蒼樹先生に別の作画をつけたかっただけの小説 作:おもち
この作品についてはそこまで長く描くつもりはなく、原作のバクマンの最後よりも、大分手前で終わらせたいと思います。
この作品自体勢いで書いて、構想自体フワッとしたものしかないので、長く書いた分変な所が出てくると思うからです。
今のところの予定では20話はいかないつもりです。
動物園…一般的にはお出かけスポットとしてメジャーなスポットであるが、僕…赤羽 結城は一度も行ったことはなかった。
それは、別に家庭の事情とかそういうことではなく、ただ単純に僕が外に出ることよりも絵を描くことに時間を割いてきたからだ。
友達も碌におらず、ただ絵を描くことしかしてこなかった僕は、一般的な人が行ったことがあるであろうそういった施設には学校の行事以外では行ったことがない。
そんな僕が今こうして動物園の話題を出したのは…今現在動物園に来ているからだ。
なぜ動物園に来ているかというとそれは時間は少し遡り、真城君がアシスタントを辞めた次の日。
真城君と話したことを青木さんと共有したいと思い、電話をした。
『もしもし…青木ですが…』
『あ…青木さん…赤羽だけど今時間大丈夫かな?』
『…!もちろん大丈夫です。それにしても赤羽さんから電話なんて珍しいですね』
『うん…普段はあんまりこっちから電話かけたら迷惑かと思ってしてないんだけどさ…どうしても話たいことがあって』
『別に迷惑なんて思ってないです…逆にいつもこっちから電話して迷惑じゃないですか?』
『いやいや!別にそんなことないよ!青木さんと話すのは楽しいから…』
心配そうな声で話す青木さんにそう答えると、電話越しにも聞こえるくらいの安堵のため息が聞こえた。
一方的に気を使って僕から電話することは極力しないようにしていたが、それはどうやら無駄なことだったらしい。
『そうですか…よかったです。それで話ってなんですか?』
『あーそれなんだけど…ちょっと長くなりそうだし実際に見てもらいたいこともあるからさ、何処かで会えないかなぁって思うんだけど…どうかな?』
キャラクターを描いたスケッチブックなんかも見せながら話をしたいので、実際に会うことを提案した。
『それって二人きりでってことですか?』
『うん…僕はそのつもりだけど…あ、でも僕と二人きりだと青木さん困るかな。それだったら今度の打ち合わせの時でもいいんだけど』
二人きり…そう言われたところで、僕の提案が大分無神経なものだと気がついた。
青木さんだって年頃の女性であるわけで、男と二人きりだと何かと嫌なこともあるだろう。
そう思い、打ち合わせの時にと提案をした。
出来るだけ早く伝えるべきことだと思うが、青木さんに嫌な思いをさせてまだ見せるようなものでもない。
『…!いや!二人きりでいいです!』
青木さんは食い気味に承認してくれた。
『本当にいいの?』
『はい!全然大丈夫です。それよりいつ会うか決めましょう…私は明後日とかなら1日空いてるんですけど…』
『僕も明後日は大丈夫かな…集合場所はどうしようか?』
『私の大学の近くにある動物園の前でどうでしょうか…?』
『ん…ああ大丈夫…じゃあ動物園に10時とかでいいかな…?』
『はい…それでは…明後日はよろしくお願いします』
『うん…よろしくね…それじゃあ』
それっきりで僕は電話を切った。
電話を置いて、仕事場の作業台で青木さんにどう説明しようかを考える。
その夜は、少し長く感じた。
そして場面は冒頭へと戻る。
動物園の入り口の前にあるベンチで座って待ちながら時計で時間を確認する。
9時40分…集合時間は10時なので少し早い…これはもう少し待つことになるな。そんなことを思った時だった。
「赤羽さん…?お待たせしちゃいましたか…?」
時計に目を落としていたところにかけられた声。聞き慣れたそれは、当然ながら青木さんの声だ。
目を時計から離し、声の方へと顔を向ける。
「……別に待っ…………」
待ってないけど…そう言おうとした所で固まってしまった。
それは彼女の顔を見てしまったからだ。
