蒼樹先生に別の作画をつけたかっただけの小説 作:おもち
昔々のお話です。
様々な種族が混じりあう、大きな大きな戦いがありました。
原因はなんだったのか……そんなことを覚えているものもいないほど、長く続いたその戦いは、世界に憎しみだけを永遠に生み出し続けました。
様々な種族が見境なく殺しあい、ただただ死体の山を築いていき、大地は血で赤く染まりきって、足の踏み場もなくなってしまいました。
そんな時代に生きていた、か弱い人間達。
屈強な種族が多くいるなか、人間にはなんの取り柄もありませんでした。
数が多いだけで、一人一人は凄く脆弱。
そんな人間達は他の種族にとっては格好の餌でしかありませんでした。
遊び半分の他種族の侵攻で、容易く数を減らしていく人間達。
そのまま滅びてしまうかとも思われましたが、そうはなりませんでした。
それは、人間達の中で産まれた一人の勇者のおかげでした。
嘘か真か、今ではもう分かりませんが、勇者はたった一人で長く続いた戦いを終わらせてしまったのです。
どうやったのかは分かりません。
しかし、勇者が平和をもたらしたという事実だけが残っているのです。
こうして平和になった世界で様々な種族がたくさんの国を作りました。
もう二度と戦いを引き起こさないように、種族も関係なく作りました。
そうして増えていった国は今や世界にいくつあるのか、数百というものもいれば、数千だと言うものもいます。
はたまた万を越えているかも……答えは分かりません。
分からないことだらけですが、この世界のことを正確に把握しているものなどいないのです。
どこまでも未知が広がるこの世界……いっそのこと旅をしてみるのも良いかも知れません。
きっとたくさんの発見があなたを待っています。
◆
パタリと読んでいる雑誌を閉じた音が聞こえた。
いつのものかすら分からないほど、ボロボロになった雑誌。
それを読んでいたのは、一人の少女だった。
真っ赤な髪に凛々しい顔立ち、大人っぽい雰囲気もあるが、実年齢は十代前半。
そんな少女は、手にもった雑誌を目の前に掲げる。
何度も読んだであろうそれを、少女はまるで初見のような、それでいて心底楽しそうな顔で見ていた。
そして、数十秒ほど余韻に浸っていた少女だが、ここにきて初めて言葉を発した。
「うん!いつ読んでもワクワクするね!」
カラカラと笑いながら少女は言った。
その笑顔は月並みな言葉だが、ひまわりのようで、周りを自然と明るくしてくれるようなものがあった。
しかし、そんな少女に対して、意外な所から苦言がなされる。
「そんなクソ雑誌よく楽しめるな」
それは、男性の低い声だった。
少女に対して心底呆れるように放たれたそれは、少女の下から聞こえた。
下から?と聞いて疑問に感じた人もいるかもしれないが、間違っていない。
少女は男性の上に乗っていた。
何やら誤解をまねきそうな言い方だが、事実なのだからしょうがない。
少女は男性の上に乗っている……ただし、ドラゴンのという前書きがあるが。
そう、少女はドラゴンの上にいたのだ。
そのドラゴンの体長は5メートルほど。少女の髪と同じ真っ赤な体をしたそれは、地上から100メートルほどの所を飛んでいた。
そんな特殊な状況だが、少女にとっては慣れたものなのか、平気な顔でドラゴンとの会話を続ける。
「もう!ヴィルはいつも余計なこと言うわね」
「俺は事実を言っただけだ。あと、俺の名前はヴィルヘルムだ!略すんじゃねえ」
「いいじゃない、細かいドラゴンね」
「細かいだとぉ!?ドラゴン族に代々伝わる由緒正しい名前なんだぞ!だいたいだなメル、お前はいつも……」
そこから小言をマシンガンのように言い続けるドラゴンを少女は無視する。
このドラゴンは細かい所でうるさい……それは長年連れ添ってきた少女には、分かりきったことだった。
小言をバックにどこか遠くを見つめる少女は、何かを見つけたのか指をさして未だに喋り続けるドラゴンをもう片方の手でぺしぺしと叩く。
「見てヴィル!国が見えてきたよ!」
「まだ言いたいことはたくさんあるんだが……取り敢えず、分かったからそんなにはしゃぐな」
「だってだって!故郷を出て初めての国なんだよ!
