ここはBLゲームの世界、幼馴染はヒロイン   作:日田

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4話

「きゃー、凜之介さまー! 」

 

「はは、退いてくれないかな? このままじゃ僕、授業に遅れちゃうよ。困ったなあ」

 

 

 

 

 

「マジであれがそうなのか? 」

「マジマジ、大マジ」

 

 私と司は教室の窓から女の子を大量に引き連れながら歩いている男を見ていた。

 

 西園寺 凜之介。この学校の理事長の孫で学校一のイケメンだ。透き通る涼やかな声。黒漆のような輝きを放つ髪。少し垂れ気味ながら優しさと高貴さを含んだ瞳。歪みなく伸びた高い鼻。1年生なのに180間近の高身長。もちろんすらっと長い足でモデル体型。極めつけは取って付けたようなキラキラと輝かしいオーラ。

 文武両道で中学ではテニスの全国大会で優勝したとか。

 とまあ、女に困るなんてありえない存在。だからといって男に走るのはどうかと思うけどね。

 

 司は呆れ顔だけど残念ながら未来の彼氏候補です。

 

「どうやって、あれとオレが関わるんだ? 」

「いや、それは私にも」

「それも、そうか」

 

 そうなのだ。司に聞かれたから答えたけど、いつ、どこで、なんで、出会うかよく知らない。ちらっと名前が出て来てた気がするので間違いない。

 覚えてないのは仕方がない。元々興味なかったし、放送してたといえど男なのにBLアニメを見ている方がおかしい。あらすじと登場人物を覚えているだけでも褒めてほしい。

 

 しかし、なんでそんなに知りたいのか。興味がないなら気にしないはずなので分からない。まあ、憲法で自由は保証されてるから司がどんな人に興味持っても自由だけど、むしろ主人公的に正しいので止めはしない。NLが一番好きだけど、今の私はBLいけなくもない。

 司の選択は最大限尊重する。私は司がどんな性癖でも友だちだから。

 

「よう、御両人。大名行列なんか眺めてどうした? 」

 

 声を掛けてきたのは五十嵐 龍馬(いがらし たつま)。クラスメイトで司の友だちだ。ポジティブな発言に闊達な性格でクラスのムードメーカーでもある。ただエロい発言や場を弁えないので女子から評判は微妙。通称『友達としてはいい人だけど彼氏にはちょっと』として名を馳せる。

 少しは勘が良く幼馴染の気を察せる私を見習ってほしい。

 あ、なんか今ビビッと来た。アニメに出てたの思い出した。こうなんか、司とよく喋っていたような。ただ、友だち枠なのか、対象なのか分からないなあ。アニメじゃ尺の都合やルートの都合でゲームとは違う場合もあるし。

 まあ、思い出したら教えて欲しいって言われたし晩ごはんの時にでも出てきたって教えとこう。確か、今日は五十嵐と他幾人と映画に行くって言ってたしモヤモヤさせるのも悪い。

 

「別になんでもねえよ。騒ぎができてたら気になるだろ」

「そりゃそうか。てっきり葵っちが見惚れてるのかと」

「てめ、なにいって!? 」

 

 司さん、なにそんなに焦ってるんですかね? この前、私にホモじゃないと言っていたのはやっぱり嘘なのか。いや、私は気にしないよ、本当に。

 

「うーん、ないかなあ」

「あらら、貴公子のルックスでも葵っちは不服と? 」

「いや、そうじゃなくて」

「そうじゃなくて」

 

 だからなんでそんなに食い気味なんだ、司。といっても大した理由はない。

 

「嫌いじゃないけど、嫌い? 」

 

 

────────────────────────────────────────

 

 夕方、私は屋上に来ていた。この学校は今どき珍しい事に開放しているのだ。山の上にある立地も加えて海の方に広がる街に水平線の先の島までみえる絶景スポット。が、人がいない。

 絶景とは言うもののそもそも学校のある位置と変わらないので風景はそんなに変わらない。司とかあんまり興味ない人からしたら見飽きた風景に見えるらしい。なので、1人の今日はちょどいい。

 あとは、わざわざ上がってくるのが面倒くさいというものだ。昼休みならともかく、放課後になるとわざわざ来るという物好きは中々いない。

 

 しかし、私を阻む足り得ない。

 全面パノラマのようでどこまでも見通せる風景はいつまでも飽きない。だからこういった風景が見れる高い場所が好きだ。……もちろんバカでも、煙でもないけどな。

 

 ん?