青木さんの顔…見慣れているはずなのに…今日は一段と可愛く感じてしまった。
よく見れば、普段では見れないくらいバッチリお化粧がされており、元々が美人であったのがさらに美しくなっている。
僕が描く女の子よりも可愛いんじゃないだろうか…思わずそんなことを思ってしまった。
そんな彼女は言葉を返さない僕に不思議そうな顔をしている。
「赤羽さん…?どうかしましたか…?」
「あぁ…!ごめん…ちょっと見惚れてた…」
あまりのことに呆けて何も考えずに言葉を返してしまった。
そうすると彼女の顔がみるみるうちに赤くなる。
「……!も…もう!冗談はいいです!早く行きますよ!」
そう言い青木さんは僕の手を引くと、動物園の入り口の方へと引っ張っていく。
顔を背けながら手を引く彼女の顔は僕の方からは見えない…しかし、赤くなった耳だけが目に入った。
動物園の中に入ったところで落ち着いたのか、ずっと繋いでいた手が離された。
青木さんは手でスカートを払い、間を埋めるように小さく咳払いをした。
「それじゃあ見て回りましょうか…」
「え…あの…今から動物園見て回るの…?」
「……そうですけど…?」
青木さんもは何を言っているのかと分からないといった不思議そうな顔でこちらを見てくる。
僕としてはただ今後の作品について話したかったのだが…なんだか彼女と認識のズレがあるような気がしてきた。
そもそも集合場所が動物園の時点で違和感があった…中まで勢いで入ってきてしまったが、ここで青木さんに目的の確認をしておくことにした。
「あのさ…今日って話があるってことで集まったんだよね…?」
「ええ…分かってますけど…」
「えーと…僕としてはさ…作品のことで話したくてさ…集合場所は動物園の前だけど、その後どこかのカフェとかで話すのかなぁ…なんて思ってたんだけど…」
なんだかこの状況が恥ずかしくなって、顔を掻きながら少しだけ目を逸らしてしまう。
そんな状況で少しだけ間が生まれる…そんな間に耐えられなくて、青木さんの顔を見る。
そこで僕は後悔した。
彼女の顔は泣きそうで、今にも崩れそうなくらい儚く感じた。
それは彼女の見たことがない顔だった…青木さんは無愛想に見えるけれども優しくて、芯の強い彼女からは想像も出来ない悲しそうな顔。
しかし、その印象はすぐになくなり、彼女は誤魔化すように言葉を紡いだ。
「あぁ!そうですよね…!仕事の話…ごめんなさい…!私ちょっと勘違いしちゃったみたいで…それなら今から出てカフェでも探しましょう。こんな所で動物見てる場合じゃないですもんね…赤羽さんも忙しいだろうし」
そういう彼女は早足で来た道を戻ろうとする。
そんな彼女を見て、僕は酷く心が締め付けられた。
後ろから見る彼女の背中は…いつもなら頼りになるその背中は、ひどく小さく見えた。
彼女の提案は僕にとったら嬉しい提案のはずなのに、元々は作品のことを話したくて来ただけなのに。
しかし、僕の足は出口に伸びることはない。
足が固まったように動かない…僕はどうすればいいのか、早くしないと青木さんは行ってしまう。
そんな状態の中…何も考えずに動いた手は、彼女の手を掴んでいた。
掴まれた彼女は動きを止めて、僕の方へと顔を向ける。
明らかに僕の言葉を待っている…早く答えないといけない。
(なんでもいい…何か言わないと…)
今ここで動かなければ、何かが終わってしまう気がした。
「………僕!動物園初めてなんだ……!」
「え…?」
「絵ばっかり描いてきたからさ…動物園とか遊園地とか…そういうの行ったことなくて。それに友達もいなかったから人の気持ちだってよく分からなくて…!でも、青木さんを悲しませちゃったのは分かる…ごめん。
だから…あの…今から一緒に動物園見て回らない…?青木さんがもし良かったら、案内して欲しいんだ…!」
青木さんの手を握ったまま下を向いて言った。
こういうことは目を見て行った方がいい…それは分かっている…しかし、拒絶されるのが怖くて彼女の顔を見れなかった。