うわぁ……やばい、泣きそう……」
そういう少女は上を向いて、流れそうになる涙を必死に止めようとする。
それが背中越しにでも分かったのか、ドラゴンは少し優しい声で少女に言った。
「いちいち感動していてどうする……これからお前は色々な国を廻るんだろ?」
「うん……そうだよね……私、ヴィルとだったらどこまでも行ける気がするんだ。
だからさ……ヴィルもずっと付いてきてくれるよね?」
「ああ……そういう契約だしな」
そんな会話をしているドラゴンと少女……なんともアンバランスな組み合わせ、しかし、この二人が物語の主人公。
これは、ドラゴンと少女の冒険の記録。
それを、皆さまに少しお見せしたいと思う。
◆
誰もいない部屋で僕……赤羽 結城は途中まで読んだ漫画を閉じる。
それは、誰もが知っている漫画雑誌……ジャンプだった。
他の人にとってはいつもと変わらないジャンプ。
しかし、僕にとっては違う。
何が違うかと言えば、ジャンプの表紙を見てもらえれば分かる。
新連載とでかでかと書かれたジャンプの表紙。
作品のタイトルはbranched world
作者は蒼樹 紅と赤羽 結城
つまり、僕達のことだ。
自分の漫画がジャンプに載るなんて、なんだか現実感がないが、目の前のジャンプを見るとこれが夢ではないことがわかる。
現実感がないと言えば、ジャンプに連載を得る過程もそうだ。
僕達がジャンプ編集部に持ち込みに行って、賞に出してもらい、約二ヶ月後に結果が出た。
賞の結果は入選。たくさんの漫画家達が応募していた中で、僕達の漫画は一番を取った。
その時はとても喜んだのを覚えているが、そこからの道のりはその喜びを忘れてしまうくらい早かった。
結果が出てすぐに、僕達は相田さんの指示で連載用の物を描き始めていった。
これは、ただ描くだけでなく二週間に一度提出という期限がついていた。
これは、僕達に連載作家としての早く原稿を仕上げる能力を見るということもあるらしく、僕は絵の質が落ちないように必死になって描いた。
そして、連載用のものが完成したらそれがすぐに連載会議に出され、そしてその結果が目の前のジャンプということだ。
ちなみにその間に高校は卒業しており青木さんは大学へ、僕は漫画家一本でいくことを決めた。
取り敢えず今に至るまでの過程を振り返ってみたが、何ともうまくいきすぎな気がする。
うまくいっている時ほど気を付けたほうがいいなんてことをよく言うが、脆弱な僕の力では、何か良からぬことが起きないように祈るしかない。
そんなことを考えながら、都内に借りたマンションのソファーでぐったりと倒れ込む。
このマンションは連載が決まった時に借りたもので、仕事場兼自宅だ。
そこに、アシスタントの人を二人寄越して貰い漫画を書いている。
二人とも僕よりも年上だが、フレンドリーに接してくれて、仕事が終わった後などは漫画談義などをしたりもしている。
そんな日々を過ごしている僕だが、現在は暇である。
原作と作画と完全に分業してやっているので、青木さんのネームが完成するまでやることがないのだ。
取り敢えず何かを描いていればいいとも思うが、今は正直その気にならない。
それは、あることが気になって僕は、絵を描いていられる状況ではないからだ。
先程の意味もない回想も自らの気持ちをそのことからそらすため……しかし、それにも限界というものがあって……ただ時間だけが過ぎてくことで、まだかまだかと僕の気持ちは焦ってしまう。
僕が焦った所でどうにかなるものではないということは分かっているが、気持ちというものは自分ではどうにもならない。
そんな状況の僕に対して、プルルルルと電話の音が響く。
僕はその音を聞いた瞬間に携帯を手にとって、誰からかを確認する。
携帯の画面に映る名前は相田さん。
それは、僕が心待ちにしていた人物で、すぐに通話状態にして携帯を片耳に当てる。
「はい!赤羽ですが」
「赤羽君、アンケートの速報が出たぞ!」
アンケート……それが僕の心を焦らせていた原因だ。
この結果次第で連載が続いていくか、すぐに終わってしまうかが決まる大切なもの。
特に今回は一話の結果で、ここがもし低かったら長期連載は絶望的だろう。
少しの不安を抱えながら、僕は相田さんに結果を聞く。
「それで、結果はどうでした?」
「速報だが一位だ!二位とはそこそこ離れてるし、本番も多分一位で確定だと思う」
「そうですか……良かったです」
「なんだ、随分あっさりしてるな。ジャンプで一位を取ったんだ、もっと喜んでもいいんだぞ」
「あ……はい!もちろん嬉しいですよ!」
何だか歯切れの悪い返事をしてしまったが、普通に嬉しかった。
しかし、何だか喜びすぎると、その後にしっぺ返しが待っていそうで……中途半端な喜び方になってしまった。
しかし、相田さんもそれほど気にしてはなかったのか、その後の会話はスムーズに進んでいく。
「それはそうと赤羽君。今度の打ち合わせ何だが、三日後予定空いてる?」
「はい、空いてます」
「じゃあ、場所は集英社の近くのカフェでいい?」
「大丈夫です」
「うん……取り敢えず報告も済んだし、切るね」
そう言った相田さんはすぐに電話を切ったようで、僕の耳元からはプーッと音が聞こえる。
それを確認した僕は携帯を机におき、代わりに途中まで読んだジャンプを開く。
「一位……」
その呟きは、よく響いた。
話が結構飛びました。
次は原作の主人公達も出したいと思います。