 

 扉が開く音がする。珍しい、誰だろうか。時たま来ても降りるまで誰も来ない事が大半なので正直とっても驚いている。

 もしかして、カップルかな? だったらチョメチョメかな? ふっ、安心していいよ。階段の上の屋根にいるからお気にせずどうぞ。登っちゃいけないなんて何処にも書いてないし校則にもないのでセーフ。外角際どい所でセーフ。

 給水塔もあるし、普段はハシゴもつけてないから気がつかないし大丈夫だろう。

 私みたいにわざわざフェンスを使って登る高所好きはそうはいないはず。

 

 さて、誰が来るやら、って西園寺。

 

 おお、なんとも意外な人物だ。うーん、でも困ったなあ。司から西園寺とあんまり関わるなって言われている。理由はまあ、察しておこう。いい女ってのは深くは語らないものだと昨日のバラエティーで言ってたしね。

 

 でも、西園寺は何しにきたんだろ? 人気者なのに1人だし確かテニス部に入っていたはず。放課後に練習とかないのかな? お、何か出したってタバコ!? ええ、アンタ理事長の孫じゃないのか。しかも、葉詰め直しているし手際いいな。

 

「ふー」

 

「……」

 

 まさか、あの西園寺がこんな非行に走っていたとは。

 ここは今世15歳+前世〇〇歳(非公開)の葵お姉ちゃんが華麗に更生させてみせよう。とはいえ、流石にこのまま出るのは司に悪いしなあ。

 何かないかなとりあえずカバンを漁ろう。ノート、教科書、筆箱、ポーチ、ゴミ。

 うん、何もない。冷静に考えたらカバンの中に何かある方がおかしいわ。

 うわ、2本目も吸い始めた!? と、止めなきゃ。ええ、こうなったらこれで行く。

 

「こら、タバコを吸うな! 」

「え?! 」

 

 呆気にとられてる、まあ当然だな。まさかコンビニの袋を被った女子が屋上の更に上から飛び降りながら声をかけてくるなんてそうはない。完璧だ。これなら()とは分からないはず。

 司、ちゃんと()は会ってないから安心してね。しかし、なんだろこう姿を隠すのって妙な高揚感があるな。癖になっちゃいそうだ。

 

「えーと、誰かな? 」

「諸事情によりに答えられません。そんなことよりタバコ」

「あー、ゴメン。だけど黙っていてくれないかな? 祖父の立場もあるし困るんだ」

「じゃあ、吸わなかったらいいだけじゃないのか? 」

 

 ポケット灰皿に吸い殻を潰して立ち去ろうとする。ほんと手際いいな。ってそうじゃない。

 

「……離してくれないかな?」

「このまま離したらまた吸うでしょ? じゃあ、離さない」

「吸わない、吸わない。部活あるからもういいかな? 」

「嘘だ。どうせ他の場所で吸うだけだ」

 

「「…………」」

 

 あれ? ここから何言えばいいんだ? 黙られると何を返していいか分からない。というか吸わない確約ってどうやって取るんだ。……もしかして、私って人を説得するのには向いてないんじゃ。

 

「はあ、もうさ面倒だからどっか行ってくんね」

 

 おお、ため息とともに口調がすごい変わった。目も吊り上がってチンピラというか苛ついたホストみたいだ。もしかしてこっちが素なのかな。しかし、こんな事で怯む私ではない。そもそも、こっちの方が好感が持てる。あんなに乖離した仮面を被ってるなんて方がおかしい。

 

「嫌だ。だって吸うだろ? 」

「うっぜぇえ女だなあ。()のジジイが理事長って知ってるだろ。ほっとけ」

「? じゃあ、余計に西園寺が吸っちゃ駄目じゃないか」

「はあー、お前さあ、俺がジジイにこの事を言ったらどうなると思う? 」

「そんなの西園寺がお爺ちゃんに怒られるに決まってる。だから止めよう! 」

「……お前、朴念仁とか唐変木って言われるだろ」

「そ、そんな事はない! 」

 

 馬鹿な! なんで分かるんだ! 顔は見えてないから表情は見えない筈だ! 

