間違ってたら、この世界は平行世界だって思ってください。
・・・ほんとにお願いします(震え声)
渡辺綱は平安時代中期に生まれた。
中期の平安時代は富豪層と貧困層との経済格差が広がり、富豪層の人間が貧困層を支配するようになった時代だ。支配というのは具体的に課税のこと。
そして、この頃から貧困層が富豪層の支配から逃れようとして、偽籍や逃亡、浮浪などを繰り返すようになった。
それを受けた朝廷が人的支配を放擲し、そして天皇は軍団制などを廃止することを決定。その結果として朝廷の治安維持の機能が無くなったため、治安が荒れに荒れた。この頃の日本は無政府状態へと陥ったのだ。
無政府状態のため強奪などの犯罪が横行して、日本はてんやわんや。
強奪などの群盗活動が活発になったのを期に、富豪層の人間は自衛のために自ら武装をした。
これが武士の始まりだ。
渡辺綱はそんな武士の家系である源の子供として生を受けた。
「綱様、お食事の時間です。そろそろお稽古を終了なさってはどうですか?」
俺が渡辺綱に転生してから月日が経ってもう9年になる。そして渡辺綱として俺は今年で9歳になった。
「うん、そうだね。今、行くよ。」
俺は、朝の稽古である木刀での素振りを終え、従者から手拭いを受け取り身体中の汗を拭き取る。
ふぅ、すっきりした。
その後に水も受け取り、水分補給もする。
運動のあとのお水は格別だな。
俺が渡辺綱になったと気づいたあの赤ちゃんの頃から色々とあった。
まず、渡辺綱の史実通り父であるはずの源宛はやはり俺が生まれた(転生したので生まれたかどうかの記憶なんてないが)頃若くして亡くなっているようだった。
なので、俺は養子に出されることとなり。その引取り先が源敦という源満仲の娘婿に出されることになった。
ついでに言うと源満仲とはあの源頼光のお父さんのことだ。
そしてあれよあれよと引っ越すこととなり、西成郡渡辺(現代で言うと確か大阪市中央区だったかな?)に行くことに。
まだ赤ん坊だった俺は自ら何かを発信することなど出来るはずもなく流されるままとなった。これまでの情報も全て聞き耳をたてて聞いていた。
それから九年もの間。義理の父である源敦の下清く正しく美しく生きてきた。
「どうかなさいましたか綱様?ぼーっとしておいででいるようですが」
「ううん、ちょっと疲れてるだけだよ。ありがとう。」
おっと、考え事をしているのが従者に心配を掛けてしまった。気をつけないとな。
「そうですか、充分に休息をとってくださいね。ささ、お食事処へと案内します」
俺は手拭いや水などを従者に預け、食事のもとへと向かう従者の後ろへと着いて行った。
歩く道すがら考える。
この9年間特に何も起きなかった。
音に聞きし平安京は経済などの問題を聞くがまだ子供である俺にとってあまり関係の無いこと。
ましてや武士の家系に生まれたとはいえそういった経済事は有力貴族などがすること。
俺は今の今まで、自らを鍛える稽古と学問に勤しむ9年間を送ってきた。
転生してはや9年。時の流れとは早いもので、今日まで平和な毎日を送ってきた。
最初こそ乳飲んでた状況に恥ずかしさや戸惑いを覚えたが、義父である源敦(次からは義父上)や優しさ溢れた従者たちに(さっき手拭いや水をくれた人はトメさん)囲まれる日々を過ごしたお陰で、現代で過ごした時とのズレをあまり感じないでいる。
いやまぁ、流石に現代との様式美のずれとかは感じるがそういうのも慣れた。
ほら現代音楽とかが俳句になったりとか。
一番の心配であった食事も家が武士の家系なので質素なものを食べてはいない。家様様である。
「どうぞこちらです。先に淳様がお食事を頂いております。では綱様ごゆっくりどうぞ。」
ありがとう、と伝えて案内された座敷の前に立つと。
「失礼します」
そう言って座敷の中へと入る。
中に入ると先に食事を頂いている義父上がいた。
俺は義父上に一礼をして用意されている食事の前に座った。
「食べなさい」
俺が座ると義父上がそう言ったので目の前の食事に手をつける。
今日の朝ご飯は白ご飯、鮎の焼き魚に那須のおひたし、お味噌汁だ。
これだけなのだが、この時代質素でもなんでもない。
まず白ご飯などは上流階級の人たちでの間でしか食べられていなかった。
庶民の人々は白ご飯ではなく雑穀などを食べており、しかも腹持ちなどをよくするためにかゆなどにしてかさ増しにして食べているようだ。
なのでしっかりと白ご飯がでてきて、なおかつオカズもある食事は結構贅沢なのだ。
現代では考えられないよな。
「どうだ綱、稽古の方は。しっかりとやれているか?」
鮎の焼き魚に手を出している時、義父上が話を掛けてきた。
「はい、しっかりとやれてます。」
「では、学問の方はどうだ?」
「はい、そちらの方もしっかりとやれてます」
そうか、と呟くと義父上は口を閉じた。
・・・ちゃうよ。・・・全然ちゃうよ。
別に仲が悪いってわけじゃない。
義父上は口数が少なく厳格な人だからこんな会話になっちゃうだけ。
あと俺の口調とかも敬語になってるだけど、これは仕方ない。だって平安時代なんだもの。
今の時代タメ語とか使ったら注意されるのは目に見えてる。だから敬語をしっかりと使ってるだけ。
もう1度言うけど、義父上との仲は悪くない。
ほんまちゃうで?
