蒼樹先生に別の作画をつけたかっただけの小説 作:おもち
一瞬ですが日間ランキングで4位まで行くことが出来ました。
ランキングにのるほど面白いものが書けている自信はないですが、取り敢えず完結まで好きに書かせていただければと思います。
また、たくさんの感想ありがとうございました。
感想は本当に嬉しいので、気軽に書いていただければ幸いです。
「なんであんなこと言っちゃたんだろう…」
仕事場兼自宅にあるベットで、一人呟いた。
そんな自問自答は当然答えるものはおらず、謎は謎のまま自分の中で回り続けている。
青木さんと動物園に行き別れてから常にこのことを考えているが、未だに明確な答えは出ていない。
丸一日がすぎ、時刻が夜にさしかかっているにも関わらずだ。
あの時どう答えるべきかというのは、分かっていたはずなのに…
「それは嫌だ…僕はそういうべきだった……」
青木さんの提案は確かに的を射たものであるとは思う。
僕は打ち合わせに参加してはいたが、ろくに意見を出せていた訳でもないし、ストーリーについては自他共に認めるレベルで下手くそだと言える。
ならば、青木さんが言うように絵に集中した方が効率はいいのかもしれない。
だけれども、あれを認めてしまっては、僕は漫画家ではなくなってしまう。
ストーリーに一切触れず、順位も気にせず、与えられたものをただ描き続ける…僕が目指した漫画家という存在はそんなものではないはずなのだ。
「だったらなんでそう言わないんだ…」
あの時だってそれが分かっていなかった訳ではないのに、何故か言葉が出なかった。
それを言ってしまった時の彼女の顔…悲しそうな顔、失望した顔がよぎってしまって、気づけば口からは肯定の言葉が流れていた。
その後のことはよく覚えていない。
動物園を回ったはずなのだが、その間僕の心は宙ぶらりんになってしまって、気がつけば自宅のベットに横になっていた。
しかし、そんな状況であっても僕はすぐに作業場に行き、漫画を描いていた。
その時初めて、僕はそんな自分が嫌になった。
思考が堂々巡りで回る中、それを打ち破るように着信音が鳴り響いた。
恐る恐る誰からの着信か確認する。
(青木さんだったらどうしよう…)
無意識のうちにそんなことを思ってしまった。
今は彼女と上手く話を出来る自信が僕にはなかった。
そんなことを思いながら画面に映る名前を確認する…すると、そこには相田さんとの文字があった。
青木さんでなかったことに一先ず安堵しながら、電話をとる。
『はい……赤羽ですが………』
『お…繋がってよかった。もしもし?相田だけど赤羽君今時間大丈夫…?』
『はい…大丈夫ですけど…珍しいですね…相田さんが電話をかけてくるなんて』
『いや…ちょっと確認したいことがあってさ。単刀直入に聞くけど、赤羽君今度から打ち合わせ来なくなるって本当…?』
なんとなくは電話の内容は予想できていたが、やはり予想通りの内容であった。
正直その話に関しては自分でもあまり考えがまとまっていないし、あまり触れて欲しくないものだ。
しかし、相田さんとしてはいきなり青木さんからそんなことを言われて、はいそうですかと納得する訳にもいけないだろうし、ここで電話をかけてくるのは必然というものだった。
『はい…今度から青木さんだけで打ち合わせはやるって…そうなりました』
『そうか…まだそれは僕としても納得は出来る…原作と作画で別れてる以上…そうやってやってるコンビは結構いる。だけどだ…順位すら君に伝えるなって言うのは流石におかしい…僕にはこれが君も納得してるものだとは思えないんだ…だからそこの所を君の口から聞きたい』
『………僕としては…正直納得できません…打ち合わせだってこれまで通り3人でやりたいですし、順位だって……知らずに絵だけ描き続けるなんて僕はしたくありません……』
『やっぱり赤羽君が納得してるわけじゃなかったか…じゃあなんで蒼樹君はそんなことを………君と蒼樹君でどんなことを話したのか教えてくれないか…?それを聞かないと今後どうするべきかも分からないからな』
『ええっと…実はですね…』
動物園であったことを包み隠さずに相田さんに話した。
『ごめんなさい…あの時僕が嫌だって言えれば良かったんです…でも言えなくて…こんなことになってしまいました…』
相田さんは僕が話終わるまで静かに話を聞いてくれていた。
話終わり、しばらく間ができる。相田さんもこんな話をいきなり聞かされては整理の時間も必要だろう…僕は、相田さんの返答を静かに待った。
『そうか…色々言いたいことはあるが、取り敢えず僕に任せてくれないか?今度の打ち合わせで君のことと作品のことは僕から言っておく』
『いいんですか…?僕も行って話をするべきなんじゃ…』