 

「お互い入ったばっかりの1年なんだし面倒事はなしだ。()の外聞がいいのは知ってんだろ? じゃあ、()がジジイに伝えたらどうなるか分かるはずだ。そっちはここで何もなかった事にするだけでこの先の生活が保証されるんだ。悪い話じゃ無い筈だ。だろ? 」

 

 なるほど、つまり嘘を告げて私が悪いようにするのか。確かに困るかもしれないし、お婆ちゃんに迷惑がかかるかもしれない。でも、

 

「でも、嫌だ」

「はあ!? お前自分が何言ってるか分かってんのか!? 」

「わかってる。けど、それ以上に私は西園寺には吸って欲しくない」

 

 かなり不可解と言うか、苛ついた様子だけど私もかなり怒ってる。

 

「何でだ。別に俺とアンタは関係ないだろ? ただの同級生だろ? 」

「ただの同級生じゃない。3月の宣誓をき、め、ん? なんで同い年って」

 

 おかしい。ちゃんと袋で顔を隠してるからセーラー服で分かるのはこの学校の生徒ってだけのはず。よくよく会話を思い出すと最初からバレてないか? 

 

「あ? リボンみたらわかんだろ」

「え、あ」

 

 しまった! リボン外すの忘れてた。そりゃ青(1年生)のリボンみたらすぐに分かる筈だ。

 スーパーの袋を被るなんて高揚する事してたせいで聞き逃していた。被った所為で聞き逃した! 決して私がそそっかしい所為じゃない。

 

「その反応からみて取り替えていないみたいだな」

「そ、そんなことない! 私は3年生かもしれんぞ」

「さっき宣誓がって言ったろ」

「ああ! 」

「お前、三浦 葵だろ。校長(ハゲ)に宣誓は俺がいいって言ってたヤツか。よく覚えてるぜ」

 

 ……ごめん、司。バレちゃった。勝ち誇った顔しやがって! いや、ここは何も気にせず言い切れると考えるべきだ。

 

「ほら、もう身バレしたんだ大人しく失せろ。うぜぇ、構うな」

「嫌だ! 」

「しつけえなあ。関係ないだろ? 」

「私はお前を尊敬していたんだ」

「はあ?何に、あの優等生ロールにか? 残念あんなみんなの優しくて親切な坊っちゃんはいませ〜ん」

「違う! 寧ろそこは欠点だ」

「あ?じゃあ、──」

「私より努力した事だ」

 

「だって入試で1位だったんだろ? 私は2位だった。それでも沢山努力した。とっても大変だった。その私を上回ったならもっと努力した筈だ。その努力をできた西園寺 凜之介が凄いから尊敬したんだ。だから私はあの時西園寺を支持したんだ」

「……」

 

 3月に成績上位5人が集められた。誰か1人宣誓をしてほしい。その時私は自分が2位だったと知った。正直な話1位は取れたと思っていた。なのに負けていた。

 私には前世なんてものがあった。それでも高い成績を維持するのは大変だ。ならそんな私より高い成績取った西園寺はもっと、もっと努力している。そんな西園寺を私は素直に凄いと思った。

 だからそんな凄い人を宣誓で押したし、タバコなんて吸っていて欲しくなかった。

 

「はああ、ああ分かった。吸わない、吸わない」

「本当か!? 」

 

 最初と同じ様な語り口。でも、最初のとはどこか違う。なんというか信用できる気がする。

 やった! 説得に成功した。もしかしてネゴシエーターの才能があるんじゃないのか。

 