正直、客観的に見ればもっと言いようはあったと思う…でも、まとまらない思考の中ではこんな言葉しか出てこなくて、そんな自分がどうしようもなく情けなくて泣きそうになる。
彼女が言葉を返してくれたのはそれから何秒後だったか…待っている僕にはそれがとてつもなく長い時間に感じられた。
「知ってますよ…赤羽さんがそういう人だってことは…絵のことばっかりで…人の気持ちも考えないで……」
「…ごめん………」
「だから私が教えてあげます……赤羽さんが分からないこと………まずは動物園からですね」
その言葉にハッとして顔を上げると、そこには笑顔の青木さんがいた。
その笑顔はなによりも眩しく感じられて、つられて自然と僕も笑っていた。
「というか…そんなに申し訳なさそうな顔しなくてもいいんですよ。勘違いしたのは私なんですから…」
「いや…それは僕の説明不足のせいだし……それに…青木さん泣きそうな顔してたから」
「な……!そんな顔はしてません!勝手なこと言わないでください!」
僕の言葉に彼女は心外だというふうに怒る。
「そう…?それは僕の勘違いだったかな……それはそうと……さぁ!何から見ようか…!」
「誤魔化しましたね…?……まぁいいです。まずは象ですかね…?結構近いですよ」
そう言うと彼女は移動を始める。
それを後ろからついていく僕。彼女の足取りは、なんだか軽いように感じた。
その後は、いろんな動物を見て回った。
「象って実物はこんなに大きいんだね…知らなかったよ…」
「……赤羽さんって本当に動物園来たことないんですか…?普通小学校とかで行ったりしませんか…?」
「うーん…記憶にはないなぁ…もしかしたら行ってるのかもしれないけど……帰ったら何描こうか考えてて動物見てなかったのかも…」
「小さい頃から変わりませんね……赤羽さんって絵を描く以外に好きなことはないんですか…?」
そう聞かれると返答に困ってしまう。
しかし、昔ならば絵しかないと堂々と返していたであろうが、今は少しづつだが興味は広がりつつある。
「漫画は見るようになったよ。後は青木さんがオススメしてくれた本とか読んでるし…最近は結構多趣味になってきたんじゃない?」
そう答えた僕に、彼女は首を振る。
「それって結局絵に関係したことじゃないですか…全然多趣味じゃないです…」
「む…じゃあ動物鑑賞も加えようかな?」
「まだ象しか見てないのに…気が早いですよ…」
「これからたくさん見るからいいんだよ……よし!次はライオン見ようよ!」
「分かりました…じゃあこっち来てください…」
「ライオンって思ったより動かないね…みんな寝そべってるや……」
「餌を取るわけでもないのにそんなに動き回ったりしませんよ…」
想像とのギャップに少し残念な気持ちになる。
手すりに手を置き、少しだけ身を乗り出して観察を続けるが、一向に動く様子はない。
「そっか……でもちょっと残念だな…もっとカッコいいところが見れると思ってたよ」
「そうですね…私も初めて見た時は少しがっかりしました」
そう言いながら青木さんは手すりに少しだけもたれかかり、ライオンの方へと視線を向ける。
その横顔に、何故か心拍数が早くなるのを感じた。
その後も色々な動物を見て回った。
初めての動物園はすごく楽しくて、こんなに楽しいのならばもう少し早くきておけば…なんて考えてしまった。
そんな風に時間も忘れて見て回ったおかげで、時刻としては既に14時になろうとしていた。
それに気づいた僕は、とっくにお昼の時間が過ぎていることに気がつく。
普段から食事はお腹がすいた時に取っているからか、お昼ご飯を食べないといけないということを忘れてしまっていた。
僕だけならば別に問題ないが、青木さんは僕みたいに不規則な生活習慣ではないだろうから、そこら辺は考えなければいけなかった。
そんな所で自分のズレた所を後悔しつつ、青木さんを食事に誘う。
「青木さんごめん…もう14時だ。ちょっと遅いけどどこかでお昼食べようか」
「もうそんな時間でしたか…確か近くにハンバーガー屋さんがあるはずなので、そこに行きましょうか」
