蒼樹先生に別の作画をつけたかっただけの小説   作:おもち

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何とか投稿出来ました。
コメントをくれた方はありがとうございます。やる気が出ました


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ある喫茶店……青木さんの行き付けであるらしいここに、僕達は向かい合わせで座っていた。

目の前の彼女は黙々と何かを読み進めており、それを僕が緊張しながら待っている。

状況はデート中のようだが、雰囲気はまるで違った緊張感のあるものだった。

そんなおかしな状況に対する説明は、少し過去に遡らないといけない。

 

 

 

 

僕達がコンビを組んでから一週間ほどが経ち、色々なことが決まってきた。

 

まずは漫画の作り方……彼女が、もし男だったのならばどちらかの家に集まって一緒に作れば良かったのだが、年頃の男女である僕達はそんな訳にはいかず、彼女が学校に下書きを持ってきて、それを僕が家で漫画にするという方法がとられることになった。

 

完全に別々に作業をしている僕達だが……週に一度、土曜日に彼女の家の近くの喫茶店でミーティングを開くことに決まった。

これは、意外な事に彼女の方からの提案で、本人曰く完成度を高める為に必要不可欠らしい。ある程度の意志疎通は必要だと、彼女も感じているようだった。

 

そして、今日がその土曜日だ。彼女に下書きをもらったのが月曜日。そこから寝るまも惜しんで完成させた原稿は、僕の手の中で輝いているかのような錯覚にすら陥らせる。

三十ページと少しほどの原稿を書き上げる作業は、学生の僕にはとても辛い作業だったが、同時にとても楽しい作業でもあった。

描いてる途中で漫画のキャラクター達の声が聞こえてくるような、そんな感覚を僕は覚えて、もっと彼女達の物語を見たいという気持ちにさせられていく。

青木さんはやっぱりすごい....そんなことを描いていた時の僕は思っていた。

僕が考えたストーリーではこうも感情移入はできない。

漫画の世界を隅々まで歩き回ったような自由さがあり、キャラ達を知り尽くした感情表現、何よりも、この小さな世界からあふれでてくる彼女の作品への愛が伝わってきた。

 

これを活かすも殺すも僕次第だと思うと、プレッシャーがかかるが、やってみせると気合いを入れてやっと完成したのは土曜日の午前9時。

そこから急いで走って、喫茶店についたのが午前9時50分……集合は10時なので、ギリギリ間に合ったはずだ。

喫茶店の前の扉で、はぁはぁと息を切らしていた僕が扉に手をかけようとしたとき、ガチャリと目の前ドアが開いた。

何事かと思い上を見ると、無表情の青木さんが立っていた。

 

「早く入ってください」

 

それだけを伝えた彼女は店の奥へと、すぐに消えていく。

店の一番奥の向かいあわせになっているテーブルに彼女が座り、その正面の席に続いて僕が座る。彼女より遅くついたらしい僕は、彼女に謝罪の言葉をかける。

 

「ごめんね。遅れたかな」

 

「いいえ、私が早く来すぎただけです」

 

それだけを伝えた彼女は、すぐに僕の持っている原稿に目を向ける。

それに気づいた僕は、すぐに封筒から原稿を取り出して、青木さんに渡す。

 

そして、彼女が黙々と読み出す。ここからは冒頭通りだ。

 

ペラ、ペラと原稿をめくる音だけが響き渡る。

無表情で感情が分かりにくい彼女は、原稿を読む間も眉ひとつ動かさない。

この変な緊張感はまるで、彼女にコンビを組むように頼んだ日のようだと思いながら待っていると、彼女がトントンと原稿を綺麗にまとめる。

 

どうやら読み終わったようなので、無言で彼女の言葉をまつ。

ふぅと短いため息を吐いた彼女はすぐに僕に対して評価をくだす。

完全に彼女が上の立場になっていることを感じなくはないが、言っても虚しいだけなので黙って聞く。

 

「細かいことから言わせてもらいます」

 

「はい……」

 

彼女は、どう感じたのか。それだけがただ気になる。彼女の世界を僕は表現できたのか。

 もし、彼女の中にある素晴らしい世界を少しでも表現できたなら、僕は漫画家として少し自信が持てる気がする。

 

しかし、彼女はそんな僕の気持ちを知るはずもなく、無慈悲に評価を告げる。

 

「まず、トーンのは張りかたが雑すぎます。所々はみ出してるので直してください。

 後、背景の線が多すぎます。すごく見づらいです。

 構図が所々変わってます。書きやすい構図にしたいのかもしれませんが、構図は変えずに書いてください」

 

一息でこれだけ言われると、唖然としてしまう。

思わず謝罪の言葉を入れそうになる。力不足でごめんと……。

しかし、彼女の言葉はまだ終わっていないようで、言葉を続けようとする。

予想と違う評価に耳を塞ぎたくなる。

 

でも、聞かなくてはいけない。

コンビを組んだ僕にはその責任がある。

決心した僕は、彼女の顔を見つめて言葉を待つ。

 

「でも……。

 

 絵はすごくいいと思います。キャラクターを描くのは、私よりうまいです。

 悔しいですけど……」

 

続く彼女の言葉は称賛だった。僕の心に歓喜の思いが溢れてくる。

色々言われたが、僕の一番大切な所は彼女にとって満足のいくものだったようで、それだけがただ嬉しかった。

テンションの上がった僕は、思わず机を叩き彼女のほうへと顔を近づける。

 

 「ありがとう青木さん! 本当に君とコンビを組んでよかった! これからも君の世界を僕に共有させてくれ!」

 

思わず、普段なら背中に寒気がするようなセリフを言ってしまう。

恥ずかしい気持ちもあるが、今はただ彼女に素直な気持ちを伝えたい。そう思った。

興奮した様子の僕に彼女は驚いたのか、いつもの無表情を崩して慌てたような顔になる。

 

 「こんな所でな、なにを言ってるんですか!