「1週間だけな」

「ええ!? 」

「黙れ、1週間でも感謝してほしいな。だいたい、屋根に登ってるお前には言われたくない」

「う、」

 

 そういわれるとあんまり強く出られない。いや、セーフだよ、外角際どい所でね。

 とりあえず1週間と考えてまた、1週間後に説得しよう。

 

「じゃあな、お前と話したせいで部活に遅れてんだ」

「あ、ちょっと待って」

 

 流石に人がいる前でよじ登るのはアレなので大ジャンプで屋根の縁を掴んで登る。

 

「猿じゃねえか」

 

 ……こんな事で怒らないから葵お姉ちゃんは簡単に怒りませんから。

 カバンからポーチを取り出して飛び降りる。

 

「ほら、アメ。多分口が寂しいから吸ってしまうんだと思うから」

「……」

 

 右手をとって無理やり握り込ませる。私が大好きなミルクキャンディだ。きっと西園寺も気にいるだろう。

 

「今日の事は誰にも言うなよ。面倒事は嫌いだからな」

「分かった。指切りげんまんしよう」

「アホらしい。もう行くぞ」

「なんで? したほうがきっと私も西園寺も約束守れる」

「チッ、ほら、指切りげんまん」

「あ、ちょ」

 

「「嘘ついたら」」

「「針千本飲ーます」」

「「指切った」」

 

 くっ、ちゃんと言えなかったが出来たので良しとしておこう。

 

「もう行く」

「またね」

「お前みたいな面倒な女は二度とゴメンだ」

 

 

 乱暴に扉を開けて出て行く西園寺の後ろ姿を眺めながら思う。なんだかんだ、最後も会話に付き合ってくれる当たり根は良い奴なのかもしれない。

 私のわがままに付き合ってくれたんだ。誰にも言わないという約束はちゃんと守ろう。

 

 

────────────────────────────────────────

翌日

 

 

「なあ、五十嵐。ホモだったりするか? 」

「ええ、なんでそんな話になるんだって、急に」

「だよな。違うならいいんだ、違うなら」

「……」

 

 止めろ。そんなうらめしい目で見られても私も困る。

 

「なんか、葵っち口数少なくね? 仏頂面だしさ」

「ああ、昨日帰ってから妙に口数が少ないんだ。理由を聞いても何も答えないしよ」

「……」

 

 は、反論したい。いや、間違ってないけど。話してると滑ってしまいそうなだけだから。表情もこれ以外だとバレそうなんだって!

 

 

 

「あ、凜之介様よ! 」

「やあ、みんなおはよう」

 

 窓から黄色い悲鳴が聞こえる。

 そこには相変わらずキラキラと輝いた仮面を着けている西園寺の姿があった。なんで、あんなことしているのか私には分からない。自分に正直に生きればいいのに。

 

 そうだ、ちゃんと黙ってるって合図でも送っとこう。ジェスチャーとか呼びかけはまずいしなあ。うん、笑顔でも送っとこう。

 

 

「葵、昨日の放課後に西園寺と会ったろ? 」

 

 ごめん、バレた。




『オレの息子なら当然だな』
『賞をとった? 当たり前でしょ。なんの為に通わせてると思ってるの』
『おい、西園寺の奴また表彰だってよ』
『当たり前だろ、西園寺だぜ』
『どうせ西園寺さ。天才だからな』
『流石、凜之介様〜って当たり前か』
『やっぱり、1位は西園寺君だったんですね』
『もちろん西園寺くんです』
『当たり前』『当然』『普通』『天才』『常識』『余裕』『簡単』『やっぱり』『もちろん』




『おお、凜之介。絵で表彰されたのか、頑張ったのお。大変だったろ? どれ、よく見せておくれ』
『その努力をできた西園寺 凜之介が凄いから尊敬したんだ』

「ッチ、うぜぇ女だ。甘えんだよ。ヤニの代わりになるかっての」

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