蒼樹先生に別の作画をつけたかっただけの小説 作:おもち
ただ、二人がどんな会話をしているか書いておいた方が読んでる方のイメージがつきやすいと思って書きました。
そこら辺を踏まえて読んでいただけると嬉しいです。
電話を手にして番号を入れる瞬間…いつになっても慣れないものだとなと青木は思った。
それなりの頻度で電話をしているのにも関わらず、もし出てくれなかったら…とか、迷惑がられたらどうしようとか、そんなことを思ってしまう。
彼が迷惑な風な態度をとったことは一度もないが、人間というのは不思議なもので、あるかも分からない裏の姿を予想してしまう。
そんなことを思いながらも番号を打ち終わり、決定ボタンを押す。
鳴り響く着信音が心臓の音と同期しているようで、少しだけこの時間は不安になってしまう。
『もしもし…赤羽です』
聞こえた第一声…一般的な男性よりもやや高い声。それでいて優しさを感じさせる声だった。
その声を聞いただけで、少しだけ嬉しさを感じている自分に、青木は驚いてしまう。
『あ…青木です。赤羽さん今お時間いいですか?』
『うん…大丈夫だよ。今週号のこと?』
『はい…そうです』
この電話は、赤羽の原稿が家に送られてきたその日にほぼ必ず行われるもので、名目上は最終確認の電話ということになっている。
名目上は…そうつけた理由は最近は、確認よりもその後の会話の方が長くなってきてしまったからだ。
『今週は特に時間をかけて描いたから結構自信あるよ。特に見開きで町並みを描いたところは、自分でも結構上手く描けたなって思ってるんだよね。いや…もちろんこれで満足してる訳じゃないけどね』
『確かにあそこは私も感動しました。思い切って見開きを使ってみたんですがあそこまで良くなるとは思いませんでした』
『確かに青木さんが見開きって珍しいよね。いつもはもっと内面の描写とかに力入れてるよね?何か考えがあったのかな?』
『……それは…分かりません…』
青木は分からないと言って理由を誤魔化した。
基本的に青木は完璧主義だ。自分の作品に分からないところなんて作る訳もない…しかし、青木は理由を隠した。
(赤羽さんの絵がその方が生きると思ったから…それがなんで言えないんだろう)
見開きの方が赤羽の絵が生きる…自らの作品に圧倒的な自信を持っている青木としては、それは言いづらいことでもあるし、少しだけ認めたくないと思ってしまっていた。
それは、自らの考えよりも赤羽の絵を優先したということに他ならないから…そんな無意識の思いが、赤羽に本当の理由を言うことを阻ませた。
『ふふ…青木さんでもそんなことあるんだね。まぁ僕としては描きごたえがあったから凄く楽しかったよ』
『そうですか…それなら良かったです』
『それで…なにか悪い所とかあったかな?直せるところがあれば今からでも直すけど…』
『いえ…今週の分はそのままで大丈夫です。……それで…こっちが本題なんですが…』
青木はそこであからさまに溜めを作った。
先ほどまでとは違い深刻そうなトーンで言う。
『え…何か悪いとこあった?大分深刻そうだけど…』
そのトーンに、赤羽も心配そうな声で返した。
『えっと…その…来週新しい女性のキャラクターが出ますよね?竜と人間のハーフっていう設定の…』
『うん…もしかしてデザインダメだったかな?かわいくなかった?』
『いや…かわいいんですけど…その…あの…胸が…』
『胸…?胸がどうかした?』
胸まで言えば青木は伝わると思ったのだが、赤羽には伝わらなかったようで、聞き返される。
普通そこまで言えば分かることなのだが…変な所で鈍感な赤羽に、青木は少しだけイライラしてしまった。
青木は覚悟を決めて、息を吸い込む。
そして早口で捲し立てた。
『胸が大きすぎます…!私のネームの時と全然違うじゃないですか!?』
『あぁ…そのことか…いやそれなんだけどさ…』
妙に歯切れの悪い赤羽。
『そ、その…これって赤羽さんの好みとか…ですか…?』
『いや!それは違くて…!相田さんがそっちの方が少年誌だといいってことでさ。別にそんな大きく変えるわけじゃないし…良いかなって』
『大きく変えたわけじゃないって…大きくしてるじゃないですか!?』
『いや…胸の大きさじゃなくて…そこまでキャラの見た目自体は変わってないから良いかなって?』
『ダメです!私達の作品はそういうのじゃありませんから!即刻直してください!あと服装ももっと控えめなものに変更してください!』
青木の捲し立てたる言い方に赤羽も少しだけ引き気味に折れる。
『う…うん分かった。そこは直しておくから…いや、本当にごめんね。そこまで重要なことだと思ってなくてさ…今度から気をつけるよ』
赤羽の謝罪を聞いて、青木は怒りすぎたかと反省をして、声のトーンを落とす。
『分かってくれればいいです。とにかく…私達が描いてるのはそんな低俗なものではないので、そこはしっかり考えてください』
『確かに…青木さんの話って文学的だもんね。うん、しっかりそこら辺も考えて描くよ。本当にごめんね…』
『いえ…こちらこそ言いすぎました…あの…参考として聞いておきたいんですが…赤羽さんは胸の大きい女性の方が好きだったりしますか…?』
それを言った瞬間…青木は自分が何を言っているのか分からなくなった。
