蒼樹先生に別の作画をつけたかっただけの小説   作:おもち

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急にアクセスが増えてビックリしています。
しかも日刊ランキングで35位までいかせていただきました。
たくさんの方に見ていただくのは嬉しいことなのですが、その分プレッシャーも上がって内容も大分悩むようになりました。
しかし、これからも待ってくれている人のために少しでも投稿していこうと思います。
よろしくお願いします

あと誤字報告してくれた方、本当にありがとうございました。


3ページ

 

 

 

 

 

 

 

青木 優梨子は赤羽 結城に興味を抱いている。

 

 

その興味が恋愛的な意味か、それ以外の意味なのかは未だに分からないが、興味があるということだけは間違いはない。

青木にとって赤羽とは男性で唯一認めている人で、彼女の漫画のパートナーでもある。

青木は赤羽のことをもっと知りたいと思っていたりもする。

色々言っているが、まとめると赤羽という人間は青木にとって少し特別な存在だということだ。

 

これだけ聞いたら二人がさぞ仲がいいように思えるだろう。

しかし、現実は違う。

青木が長年続けてきた男を排除してきた生活のせいで、青木は赤羽に対しても突っぱねるような態度をとってしまう。

青木はもっと素直に接したいのに、青木からでる言葉はそれとは真逆のもので、その結果として二人の仲はずっと平行線のままだ。

 

しかし、そんな現状を青木は変えたいと思っていた。

 

このお話は、素直になれない少女がちょっとだけ素直になる話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜9時頃……青木は自らの部屋で、携帯を持って唸っていた。

発信のボタンに指をかけては何度も押そうとするが、青木の中で決心がつかないのか、すぐにボタンから指を離す。

そうした後、暫く携帯を見つめてまたボタンに指をかけ、その後は先程の行為をただ繰り返す。

 

携帯の画面に映る名前は赤羽 結城。

 

青木が彼に電話をかけようとしているのは、彼との距離を近づけるためだ。

 

彼と直接会ってしまうと未だに素直になれない青木は、どうすれば距離を近づけられるか必死に考えて、電話という手段をとることにした。

会ってしまうと素直になれないのなら、会わずに会話だけならば素直になれるのではないかと、青木は考えたのだ。

なんとも単純な考えだと青木は自分でも思うが、圧倒的に経験が不足している青木では、それ以外は思いつかなかった。

 

 

こうして、方法は決まったわけだが、いざ実行しようとすると青木の体は固まってしまう。

ボタンを押すという簡単な作業なはずなのに、それができない。

ボタンに指をかけるまでは出来るのだが、そこからは、自らの指の神経が抜け落ちてしまったかのように動かない。

 

そんな状況がずっと続いて、段々と心が疲れていってしまう。

青木の心の中で、もういいかなんて考えが出てくる。

元々自分は男性を排除して生活をしてきたのだ。それを今さら距離を近づけたいだなんて、無理なことだったのだ。

そんな気持ちが大きくなっていく中で、青木はこうも思う。

 

このままでいいのかと

 

自分はそんな状況が嫌だったんじゃないのか、挑戦もしないで諦めてしまうのか。

そんな気持ちも確かにあって、二つの気持ちが青木の心の中で戦いを起こす。

しかし、真っ二つに割れた心の戦いは互角。

どちらの気持ちも青木の本心だから、青木はどちらにも靡けない。

 

決着が着かない心に、青木はどうしようかと頭を働かせる。

考えて考えて考えて、結果として青木が出したのは妥協案。

 

(一回だけ電話をかけよう)

 

そう、一回だけ。

一回だけかけて赤羽が出なかったら今日はもう考えるのは止める。

赤羽は普段携帯を使わないということを知っていた青木は、一回だけなら気付かない可能性も高いだろうと考えた。

これは青木が思い付いた青木の中では完璧な妥協案。

 

一度思い付いてしまえば、案外気持ちも楽になるようで、先程までは固まっていた指も随分と軽い。

 

指を再度ボタンに指をかけて青木は……一気にボタンを押した。

 

 

 

 

 

