GIRLS und PANZER SISTER‘S   作:海野入鹿

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プロパガンダ失敗です

「本当に良いんでしょうか?」

 

 選択科目のオリエンテーションを控え、学生一同が集まった体育館の用具室で小山柚子が不安げに呟いた。

 

「ん? だーいじょうぶ、だいじょうぶ。嘘は言ってないから」

 

 何の心配も無いと生徒会長である角谷杏は答える。

 だが、小山の視線は別の物へと向けられていた。

 視線の先にある物は?

 用具室の床に転がる、荒縄でぐるぐるに巻かれた田尻美沙姫であった。

 ビチビチと跳ねまわるその姿は、一本釣りで船に上げられたマグロの様である。

 

「あー、田尻。少し静かにしろ」

 

 河嶋桃の冷静で冷たい言葉が飛ぶ。

 

「うー! うー!」

 

「何を言っているのか解らんな」

 

 そう言いながら、河嶋桃が美沙姫の猿轡を解く。

 その瞬間

 

「なにすんだー! この悪党! 人でなしー!」

 

 思いっきりの罵声が美沙姫の口から放たれる。

 その声に反応する様に、角谷杏が美沙姫の正面に腰を落とす。

 

「みさきち、ちょーっと黙ろうか」

 

 言いながら邪悪な笑みを浮かべた。

 

「な、何をする! 改造か? 改造だな! 私をバッタにする気だな!」

 

「何にもしないって。ちょっとだけ協力してもらうだけ」

 

 そう言って床に置いてあった袋から一着の服を取り出した。

 

「そ、それは……」

 

「しっかりやってよねー。上手く行ったら、ほしいもあげるから」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 “戦車道。それは乙女の嗜み――”

 

 照明が落とされた体育館に、小山柚子の声が響く。

 それと同時に、スクリーンには見目美しい少女達が、隊列をもって戦車で行軍する映像が映される。

 その映像を真剣に見る者、興味無さげな者、うつむき見ない様に務める者、生徒達の反応は様々であった。

 一様の説明と映像が終り、舞台上には小山柚子だけが取り残され、スポットが当たる。

 小山柚子はコホンと一つ咳払いをすると、マイクに向かって口を開いた。

 

「えー、以上の説明で、戦車道の事は解っていただいたと思います。しかし、もっと戦車道の事を知ってもらう為に、ゲストの方に登場して頂きたいと思います。どうぞ!」

 

 柚子に射していたスポットライトが消え、新たに舞台袖にスポットが当たる。

 そして、そこに登場したのは

 

「皆様、御機嫌よう」

 

 真っ赤なタンクジャケットを纏ったダージリンの姿であった。

 優雅に、華麗に、ティーカップを持ちながらダージリンは舞台中央へと歩を進める。

 そして、マイクの前に立つと

 

「こーんな言葉を知っているかしら? ……坊主まる儲け」

 

 妙な言葉を口にした。

 それと同時に、ソーサーに置いたティーカップがカタカタと音を立てる。

 その瞬間、舞台袖に視線を向けるダージリン。

 袖には河嶋桃が陣取り、無声で言葉を告げる。

 その意味は……“がんばれ”である。

 舞台上のダージリンも同様に“むり”と口パク。

 “がんばれ” “むり” “がんばれ” “むり”何度も同じやり取りが繰り返され、最後には

 

「もう無理だよ、桃ちゃん先輩!」

 

 ダージリンが、いや、聖グロリアーナのコスプレをさせられた美沙姫が弱音を吐いた。

 生徒会長 角谷杏の行動は早かった。

 美沙姫が弱音を吐いた瞬間

 

「小山、幕を下ろせ! 河嶋はみさきちの回収!」

 

 そして、自身は舞台上へと走り出した。

 緞帳の下りた舞台にさっそうと滑りこむと、パチンと手を合わせ

 

「戦車道の事は解ったかな? ゲストの人に拍手!」

 

 素早く生徒達を煽った。

 言われた生徒達は、訳も分からずパチパチとまばらに拍手を送った。

 

「もう一回! 拍手!」

 

 さらに煽る生徒会長。

 恐らく満足するまで何度でもするのだろう。

 それが解っている二年生、三年生の生徒達から割れんばかりの拍手が起きる。

 それに釣られて、何も解らずに一年生からも大きな拍手が送られた。

 

「やめ!」

 

 両手を水平に上げ、終了と杏は言葉を響かせる。

 その瞬間、体育館は静寂に包まれた。

 

「おつかれさまー。ほんじゃ、戦車道、よろしくねー。解散!」

 

 こうしてドタバタなオリエンテーションは終了した。

 教室へと帰って行く生徒達の会話は、最後に現れた人物に集中していた。

 誰なのか? と疑問を抱く者。

 あれは、聖グロリアーナのダージリン様だと言い張る者。

 

「田尻さん」

 

「みさきち」

 

「美沙姫殿」

 

 美沙姫の今後を憂う者、様々に。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

~生徒会長室~

 

「お前は何をやっているんだ!」

 

「あんな事させるなんてひどいよ、桃ちゃん先輩!」

 

 美沙姫に檄を飛ばす河嶋に、床でバタバタと暴れる美沙姫。

 何時もの光景である。

 

「いやー、最後のは無茶だったかねぇ。やっぱり」

 

 豪華な革張りの椅子に座る角谷杏がポツリと呟く。

 

「そうだ! そうだ! このバカー! ツインテール!」

 

「ははっ。ツインテールは悪口じゃないよ。美沙姫ちゃん」

 

 美沙姫の暴言に、小山柚子がやんわりと注意を流す。

 

「これで、何人集まるか、なんだよねー」

 

「確定しているのは……私、会長、桃ちゃん、美沙姫ちゃん、それと……」

 

「秋山先輩?」

 

「五人しか居ないじゃ無いか!」

 

 角谷杏の言葉に、小山柚子が続き、美沙姫が秋山優花里の名を告げ、河嶋桃が絶望した。

 

「五人かぁ。戦車道やるには苦しいなぁ」

 

 寂しさを感じさせるトーンで、角谷杏が呟く。

 

「そんなに戦車がやりたいならさぁ」

 

「「やりたいなら?」」

 

 美沙姫の言葉に、生徒会の三人がオウム返しに口を開く。

 

「あれでいいじゃないですか?」

 

「「あれ?」」

 

「そう! 少人数での戦車戦! 無茶! 無謀! の最前線! その名は……」

 

「「その名は……」」

 

タンカスローン(強襲戦車競技)

 

 美沙姫は天井を指差し、堂々と告げる。

 しかし、生徒会長の表情はすぐれない。

 そして一言だけ

 

「それじゃぁダメなんだよねー」

 

 疲れた様な言葉だけが室内に響いた。

 やれる事はやった。

 後は結果を待ち、次の策を探る。

 角谷杏は、一人で全ての罪を背負う事を決めた。

 どんな事があっても、どんな事をしようと、此処、大洗女子学園に戦車道を復活させると。

 

 

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