「・・・ところで義父上、満仲様のほうはどうでしょうか。ご壮健であられますか?」
仲のいいところみせようと俺から義父上に話をすることにした。見とけよちゃんと仲良いから。
そして義父上の主君である源満仲様のことを聞いて今がどういった時系列なのかも聞いてみよう。まぁ、聞いたところで平安時代の細々な歴史なんておぼえてるってわけじゃないけどね。
それに義父上なら「ご壮健でいる。お前も早く立派になって仕えなさい」とかなんとか言うと思うし。
だが予想に反して義父上は俺が考えていた言葉とは違うことを言った。
「そのことなんなんだが。綱お前に言っておきたいことがある」
「ん?は、はい。なんでしょうか」
なんだか義父上の様子がおかしい。
なんかそわそわしているし。
さっきまで手にしていた箸を置いて俺の方を真っ直ぐ見る。
「実はだな、満仲様は武士団の棟梁を引退することになった。」
「・・・は、はぁ。はぁ!?」
ど、どゆこと!?
って、引退ってことはあれか病気とか?
あっ。置いてけぼりにしちゃったね。今説明すると。武士団ってのは武士の軍隊みたいなものだ。
この武士団のトップが棟梁となる。
つまり源氏の棟梁ってわけだ。
そして満仲様はその武士団を最初に作った人で今の今までそれを率いていた。(満仲様が源氏の棟梁)
でも満仲様はまだ若くて40歳にも満たしていない。いや、今の時代だと結構高齢なんだけどな。
引退ってなるとそれ相応の理由がいるとは思うんだが。
「えーと。どういうことでしょうか義父上。満仲様は、まだ現役で活動できるかと思いますが?」
「あぁ、満仲様自体はまだ現役では活動できる。だがなこれからずっと満仲様が武士団を率いていくという訳にはいかない。」
「と、言いますと?」
「満仲様のご子息が武士団を継承して、早くから実戦経験を積んでおこうという考え方だ。」
あぁ、なるほどね。
ご子息ってことは源頼光のことになるよな。
だから引退ね。
へぇ、早い時期に源氏の棟梁になるんだな。
「無論、継承はある程度の経験を積んでからとなる。今はまだ満仲様が棟梁のまま、ご子息がその補佐となり経験を積むというお考えのようだ。」
納得行きました。
義父上の様子がおかしかったのは、これをはなそうとしてたからなのね。
ん?でも。その話を俺にしてどうしたいんだろう。
俺ってまだ元服すらしていない若造なわけなんですが。今からそんな組織の話とかされても何も分からないんですけど。
「あの、義父上。私にその話をされたのは何故なのでしょうか?まだ元服すらしていないので組織の話をされてもどうにも。」
その旨を義父上に伝える。
「うむ、そうなのだがな。ご子息が棟梁になるということは部下が出来るということだ。」
「はい、そうですね。」
「そして、棟梁としての経験を積ませたいと満仲様は考えている」
「はい、そうですね。」
「ということは実際部下ができたほうが経験にもなる」
「ん?まぁそうですね。」
「じゃあ部下作っちゃおうぜ。」
「はい?」
あれ?義父上こんな性格だったけ?
なんか違うんですけど。
「えっとつまり?」
「綱、部下になってきちゃいなよ」
そんなジ〇ニーさんみたいに言わないでください。
「とどのつまり?」
「ご子息に今から会って来なさい」
急すぎません?
俺まだご飯くってる最中なんですが。
え、うそ。ホントに今から行くの?
さぁ頼光ママに会いに行こう!
このとき主人公はまだこの世界が「fate」とは知りません。