。てか、相手が譲るって言ったんだから受け取っとけば良かったのに」
確かに某君はどっちでもいいと言っていた。だがしかし、
「イヤだ。憐れみを受けるなら死んだ方がましだ」
「武士かよ」
「幼稚園児じゃないかしら。駄々のこね方が弟にそっくり」
好き勝手言うな。
ふ、まあいい。事実に気がついたからには次は勝つ。これは確定的に明らか。というかさっきから、
「司、顔赤くないか? 風邪か? 」
おかしいな、さっきまで普通だったのに頬を触ったあたりからおかしい気がする。強く触りすぎたかな?
「……日差しが暑いんだよ」
ん? ここは日陰だぞ。というかまだ4月でポカポカ陽気で全然暑くな──はっ、そうか、分かった。
高2病だな
考えてみれば中二病はかかってなかった。その反動でちょっと早い高2病と考えれば納得がいく。
安心しろ司。
私はお前の理解者だ。どんな傷を負っても笑ったりしないからな。
この年頃の青年は中々センチメンタルな心情だ。深く聞くのは野暮ってものだ。ここはサムズアップを送っておくとしとこう。
「そのサムズアップの意味を問いたい所だが、なんで図書委員嫌なんだ? 別にしんどくないだろ座ってるだけだろ」
「だって、司と一緒にいれないから」
どうしたんだろか。そんな当たり前のこと聞くなんて。『友だち』と遊ぶ時間が減るのは嫌に決まってる。学業も維持しないといけないしな。特待切られるのは困る。
「お、おおそうか。うん、そうか」
急に立ち上がってそっぽを向く。トイレかな?我慢しなくていいぞ。もしかして赤くなってたのはトイレ行きたかったからか?
「あ、わたしも図書委員だからよろしく」
「そうか、じゃあいいや。一緒に頑張ろう」
泉と一緒なら暇しないしいいか。あ、座った。トイレはいいのかな。
────
数日後
「あー、どうすっかな」
オレは放課後1人、靴箱の前でどうするか考えていた。普段なら葵と一緒に帰っているのだが図書委員の仕事でいない。帰ってもすることもない。部活か研究会の見学でもするかな? そうすっかな。
よし、そうと決まればまずは運動部系から見るか。こういった運動でかっこいいところ見せれば振り向いてくれるってのも定番だしな。走り幅跳びとかいいかもしれないな。
「あら、帰り? 」
「いや、暇だし部活見学行くわ」
「そう、じゃあ」
「おう、また明日──って、何で森野いるんだよ!? 図書委員だろ!?!? 」
やべぇ、自然に現れたから普通に挨拶しちまった。
「? 何言ってるの? 」
やっぱコイツは苦手だわ。分かっていながらサディスティックな笑みを小さく浮かべている。
森野 泉。コイツは葵の前だと多少口の悪い物静かな性格に見えるがオレ、というか大抵の人間にはグリグリと塩を塗り込む。中学の時だったか森野が葵を嫌っていたカースト上位の女子に何か囁いて真っ青にさせたのは忘れられねえ。
何より森野はBL本を葵に流している。いや正確にはオレが持っていない漫画を葵に貸している。
少女漫画はいいがBL本は葵の前世とか関係なく絶対に碌な事にならない。というか、流してオレの反応を楽しんでいる節がある。
しかし、葵にとっては大切な友人なので何も言えない。ついでに森野も葵の事は良く思っている気遣いはオレでも理解している。
で、なんでそんな奴が葵と一緒に図書委員の仕事をしていないのか。
「……葵は今日図書委員の仕事で残ってる」
「そうね、知ってる」
「じゃあ、何で一緒にいねぇんだよ? 」
「だってわたし、ペアじゃないもの」
「ああ? なんでだよ」
訳わかんねぇ。一緒にいるって言ってたじゃねえか。
「図書委員の割り振り、1年生は上級生と組むことになってるのよ。馴れない1年生への配慮ってことで」
「なるほど…」
納得した。要は組みたくても組めないわけか。けど、なんだ、妙な胸騒ぎが……
「因みにこれがその相手よ」
スマホを見せてくる森野。手際いいな。いや、妙に親切な気がする。
「どれどれ」
イケメン。儚いイケメンがいた。線が細く華奢だがそれが儚さをより強めている。ナイフの様な瞳に銀縁のメガネを掛けている。癖っ毛の強い灰色の髪だ。なんというか、ホストみたいだが、ホストと違って違和感が全然ない。
「何だこれ? ブロマイドじゃねーか」
「残念ながらただの写真よ。貴方とは似ても似つかない程イケメンね。ファンクラブもあるとか」
「……そ、それがどうした? 」
「別に、組んだときも親しげに話してたからもしかしてああ云うのが好み──」
「ちょっと用事思い出した!! じゃあな! 」
────────────────────────────────────────
「ふん、別に手伝う必要はないんだぞ」
「何言ってるんだ私より体力ないくせに、ん? 」
見つけた! 図書室にいないからどこかと思ったら仲良く本なんて運びやがってっ!