 というか私、結構ダメ出ししましたよね、なんで嬉しそうなんですか!」

 

 「確かに、初めはダメ出しされてショックだった。

 でも、青木さんは僕にとって一番大切なものを誉めてくれたんだ。

 今の僕にはそれだけで充分だよ」

 

 真面目な表情で言う僕に、彼女は少し呆気にとられ、そして少し微笑んだ。

 

 「変わった人だとは思ってましたが、本当によくわからない人ですね……」

 

 ふふっ、と少し笑う彼女に、今度は僕が驚かされる。

 彼女の笑った顔はまだ、見たことがなかったからだ。

 もったいないと僕は思った。一見、冷徹に見える彼女だが、笑った姿は漫画の中の妖精のようにすら感じるほど絵になる。

 

いつもこうしてればいいのに……。

そんなことも考えるが、これは僕と彼女との距離が少し近づいたように感じられ、妙な嬉しさがあった。

 

僕がじっと見ていると、彼女はそれに気づいたのかはっとして、隠すように咳払いをした。

また、無表情に戻った彼女は話を戻す。

 

「取り敢えず座ってください。まだ話は終わってませんし……」

 

「そ、そうだね。取り乱してごめん」

 

「別にいいです。気にしてませんので。

これから、持ち込みについて話をしようと思っていたんです」

 

「持ち込み?」

 

「はい。と言っても、今すぐというわけじゃありません。

 後1ヶ月後で夏休みなので、そこで持ち込みをしたいと思います。

 次に渡すのは持ち込み用の下書きなので、1ヶ月で仕上げて下さい」

 

急に現実的な話になったが、彼女がここまで考えていてくれたことに純粋な嬉しさがあった。

目標がしっかりと見えたことで、僕もどんどんやる気がわいてくる。

1ヶ月という長いようで短い期間だが、彼女とならばやれる気がする。

根拠はないが、そんなことを思える。

そこから、30分ほど話をしてその日は解散となった。

 

 

 

そこからの1ヶ月は予想以上に早く過ぎていく。

とにかく、漫画を描くことに慣れないといけないと思った僕は、毎日漫画を描いた。学校が終わったら、少しでも時間がおしいと、すぐに家に帰って机にかじりつく。

 

慣れない漫画家としての絵だが、描く度に洗練されていくのを僕は感じていた。絵を描くのが楽しい...こんなにもワクワクした気持ちで描くのは子供の時以来かもしれない。

あっという間に時間が過ぎて、すぐに土曜日がくる。そこで青木さんにアドバイスをもらうというサイクルができつつある。

少しづつ心を開いてくれているような彼女は、それに反比例するようにアドバイスは厳しくなっていく。

それは彼女が求めるレベルが上がってきているのだろう、僕ももっと上手くなりたいという気持ちがあるので、素直に従う。彼女のアドバイスは的確で、分かりやすい。彼女自身の知性も高いのだろうことが伺える。

 

色々とアドバイスを貰っている僕だが、僕から彼女にアドバイスすることはない。

それは、自分自身のストーリー作りの才能のなさと彼女への信頼からだ。彼女のストーリーの一番のファンは自分であると、堂々と宣言できる。

僕はアドバイスをできない代わりと言ってはあれだが、彼女に対して色々質問するようになった。

彼女の好きなものから趣味まで、色んなことを聞いていく。彼女のストーリーがどこから来ているか知りたかったからだ。

彼女の返事は大抵素っ気ないが、少しだけなら話してくれる。些細な話ばかりだが、僕にとっては大事なことばかりなのでとても有意義な時間であると言えた。

 

付かず離れずといった僕らの関係だが、漫画の方はどんどんと進んでいく。

修正を重ねて完成度をどんどんとあげていき、夏休みの少し前には青木さんにも一応の納得を貰えるようになった。

 

そして、夏休みに入った僕達はすぐに持ち込みをすることになった。

彼女と近くの駅で待ち合わせて、電車で向かう。

彼女も緊張しているのか会話はなく、僕も正直余裕はない。彼女の手前何とか平静を保っているが、正直緊張で胸が張り裂けそうだ。

絵のコンクールでも、こんなに緊張したことはない。それは、僕達が作りあげたものが容赦のない酷評に晒されるかもしれない不安か、僕が足を引っ張ってしまうかもしれないという自信のなさか。

漫画家としての経験がない僕には、判断がつかない。

 

最寄りの駅について、僕達はまっすぐに出版社へと向かう。

急に帰りたくなってくるが、彼女にそんな提案できるはずもないし、もう出版社に電話は済ませているのでドタキャンするわけにもいかない。

 

 

色々な感情に蝕まれていた僕は、気づいたら出版社の前に立っていた。

 

 




続きについては自分の中でパターンがいくつか考えています。
ひとつはジャンプ以外への持ち込みで、そこを経て青木さんの原作初登場年齢である20歳で原作組と合流すること。
二つ目はジャンプへの持ち込みで、最高と高木の先輩として書くこと
三つ目は原作とは年齢を変えてここから、高校生コンビとして原作組遭遇パターンです。
ひとつ目か三つ目かでいこうかと思ってますが、確定ではありません。

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