『正直蒼樹君の意思がどれだけ固いかは僕には分からない…本心はどうあれ君は蒼樹君の提案を受け入れたんだ。そんな君が何事もなく打ち合わせに現れれば話が更に拗れることになるかもしれない…だから僕に一旦任せて欲しい』
それを聞いて確かにそうだと思うと同時に、小さな違和感。
そんな違和感を感じながらも相田さんに応える。
『分かりました…すみませんがお願いします……』
『あぁ…僕に任せておいてくれ…それじゃあまた連絡するから…』
モヤモヤとした気持ちを抱えたまま電話を切った。
これで本当にいいのだろうか…色々な考えが頭の中を巡って上手く整理がつかない。
そんな状態の中で僕は無意識に立ち上がり、作業場の方へと足を動かしていた。
いつもの席へと陣取り、作業途中の原稿を描き始める。
絵を描いていると必然的に嫌なことを考えなくて済む。
僕は、どうせ描かなければいけないものだからと、誰にしているのかも分からない言い訳をしながら、ペンを走らせた。
それから数日後…
僕は相田さんの言うことを聞いて素直に待ち続けた。
それが正しい選択なのかは未だにわからなかった。
相田さんの話を聞いて確かにとは思ったが、それと同時にどこか胸の奥に感じる気持ち悪い違和感。
それが日が経つごことにだんだんと大きくなっていって、それを掻き消すように絵に没頭する毎日。
大好きな絵を逃げ道のように使っている現状に、さらに気分が悪くなる。
チラリと時計を見て、時刻を確認する。
(そろそろかな…打ち合わせが終わるの…)
今日は連載が始まってから初めての僕がいない打ち合わせ。
僕がいない中でどんなことを話あっているのが無性に気になるが、そんなことを想像しても無意味に胸がざわつくだけだった。
部屋に鳴り響く着信音
それを待っていた僕は、素早く携帯を手に取り、画面に映る名前を確認する暇もなく電話に出た。
それだけ僕がこの電話を待ち望んでいたということもあるし、この時間に電話をしてくるのは相田さんだろうと勝手な思い込みがあった。
『はい赤羽です!相田さん打ち合わせの方はどうでした…?』
勢いよくそう言った。
その後すぐに返答があると思ったがそれはなく、しばしの間が生まれる。
もしかして打ち合わせの内容がそれほど言いづらいものであったのか…そんな風に思った。
しかし、そんな考えは電話から聞こえた第一声で全て吹き飛んだ。
『やっぱり…相田さんに何か言ったんですね…赤羽さん…』
聞こえた声は相田さんの声ではなく、聞き慣れた女性の声だった。
いつもだったら聞き心地の良いはずの通る声は、今の僕には重たく感じられた。
『青木さん…?なんで………』
まるで幽霊でも見てしまったような…そんな怯えが混じった声が出た。
『なんでは私が言いたいですよ…赤羽さんはストーリーには関わらないって言いましたよね?』
『いや……それは…』
あまりのことに言葉が出ない。
なんで彼女が電話を…何を言うべきなのか…疑問が頭の中に湧いてでて、整理がつかない。
そんな僕に、彼女の呆れたようなため息の音が聞こえた。
『私は赤羽さんを信じてたんです…今回の打ち合わせで相田さんから赤羽さんと似たようなことを言われて…それで念のために赤羽さんに確認しようって…でも、電話をかける前までは……赤羽さんが何か言ったわけじゃないって思ってたんです』
『それはごめん………』
『……正直…見損ないました。赤羽さんはあの時私に話のことは任せてくれましたよね…?私はそれが嬉しかったんです…なのに…裏でこそこそと…』
その言葉を聞いた時、僕は自らの過ちに気がついた。
僕があの時正しいと思ってした選択はその実、ただの逃げだった。
青木さんと面と向かって話すのが怖くて、相田さんの話に理があるからと言い訳をして、自分が傷つくことから逃げたのだ。
そこまで考えが至った時、急に心臓が早さを増して、息が苦しくてなる。
僕はどうすればいいのだろうか…胸を抑えながら必死に考える。
『青木さん…本当にごめん……でも、僕もどうしたらいいのか分からなくて…』
『そうですね…確かに私も急に厳しく言いすぎたのかもしれません。順位も知らせないと言うのは流石に酷でしたね。取り敢えず順位はこれまで通りネームに書いておきます。
でも……これだけはもう一度約束してください。話は全部私に任せるって……』
それはあの日の再現のようだった。
ならば、僕が言うことは決まっている…そのはずだ。
散々後悔したこと…それだけは受け入れられないと言わなければいけない。
あの日言えなかったことを今言うのだ。
しかし、口から出るのは言葉にならない呼吸音のみだった。
肺が上手く酸素を取り入れられていないのか、荒くなる呼吸の中で、ふとこんなことを思った。
(いや…でも…そもそもなんで受け入れられないんだ…僕がストーリーに関わった所で本当に作品は良くなるのか…?青木さんが言ってることの方が正しいんじゃないのか…?)