自分で低俗と言っておきながら、参考になど…そう思ったが、言ってしまった以上は後には引けず、赤羽の答えを待つしかない。
『え…いや、別に僕はそこら辺はあんまり気にしないからなぁ…これじゃあ参考にならないかな?』
『いえ…それで十分です…参考になりました』
なんの参考になったの…と赤羽から声が聞こえたが、青木は無視をした。
自分自身もなぜ聞いたかなんてわかっていないのだ…答えようがなかった。
そんな訳の分からない思考を誤魔化すように、話題を変えた。
『ところで、赤羽さん最近ちゃんと寝れてますか?あの描き込みの量だと寝る時間も取れてないんじゃ…』
『ん…あぁ…大丈夫だよ。これくらい慣れてるから…画家を目指してた時だって同じくらい描いてた時もあるし、心配ないよ』
大丈夫だという赤羽だったが、青木は心配だった。
正直…最近の赤羽の描き込みは常軌を逸したレベルだ…ほとんどのことを一人で描いているということを付け加えれば、最早漫画を描くこと以外していないのではないかと思うレベルだ。
『そうですか…無理だけはしないでくださいね?倒れられたりしたら困りますから…』
『もちろん!そこら辺は安心してよ。青木さんの方こそ大丈夫?こないだ打ち合わせの時隈出来てたけど…』
全くこの人は…そんなことを青木は思った。
今まで絵を描くことしかしていないと言っても過言でない生活をしていたからなのか、赤羽は変な所でデリカシーに欠けたり察しが悪い所がある。
最近はそういった所も青木が注意することで減ってきたが、気を抜くと容易に触れて欲しくない所に触れてくる。
『赤羽さん……?女性に隈とか言うのはダメってこの間言いましたよね……?』
『あ…いや…その…これは別にそういう意図じゃなくて単純に心配で…』
『赤羽さん……?』
『……はい…ごめんなさい』
『……気をつけてくださいね』
『はい…』
途端に声が小さくなる赤羽…そんな様子が面白くて、思わず笑ってしまう。
『青木さん笑ってる…?こっちは本当に反省してるのに…』
『ふふ…ごめんなさい…なんだかおかしくって…』
笑う青木に赤羽はさらにへこんだらしく、声のトーンが下がる。
そんな姿が青木はさらにおかしく感じてしまい、さらに笑ってしまった。
『まぁいいや…それで青木さん大学の方は順調…?授業とか大変なんじゃない?』
『ええ…授業は特に問題なくついていけてます』
『すごいなぁ…青木さんは、僕だったら絶対両立なんて出来ないなぁ』
『いえ…別にそれほどのことじゃないです』
『そうかな?僕は凄いことだと思うけど…』
『私は絵を描いてない分時間はそこまで取られませんから、それに大学って自由な時間が結構多いんですよ』
『へぇーそうなんだ。それは知らなかった』
何気ない会話が続いていく。最早作品のこととは関係ないが、最近はこれが普通になっており、二人ともそれについては触れることがなかった。
話題はどんどんと移り変わる。
『赤羽さんはご飯はちゃんと食べてますか?この間の打ち合わせで少し痩せてたような気がすしたんですが…』
『あー…確かにあんまり食べれてないかも…』
『…!ダメですよ!ちゃんと食べないと!』
『…う…ごめん…でも最近は加藤さんが結構作ってくれたりするから前よりは食べてるよ』
『加藤さん…それってアシスタントの方ですよね…?ご飯作りなんて…アシスタントの業務超えてませんか…?それにその方って確か女性じゃ…』
『うーん…僕もそこまでしなくていいって言ってるんだけど、体調が心配だからって言われると断るにも断れなくてさ…そのままずるずるって感じで…』
『む……この話はもういいです。別の話をしましょう』
『青木さんは最近なにしてるの?どこか行ったりしてる?』
『最近はずっとカフェで本を読んだりしてますね』
『凄くオシャレな感じするね…青木さんはどんな本読むの?』
『ファンタジー系ですかね…なにかと参考になるところも多いので、赤羽さんも読んで見ますか?見終わったものでしたら送りますけど…』
『お…それは面白そうだけど時間取れるかなぁ…あんまりたくさんだと読みきれないかも…』
『それだったら私の特にお気に入りのものだけ送りますよ。』
『本当に?助かるよ』
『いえ…気にしないでください』
『青木さんは一人っ子だっけ?』
『ええ…赤羽さんもですか…?』
『そうだよ。だからさ、弟とかいたらいいなぁとか時々思うんだよね。そしたら絵の描き方とか教えてあげたりしたら楽しそうじゃない?』
『赤羽さんは絵のことばっかりですね…でも、私も妹とかは欲しいですね』
『そしたら青木さんはお姉さんになるのか…なんだか似合ってるよね。青木さんってお姉ちゃんって感じするから』
『お姉さんって感じしますかね…?私あんまりお姉さんできる自信ないですけど…』
『いや、いいお姉さんになると思うよ。僕を怒ってる時とか中々お姉さんぽいんじゃない?』
『………赤羽さん………?』
『あ…いや…冗談だって…ごめん』
『ふふ…これじゃあ赤羽さんにはお兄さんは無理そうですね…弟に怒られてばっかりじゃダメですもんね?』
『う…分かった…弟は諦めるよ…』
これが二人のいつもの会話。
案外距離は縮まっているのかもしれない。