プルルルルルと電話の音が響く。

青木は赤羽が電話に出るかどうかをじっと待つ。

心臓がバクバクと音を鳴らして、青木に自らが緊張していることを告げてくる。

こうして、電話をかけている最中にも青木の心は揺れていて、もちろん出て欲しいという気持ちがある反面、出ないでと思う自分もいる。

どっちつかずの青木の心だが、そんなことに関係なく結果は出る。

 

ただ同じ音を繰り返していた携帯が、ピタッと止まる。

そして、変わりに聞こえてくるのは一人の男性の声……

 

『もしもし、赤羽ですが』

 

いつもと変わらないその声に青木は少し安心する。

緊張していたはずの心もだんだんと落ち着いている。

 

取り敢えず1歩進んだ青木だが、まだ始まったばかりだ。

決意を決めて話を始める。

 

「赤羽さん……今お時間ありますか?」

 

『うん、大丈夫だよ』

 

「赤羽さんに少し相談したいことがあるのですが」

 

『青木さんが僕に?珍しいね』

 

赤羽は本当に意外だという風に声をあげる。

相談することですら珍しいと認識されていることに、改めて距離を感じる青木だが、切り替えて話を続ける。

 

「実は、今度作品に男の子を出そうと思っているのですが……いまいち男の人の気持ちが分からなくて」

 

『それで、僕に男の気持ちを聞きたいってこと?』

 

「はい……」

 

これは青木が考えた精一杯の作戦だった。

もちろん、漫画に参考にしたいというのも本当だが、一番は赤羽の考えていることを知りたいがためだった。

 

「赤羽さんは今付き合ってる人とかいるんですか?」

 

『え……いきなり突っ込んだこと聞くね』

 

「すいません……」

 

青木は、話題の振り方を間違えたかと悟る。

いきなりプライベートの話を聞くなんて……もしかしたら気分を悪くさせてしまったかもしれない。

しかし、そんな青木の心は杞憂で、赤羽は恥ずかしそうに少し笑った後答えを返してくれた。

 

『いや、別にいいよ。ただちょっと恥ずかしくてさ。僕はまだ、女性とお付き合いしたことはないんだ』

 

「そうなんですか……」

 

その答えに青木は安堵する。

 

(安堵?……私、何でそう思ったんだろう。別に赤羽さんに彼女がいたっていいはずなのに)

 

自分で自分の矛盾点に気付く青木だったが、それを掘り下げると今までの自分ではいられなくなってしまうような気がして……結局そこには触れられなかった。

 

『青木さんは付き合ってる人とかいるの?』

 

「私は……」

 

赤羽の問いに青木はどう答えるか迷う。

正直に言うならば、いない……しかし、素直にそれを言うのも何となく嫌で、でも嘘もつきたくなくて……暫く迷って青木は答えをだす

 

「いません……」

 

結局、青木は正直に答えた。

いつもだったのなら、冷たい態度であしらっているであろう青木だが、今日は勇気を出して電話までしたのだ。

本音で話したいという気持ちが大きかった。

 

『そうなんだ、青木さん可愛いからモテると思ったんだけど、意外だね』

 

「そんなことないです……私、無愛想なので」

 

『そんなことないと思うけどなぁ』

 

「……お世辞ならやめてください」

 

『お世辞じゃないよ……僕は青木さんが無愛想だなんて思ってない』

 

それは、赤羽にとっては何気ない一言だったのだろう。

自分で自分のことを否定する人物に対しての慰めの言葉。

特別気にするようなものではない。そのはずなのだ……

しかし、青木はそれがどうしても気になった……いや、正直に言うと気に入らなかった。

 

これまで冷たい態度で接してきた青木に対して、赤羽だって不満を持っているはずなのだ。

心の奥底では、怒りの感情だってあるはずなのに、赤羽はそれを言わない。

それが、青木は嫌だった。

自分の考えが可笑しいことは、青木も分かっている。

さっきの言葉だって、赤羽は気遣いで言ってくれただけのはずなのだ。

だけど、その優しさが青木にとっては苦痛の原因だった。

今までさんざん冷たいことを言ってきた青木に対して、赤羽が不満を言ったことは一度もなくて、ただ一方的に文句をいい続ける自分がとても小さく感じられて……そうして少しづつ溜まっていた鬱憤が、青木の中で今爆発する。

 

「お世辞じゃないならなんなんですかっ....!