「青木さんもハンバーガーとか食べるんだ…なんか意外だな…」
「私だってハンバーガーくらい食べますよ…それにそこ以外は結構距離があるので…」
「そうなんだ…じゃあそこに行こうか」
お店は本当にすぐ近くにあり、ほんの数分で辿りついた。
お互いに注文をして、空いている椅子に腰をかける。
もっとも、時間的にお昼を過ぎているので人は多くなかった。
互いに向かい合うように座り、食事を始める。
僕は普通に食べ始めようとしたのだが、向かいに座る青木さんを見て動きが止まる。
別に何か特別なことがあった訳ではないのだが、青木さんとハンバーガーというのがあまりに似合っておらず、違和感がすごい。
「あの…そんなに見られると食べにくいです…」
「あ…いや…青木さんとハンバーガーってのがなんか違和感あって…」
「もう…またその話…私だってハンバーガーくらい食べるんですから…!」
「あぁ…そうだよね…!あんまり見るのやめるよ」
そう言い食べることだけに集中しようとするが、結局気になるものは気になるので、チラチラと見てしまい、また青木さんに怒られることになるのだった。
「ふぅ…美味しかったね…食べ終わったし、この後はどうしようか…」
「そうですね…ちょうどいいですし、作品の話をしましょうか…」
「え…いいの…?」
「いいも何も本当の目的はそれなんですよね?休憩も兼ねて話しましょうか」
確かに今日の目的はそれだ。だけれでも、僕はこの空間でそれを言うことに少しだけ躊躇いがあった。
それは、この話し合いが決して和気藹々としたもので終わらないと思ったからだ。
順位のこと、今後の作品のこと、その話をここでして、折角の楽しい空間が崩れてしまうのではないか…そう思った。
しかし、そこである違和感に気づく。
(青木さんと楽しく過ごすこと…それが僕にはどれほど大事なことなんだ…?)
そこまで考えた所で、自分が何を優先しているのかということが分からなくなってしまった。
僕が第一に考えるのは作品のことのはずなのだ。
漫画を描くために画家を目指すことをやめ、両親の願いからも逸れた。
だから僕には作品をより良いものにするための義務があるのはずなのだ…楽しいという感情は、良い作品を描き続けるという前提の元に成り立っているもののはずなのに。
そう考えると、今日の僕の行動は少しおかしかったのかもしれない。
本来ならば、あそこで彼女の手を握らずに、どこか違う場所で作品の話をするべきだったんじゃないのか…
泣きそうな彼女の顔が頭によぎる。
僕は、彼女を泣かせたくなかった…でも、そもそも僕と彼女の関係とはなんなのだ。
原作と作画…ただそれだけの関係か…?
そうならば作品が終わると共に消えてしまう関係なのか…?
なんだが思考がぐちゃぐちゃになってきた。
「赤羽さん…?大丈夫ですか…?」
そんな僕の思考が現実に戻ってきたのは、青木さんの声だった。
心配そうにこちらを覗き込んで、様子を伺っている。
そんな彼女にこれ以上心配させてはいけないと思い、慌てて声を返す。
「あぁ…!大丈夫…!ちょっと考え事しちゃってた…」
「本当に大丈夫ですか…?なんだか顔色が悪いような…」
「本当に大丈夫だから!それで作品のことなんだけどさ…ちょっと見て欲しいものがあって…!」
心配する彼女にこれ以上追求させないように強引に話題を元に戻す。
バックの中からスケッチブックを取り出して、開いて見せる。
キャラクターだけが描かれたそれは、あの日真城君に見せたものだ。
「これなんだけどさ…男の子受けしそうなかっこいいキャラとか結構描いててさ…もしよかったら青木さんのストーリー作りの参考になればと思ってさ…どうかな…?」
「はぁ…ありがたいですけど、私は別にキャラクターで迷ったことはないので…それに無理に受けを狙いにいくというのも私は好きではありません」
予想外の冷たい反応だった…始めて彼女と打ち合わせした時のことが頭によぎる。
