GIRLS und PANZER SISTER‘S   作:海野入鹿

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今話でプロローグは終了です。


ぐうたら姫 真昼の決闘

「到着」

 

 ダージリンはクルクル回る理髪店の象徴とも言えるサインポールを見つめながらポツリと呟く。

 しかし美沙姫には、なぜ姉が此処を訪れたのかの理由がさっぱり解らなかった。

 辺りを見渡した後、ゆっくりと視線を上方に向けて行く。

 そこにはこの店の名が記された看板が掲げられていた。

 “秋山理髪店”それがこの店の名前。

 そんな美沙姫の事など知った事かと言う様にダージリンは店の扉に手を掛ける。

 カランと言う明るいベルの音と共に扉は開け放たれた。

 その瞬間美沙姫はシャンプーとコロンの香りに包まれる。

 美容院とは似ている様で違う香りに。

 クンクンと心地いい香りを満喫する美沙姫に店内から声がかかる。

 

「美沙姫。何をしているのかしら? 早くお入りなさい」

 

 姉からだった。

 美沙姫は慌てて店内へと足を踏み入れる。

 そして立塞がる姉にこの状況を説明させる事にした。

 

「おねーたま?」

 

「お姉さま」

 

「それで、そのおねーたまは、床屋さんに何の御用なので御座いますですか?」

 

「解らない? それから変な言葉づかいはおやめなさい。馬鹿にみえましてよ」

 

「そうですか。それから、ご質問の件ですが、わかりません」

 

ダージリンは「そう」と一言呟くと店の主人と思われる男性に声をかける。

 

「ご主人」

 

「は、はい!」

 

 呼ばれたこの店の主人、秋山淳五郎は慌てて返事を返す。

 何を慌てているのかと思う人もいるかも知れないが、これは当然の事だった。

 この秋山理髪店のお客さんは95%と言って良いくらい男性客だった。

 その年齢層も、この船の核になっている学校が女子高のせいか年齢層も高めの人達がほとんどだ。

 残り5%も妻である秋山好子による着付けなどのお客様だった。

 そしてそちらも年配の方が多かった。

 そんな秋山理髪店に突然乱入して来たのが金髪の美少女なのだ、驚きで固まってしまうのも仕方が無い事だろう。

 だが、ダージリンは周りの空気など気にも留めずに会話を続ける。

 

「ご主人、場所をお借りしてもよろしいかしら?」

 

 ダージリンのこの言葉に淳五郎は何度も頷く事で了承の意を示す。

 それを確認し、ダージリンは姿見の前で美沙姫に向け手招きをする。

 美沙姫は首を捻りながら、文句を口にする事無く素直に姿見の前に立つ。

 

「ほら」

 

 自分を見て御覧なさいとダージリンは言葉をかける。

 が、美沙姫には何が何やら解らず首を捻るにとどまった。

 

「あなたね……良く見てみなさい、自分自身の姿を。今のあなたはさしずめ豪華な貞子、もしくは巨大な猫じゃらしですわよ」

 

「へ?」

 

 美沙姫はじっと姿見の中の自分自身を見つめた。

 伸ばし放題に伸びた髪はお尻辺りまで届き、前髪は暖簾の様に顔を隠していた。

 確かに姉の言う通りプラチナブロンドの髪ゆえに、豪華な貞子である。

 そして秋風に揺れるエノコロ草でもあった。

 

「ああ、なるほど」

 

 美沙姫口からポツリと肯定の言葉が漏れた。

 ダージリンはその言葉を待ってましたと言わんばかりに、美沙姫の手を取ると散髪用の椅子に座らせた。

 美沙姫の両肩をがっちりと逃がさない様にホールドすると、淳五郎に言葉をかける。

 

「ご主人、遠慮は無用。やっていただけるかしら?」

 

 ダージリンのこの言葉に淳五郎の視線は驚きを隠す事無く、ダージリンと美沙姫の間をさまよう。

 好子も心配してダージリンに話しかける。

 が、ダージリンの答えは「大丈夫ですわ」だった。

 髪の長さは自分と同じぐらいでとシニヨンをほどき注文を付ける。

 美沙姫もこれ以上の問答は無駄だと感じ、淳五郎に覚悟完了の意志を告げた。

 こうなっては淳五郎も腹を括るしかなかった。

 だが、淳五郎はおしゃれな髪形など知る由も無い。

 女の子の髪など自分の娘以外は切った事も無い程の、女性とは無縁の床屋さんだった。

 だから淳五郎はダージリンの髪形を忠実に再現する事を心がける。

 チャキチャキと理容鋏が軽快な音を立て美沙姫の髪を切って行く。

 後ろからは姉の語る英国話が聞こえて来る。

 イギリスでは~とか、イギリスの~と姉は好子に語っていた。

 ダージリンのこの調子に乗っているとも言えるイギリス話に美沙姫はイラッとした。

 そして淳五郎にだけ聞こえる様に口を開いた。

 