 赤羽さんだって私が冷たい女だって思ってるんでしょう!

 だったら正直に言ってください!

 慰められたって私は嬉しくありません!」

 

青木は思いっきり感情をぶちまけた。

それに対してすぐに感じたのは、思いの丈をぶつけられたことに対してのスッキリとした気持ち。

そして、その後に押し寄せてきたのは、圧倒的な後悔。

自分の都合で電話したのに、ヒステリックに怒りだすという行動。

あまりにも自分勝手な行動に青木は自己嫌悪に陥る。

 

「すみません……私から電話したのにいきなり怒鳴ってしまって……でも赤羽さんには正直に言って欲しいんです」

 

赤羽からの返事はない。

しかし、それも当然だと青木は思う。

あまりにも突然のことに、赤羽も思考が追い付いていないのだろう。

 

「いきなり正直に言って欲しいなんて困りますよね……自分勝手で本当にすみませんが……今日はもう電話を切らせてください」

 

そんな状況に耐えられなくて、青木は電話を切ろうとする。

もうコンビも解散かもしれない……自嘲ぎみにそんなことを思いながら青木は携帯のボタンに指をかけようとする。

このボタンを押してしまえば、何もかもが終わる。

そんなことを本能で分かっていながら、青木はボタンを押そうとした時……

 

『待って!青木さん!』

 

赤羽から声がかけられた。

携帯のボタンにかけた指を元に戻して、しっかりと赤羽の声が聞こえる体勢にはいる。

 

『青木さん……よく聞いて欲しいんだ』

 

「はい……」

 

今から何を言われるのか……青木には分からないが、やはり責められるのであろうか、自分で正直に言って欲しいと言いながら青木はそれは嫌だなと思ってしまう。

 

『確かに青木さんは表面上は無愛想な人かもしれない。

 だけど内面はとっても優しい人だって僕はわかるんだ』

 

「私の内面なんて、赤羽さんには分からないですよ……」

 

ここまできて赤羽の言葉を素直に受け入れられない青木は、赤羽の言葉に反発してしまう。

 

『いいや、分かるよ。

 だって青木さんの描くストーリーはあんなに素敵じゃないか!

 それを描ける青木さんは優しい人だって、僕は信じてる』

 

それは、簡単な理由だった。

素敵なストーリーを描くから優しい人……あまりにも単純で穴だらけの考えだが、赤羽らしいと青木は思った。

普通ならば、信じられない言葉だが、赤羽の漫画に対する情熱を知っている青木は、今の言葉が心の中にスッと入っていくのを感じていた。

 

「馬鹿ですね……赤羽さんは」

 

何だか自分が思っていたことがとても馬鹿らしく思えて、青木は思わず微笑みながらそう言った。

 

『え……今良いこと言ったつもりなんだけど……』

 

心外だという風に言う赤羽は、先程のことなど全く気にしていない風で……

変わらない赤羽に青木はどこか安心感を覚える。

しかし、それに甘えているだけではいけないと青木は思う。

 

「赤羽さん……今回のことは本当にすみませんでした。

 それに今までも冷たい態度をとってしまって……」

 

『気にしないでよ、僕も別に気にしてないしさ。

 それに、今日電話をかけてくれたのってちょっとでも歩み寄ろうとしてくれたんでしょ?

 それが僕は嬉しいよ』

 

「ありがとうございます……」

 

『それよりさ、折角電話してるんだからもっと色々話そうよ。

 青木さんのストーリーを良くするためにもさ』

 

それは、青木にとっては願ってもない提案で、もちろん青木は受け入れた。

 

そこからの時間は二人にとっても楽しいものだった。

青木は少しだけ態度が柔らかくなって、会話が続くようになった。

赤羽もそれが新鮮で嬉しくて、結局二人の会話が終わったのは辺りが明るくなった頃だった。

 

二人の関係は少しだけ変わった。その変化は回りにとっては少ない変化かもしれないが、二人にとっては大きな変化だった。




早く原作に入りたいので、次回はちょっと話が飛ぶと思います

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