「あ…そう?でもさ…この間の順位青木さんも見たでしょ…?あれってやっぱり僕達の描いてるものがジャンプの読者とズレてるんじゃないかって言われてさ…ストーリーを変えるのは難しいかもしれないけどキャラクターとかは変えていけるんじゃないかなって思うんだ…!」
捲し立てるように言葉を続ける。それはぐちゃぐちゃの思考を誤魔化すためか。
(いや…違う…僕は作品のために…)
作品をよくするために必要なことだ。彼女からは多少反感はかうかもしれないが、言わなければならないことのはずだ。
そんなことを思いながら彼女を見ると、そこには冷たい視線を僕に向ける彼女がいた。
「言われた…?誰にですか…?相田さんですか…?」
「あ…いや相田さんじゃなくてさ、この間アシスタントに来てくれた真城君…亜城木夢叶の作画の方の子って言えば分かるかな?その子と色々話あってさ…!こうすればもっと順位も上がるんじゃないかなって…」
「私の描くものより、アシスタントの人の意見の方が重要ですか……?私はそんなに信用がないですか……?」
「………!そうじゃないんだ……!僕は青木さんの描くものは面白いと思ってる。だけどさ!順位が下がってるのも事実だし、何か変えなきゃいけないんじゃないかって……そう思って……」
だんだんと言葉が尻すぼみに小さくなっていく。
それが何故だか僕にはわからなかった。これまでも彼女に怒られることはあったはずなのに、初めの頃はもっとキツイことだって言われたはずなのに、何故こうも胸が苦しくなるのか。
「確かに順位は下がってます…でも、だからって焦って変える必要がありますか…?私は面白いものを描いてます。赤羽さんの作画だって良いものです。私達の作品は既に完成されてるんです。それを読者受けなんてくだらないものに拘っても意味ないじゃないですか…打ち切りされたってそれは見る人の見る目がなかったからです」
「青木さんは打ち切りされて平気なの…?まだ作品だって序盤じゃないか…」
「無理に変えて受けを狙いにいくくらいなら私は打ち切りを選びます。そうなったら別の雑誌で新しいものを描けばいいじゃないですか」
「いや…それは…でも……」
僕が言葉を濁していると、彼女はやれやれと首を振ってため息を吐く。
「はぁ……もういいです……赤羽さんは今後一切ストーリーのことは考えないでください……」
「え……?」
彼女が何を言っているのか僕には分からなかった。
「打ち合わせも今後は私と相田さんだけでやります。あと…順位も赤羽さんは気にしなくていいです…赤羽さんには教えないように相田さんに頼んでおきますから」
「いや…流石にそれは…僕だって作品に関わってる訳だしさ…ストーリーは全然かもしれないけど…」
「ストーリーのことを考えるのは私の仕事です。赤羽さんはそれに時間を割くくらいなら、作画に集中してくれた方がよっぽどいいです」
「そうかもしれないけど…順位くらいは…」
「順位を気にしすぎるから受けの良さとかを考えるんです。そうならば初めから知らない方がいいです」
確かに…僕はストーリーに関することはさっぱりだ。
話を描ける訳でもない僕がどうこう言うのは違うことなのかもしれない…でも、青木さんのこの提案は受け入れてはいけない。
受け入れてしまっては僕は漫画家では無くなってしまう。そんな気がした。
「安心してください…打ち切られたって、私と赤羽さんならいくらでもチャンスはあります。赤羽さんの絵は誰よりも素晴らしいものですから。だから……話は私に任せてください」
そういう彼女は笑顔であった。
話は既に終わっているというような…これが正しいのだというような…そんな顔。
(ここで僕が嫌だと言ったら…青木さんはどんな顔をするだろう…)
またあの冷たい顔に戻るのだろうか…それとも悲しい顔になるのだろうか…
想像すると心が痛むが、これだけは拒否しなければいけない。
そう覚悟を決めて言葉を繋ぐ…
「分かった…僕は絵だけに集中するよ…」
はずだった…
「……分かってくれて嬉しいです…!それじゃあこの話はここまでで、午後はどこから回りましょうか?」
そう言い笑う彼女は、美しかった。
その後僕は笑えていたか…どうにも覚えていなかった。