「ご主人、ウチの姉はあんな事言ってますが、実は………………あの人イギリス行った事無いんですよ。ぷぷっ」

 

 その瞬間、好子と楽しく話していたダージリンの眉がピクリと跳ねた。

 

「それにですね、もうすぐ出ますよ。あなた、こんな言葉をしってる? って。ぷぷー」

 

 言いながら美沙姫は止まらなくなっていた。

 だから油断してしまった。

 決して油断してはいけないタイミングで。

 調子に乗っていた美沙姫の耳にバチン!と言う音が響いた。

 そして………………目の前が明るくなった。

 ハラリハラリと美沙姫の目の前を髪の毛が落ちて行くのが見える。

 前にある鏡には姉、ダージリンと瓜二つな自分の顔が映っていた。

 何があったのか、それは調子に乗り過ぎた美沙姫は言ってはいけない事をずけずけと発信した揚句、お仕置きされたのだ。

 今、美沙姫の前髪は………………眉毛と同じ位置までしか無かった。

 そしてその毛先は、横一文字、パッツンと呼ばれるあり様であった。

 横に立つダージリンは、理容鋏をチャキチャキと鳴らしながら楽しそうに美沙姫に話しかける。

 

「あら、素敵な髪形ね美沙姫。まるでキャベツ人形みたい。かわいいわよ」

 

 姉よりも僅かに明るい髪色、姉と同じ透き通る様な蒼い瞳、そして、姉とは似ても似つかない前髪の長さ。

 

「………………………いやーーーーーーー!」

 

 美沙姫の絶叫が秋山理髪店を包みこんだ。

 その瞬間、二階で扉が開く音が響き、階段をものすごいスピードで降りて来る音がした。

 

「どうしたのでありますか! 一体何が?」

 

 ふんわりした癖っ毛と、人懐っこさを感じさせるたれ目気味な大きな瞳が印象的な少女が顔を出した。

 少女は店内をぐるりと見渡すと、一人の少女に目が留まる。

 

「ダ、ダージリン殿!」

 

 少女の大声が響く。

 そして視線は理容用の椅子の上でバタバタと手足をバタつかせながら泣きじゃくる少女の方へ。

 

「へ、こっちにもダージリン殿!」

 

 癖っ毛の少女の眼に映る二人の少女は、同一人物に見えた。

 優雅に鋏をもてあそぶダージリンと椅子の上で泣きじゃくるダージリンが。

 それほどまでに二人は似た者姉妹だった。

 

「あなた、わたしの事をご存じで?」

「びえー」

 

 聖グロリアーナの制服を着たダージリンが癖っ毛の少女に語りかけた。

 

「あ、はっ、はい。私、戦車が大好きでありますから」

「びえー」

 

 癖っ毛の少女はビシッと敬礼のポーズで答える。

 が、なぜか声は尻すぼみに小さくなっていった。

 ダージリンは鋏を元あった場所に戻すと癖っ毛の少女と向かい合う。

 

「あなた、お名前は?」

「びえー」

 

「あ、私は……私は秋山優花里と申します、ダージリン殿」

「びえー」

 

「では優花里さん、あなた、御年は?」

「びえー」

 

「はっ、今春から二年生の十六歳であります。」

「びえー」

 

「そう。美沙姫、うるさいですわよ」

「びえー」

 

「美・沙・姫」

 

 姉の冷静な言葉に、美沙姫の堪忍袋の緒が切れた。

 

「どーすんの、もー、どーすんの! 入学式は明後日だよ! こんなんじゃ学校いけないよ!」

 

 美沙姫の矢継ぎ早の言葉に、ダージリンはため息を一つ吐くと

 

「解りました。何か買ってあげるから泣きやみなさい」

 

「じゃあロールスロイス!運転手つきで!」

 

「………………解りました。何とかしましょう」

 

「へ?」

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 美沙姫の髪形は秋山理髪店総出でのカットで何とか姫カットと呼ばれる物で落ち着きをみせた。

 今、美沙姫とダージリンはマンションへの帰路についていた。

 秋山優花里と共に。

 

「それでは優花里さんは二年生になられるのですわね」

 

「はい!そうであります」

 

 ダージリンの問いに由佳里は元気よく答えた。

 どうやら由佳里は戦車道における有名人に会えてテンションが上がっているようだ。

 

「優花里さん、美沙姫の事よろしくお願いしますわ。手のかかる娘ですが」

 

「私に出来るかどうかはわかりませんが、精一杯お世話いたします!」

 

 そう言って敬礼のポーズをとり、にっこりとほほ笑んだ。

 美沙姫はその笑顔で少し心が軽くなる思いだった。

 こんな笑顔が出来る先輩となら、何かが変わるかも知れないと言う期待が持てた。

 それを知る事が出来ただけでも、今日と言う日は有意義だったのだろうと。

 

 




次話からいよいよ、戦車道はじめます!
美沙姫の髪型ですが、とあるの佐天さんの髪型が近いですね
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