「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ、よ、よう」
「お、おう。どうしたんだ? 今日は先に帰るって」
あ、やべ、とりあえず来ちまったから用事なんて考えてなかった。とりあえず晩飯の話で濁すか。
「晩は麻婆豆腐でいいか? 中華が食いたい気分なんだ」
「おお! いいぞ! 私もマーボー豆腐は好きだ!! 」
よし成功。
「でも、そのくらいメールで言えばいいのに」
「そ、そうだな」
クソ、なんで今回は流されないんだ。いつも簡単に逸れるくせにいやに鋭い。なんて答えるか。携帯を家に忘れた、いや駄目だ。普通に使ってたわ。
「お前が正村 司? 」
考えあぐねていると思わぬ方向から声がかかる。葵と組んでいる上級生だ。ピンがみどりってことは2年か。
生で見ると写真よりイケメンじゃないかと思うほどで妙なオーラを感じるほどだ。
てか、でかい、180半ばくらいありそうだがオレより横が狭い。制服を着崩しているが絶妙にマッチしてる。
ふと気がついた。コイツ、ゲームの登場人物じゃね? 美形すぎる。
「そうだ! 二条院 利親っていって図書委員で、一緒に活動している」
ニコニコと紹介してくれるがそんな場合じゃない。顔が引き攣っている自信がある。なんだよ二条院 利親ってゲームじゃねえんだ。だが疑惑が深まった。いや、しかし、二条院とオレがホモるなんて想像できない。うっ、鳥肌が。
とにかく挨拶くらいしとくか。後で葵から聞き出さないとな。
「あー、正村 司だ、です。よろしく──」
あれ? 二条院のヤツ、オレが名乗る前に名前言ってなかったか。
「知ってる。正村 司 15歳。AB型、7月7日蟹座。身長176cm体重73kg。生まれた時の体重は3022g。三浦 葵とは生後6ヶ月からの付き合いで家も隣同士。保育園から一度たりとも違うクラスになったことがない。趣味は釣りで家庭環境から炊事洗濯裁縫の家事が万能。納豆といった粘つく食べ物は嫌い。好きな食べ物はカレー、理由は作るのが楽だから。弁当を幼馴染の三浦葵の分まで持参している。成績は並。得意な科目は社会・体育。市民運動会の100m走で銀メダルを取ったことがある。性格はふてぶてしく見えるものの根は優しく意外とビビリ」
え、何で知ってやがる。クレイジーだ。クレイジーサイコホモストーカーだ。これがBLゲームの登場人物ってやつかッ!
「おい、何勘違いしているか知らんが全部コイツから聞いた事だ」
「あ? 」
二条院の振り向いた方を見てみるとポカーンとした表情でこっちを向いていた。
「何話してたんだ? 」
「何って、雑談? ほら、人となりを知ってもらうには自分について教えるのが1番だし」
「それで、な・ん・でオレの事細かな経歴が漏れてんだっ!? 」
「だって、司といつも一緒だったから話してると自然に、つい」
「うっ」
それを言われると追求し難い。確かに行事の時は大概一緒にいる。てか、はにかみながら言われたら何も言えない。何気に頬を染めている葵の顔は貴重だ。
「誤解は解けたか? 」
「ああ、悪かった。スマン」
「ふん、いいさ。そこのチビが鬱陶しいくらいお前の話をしてきたからな、覚えてただけだ」
手が差し出される。なんだ、ぶっきらぼうな口調のくせにいいヤツじゃねえか。
差し出してきた手を握り返して握手をする。
手を離し、離し、離せ、離せない!
何コイツ手を離してくれないのだが。手から視線を上げると二条院の目と合うが、先程までの冷淡な目じゃない。探る様な目つきだ。
え、何だ。もしかして本当にホモか。
「……今まですり寄ってくる女は実家の資産か、容姿に惹かれて来る奴ばかりだった」
「あ? ああ」
「初めてだ。媚びずに、それも開口一番他の男の話をする女と出会ったのは……」
恐らく、耳元に顔を近づけていたので俺にしか聞こえない程度の声量だった。言い終える二条院は手を離して葵の方に向かっていった。
「行くぞ、三浦。とっとと終わらせる」
「え、うん。司、また後で」
用はないとばかりにさっさと去っていく二条院について葵も去っていく。
美形がいて女に興味を持つ。これ、BLじゃなくて乙女ゲーじゃねえか。
主人公「(耳元で何か話している、はっ、二条院のヤツまさか、司が!)」