何が正しいのか分からなくなってしまう。
しかし、この思考はあの時と同じものだ。
動物園の時、そして相田さんの提案を受け入れた時、いずれも今みたいに楽な方へと逃げ出した。
(そもそも僕に青木さんに口を出す権利があるのだろうか…彼女と向き合うことから逃げ出した僕に……)
そもそもすでに二回も逃げ出しているのだ、もう一度逃げ出した所で何か変わるのだろうか。
思考がどんどんと弱い方向へと流れていくのをを感じた。
しかし、それを分かりながらも僕は抵抗する気力がなくなっていく。
(苦しい…もうこんな状況から早く逃げ出してしまいたい…)
早く息を吸い込んで楽になりたかった。
今でさえこんなに苦しいのに、青木さんと向き合ってしまたらどうなるのだろうか、呼吸が出来ずに陸に打ち上げられた魚みたいに死んでしまうのだろうか。
そんな想像に僕は耐えられなくて…
「分かった…もう二度と話には関わらない…約束するよ』
大きく息を吸い込んだ。
電話を切り、少しだけぼーっと宙を見つめる。
先ほどまでの息苦しさが嘘のようになくなり、鼓動も正常へと戻っていた。
罪悪感はなぜかなく、ずる休みが成功した子供のような達成感があった。
心では自分が逃げただけだと分かっているが、頭では自分がやったことを肯定するように都合のいい考えばかりが浮かぶ。
「この後どうなるんだろ…」
今後のことを考える…曇っていたはずの頭は晴れていて、スムーズに頭が働く。
まずは相田さんには謝らなくてはいけない。
僕の為を思って行動してくれたのに、その行動を僕が無意味にしてしまった。
そこまで考えた時、楽になったはずの胸が痛むのを感じた。
それを誤魔化すように、携帯電話を開く…そこには通話中で気づかなかったが、数件の着信履歴。
それは、全て相田さんのものだった。
かけ直すべきだ、咄嗟にそう思ってダイアルを鳴らした。
『赤羽君!?良かった…電話中で繋がらなくて困ってたんだ』
相田さんは凄く焦った様子で電話に出た。
『ごめんなさい…青木さんと話してまして…』
『そうか…それじゃあ分かっているかもしれないが、蒼樹君と話をしたんだがどうにもならなかった。描きたいものを描くとだけ言われたよ。これ以上言っても描かないと言い出しそうで僕もあまり強く言えなかった…今後も少しづつ言ってみるつもりだけど、あまり期待は出来ないかもしれない』
『そうですか…そのことはもう大丈夫です…』
その言葉が何の躊躇いもなく出てきたことに僕は驚いた。
先ほどまでの葛藤が嘘のようで、なんだか笑えてきてしまった。
相田さんにとって僕のその応えは予想外のものだったようで、驚きの声が聞こえる。
『大丈夫って…いいのかい…?君は納得してないって言ったじゃないか…』
『はい…でも分かったんです…僕が話に関わるのが初めから間違いだったんだって…描けもしないものに時間を割くのが間違ってたんです』
『それが君の本心なのか…?もしかして蒼樹君に何か言われたのか…?だったらあまり真に受けない方がいい。本来作画と原作っていうのは対等な立場なんだ。蒼樹君が自分の意見を通そうとするように、君も自分の意見を通していいんだ。そして、それを纏めるのが僕ら編集者の仕事だ。』
相田さんの言葉に少しだけ心が揺れるが、すぐに持ち直す。
ここで相田さんに応えてしまってはまた同じことの繰り返しだ…それだけは避けなければいけない。
『僕のことはもう大丈夫です…僕は絵だけに集中します……』
『はぁ…それで本当に大丈夫なのか…?今はそれでいいのかもしれないが……』
『はい大丈夫です…』
『分かった取り敢えず聞いてくれ…これはもしもの話だが話さなければいけないことだから聞いておく。
正直…今のままだと君達がコンビとして長く持つとは僕は思えない…もしも今後今連載してる作品が終わったとして、君は蒼樹君とコンビを組んでいられるのか…?もしこのまま蒼樹君と合わないようだったらこっちから新しい原作を探すという手もある。だから君はあまり重く考えずに…』
そこまで聞いて僕は堪らずに言葉を挟む。
『他の原作を探す気はありません』
『いや…しかし…今のままでは君と蒼樹君じゃどう考えても合わない』
『そんなことは関係ありません。青木さんは僕がこの世界に誘ったんです。高校生だった彼女を説得してここまで来た。だから僕には彼女をこの世界に連れてきた責任がある…彼女から切られるのならまだしも、逆は絶対にありません』
弱った心でも、それだけは強く言えた。
元々僕が彼女の才能に惹かれて連れてきたのだ…どれだけ関係が変わろうと、その責任だけは取らなければいけない。
『それはいいことだとは思うが…もし今の連載が終わったとしたら…』
『終わらせません』
『え…?』
『作品は絶対に終わらせません…元の順位まで僕が戻します』
なんの根拠もない言葉。相田さんはそう思っただろう。
『戻すってどうやって…君は話には関わらないんだろう…?』
『ええ…僕には絵を描くことしか出来ません…なら、出来ることをするだけです…』
作品と人間関係での板挟み…これを解決するのはもうこれしかないと思った。
順位さえ戻れば、全てが上手くいくはずなのだ…その為なら、僕は全てをかけていい。
電話を切り、原稿に向き合った。